『キャラクター 登場人物の本質と創作の技法』の3つの要点

 この「要点編」では、これまでトピックごとに部分的に引用・紹介してきたフィルムアート社の創作系書籍を一冊ずつ、押さえておきたい「3つの要点」にフォーカスして改めて紹介していきます。


 今回紹介するのはこちら。

書名:キャラクター 登場人物の本質と創作の技法


著者:ロバート・マッキー=著

発売日:2022年09月24日|A5判|416頁|本体:3,000円+税|ISBN 978-4-8459-2128-7

本書を読み解くキーワード:キャラクター、プロット、ジャンル

レベル:初心者 ★★★☆☆ 上級者



 今回は、世界でもっとも著名なストーリー講師ロバート・マッキーの「創作術三部作」の一冊『キャラクター 登場人物の本質と創作の技法』を3つの要点で解説します。

 マッキーの代表著作『ストーリー ロバート・マッキーが教える物語の基本と原則』の解説でも触れましたが、まずは簡単にロバート・マッキーという人物についておさらいをしておきます。


【参考URL】

『ストーリー ロバート・マッキーが教える物語の基本と原則』の3つの要点

https://kakuyomu.jp/works/1177354055193794270/episodes/16817330647771127165


 1941年生まれのロバート・マッキーは、名門南カルフォルニア大学の映画芸術学部で脚本講師としてのキャリアをスタートさせ、その後30年以上にわたって世界中を飛び回りセミナーを開催しています。マッキーの教え子からは、アカデミー賞受賞者が60人以上(候補者200人以上)、エミー賞受賞者が200人以上(候補者1,000人以上)、全米脚本家組合賞受賞者が100人以上、全米監督組合賞受賞者が50人以上誕生しています。名実ともに世界一のストーリー講師といえるでしょう。


 本書は、そんなロバート・マッキーが、キャラクターの本質と創作について徹底解説した一冊です。マッキーの創作術の大きな特徴は「How to」だけでなく「What is」について書かれているという点です。つまり、どうやってキャラクターをつくるのか(=How to)だけでなく、そもそもキャラクターとは何なのか?(=What is)についても掘り下げ、単なるハウツー本にとどまらない深い洞察がなされています。


 では、キャラクターとは何なのでしょうか? ここでは答えを明かすことはしませんが(ぜひ本書を読んでみてください)、ヒントとなるマッキーの言葉を引用しましょう。

 キャラクターは人間とはちがう。ミロのヴィーナス[……]が生身の女性ではないのと同じように、キャラクターは実在の人間ではない。キャラクターは芸術作品である――感情を掻き立て、深い意味を持ち、記憶に刻まれる、人間の本質の隠喩である。それは作者の心の奥深くで生まれ、ストーリーの腕のなかでしっかり守られ、永遠に生きつづけるよう運命づけられている。

――『キャラクター 登場人物の本質と創作の技法』

 「キャラクターと人間」という章では、人間とキャラクターの違いについてさまざまな角度から考察がなされています。例えば次のように。

 キャラクターは過去を入れた器として、未来のためのスポンジとしてストーリーにはいり、核心まで永遠に記憶してもらうために、その本質が目いっぱい表れるように書きこまれ、演じられる。だから、すぐれたキャラクターはそのもとになる人間よりも重層的かつ立体的で、興味を引きやすい。

 人間は24時間、つねに存在する。キャラクターが存在するのは幕があがってからおりるまで、フェードインからフェードアウトまで、最初のページから最後のページまでだ。人間にはこれから生きる人生があり、死がその終わりを決めるが、キャラクターの終わりを決めるのは作家だ。キャラクターの人生のはじまりと終わりは、読者が本を開く瞬間と閉じる瞬間、あるいは観客が劇場にはいる瞬間と出る瞬間と一致する。

――『キャラクター 登場人物の本質と創作の技法』

 キャラクターと人間の違いを強く認識すること、つまり「キャラクターとは何なのか?」を考えることで、ストーリーにおいてキャラクターが果たすべき役割が明確になります。キャラクターを理解することで初めて、キャラクターを創造することができるようになるのです。


 以下、『キャラクター 登場人物の本質と創作の技法』から重要なポイントを3つに絞って簡単に解説します。ぜひ本書を読んで唯一無二のキャラクターを生み出してください。

■要点その①:キャラクターとプロットの関係を「出来事」ということばでわかりやすく整理


 マッキーの著作『ストーリー ロバート・マッキーが教える物語の基本と原則』の要点解説でも取り上げた「構成と登場人物のどちらが重要かという問いには意味がない」という言葉、そしてそこで語られている意味について、本書ではさらにわかりやすく解説がなされています。


 ここで改めて「プロット対キャラクター」論争について触れるのは、マッキーの創作理論の中における最重要ポイントのひとつであるだけでなく、物語創作者であるみなさんにぜひ身につけてほしい知識だからです。本書では次のような表現で「プロット(=構成)」と「キャラクター(=登場人物)」の関係についてまとめています。

 プロットとキャラクターの創作はどちらがむずかしいか、芸術においてどちらが重要かという問いかけは、分け方そのものがおかしい。そのふたつは本質的には同じものだから、比較するのは論理的でない。プロットはキャラクターであり、キャラクターはプロットである。ふたつはストーリーという一枚のコインの裏表だ。

 役柄は、ある出来事がアクションやリアクションを引き起こしてはじめて、キャラクターとなる。事件は、それによってキャラクターが変化を引き起こしたり変化を体験したりしてはじめて、ストーリーを左右する出来事になる。出来事に影響されない人物は、孤立して生命を持たず、壁に掛けるのがふさわしい不動の肖像画にすぎない。キャラクターのいない出来事は雨の日の海のようなものだ――ありきたりで瑣末で、おもしろみがない。

――『キャラクター 登場人物の本質と創作の技法』

 この考え方にすんなりと馴染めないという方のために、本書ではまず言葉の定義をしています。


キャラクター…架空の存在であり、出来事を引き起こすか、他者が引き起こした出来事に反応するか、もしくはその両方をおこなう。


プロット…ストーリーにおける出来事の配置である。だから、プロットのないストーリーは存在しない。ストーリーがあれば、そこには連続する出来事、つまりプロットがある。プロットがあれば、そこには出来事が並んでいて、それはつまりストーリーだ。どんなに短い物語であれ、ストーリーテラーは何がだれの身に起こるのかをプロットとして練り、それをもとに出来事を設計する。


キャラクターとプロットの両定義に共通して出てくることばがあります。それが「出来事」です。「出来事」は本書では次のように定義されます。


出来事…日々の出来事を示す辞書の定義は、「起こること」だ。しかし、ストーリーにおける出来事は、なんらかの価値ある変化を生まなければ意味がない。たとえば、そよ風が吹いて芝生の上に落ちた葉の配置が変わる場合、たしかに変化にはちがいないが、この出来事には特に価値がないので、意味がない。[……]ストーリーを左右する出来事とは、キャラクターの人生のなかで価値要素が大きく変化する瞬間を指す。この変化を引き起こすのは、キャラクターによるアクションか、キャラクターが自分ではコントロールできない出来事に対して起こすリアクションだ。


 キャラクターによって出来事が引き起こされる(アクション)、あるいは出来事によってキャラクターが反応する(リアクション)、その連続がプロットです。こう考えると「プロットはキャラクターであり、キャラクターはプロットである。ふたつはストーリーという一枚のコインの裏表だ」というマッキーの言葉にも納得がいくのではないでしょうか。


 キャラクターとプロットがコインの裏表だとわかれば、プロットで行き詰まったとしても、キャラクターを糸口に突破することができます。例えば、プロットを練っている際に「次にどんな出来事を起こそうか」と悩んだことがある方もいるのではないでしょうか。

 結局のところ、プロットに関するあらゆる問いの答えはキャラクターにある。「何が起こるのか」といった大ざっぱな問いを立ててはいけない。「このキャラクターに何が起こるのか。それはどのようにして起こるのか。なぜこのキャラクターに起こり、別のキャラクターには起こらないのか。何がキャラクターの人生を変えるのか。なぜそのように変えるのか。将来、キャラクターに何が起こるのか」といった問いを立てるべきだ。プロットについての問いはすべて、キャラクターの人生に向けなくてはならない。そうでなければ、その問いは無意味だ。

――『キャラクター 登場人物の本質と創作の技法』


■要点その②:性格描写と実像で立体的なキャラクターを描く


 創作界隈でときおり目にする「立体的なキャラクター」という表現。これはいったい何を意味しているのでしょうか。反対の意味を表す「うすっぺらなキャラクター」という表現もあります。キャラクターを立体的に描くことが大事だということはわかるものの、実際にどのようにすればよいのかその答えを教えてくれる本は多くはありません。

 本書では「実像」と「性格描写」というキーワードで、キャラクターに深みを与える方法を解説してくれます。まずはそれぞれの言葉の定義から。


性格描写…すべての目に見える性質や表向きの行動――年齢、性別、人種、話し方やしぐさ、職業や住みか、服装や装飾、態度や人柄から成る要素――すなわち、キャラクターが他者とかかわるときに身につける仮面や人格(ペルソナ)。目に見える特徴と推測できる特徴の総体。


実像…目に見えない、役柄の内なる性質――心の奥底にある動機や基本的な価値観。人生最大の重圧にさらされるとき、最も強く求めるものを手にするための選択や行動のなかに表れる。これらの決断や行為が、キャラクターの核となる人格を表す。


 簡単にいうと、「性格描写」は目に見える(推測できる)が、「実像」は目に見えない、ということです。キャラクターにはこの両者がなくてはいけません。


 それぞれの役割についてまとめてみたいと思います。


 性格描写には、信頼性を持たせる、個性を与える、好奇心を掻き立てるという、ストーリーを支える3つの大きな役割があります。

それぞれの役割についての解説を引用します。


① 信頼性

 作家が最も恐れることはなんだろうか。読者や観客に作品を退屈だと思われることだろうか。自分が書いたキャラクターがきらわれることだろうか。アイディアに賛同してもらえないことだろうか。どれもありうる。だが、最大の恐怖は不信感ではないかとわたしは考える。[……]

 信頼性を持たせることは性格描写からはじまる。読者や観客は、キャラクターの精神的、感情的、身体的な特徴と、発言、感情、行動とのあいだに納得できるつながりを感じたとき、ストーリーに引きこまれていく。納得できる性格描写があれば、どれほど奇想天外な筋立てであっても、読者や観客は現実であるかのようにその世界に浸ることができる――ハリー・ポッターとルーク・スカイウォーカーはその代表的な例だ。


② 個性

 われわれは、すでに知っていることを学ぶためにストーリーを手にとるのではない。手にとるときには、こう祈っている。「どうか、いままで見たことのない人生の側面が見られますように。これまで出会ったことのない個性的なキャラクターに出会えますように」と。

 個性は具体性からはじまる。性格描写が陳腐だと、キャラクターは嘘くさく、ありきたりで、柔軟性がないものになる。性格描写が具体的だと、キャラクターは独創的で、意外性があり、変幻自在なものになる。


③ 好奇心

 ユニークな性格描写は、好奇心を掻き立て、表向きの特徴という仮面の下にある内なる実像を知りたいと思わせる。[……]

 使い古された性格描写が提起するのは、答えがわかりきった質問でしかない。このキャラクターは何者だろうか――見た目どおりの人物である、と。コンクリートの塊のように、外側も内側も同じだ。読者や視聴者の好奇心を刺激し、その好奇心に応える信頼性の高いキャラクターを生み出すためには、魅力的な世界を構築し、その設定に見合うだけの魅力的で個性に富んだキャラクターを配置する必要がある。


 この「性格描写」には、性別や髪の色などの「生まれつき」の要素からはじまるものと、「生まれたあと」にキャラクターが(物理的、社会的、個人的な)さまざまな制約や設定、条件に翻弄されたことで作られていくものがあります。

 大まかな輪郭を描いたら、つぎに一個人としてのキャラクターを表現する表向きの特徴をくっきりと描く必要がある。「それは生まれつきだ」ですむ単純な人間などいない。複雑なキャラクターはすべて、生まれつきの特徴と、あとから自分で身につけた特徴の両方を具えている。生まれつきの特徴(声の響きなど)は不変で、後天的な特徴(語彙など)は進化する。何百もの遺伝子が相互に作用し合うと同時に、外界から脈絡のないさまざまな影響を吸収して、ひとつの特徴が生まれる。この両面に想像力を働かせれば、さまざまな特徴が溶け合ったユニークで魅力的な性格描写ができる。

――『キャラクター 登場人物の本質と創作の技法』

 マッキーによれば「。では、ほんとうはどんな人間なのか、その疑問に答えてくれるのが、キャラクターにとって重要なもうひとつの要素「実像」です。

「何事も見かけどおりではない」という古くからの格言が、キャラクター作りにも完全にあてはまる。[……]

 読者や観客は、性格描写に信憑性と好奇心を感じたとき、つぎのように考える。「おもしろい。でも、ほんとうはどんな人間なんだろう。誠実なのか、不誠実なのか。愛情深いのか、冷酷なのか。強いのか、弱いのか。寛大なのか、利己的なのか。善なのか、悪なのか。ほんとうはどんな性格なのか」と。

――『キャラクター 登場人物の本質と創作の技法』

 キャラクターが絶望的な状態にあるとき、敵対する強大な力に直面したとき、最大の危機にさらされたときにとる行動は、真実を明らかにします。ほんとうはどんな人間なのか。正直なのか、嘘つきなのか。愛情深いのか、冷酷なのか。寛大なのか、利己的なのか。強いのか、弱いのか。衝動的なのか、冷静なのか。善なのか、悪なのか。人に手を差し伸べるのか、邪魔をするのか。励ますのか、懲らしめるのか。自分の命を投げ出すのか、人の命を奪うのか。

 本書ではキャラクターの「実像」を描くテクニックとして「選択」「ジレンマ」「対立」の3つを挙げています。それぞれについて本書の解説を引用します。


選択によって明らかになる実像

 読者や観客は、キャラクターの真の姿を明らかにする出来事が起こるのを待っている。信頼できるただひとつの方法は、追いつめられた状況でキャラクターがどんな選択をするかを見ることだ。人間は生涯におこなった無数の選択によって成り立っている。

 アメーバから類人猿まで、地球上のすべての生き物は、生命を優先させるという自然の第一法則に従っている。自然はすべての生き物に対して、遺伝子を守るために、プラスと信じたほうへ向かって行動することを命じている。カモシカにとっての無残な死は、ライオンにとっての昼食である。

 生を死に優先させるという自然の性向が、人間のすべての選択をプラス(生を豊かにするもの)へ向けさせ、マイナス(死を感じさせるもの)から遠ざける。ソクラテスの教えのとおり、悪いと思うことを故意におこなう人間などいない。ただ、プラスと信じることに向かって行動する。主観の問題だ。生き抜くために必要であれば、心は不道徳を美徳と書き換える。

 読者や観客がキャラクターの視点を理解し、単純なプラス/マイナスの選択(幸福と不幸、正と誤)に直面するところを見れば、どんな選択をするかは見なくても(おそらくキャラクター自身が知る前に)わかる。マイナスを拒否し、自分がプラスと思うものを選ぶはずだ。中核の自己はつねにそう選択する。それが第一法則だ。そのため、マイナスとプラスを明確に選択する(貧困と富、無知と知恵、醜さと美しさ)のはありふれたことだ。


ジレンマによって明らかになる実像

 最も説得力があり、キャラクターの実像が明らかになる決断は、ほぼ同じ重みのあるふたつのものから一方を選ぶことだ。こうしたジレンマには、前向きなものと後ろ向きなものの二種類がある。[……]

 わかりきった選択は 簡単にできて、危険にさらされることもないが、ジレンマはキャラクターに重圧を与え、危機にさらす。わかりきった選択から読者や観客の知らない物事が明らかになることはほとんどない。ジレンマのなかで決断するからこそ、ほかの選択肢がキャラクターの心のなかを駆けめぐる。キャラクターが選択に苦悩するなか、見え隠れする可能性が、読者や観客の好奇心をストーリーのクライマックスへ駆り立てる――この人物は結局どうするのだろうか、と。

 どちらを選ぶにせよ、重圧がかかるなかでの行動がキャラクターの実像を明らかにする。


対立によって明らかになる実像

 複雑なキャラクターを作るときは、その価値要素を、プラス(愛、勇気、希望など)とマイナス(憎しみ、臆病、絶望など)の両極端の振れ幅に沿って想像してみよう。たとえば、自分の命が危機にさらされたとき、勇気と臆病のあいだのどこに立たせるのか。複雑なキャラクターは、その両方の感情を具えている。人生の意味を失ったとき、希望と絶望のあいだのどこでどのように自分の将来を見ているのか。親密な関係にある相手がいるとしたら、愛することができるのか。愛と憎しみのあいだのどこに、あなたはキャラクターを置くだろうか。


 本書ではこのように「表向きのキャラクター(=性格描写)」と「内なるキャラクター(=実像)」という二つのアプローチからキャラクターを創造することを勧めています。

 ここで押さえておきたいポイントは、読者を魅了するキャラクターの「性格描写」と「実像」には矛盾があるということです。


 マッキーはハムレットの例を挙げています。

 ハムレットを考えてみよう。歴史上最も複雑な登場人物だ。三次元どころか、十、十二、いや、ほとんど数えきれないほどの多面性を持つ。崇高でありながら、冒瀆的にふるまう。最初は愛おしみ、大切にしていたオフィーリアに対して、冷淡な、さらには残酷な仕打ちをする。勇敢だが、臆病になる。冷静で慎重かと思うと、衝動的で性急になり、カーテンの陰に隠れる者の正体をたしかめずに刺してしまう。無慈悲にして情け深く、自尊心は強いが、自己憐憫に浸る。機知に富む一方で悲しみに沈むこともあり、疲れきっても活力を失わず、頭脳明晰なのに混乱もする、正気と狂気の人物。無垢なる俗物、世俗にまみれた無垢なる者。ハムレットは、考えつくかぎりのあらゆる人間の性質を具えた、生きる矛盾だ。

――『ストーリー ロバート・マッキーが教える物語の基本と原則』

 このような「相反するものの結合」こそが「多元的(=立体的)なキャラクター」なのです。

 巧みに設計された役柄の調和した姿のなかには、生き生きとした矛盾が交錯している。つまり、相反するものがひとつになって、キャラクターの複雑さを作りあげるという原則だ。複雑なキャラクターが登場するストーリーでは、醜さと美しさ、抑圧と自由、善と悪、真実と嘘といったものを結びつける本質的な矛盾が、美しく洗練された形で保たれている。

――『キャラクター 登場人物の本質と創作の技法』

■要点その③:太陽系モデルを使った登場人物設計


 キャラクターは必ずしも主人公のみを指す言葉ではありません。物語には数多くの脇役が登場します。では、それらのキャラクターたちを物語の中でどのように配置すればよいのでしょうか。そもそも脇役は何のために存在するのでしょうか。主人公と脇役の関係はどのようにあるべきなのでしょうか。

 あるキャラクターがほかの登場人物とかかわるのは、学問上の興味や信仰が同じだからかもしれないし、恋愛感情からかもしれないが、ひとりの相手に対して一度に自分のすべての面を均等に見せることはない。だが、そのキャラクターのまわりにさまざまな登場人物を配し、それぞれがそのキャラクターの異なる面を引き出す役柄にぴたりとはまれば、その登場人物たちとのかかわりのなかで、キャラクターの特徴や奥行きが明らかになる。だから作家にとっては、読者や観客がクライマックスまでにキャラクターのことを本人よりもよく知るために、登場人物たちをどのように設計すればよいかが問題となる。

――『キャラクター 登場人物の本質と創作の技法』

 本書では登場人物の設計について太陽系のモデルを使って次のように説明しています。

 登場人物を太陽系になぞらえて、太陽を取り巻く惑星、衛星、彗星、小惑星として見てみよう。脇役は三つの同心円で、さまざまな距離を置いて太陽のまわりを移動し、太陽や脇役同士に大なり小なり影響を与える。影響力の強いキャラクターは主人公の近くを、あまり影響力がない脇役はその外側をまわり、一シーンしか登場しない端役、台詞のない通行人、その他おおぜいは外べりをまわる。こうして宇宙が完成する。三人称の語り手は、目に見えない神のようにこの宇宙を遠くからながめている。

――『キャラクター 登場人物の本質と創作の技法』

 これを図にすると下のようになります。

 この図を用いることで、互いがどのように助け合ったり邪魔し合ったりするのか、そのキャラクターが何を求めて何を拒むのか、何をして何をしないのか、どんな人間なのか、各キャラクターがどのようにほかの人物の特徴や動きをあらわにするのか、などが理解しやすくなります。読者や観客が夢中になれるのは、主人公以外にも登場人物たちがいて、それぞれの類似や相違によって緊張が生まれるからです。


 本書ではジェイン・オースティン著『高慢と偏見』の登場人物をこの図で説明しています。主人公はエリザベスで、次のような「性格描写」と「実像」を兼ね備えています。


主人公:エリザベス・ベネット

性格描写…冷静な合理性、社交上手、自尊心、独立心

実像…衝動性、秘めた信念、謙虚さ、恋愛への憧れ


その他の主要な登場人物は、ジェイン、メアリー、キティ、リディアという4人の姉妹と恋の相手ダーシー氏です。


ジェイン(姉):無邪気に人間の善性を信じている(鋭い懐疑の目を持つエリザベスとは対照的)

メアリー(妹):学者気どりで社交の場に出ることはない(社交上手のエリザベスとは対照的)

キティ(妹):依存心が強く甘えん坊で、意志が弱く泣き虫(頑固なまでの独立心があるエリザベスとは対照的)

リディア(妹):動物的な本能のままに自己表現する(はつらつとした自尊心をもつエリザベスとは対照的)

ダーシー:高慢、尊大、自己欺瞞などエリザベスとは相容れない


これらの人物を太陽系モデルで表現するとこうなります。

 主人公の特徴を際立たせるかのように脇役が配置されていることが分かります。


 あるキャラクターを思いついたからといって、そのキャラクターが登場人物のなかで的確に位置づけられるとはかぎりません。それぞれの役柄が、創造的戦略の一部としてストーリーテリングを促すようにしなくてはならないのです。


 さて、今回は『キャラクター 登場人物の本質と創作の技法』を3つの要点で解説してきました。キャラクターの本質を理解するためには欠かせない一冊です。ぜひご一読ください。


【目次】


イントロダクション


第1部 キャラクターをたたえて

 1 キャラクターと人間

 2 アリストテレスの議論――プロット対キャラクター

 3 作家の準備


第2部 キャラクターの構築

 4 キャラクターの着想――外側から書く

 5 キャラクターの着想――内側から書く

 6 役柄とキャラクター

 7 表向きのキャラクター

 8 内なるキャラクター

 9 多元的なキャラクター

 10 複雑なキャラクター

 11 完成されたキャラクター

 12 象徴的なキャラクター

 13 過激なキャラクター――現実主義/非現実主義/過激主義が形作る三角形


第3部 キャラクターの世界

 14 ジャンルのなかのキャラクター

 15 キャラクターのアクション

 16 キャラクターのパフォーマンス


第4部 キャラクターの関係

 17 登場人物の設計


結び 革命的な作家

謝辞

用語集

原注

訳者あとがき


【お知らせ】

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https://www.filmart.co.jp/pickup/25107/


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