キャラクター造型に必要な5つの質問(つづき)

 前回は『「感情」から書く脚本術 心を奪って釘づけにする物語の書き方』で紹介されている「キャラクター造型に必要な5つの質問」をご紹介しました。

 質問に答えていくだけでキャラクターができあがってしまうという、非常に便利で使質問リストです。




【キャラクター造型に必要な5つの質問】

質問①:この物語の主役は誰か(タイプ、特徴、価値観、欠点)

質問②:何を求めているのか(欲求と目標)

質問③:なぜ求めているのか(動機と必要性)

質問④:失敗したらどうなるか(代償の大きさ)

質問⑤:どのように変わるのか(内面的変化の軌跡)


 今回は質問②~⑤について一気に解説していきたいと思います(質問①の内容は前回説明済み)。なお、質問①ですでに主人公は誰かが決まっているものとします。したがって②~⑤の質問は脇役ではなく主人公についてのものと考えてください。


 

◆質問②:何を求めているのか(欲求と目標)


「キャラクターをつくる」と聞くと、多くの方がキャラクターの見た目(性別、年齢、身長、髪の色など)や性格、またはその人物の詳細なプロフィール(職業、住んでいる場所、家族構成、血液型など)を細かく作りこんでいくという作業をイメージするのではないでしょうか。

 しかし、それはあくまでもキャラクター造形の一要素に過ぎません。

 仮に詳細(かつ完璧な)プロフィールや履歴書のようなものが出来上がったとしても、それだけではそのキャラクターを物語の中で躍動させ、読者を物語に惹きつけることはできません。

『「感情」から書く脚本術 心を奪って釘づけにする物語の書き方』にはこう書かれています。


 キャラクター造型に際して誰もが使う手法は、「フランケンシュタイン法」と呼ばれる方法論、つまりキャラクター特性のチャートから選び出した解を繋ぎ合わせて人物を創り出すのだ。チャートを手に、身体的特徴、社会的特徴、心理的特徴といった属性を書き入れていく。年齢は? 身長は? 職業は? 好き嫌いは? 名前をチェック、出身地もチェック、趣味もチェックという具合。

 悪いというわけではないが、このやり方で創ったキャラクターをページの上で生き生きさせるのは結構難しい。問題は、ページ上で生き生きしていなければ話にならないということだ。確かに、場面を書く前に白紙からキャラクターを創り上げて、その人のことを良く知っておけば助かるかもしれない。だからといって、そうして創られたキャラクターに、共感しやすくなるわけでも同情しやすくなるわけでもない。しかし感情移入させ、同情させなければ、脚本を読む人の関心を最後まで繋ぎとめておくことはできない。

 ――『「感情」から書く脚本術 心を奪って釘づけにする物語の書き方』より


 では、読者を感情移入させ、心を奪うためにはどうすればよいのでしょうか?

 、これをキャラクターに設定しなければなりません。

 これはです。


「それが欲しい」という気持ち(=欲求)こそが物語の背骨となります。そして手に入れたい気持ちを阻むすべてのものが対立や確執を生み、読者の感情を湧き上がらせます。

 

 。つまり手に入れたいものや目標がなければ、物語は成立しません。


 何も求めずに(目的も持たずに)ウロウロするだけの主人公に対して、読者が興味を持つことができるでしょうか。そんなわけありませんよね。


 ハリウッド式の脚本メソッド(あるいはそれを応用した小説メソッド)では、ほぼ例外なく欲求と目標の重要性が説かれています。少し遠回りになりますが、キャラクターの欲求と目標に関して、他の本ではどのように書かれているかを確認してみましょう。


 主人公の欲求を追い求めるエネルギーは、設計上の重要な要素であるストーリーの「脊柱」(スルーライン、究極目標とも言う)を形成する。脊柱とは、人生の均衡を取りもどしたい主人公の深層にある欲求とその活動のことだ。そのほかのすべてのストーリー要素を結びつけ、統一をもたらすの力である。ストーリーの表面で何が起こっても、ひとつひとつのシーン、イメージ、ことばは、突きつめていくとストーリーの脊柱の一部であり、そのかかわり方は軽いものだったり主題と結びついたりさまざまだが、この欲求と行動の中核につながっている。

 ――『ストーリー ロバート・マッキーが教える物語の基本と原則』より


 キャラクターの。「どのようにしてそれを達成するのか」ということが、ストーリーのアクションになるのである。

 繰り返すが、すべてのドラマは、葛藤、衝突である。キャラクターの目的をはっきりさせることができたなら、その達成を阻止しようとする障害物を設定することができる。キャラクターがその障害物をどのように乗り越えるのかが、ストーリーである。心情であれ、外的なものであれ、葛藤、困難、障害物を乗り越えることはドラマにとって必要不可欠な材料である。コメディにおいてでもだ。観客に興味を抱かせ続けさせるだけの葛藤を創造するのは、脚本家の責任だ。脚本家の仕事は、読み手にページをめくり続けさせることである。ストーリーは、その解決に向かって、常に前に転がらなければならない。

 ――『映画を書くためにあなたがしなくてはならないこと シド・フィールドの脚本術』より


 ヒーローにゴールを与え、そのゴール目がけて積極的に行動させることが、読者をヒーローの味方につける早道、そして物語に食いつかせる早道になります。

(中略)

 というわけなので、自分に聞いてみましょう。

「このヒーローは、何を求めているの?」

 残念ですが、「私のヒーローは、幸せになりたいと思っている」みたいな答えでは不十分です。私が執筆講座で教えているときに一番頻繁に出るのが、この「幸せになりたい」ですが、残念だけどそれでは抽象的すぎ。求めるものとして一番効果的なのは、形があるモノ。手で触れられる何か。ヒーローが求めるものを手にするとしたら、いつ何を手にしたか読者にとってわかりやすいものが良いわけ。「幸せになった」なんていうフンワリしたものを、読者が実感できると思います? 無理。ただし、ヒーローが「これがあれば、きっと幸せになれる」と考えるその何かに具体性があれば話は別。新しい家とか、新車とか、100万フォロワーとか、全国大会の優勝トロフィーとか、新天地への旅とか、魔法の力とか、監獄からの脱走とか。目標が何で、目標に近づいているかどうかが見えやすいものなら、読者もヒーローを応援しやすいというもの。

 ――『SAVE THE CATの法則で売れる小説を書く』より


 主人公が求めるものが読者にわからないなら、主人公がゴールに到達するためにどうすべきか、なぜその行動を選ぶのか、何が助けになるのかもわからない。(スティーブン・)ピンカーも簡潔に指摘しているように、ゴールなしではすべては無意味なのだ。

(中略)

 あなたの主人公に、なんとしても欲しいもの、いつかは実現できると信じている望みがなければ、起きる物事も行き当たりばったりに見え、何かが進んでいるとも感じられないだろう。主人公が何を求めているか、あるいは主人公の抱える問題はなんなのかがわからなければ、ガートルード・スタインの有名な詩にもあるように、「そこに行ったらそこにはそこがない」ということになってしまう(もちろん、スタインが言っているのはカリフォルニア州オークランドのことだというのはともかくとして)。

 ――『脳が読みたくなるストーリーの書き方』より


 さらに引用しようと思えば、いくらでも出てくるのですが際限がないのでここらでやめておきましょう。欲求と目標を設定することが、とても大事だということがわかっていただけたと思います。


 欲求や目標は何でも構いません。対立を解決すること。決断すること。挑戦を受け入れること。謎を解くこと。障害を克服すること、などなど。ただし、上の引用でもあったように「幸せになりたい」というような抽象的なものでは、うまく読者を引き込むことはできません。形があるモノや手で触れられる何か、そういうものを設定しましょう。


◆質問③:なぜ求めているのか(動機と必要性)


 何を求めているか(=欲求と目標が)を設定したら、次は、どうしてそれを求めているのか(=動機と必要性)について考えましょう。

『ジョジョの奇妙な冒険』の荒木飛呂彦さんは著書『荒木飛呂彦の漫画術』(集英社新書)で、漫画の「基本四大構造」として「キャラクター」「ストーリー」「世界観」「テーマ」の4つを挙げていますが、その中でも特にキャラクターの動機の重要性を強調しています。

 キャラクターは超重要事項だということ、人真似はダメだということを頭に叩き込んだ上で、自分がこれから描く漫画のキャラクターに必要な条件はいったい何なのか、絵を描く前に、まずイメージを作る必要があります。

 この時に一番大事なのは「動機」です。主人公は何をしたい人なのか、その行動の動機をはっきり描かないと、キャラクターというものは出来上がっていきません。「人がなぜ行動するのか」を描くのは非常に重要で、ここがあいまいだと、読者は主人公に感情移入できないのです。

――荒木飛呂彦著『荒木飛呂彦の漫画術』(集英社新書)

 物語に登場するキャラクターは、どんな行動も何らかの動機に基づいていなくてはなりません。動機は、読者の心を動かす心のエンジンのようなものです。。キャラクターがなぜそのような行動をとるのか腑に落ちたとき、あなたの物語は読者に深い満足を与えることができます。


 大事なのは、その動機を感情移入する価値のあるものにするということです。


 ただお金が欲しいから、という理由で銀行を襲うキャラクターには、読者は共感することはできません。しかし、映画『狼たちの午後』のように愛する者の手術費用を工面するためなら、共感できるし感情移入もできます。そのに同意できるかどうかは、また別の話です。


 ところで「欲求」と「動機」というよく似た単語が登場しましたが、両者にはどのような違いがあるのでしょうか。アカデミー賞の請負人にして世界でもっとも著名なストーリー講師ロバート・マッキーが丸ごと一冊キャラクターについて掘り下げた名著『キャラクター 登場人物の本質と創作の技法』の中から引用します。

 人間を駆り立てる力は、過去があと押しするのか、それとも未来が手を引っ張るのか。わたしの考えでは、動機と欲求はふたつのまったく異なるエネルギーを発する。動機はキャラクターの過去に足場を置いて、後ろから押すが、欲求は未来に足場を保って、これから訪れる未来へキャラクターを誘う。[……]

 食べるものに困ったとき、人間はたしかにパンのみで生きる。だが、ひとたび満たされると、より高いところをめざす内なる動機が頭をもたげ、それが満たされると、また新たな、さらなる高みをめざして、果てることのない渇望が湧きつづける。人間は永遠に求めつづける生き物だ。

 ――『キャラクター 登場人物の本質と創作の技法』より

 この「それが満たされると、また新たな、さらなる高みをめざして、果てることのない渇望が湧きつづける」という点については、このあと「マズローの欲求段階説」として紹介していますが、ここでは、ロバート・マッキーが整理した「人間の本質にある内なる動機」12個を紹介しましょう。


①永遠の命

②生存

③バランス

④快楽

⑤セックス

⑥権力

⑦共感

⑧欲望 A貪欲 B羨望 C嫉妬

⑨好奇心

⑩意味

⑪充足感

⑫超越した存在


 単語だけでは少しわかりにくいものもあるかと思いますが、詳細が気になる方は、ぜひ『キャラクター 登場人物の本質と創作の技法』でご確認ください。


 また『「感情」から書く脚本術 心を奪って釘づけにする物語の書き方』では、「このように、人の心の動きを掘り下げることが必要になるので、脚本家(小説家と読み替えてください)になりたければ、普段から人間行動を鋭く観察する眼を養うことが重要なのだ」と述べ、人間の動機と必要性とを手っ取り早く理解したい人は、マズローの欲求段階説をおさらいするとよい、とアドバイスしています。


 心理学者のアブラハム・マズローが定義した「マズローの欲求段階説」は非常に有名なので、すでにご存じの方も多いかと思います。ここではごく簡単に説明するにとどめておきます(ネット記事で詳細に紹介しているものがたくさんありますので、詳しくはそちらを参考にしてください)。


 私たちを行動に駆り立てる欲求、必要なものを求める欲求は5つの階層で(ピラミッド状に)構成されており、低次の欲求が満たされることで、次の次元の欲求が生まれるというものです。


【マズローの欲求段階説】

 ・生理的欲求 (Physiological needs)

 ・安全の欲求 (Safety needs)

 ・社会的欲求 (Social needs)

 ・承認の欲求 (Esteem)

 ・自己実現の欲求 (Self-actualization)


 人間は、食事・睡眠・排泄など生命を維持するための本能的な欲求(=生理的欲求)が満たされてはじめて、安全や秩序(=安全の欲求)を求めるようになり、生理的欲求、安全の欲求が満たされることで、社会的に必要とされたいという欲求(=社会的欲求)が生まれることになるというわけです。


 例えば、スリラー物の映画は、という動機を原動力にしています。(ロマンチック・コメディやロマンスもの)、(成長の物語や負け犬の物語)、(ミステリー)等の欲求が例として挙げられます。


『性格類語辞典 ネガティブ篇』に「キャラクターの欲求と自分につく嘘の事例集」という巻末付録が付いており、ここに物語における欲求がまとめられていますので参考にしてみてください。




 では、キャラクターの動機について他の本にはどのように書かれているか確認してみましょう。



 登場人物に思いきった行動をさせるなら、それに見合う、あるいはそれを上まわる力強い動機が必要だ。そうすれば観客は、ストーリーを極限まで展開させたとして、あなたを賞賛するだろう。

 ――『ストーリー ロバート・マッキーが教える物語の基本と原則』より


 派手なアクションで盛り上げようとしても、それなりの動機がないと読者はついてこれません。動機の設定はとても大事です。動機は必ずゴールと結び付きますから、障害や葛藤も見つけやすくなります。

(中略)

 登場人物の行動や動機をたどって心の中に入り込む。どんな読者にとっても、小説の醍醐味はそこにあるはずです。動機は欲望に火をつけます。欲望ゆえに人物は前進します。『風と共に去りぬ』の後半でスカーレット・オハラが行動するのは「もう二度と飢えたりしない」ためです。安全と安心への欲求から、スカーレットは富と社会的地位の獲得を目指して突き進みます。

 ――『アウトラインから書く小説再入門 なぜ、自由に書いたら行き詰まるのか?』より


 主人公が決まったら、次は主人公の動機だ。動機はあくまで原始的でなければいけない。主人公の望みは何なのか? 仮に〈職場での昇進〉だとしたら、その根底にある動機は何か? 昇進して好きな娘と結婚したい、もしくはかわいい一人娘の手術代を稼ぎたい……。そういう原始的な動機が根底になければいけない。最後に悪役との対決場面があるとしたら、口げんかなんかじゃなく、生死をかけた決闘にまで発展させるべきだ。

 どうして?

 なぜって、人間は本能的で原始的なものに心を動かされるからだ。生き延びること、飢えに打ち勝つこと、セックスをすること、愛する者を守ること、死の恐怖に打ち勝つこと──こうした根本的な欲求には、万人の心をつかむ力がある。だから主人公の動機や、映画のアイデアの根幹には必ず原始的なものが必要なのだ。ベーシック、あくまでベーシックであるべきだ!

 これだけ言ってもまだ信じない?

 ――『SAVE THE CATの法則 本当に売れる脚本術』より


 すでにお分かりのように、質問②(欲求と目標)と③(動機と必要性)は非常に密接な関係にあります。それっぽい欲求(や目標)を設定するだけでは足りません。読者を引き込むためには、そのキャラクターがどういう理由でその行動をとったのか、をわかるようにしておかなければなりません。


◆質問④:失敗したらどうなるか(代償の大きさ)


 次に考えるは、行動の代償についてです。

 主人公は何を得るのか、または失うのか。

 

 簡単に達成できる目標やゴールをわざわざ設定する人はいませんよね(読者はそんな物語を読もうとはしないでしょう)。では失敗した場合、主人公はどうなってしまうのか。それを明らかにしておく必要があります。


 ハリウッドではこの代償のことを「死の二択(dreadful alternative)」と呼んでいます。つまり、ということです。

 目標を手にするためにどこまでする覚悟があるのか。どんな危険を冒してもいいと考えているのか。物語中に仕掛けられた数々の障害を乗り越えてでも、目標を手にしたいというのでなければ、読者は途中で読むのを止めてしまうでしょう。


 ここはかなり重要なポイントだと思うので、少し長いですが『「感情」から書く脚本術 心を奪って釘づけにする物語の書き方』から引用しましょう。



 代償は何でもあり得る。世界規模の代償もあり得る。つまり物語の中心的な問題が世界を巻き込むようなものかもしれない。左右されるのはある集団だけかもしれないし、主人公だけに影響する個人的なものかもしれない。例えば『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』の場合、ナチスの世界征服という世界規模の代償がある一方で、インディが払う個人的代償は自分の命と愛するマリオンということになる。このように、人間関係にまつわる代償ならば、より心を動かしやすい。『カサブランカ』、『北北西に進路を取れ』、『チャイナタウン』等、クライマックスで主人公が気にかけているキャラクターの運命が決まるという映画がたくさんあるのは、そのためだ。

 行動の帰結に何らかの代償がなければ、主人公が問題を解決するかどうかということに、脚本の読者が関心を持てない。感情的に巻き込まれることなく、淡々と知的に文章を読むだけになる。払う代償が感情的であるほど、読者は主人公の行動の帰結が気になり、目標達成を応援したくなる。問題を解決できなかった場合すべてを失うのでなければ、その物語はまだ甘いということだ。「私の場合、ロープの端にぎりぎりしがみついている人の話しか書きません」とスタンリー・エルキンが言ったのは、そういうことなのだ。

 ここで、主人公の行動に関する重要なポイントに気づく。主人公は待っていてはいけない。行動しなければならない。何かに反応するだけの主人公は嫌がられる傾向がある。仮に素人が『逃亡者』を書いてみたとしよう。ジェラード捜査官の追跡に反応するだけのキンブル医師。片腕の男を見つけて無実を証明しようとしない、受け身の主人公。それでは、単調な捕り物になってしまい、心を揺さぶるようなドラマが生まれない。好まれるのは行動を起こすキャラクター。何かを待って反応するだけでなく、物事を前に進めるキャラクターだ。

――『「感情」から書く脚本術 心を奪って釘づけにする物語の書き方』より


 欲求や目標(質問②)、動機(質問③)については、誰もが一度は考えたことがあるかと思います。しかし、失敗したらどうなるか(=代償)というところまで、しっかりと設定できているという人は意外と少ないのではないでしょうか。

「最後まで読んでもらう」「読者を惹きつける」という点において、代償の設定は非常に重要なポイントです。多くの人が見落としがちなところでもあるので、他の作品と差をつけるためにも、ここもしっかりと考えるようにしましょう。


 登場人物が持つ欲求の価値の大きさは、それを達成するために負うリスクと比例する。価値があればあるほど、リスクも大きくなる。

 ――『ストーリー ロバート・マッキーが教える物語の基本と原則』より


◆質問⑤:どのように変わるのか(内面的変化の軌跡)


 さて、質問リストも最後になりました。

 キャラクターの軌跡アークについての話です。「アーク」あるいは「キャラクターアーク」という言葉をどこかで聞いたことがあるという方も多いでしょう。『「感情」から書く脚本術 心を奪って釘づけにする物語の書き方』では、このように定義されています。


キャラクターアーク…キャラクターが物語を通して、感情的にどのように変わるかという足取り


 キャラクターアークについては、一冊まるごとを費やして「キャラクターアーク」について解説した『キャラクターからつくる物語創作再入門 「キャラクターアーク」で読者の心をつかむ』という本が出ているくらい重要な概念で、しっかりと説明しようと思うと、とてもここに収まりません。したがって、今回はポイントだけ説明することにします。

※詳しくは「キャラクターアーク篇」をご確認ください。

「キャラクターアーク」とはなにか

https://kakuyomu.jp/works/1177354055193794270/episodes/16816700427341651891


 物語の最初と最後を比べたとき、あなたの主人公の行動や態度は変わっていますか? 変化は、身体的でもあり得るし、行動、心理、感情のどの形をとって表れても構いません。とにかく「変わっていること」が大事です。

  

 この本では人物がたどる変化の軌跡を「キャラクターアーク」と呼んでお話ししていきます。実はこのキャラクターアークは「あって当然」と思われがちなもの。なぜなら、アークの本質は三つの文で言い表せてしまうからです。

1 主人公がある状態で登場する。

2 主人公が物語の中で何かを学ぶ。

3 主人公が(おそらく)前よりよい状態になる。

これがキャラクターアークの基本です。確かに単純で当たり前に聞こえますね。でも、ストーリーテラーが知っておくべきことは山のようにあるのです。

――『キャラクターからつくる物語創作再入門 「キャラクターアーク」で読者の心をつかむ』より


 私たちは、なぜ変わるキャラクターに惹かれるのでしょうか。なにより変化は興味を引きます(無変化は退屈)。読者は、果たしてこのキャラクターは変わるだろうかと、期待しています。そして変わるためには困難が伴います。つまり変わろうとすれば、それが対立の種になるのです。

 、それを読者は読みたいと思うのです。

 人は誰でも欠点を抱えています。読者は、物語の中でキャラクターが変わるのを見ることで、どうやって変わり得るかを知ることができます。自分もこのキャラクターと同じように変われるかもしれないという希望をもらえるのです。


 さて、「キャラクター造型に必要な5つの質問」いかがだったでしょうか。それぞれの質問については、もう少し掘り下げていきたいところもあるのですが、今回はここまでとしておきます。

「なんだか難しいな」と思われた方へ。

 すべての質問に共通していることがあります。それは「読者を感情的に惹きつけるためにどうすればよいか」ということです。

「キャラクター造型に必要な5つの質問」が紹介されている本のタイトルは『「感情」から書く脚本術 心を奪って釘づけにする物語の書き方』です。ポイントは「感情」です。どうすればよいか迷ったときには「読者を感情的に惹きつけるためにどうすればよいか」という点に立ち返って考えるようにしてください。

 目的も動機もリスクも変化もないキャラクターが作中でウロウロしているだけの小説では誰も読んでくれません。読者の「心を奪って釘づけにする」小説を書くために、この質問リストを活用して魅力的なキャラクターをつくりましょう!


 最後にもう一度質問リストを載せておきます。


【キャラクター造型に必要な5つの質問】

質問①:この物語の主役は誰か(タイプ、特徴、価値観、欠点)

質問②:何を求めているのか(欲求と目標)

質問③:なぜ求めているのか(動機と必要性)

質問④:失敗したらどうなるか(代償の大きさ)

質問⑤:どのように変わるのか(内面的変化の軌跡)



【お知らせ】

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