主人公は2人いてもいい?
主人公が2人(あるいはそれ以上)登場する小説を書いていいのでしょうか?
今回は、主人公の人数について解説したいと思います。
「主人公を
しかし、作品の中に主要キャラクターを複数人登場させたい、という方もいると思います。主要キャラクターが2人登場する作品を書きたい場合、作者の選択肢としては下記の2つが考えられます。
①主人公は2人(全員主人公)
②主人公はひとりで残りは主人公ではない
詳しいことはこれから説明しますが、主要キャラクター=主人公ではありません。「魅力的なキャラクターを思いついたから、主人公と同じくらいの頻度で作品に登場させたい」と考える方もいるでしょう。しかしその場合、そのキャラクターを必ず「主人公」にしなくてはならないというわけではありません。
むしろ①「全員主人公」というのはかなりリスクを伴う選択になります。この場合のリスクとは、プロットが複雑になり、
では、どのようにすればよいのでしょうか。
主要キャラクターを複数人登場させながら、
今回は「主人公は
すでに「主人公はひとりで決定している」という方は、もちろんそれでOKです。ベストな選択です。しかし、そういう方も今回の記事をぜひ読んでいただきたいと思っています。
登場人物が主人公しかいない小説を書きたいという方はほとんどいないでしょうから(少なくともサブキャラクターやライバルなどは登場しますよね?)、今回はぜひ「主人公と他のキャラクターとの関係の設計」という点に注目して記事を読んでみてください。
さて、主人公の人数について、ロバート・マッキーは著書『ストーリー』の中で以下の4パターンを紹介しています。
・単独主人公
・複数主人公
・多主人公
・(ストーリーの途中で主人公が変わる)
複数主人公と多主人公という言葉が少しややこしいと思いますので、『ストーリー』を引用してみましょう。
ふつう、主人公は単独の登場人物だ。しかし、ストーリーは『テルマ&ルイーズ』のようなふたり組、『イーストウィックの魔女たち』のような3人組、『七人の侍』や『特攻大作戦』のような複数人が動かすこともある。『戦艦ポチョムキン』では、労働者階級全体が大きな「複数主人公」のまとまりとなっている。
2名から3名の登場人物を複数主人公にする場合、満たすべき条件がふたつある。第一に、全員が同じ欲求を共有していること。第二に、その欲求を満たそうと動いているときに、全員が共通して苦しんだり利益を得たりすることだ。ひとりが成功すれば、全員が恩恵を受ける。ひとりが挫折すれば、全員が損害をこうむる。複数主人公のなかでは、動機や行動や結果が共通している。
一方、「多主人公」のストーリーもありうる。これは複数主人公とは異なり、それぞれの人物が個別の欲求や苦悩や利益を独自に追い求める。[……]多主人公のストーリーはマルチプロットになる。単独であれ複数であれ、決まった主人公の欲求に絞って語りかけていくのではなく、こうした作品は、それぞれに主人公がいるいくつかの小さなストーリーから成り、ある特定の社会を生き生きと描く。
――『ストーリー ロバート・マッキーが教える物語の基本と原則』
上記の引用を踏まえて複数主人公と多主人公の違いを整理するとこうなります。
・複数主人公 … 全員が同じ欲求を共有し、共通した苦しみや喜びを得る
・多主人公 … それぞれの人物が個別の欲求・苦悩・利益を独自に追い求め、その物語はマルチプロットになる
欲求や目標(それにともなう障壁)が、その複数人で共有されているかバラバラなのか、という点で複数主人公と多主人公は異なるといえるでしょう。
さて、みなさんが書きたいと思っている作品はどのパターンに該当するでしょうか。単独主人公で決まり、という方は特に問題ないと思いますが、複数人の主人公が登場する小説を書きたいと考えている方は、複数主人公なのか多主人公なのか、で物語の構造自体が大きく変わってくる(特に後者の場合は単一の直線的なプロット設計ではなくなる)ので、じっくりと考えてみてください。
なお、上で「ストーリーの途中で主人公が変わる」というパターンも紹介しましたが、これはかなりレアなケースなので、ここでは考えないことにします。引用した『ストーリー』では映画『サイコ』の事例が紹介されています(ネタバレになるのでこれ以上言及はしません)。
読者にとって大切なのは「何が起きているかではなくて、それが誰に起きているかということ」です。
ハリウッド式脚本メソッド(またはそれを応用した小説メソッド)で繰り返し繰り返し強調されることがあります。それは、
誰についての物語か
ということです。
読者は主人公の「欲求・目標、動機、リスク、変化」に共感あるいは感情移入しながらページをめくります(前回「キャラクター造型に必要な5つの質問」を参照のこと)。主人公が誰であるのかがはっきりと示されていないと、読者を感情的に惹きつけることはできなくなるのです。
そう考えるとやはり主人公はひとり、がベター(というかベストな)選択肢といえます。物語創作に関する本の多くは、よほどの理由がない限り単独主人公のほうが望ましいと書かれています。
これから小説を書き始めようという方は、単独主人公で書いてみることを強くオススメします。
それでも複数主人公にしたいという方に、『ストーリーの解剖学』という本の次の記述をご紹介いたします。
人気の高いジャンルは、確かにどれも1人のメイン・キャラクターで成り立っているものばかりだが、多くの主人公を擁するノンジャンルのストーリーも存在する。[……]
たくさんの主人公がいると、主に同時に複数の出来事が展開されるストーリー進行で物語を作ってゆくことになる。単一キャラクターの成長を追う(直線状)のではなく、数多くの主人公たちが同時期にそれぞれ行なっていることを比較する形でストーリーは進行する。これに伴うリスクは、数多くのキャラクターを同時に見せることで、ストーリーがもはやストーリーでなくなってしまう可能性があることだ。なぜなら物語の推進力を失ってしまう可能性が高いからだ。同時進行型のストーリーであっても、そのほとんどは、出来事を連続的にひとつひとつ見せてゆく直線的なクオリティが必要とされる。
多くの主人公を擁するストーリーをしっかりと書き上げるためには、主人公である各キャラクターそれぞれにストーリー構造に不可欠な7段階の道程(弱点と欠陥、欲求、ライバル、プラン、決戦、自己発見、新たなバランス状態)をたどらせなければならない。それをしないということは、そのキャラクターの成長に必要最小限の段階を観客がたどることができないということを意味するのだから、もはやそのキャラクターは主人公とは呼べない。
複数の主人公を据えると、自動的に、物語の推進力が弱まるという事実を覚えておこう。ディテールをあたえなければならないキャラクターの数が多ければ多いほど、語ろうとしているストーリーが文字通り停滞してしまうリスクは高まるのだ。
――『ストーリーの解剖学 ハリウッドNo.1スクリプトドクターの脚本講座』
もし、複数人の主人公が登場するとしても(作者本人は主人公を複数人を書いたつもりでも)、それぞれのキャラクターに「欲求・目標、動機、リスク、変化」など主人公に必要な条件(前回「キャラクター造型に必要な5つの質問」を参照のこと)がそろっていなければ、残念ながらそのキャラクターは主人公ではありません。主要キャラクター全員がそれらを持っていないとうことであれば、そもそもその小説に本当の意味での主人公は存在しないということになります。
もし主要キャラクター全員にしっかりと「欲求・目標、動機、リスク、変化」を設定する(=全員を主人公とする)となれば、かなり高度なプロット設計が必要になり、最悪「ストーリーがもはやストーリーでなくなってしまう可能性」が出てきます。
なので複数人の「主人公」が登場する小説を書きたいという方は、
・複数人を主人公にしたつもりで実はそうなっていない(それどころかひとりも主人公の条件を満たしていない)
・複数主人公にこだわりすぎて、もはや
という事態に陥らないよう、くれぐれもご注意ください。
実は、主要キャラクターが2人登場することがよくあるジャンルまたはストーリー形式が2種類あります。
・ラブ・ストーリー
・バディ(男性同士の友人・仲間・相棒)もの
です。
さきほど引用した『ストーリーの解剖学』に詳しく紹介されているので、一部を引用してみましょう。
▼ラブ・ストーリー
ラブ・ストーリーは、独りでは真の存在にはなれないということを描いている。本当の自分を見つけて真の存在になりたいのであれば、2人からなるコミュニティに入ってゆかなければならない。お互いが、他者を愛することを通して、成長し、より奥深い存在になれるという発想だ。この深みのある発想を、適切なキャラクター・ウェブを使って表現するのは簡単な作業ではない。
2人のメイン・キャラクターを使ってラブ・ストーリーを書くということは、2本の背骨、2つの欲求の道筋、2つの線路の上で、ひとつのストーリーを進めようとしているようなものだ。そこで、書き手であるあなたは、片方のキャラクターをもう1人よりもほんの少しだけ中心に据えて扱うことが必要になってくる。ストーリーの出だしでは両方のキャラクターの欠陥を詳しく述べなければならないが、ストーリーが実際に追いかける欲求の道筋は、どちらか片方のキャラクターのものを採用するのだ。[……]
これをストーリー・ファンクションに当てはめると、欲求を持たれている側、つまり主人公の恋人に当たる人物の方は、第二の主人公ではなく、実はメインのライバルになる。また、この場合のキャラクター・ウェブには、たとえばこの2人のコミュニティに異議を唱える家族の一員など、外部からのライバルをもう1人か2人含ませるのが典型的だ。さらには、主人公またはその恋人に愛を告白する別の人物も入れることで、別バージョンとの比較を描くようにする場合もある。
▼バディもの
このバディ作戦を使うことで、書き手はメイン・キャラクターを真っ二つに割り、2種類の異なった生き方や、2種類の人間的特性を描くことができる。この2人のキャラクターは、ひとつのチームとして「結ばれて」おり、彼らの違いが分かる形で観客に提出されるだけでなく、その違いが2人の共同作業を有利に働かせ、単なる足し算以上の結実を果たしていることも表現される。
ラブ・ストーリーと同じく、ここでも2人のうちの片方をより中心に据えなければならない。たいていの場合は、2人の内でも思索家、陰謀者、戦略家タイプの人物が中心に据えられている。その理由は、プランを考えて自分たちを欲求の道筋に歩み出させる人物がこちらだからだ。相棒に当たる方の人物は、主人公と同じような存在で、大切な部分は似た者同士ではあるものの、きちんと相違点もある。
ストーリー構造的には、相棒はメインのライバル、またはメインの仲間に当たる。決して第二の主人公ではない。また、たいていの場合、この相棒同士の間に存在する主な対立関係は、シリアスでもなければ、悲劇的でもない。悪意のない口論の形をとっているのが普通だ。[……]
バディ・ストーリーのキャラクター・ウェブについて最も大切なことのひとつは、仲間である2人の間にある根本的な対立をどう扱うかということだ。この2人の間には、常に衝突し合う関係性を作っておこう。旅の道のりで出会うほとんどのライバルが、唐突にやって来ては去ってゆくよそ者ばかりであるだけに、2人のメイン・キャラクターの間に現在進行形の対立関係があることが重要になってくるのだ。
――『ストーリーの解剖学 ハリウッドNo.1スクリプトドクターの脚本講座』
たしかにラブ・ストーリーやバディものには主要なキャラクターが2人登場します。しかし、両者がともに主人公ということではありません。どちらかのキャラクターを中心に据えなくてはいけません。残されたもうひとりは、たとえ登場頻度が高くても「第二の主人公」ではなく、物語上の役割としては「ライバル」ないしは「仲間」として物語に登場させなければなりません。やはり主人公はひとりなのです。
では、ラブストーリーでもなく、バディものでもない、3人以上の主要キャラクターが登場する物語を書きたいと思ったらどうすればよいでしょうか。『ストーリー・ジーニアス』という本にとても使えるテクニックが紹介されています。長いですが引用してみましょう。
たとえば、エドゥアルド・サンティアゴの魅惑的なデビュー小説『Tomorrow They Will Kiss(明日彼らはキスをする)』(未邦訳)は、60年代後半にキューバを去り、ニュージャージー州ユニオンシティに移住した3人の若い女性、グラシエラ、インペリオ、カリダッドの人生を中心にした物語だ。小説は3人それぞれの一人称で語られ、章ごとに語り手が変わる。3人ともほぼ同じぐらいのページ数で語り手を務める。それぞれに独自の視点、独自の目的、独自の誤った思い込みを持っている。全員が、主人公は自分で、ほかの二人は自分の 物語の一部だと思っている 。
しかし作者のサンティアゴは、インペリオやカリダッドがどう思っていようと、主人公は最初からグラシエラだということを知っている。それをどう読者に伝えているのか? この小説は、ほかの2人が考えたり、行動したり、推測するほとんどすべてのことが、グラシエラの現在の目的――米国にとどまり、仕事を続け、自分の望むような真実の愛を見つけること――に、なんらかの形で影響を及ぼすように書かれている。3人の語りの中心にいるのはグラシエラだ。読者と同じように、語り手たちもグラシエラに心を奪われているように見える。グラシエラのことをほかの語り手の視点で見ることで、彼女についての洞察も深まるが、それ以上に、ほかの語り手がいかにグラシエラを誤解しているかを見ることで、ほかの2人についての洞察も深まり、彼らのアジェンダも、グラシエラが何に気をつけるべきかもわかるようになっている。
そのため読者は、インペリオやカリダッドの語る章を読んでいるあいだも、グラシエラが関知しているかどうかに関わりなく、ほかの2人の行動をひとつの基準に基づいて分析する。つまり、彼らの行動にグラシエラが気づいたとき、どんな影響があるか? ということだ。グラシエラが求めるものを手に入れる助けとなるのか、それとも状況はさらに厳しくなるのか? 読者はグラシエラを応援しているので、2人がグラシエラと対立すると、読者は2人に対して疑い深くなる。
かと言って、読者にはインペリオやカリダッドのことはどうでもいいのかといえば、そういうわけでもない。むしろ気にかけている。ただ、それでも読者はつねに、2人はグラシエラの物語の一部でしかないという認識はしている。
そんなわけで、一見すると3人の主人公がいるように見えても――実際、主人公が複数いるように見える小説がたくさんあるにしても――『Tomorrow They Will Kiss』の主人公はグラシエラのひとりだけだ。作者のサンティアゴにほかの2人を創らせたのはグラシエラの物語であり、彼女の物語がほかの2人の行動に意味を与えている。基本はつねにこれだ――物語は主人公のものなのだ。
――『ストーリー・ジーニアス 脳を刺激し、心に響かせる物語の創り方』
いかがでしょうか。
さて、主要登場人物が2人(ラブ・ストーリーやバディもの)のケース、そして3人のケースについて、それぞれ異なる本から引用しましたが、両者に共通していることがあります。
それは「主人公は複数人に見えて、実はひとり」だということです。
一見主人公のように見える主要キャラクターは、実は主人公のために存在している(サブ)キャラクターだったのです。そのようにキャラクターを配置する(主人公と他のキャラクターの関係性を設計する)ことで、主要キャラクターを作品に複数登場させつつ読者の気持ちを掴むことのできる直線的な物語を描くことができるのです。
主要なキャラクターを複数人登場させたいと思った場合、やはりベストな選択は「主人公はひとり+他はサブキャラ扱い」になるでしょう。ただし、サブキャラクター=少ししか登場しない、ということではありません。主人公と同じくらい登場してもよいのですが、その場合でも、その主人公の役割を明確に打ち出し、重要性を与えるために登場させるようにしましょう。
自分が生み出した愛着のあるキャラクターを平等に扱いたい気持ちはわかりますが、思い切って「主要な」主要キャラクターを決めるようにしましょう。
それでもまだ複数人主人公にこだわりたいという方は、ぜひ下記の方法を試してみてください。
【複数の主人公を擁するストーリーに推進力をもたらすための方法】
■ ストーリー全体を通して他の主人公よりも中心的なキャラクターを1人出す。
■ すべての主人公に同じ欲求の道筋をあたえる。
■ 同じ人物が、あるストーリーラインでは主人公として、別のストーリーラインではライバルとして登場するように描く。
■ 主人公全員を単一の主題やテーマに基づいた例証として扱い結びつける。
■ ひとつのストーリーラインのエンディングをクリフハンガー(次回に興味をもたせる場面)で終わらせ、別のストーリーラインに入ってゆくための引き金として利用する。
■ 最初はバラバラな場所にいる主人公たちを徐々にひとつの中心点に向かわせるように描く。
■ 時間を制限する。たとえば、1日の間、または一晩の間に起こった出来事としてストーリーを描くなど。
■ 前進と変化を示唆するため、ストーリー全体に同じ年間行事やグループ・イベントを繰り返し(少なくとも3回は)描く。
■ 主人公同士を、時折、偶然出会わせる。
――『ストーリーの解剖学 ハリウッドNo.1スクリプトドクターの脚本講座』
さて、ここまで読んできて「主人公は
ストーリーに登場するその他のキャラクターはすべて、主人公にとってのライバル、仲間、またはその両方のコンビネーションのどれかに当てはまる。ストーリーにおける紆余曲折の多くは、さまざまなキャラクターと主人公の間で繰り広げられる敵対と友好の潮の満ち引きによって生み出されているものだ。
――『ストーリーの解剖学 ハリウッドNo.1スクリプトドクターの脚本講座』
主人公と他のキャラクターの関係性が重要なのだとすれば、キャラクターを考えるときに、果たして主人公だけ考えればよいのか、という問題も生じてきます。
キャラクターを作り上げるときに犯しがちな最大のミスは、主人公とその他すべてのキャラクターを別々に考えてしまうことだ。
――『ストーリーの解剖学 ハリウッドNo.1スクリプトドクターの脚本講座』
やはり一緒に考える必要がありそうです。
さて、ずいぶんと長くなってしまいましたので、続きは次回ということにします。
次回は「主人公と他のキャラクターの関係性」や「登場人物の設計」について、「キャラクター・ウェブ」という考え方を紹介しながら解説していきたいと思います。
【お知らせ】
物語やキャラクター創作に役立つ本
https://www.filmart.co.jp/pickup/25107/
【お得なセール情報】
フィルムアート社のオンラインショップで創作に役立つ本を20%オフの割引価格でセット販売しています。
https://onlineshop.filmart.co.jp/collections/20-off
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます