キャラクター・ウェブでキャラクターを設計する
今回は、主人公とその他のキャラクターの関係をどのように設計するのか、という点についてディズニーやピクサーで活躍したジョン・トゥルービーの書籍『ストーリーの解剖学』で紹介されている「キャラクター・ウェブ」という考え方を使って説明していきたいと思います。
まずは、本の引用から。
『トッツィー』が大ヒットを飛ばしたのは、ダスティン・ホフマン演じるメイン・キャラクターが女装したからである。正解だと思いますか? 答えはノーだ。あのキャラクターを可笑しくしているもの、そしてストーリー全体を機能させているものは、さまざまなキャラクターたちからなるウェブ(網目)であり、このウェブが主人公である彼を定義し、おかしな存在であることを可能にしているのだ。
――『ストーリーの解剖学 ハリウッドNo.1スクリプトドクターの脚本講座』
日本でもとても人気のある『トッツィー』(この映画作品自体をご存じない方もいるかもしれませんが、この文章を読む上ではそれでも問題ありません)。女装した男性、という一般的には極めて個性的な主人公が登場する本作ですが、それだけで物語全体が面白くなるというわけではありません。かといって他のキャラクーだけが重要、ということでもありません。キャラクター全体からなるウェブ(網目)こそが大事である、とこの本では述べています。
キャラクターを作り上げるときに犯しがちな最大のミスは、主人公とその他すべてのキャラクターを別々に考えてしまうことだ。そうすると主人公は孤立し、他者たちと分離した状態になる。その結果、主人公の人間像が弱くなるだけでなく、それ以外のキャラクターに至っては、主人公以上に弱い、型どおりのライバルや主人公を鏡映しにしただけの人物像ができあがってしまう。
(中略)
素晴らしいキャラクターを生み出したいのなら、ストーリーに登場するキャラクター全員がキャラクター・ウェブを形成しているように考え、それぞれのキャラクターが他のキャラクターを定義するのに役立っているという発想から入ろう。別の言い方をするなら、キャラクターというものは、本人以外の人物から定義されるものである、ということだ。
――『ストーリーの解剖学 ハリウッドNo.1スクリプトドクターの脚本講座』
『「感情」から書く脚本術』にもこのように書かれています。
大抵の主人公は、他の誰かと何らかのやり取りを交わすことになる。仮に主人公が世間との交流を絶った世捨て人でも、彼のことを知っている人くらいいるだろう。他者を通してキャラクターを見せるやり方は2つある。1つは、そのキャラクターについて他の人がどんなことを言っているのか。もう1つは、そのキャラクターの存在が、他の人との関係にどう影響するかということだ。
――『「感情」から書く脚本術 心を奪って釘づけにする物語の書き方』
それでは、キャラクター同士の結びつき、関係性(キャラクター・ウェブ)をどのように設計していくか、その具体的な方法についてみてみましょう。
『ストーリーの解剖学』には、キャラクター同士を結び付けるものとして、下記の4つが紹介されています。キャラクターをたくさんつくってみたものの、それぞれがバラバラに動いてしまっていて物語が前に進まない、あるいは物語にまったく寄与していないキャラクターがいる、という経験のある方は、ぜひ以下の4点に着目してみてください。
①ストーリー・ファンクション(ストーリーへの役割)
②
③テーマ
④対立
毎回新しい単語が登場してきて大変ですが、それぞれ解説していきましょう
①ストーリー・ファンクション(ストーリーへの役割)を基礎にしたキャラクター・ウェブ
以前この連載でも「物語の中で主人公は変化する」とお伝えしました。その変化を見せるのが物語である、という言い換えもできます。読者は主人公がどのようにして変わってゆくのかということに最も強い興味を持っています。とはいえ、主人公を含んだすべてのキャラクターがひとつのチームとしてそれぞれの役割を果たさなければ、主人公の変化を見せることは不可能です。
本書で紹介されている役割は下記の6種類です。
・主人公
・ライバル
・仲間
・仲間のふりをしたライバル
・ライバルのふりをした仲間
・サブプロット・キャラクター(わき筋のキャラクター)
基本的には、主人公、ライバル、仲間、という3本柱になります。
「ストーリーに登場するその他のキャラクターはすべて、主人公にとってのライバル、仲間、またはその両方のコンビネーションのどれかに当てはまる」とあり、「仲間のふりをしたライバル」や「ライバルのふりをした仲間」はまさにそのコンビネーションといえるでしょう。
それぞれの役割は以下の通り。主人公については、これまで何度か触れているので詳しくは過去の連載をご確認ください。
《主人公》
最も大切なキャラクター。ストーリーの中心となる問題点を抱えており、その問題点を解決しようすることでストーリーを前進させる人物。主人公はゴール(欲求)を目指そうと決心しているが、特定の弱点や欠陥を持っており、それらが成功を妨げます。
《ライバル》
主人公の目的達成を妨げたいと誰よりも強く思っています。ライバルは主人公にとって単なる障害物程度の存在では不十分(それではあまりにも機械的で個性がなさすぎます)。
ライバルは主人公と同じものを欲している人物でなければなりません。つまり、主人公とライバルはストーリー全体を通して何度も直接的な対決をする必要があります。ただし、表面上は直接的に対決しているように見えないケースも多く、だからこそ、書き手は、主人公とライバルが何をめぐって争っているのかということについて、その最も深い対立の内容を常に探し続けなければなりません。
主人公とライバルの関係は、ストーリーに登場するさまざまな関係性の中でも一番重要な関係性となります。この2人のキャラクターの対立について見いだすことさえできれば、そのストーリーの主要な論点やテーマはほとんど決まったようなものです。ライバルはシンプルに主人公の反対側にいる人物のことです。ライバルの方が主人公よりも好人物で道徳的な場合もあるし、主人公の恋人や友人がライバルという場合もあります。
《仲間》
主人公を手助けする人物。仲間はまた、共鳴板の役割を担って、主人公の価値基準や感情を観客に届けるという機能も果たしています。たいていは、仲間の目指すゴールも主人公と同じものですが、時として、仲間は仲間で自分自身の別のゴールを持っている場合もあります。
《仲間のふりをしたライバル》
一見すると主人公の友だが、実際にはライバルである者のこと。メインのライバルのパワーを増強させたり、プロットにひねりを加えたりするための主要な方法のひとつとしてこのキャラクターが使われることがあります。
仲間のふりをしたライバルは、通常、その役割上ジレンマを抱えているものなので、登場人物の中で最も複雑で興味深いキャラクターの1人となり得ることは明らかです。仲間のふりをしたライバルは、主人公の仲間であるふりをしている間に、本当に仲間のような気持ちになります。したがって、主人公を倒すつもりだったにもかかわらず、最終的には主人公の勝利を手助けすることが多いのが特徴です。
《ライバルのふりをした仲間》
このキャラクターは一見すると主人公と争っているように見えますが、実際には主人公の友。ライバルのふりをした仲間は、書き手側からすると、仲間のふりをしたライバルほど利用価値があるものではないので、あまり多くの作品に登場することはありません。たとえ最初はライバルのように見えたとしても、あくまでも仲間であるこの人物には、ライバルのような対立やサプライズを生み出すことがなかなかできないのです。
《サブプロット・キャラクター(わき筋のキャラクター)》
サブプロット・キャラクターはフィクション・ストーリーにおいてとても具体的な役割を担います。サブプロット(わき筋)は、別のキャラクターが主人公と似たような問題に違う形で対処している姿を描き、主人公とのコントラストを見せるために存在します。その比較を通して、主人公の弱点やジレンマを強調するのがサブプロット・キャラクターの役目となります。
『ハムレット』にサブプロット・キャラクターの具体例が登場します。ハムレットの抱える問題を煮詰めて一文で示すと「父を殺した男に復讐すること」ですが、ハムレットの恋人オフィーリアの兄であるレアティーズの抱える問題もまた、ハムレットと同様に「父を殺した男に復讐すること」です。この2人のコントラストに着目すると、ひとつは周到に準備された殺人であるのに対し、もうひとつは見当違いで衝動的なミスであることが分かります。
以上が物語上の役割に注目して、キャラクターを設計するという方法です。
どんな小説にもライバル的なキャラクターや仲間風のキャラクターは登場してくるものですが、それらのキャラクターが物語上でどんな役割を果たしているのか、あらためて確認してみてください。
主人公と一緒に戦うからといってそれが本当の意味での「仲間」になるわけではありません。また主人公に打倒されるからといってそれが物語上「ライバル」の役割を果たしているとは限りません。
登場するキャラクターには、すべて物語上の(主に主人公との関係上の)役割があります。この結びつきが弱い物語は、読者の興味を引く力も弱くなってしまいます。
②
おとぎ話や神話の世界に足を踏み入れてすぐに気づくのは、登場人物のタイプや関係が何度もくり返されるということだ。冒険する英雄、英雄を冒険に誘う使者、英雄に魔法の贈り物を与える老賢者、英雄の道をふさぐ戸口の番人、変身の技能を持ち英雄を混乱させ惑わせる旅仲間、英雄を倒そうとする影をまとった悪党、現状をくつがえしたり息抜きを提供するトリックスター。こうした共通の登場人物のタイプ、その象徴、関係を説明するうえで、スイスの心理学者カール・G・ユングは、人類共有の遺産である古くからのパーソナリティのパターンを意味する、「アーキタイプ」という言葉を使っている。
――『作家の旅 ライターズ・ジャーニー 神話の法則で読み解く物語の構造』
アーキタイプを提案したのは、心理学者カール・ユングです。人間はみな、共通のアーキタイプ群を持っているとユングは考えました。私たちが特定のイメージや行動に魅力を感じるのは、「集合的無意識」によって人生の意味や生き方、幸福感を感じとるからである、と説明したのです。脚本や小説などの創作にアーキタイプが役立つのはこのためです。
――『新しい主人公の作り方 アーキタイプとシンボルで生み出す脚本術』
実はこの
例えば上で紹介した『作家の旅 ライターズ・ジャーニー』では、「書き手が理解しておけば必ず役に立つアーキタイプ」として8つの
また『英雄の旅』という本では、12の
本によってその数や種類にバリエーションがありますので、みなさんも自分に合う
「キャラクターのつくり方」を紹介している本やサイトなどで、キャラクターをRPGゲームの「職業(例:勇者、武闘家、魔法使いなど)」に当てはめてみよう、と書いてあるのをたまに目にすることがあります。上で紹介した
物語創作における
さて『ストーリーの解剖学』で紹介されている9つの
《王(または父)》
・長所 … 知恵と洞察力と不屈の精神で自らの国民(または家族)を率い、彼らを成功や成長に導く。
・短所 … 厳格で制圧的なルールに従うことを国民(妻や子供)に強いる潜在性、自分の国(家族)の情緒的な側面を心の中から排除する潜在性、または国民(家族)の生活が、彼自身の喜びや利益のためだけに営まれるべきだと主張する潜在性がある。
《女王(または母)》
・長所 … 国民(または子ども)が成長できる保護の殻を提供する。
・短所 … 独善的な視点での保護や抑制を強要する潜在性、罪悪感や恥辱感を植え付けることで子供を自分の傍に置き続け、それによって彼女自身の安楽を保とうとする潜在性。
《老賢者(または師匠、教師)(男女)》
・長所 … 知恵や知識を授けることで、より良い人生を送ることや、より良い社会を作ることを可能にする。
・短所 … 教え子に、限られた特定の考え方を強いたり、その発想自体の素晴らしさではなく、自分個人の素晴らしさを吹聴することを強いたりする潜在性。
《戦士》
・長所 … 実質上の正義の執行者。
・短所 … 「殺すか殺されるか」という無情なモットーに従い続けることにより、弱者は誰であれ撲滅されるべきだという信念を持つようになり、むしろ悪の執行者と化してしまう潜在性。
《魔法使い(または呪術師)》
・長所 … 表面下の深いところに隠れている現実を人に見せてやること、また自然界にあるより大きな力や隠れた力のバランスをとり、コントロールすることができる。
・短所 … 他者を虜にしたり、自然の法則を破ったりして、より深い現実を操作しようとするようになる潜在性がある。
《トリックスター》
・長所 … 秘密やペテンや口のうまさを駆使して欲求を達成する。
・短所 … 自分のことだけを考えるあまり完全な噓つきになってしまう潜在性。
《アーティスト(芸術家・達人)(または道化)》
・長所 … 人々に、美とは何かを定義してみせる、または何が機能しないかをネガティブな形で見せてくれる。美や未来のビジョンを、または見た目は美しいが実は醜かったりバカらしかったりするものを人々に見せてくれる。
・短所 … 完璧だけを求める究極のファシストと化してしまう潜在性、すべてを自分で統制できる特殊な世界を作り出してしまう潜在性、またはあらゆるものを無価値なものにしようと、単にすべてを破壊してしまう潜在性。
《ラバー(愛人)》
・長所 … 気づかい、理解、肉欲を提供し、相手を満足させて幸せにする。
・短所 … 相手に溺れてしまう潜在性、または相手を自分の影で目立たなくせてしまう潜在性。
《反逆者》
・長所 … 群衆の中から立ち上がり、民衆を奴隷状態にしている体制に歯向かう行動をとる勇気を持ち合わせている。
・短所 … より良い代案を出すことができない、またはそれをしようとしないことが多いため、現状の体制や社会を打ち壊すこと以外に選択肢を持たない。
みなさんの書いた作品には、同じ
本書では、
・ルーク(+R2D2+C3PO) ・・・(王子/戦士/魔法使い)
・ダース・ベイダー ・・・(王/戦士/魔法使い)
・ハン・ソロ(+チューバッカ)…・(反逆者/戦士)
・レイア姫 ・・・(姫)
③テーマ
さて、次が「テーマ」です。
テーマとキャラクターがどのように関係しているのか、イメージするのはなかなか難しいかもしれません。
しかし、この連載で紹介するハリウッド式の脚本メソッドを下敷きにした創作指南書のほとんどは、キャラクターとテーマは密接な関係がある、と解説しています。『テーマからつくる物語創作再入門 ストーリーの「まとまり」が共感を生み出す』という書名の、ズバリ「テーマ」に特化した一冊から引用してみましょう。
テーマとは、「ふと主人公が口にする、色紙に書かれているような格言」以上のものです。テーマはキャラクターを作ります。テーマによって作られたキャラクターはプロットを生み出します。そのプロットから、またテーマが出現します。現れたテーマはまたキャラクターを発展させ、そのキャラクターがプロットをさらに発展させ、そのプロットは再びテーマに立ち返り……と、永遠に循環しながら育っていくのです。
――『テーマからつくる物語創作再入門 ストーリーの「まとまり」が共感を生み出す』
「テーマとキャラクターとプロット」の3者は、ストーリーにおいて非常に密接な関係にあります。つまり、テーマについて考えることもまた、キャラクターつくりに必要な作業なのです。
ここでは、主に主人公とライバルの関係性に着目します。このあと説明しますが、主人公とライバルには「対立」が必要となります。書き手は、この2人がいったい何をめぐって対立しているのかを示す必要があります。
それがテーマです。
ここでいうテーマは、たとえば「人種差別」や「自由」といった、いわゆる主題のことではなく、世界・社会においてどのように行動すべきかについての書き手の見地(=書き手であるあなた自身の道徳観)を意味します。
この書き手自身の道徳観(=テーマ)に基づいて行動するのが主人公です。そして、そのテーマを劇的に表現するために、テーマも対立関係に分かつことが必要になってきます。このテーマにおける対立を、競い合う主人公とライバルにあたえるのです。
テーマラインを劇的な対立関係に分かつための主な方法は3つあります。
・主人公に道徳上の決断をさせること
・主人公にもライバルにも同じテーマの異なるバリエーションをあたえること
・対立関係に主人公とライバルそれぞれの価値基準を置くこと
なお、ライバルは、主人公と違って必ずひとりということではなく複数人いても問題ありません。ただ、1人ひとりのライバルはそれぞれ同じテーマの別バリエーションを体現する存在となるようにする必要があります。つまり、それぞれのライバルが同じ問題について別の方法で取り組んでいるようにします。
主人公を定義するためのコツ、ストーリーを理解するためのコツは、ライバルを理解することだ。この事実は強調してもし切れないほど重要だ。キャラクター・ウェブにあるすべてのつながりの中で最も重要なつながりは主人公とメインのライバルの関係性である。この関係によって全体のドラマ性の組み立て方が決まってくるのだ。
――『ストーリーの解剖学 ハリウッドNo.1スクリプトドクターの脚本講座』
これほど重要なライバルの存在。本書ではライバルに必要な6つの要素を紹介しています。この部分を丁寧に解説するとかなり長くなるので今回は箇条書きで簡単に紹介するだけにします。
1:ライバルは必要な存在であること
2:ライバルは人間であること
3:ライバルは主人公の基準に反する価値基準を持っていること
4:ライバルは強いが弱点のある道徳論を持っていること
5:ライバルには主人公との一定の類似性があること
6:ライバルはずっと主人公と同じところにいること
それぞれのキャラクターついて次の要素をすべて書き出し、それらを比較しましょう。
・弱点
・欠陥(心理的な欠陥と道徳的な欠陥の両方)
・欲求
・価値基準
・力、ステータス、能力
・テーマの道徳的問題点にどのような形で直面しているか
比較は、まず主人公とメインのライバルから始めましょう。次に主人公とその他のライバルたちの比較を、そして主人公と仲間たちの比較をします。最後に、ライバルたちと仲間たちをそれぞれの組み合わせで比較します。
④対立
最後は「対立」についてです。キャラクターの関係性を設計するという観点からいえば、とてもイメージしやすいと思います。個別に存在しているキャラクターを結びつける接着剤のようなもの、それが「対立」です。
こちらも主に主人公とライバルと関係を設計するのに役立ちます。
『ストーリーの解剖学』では著者が「四隅の対立関係」と呼ぶメソッドを紹介しています。
平凡なストーリーやシンプルなストーリーでは、主人公はたった1人のライバルだけと対立する。このスタンダードな対立関係には明瞭さという利点があるものの、対立を描いたシーンに深みや力強さをあたえることができない。しかも、より大きな社会の中で行動する主人公の姿を観客に見せることもできない。
(中略)
優れたストーリーの多くは、主人公とメインのライバルだけのシンプルな対立関係を超越して、「四隅の対立関係」と私が呼んでいる手法を使っている。この手法では、まず主人公とメインのライバルにプラスして、少なくともあと2人のライバルを創作する(そのライバルがストーリーで重要な役割を果たしてさえいれば、その数はもっと増やしてもかまわない)。各キャラクター(主人公と3人のライバル)は、それぞれ四隅の角にいるものとして考えよう。つまり、それぞれを他とはできる限り異なる存在として扱うということだ。
――『ストーリーの解剖学 ハリウッドNo.1スクリプトドクターの脚本講座』
このような図をイメージしてみてください。
《スタンダードな2人のキャラクターの対立関係》
《四隅の対立関係》
この「四隅の対立関係」を最大限に活用するために覚えておくべき5つのルールがあります。『ストーリーの解剖学』から引用してみましょう。
1:各ライバルはそれぞれ違うやり方で主人公の最大の弱点を攻撃しなければならない。
ライバルの目的の中心は主人公の弱点を攻撃することにある。だから、各ライバルを区別する第一の方法は、それぞれに独自の攻撃方法をあたえることだ。この手法を使うことで、すべての対立関係が人工的なものでなくなり、自然に主人公の最大の弱点につながるようになることも大きな利点だ。
2:各キャラクター同士をそれぞれ対立させる(主人公とだけでなく、ライバル同士もお互いに対立させる)こと。
これは四隅の対立関係を置くだけで得られるアドバンテージだ。四隅の対立関係を置くと、対立関係の数が一気に急上昇する。書き手はその数だけ創作して築き上げることのできる対立関係を得られたということだ。主人公の立場を、1人ではなく3人のライバルを相手にする立場にできるだけでなく、四隅に対立関係の図において矢印で示したように、ライバル同士を対立させることもできるのだ。その結果として、より緊迫感のある対立で密度の濃いプロットが実現される。
3:対立する4人のキャラクター全員に価値基準をあたえること。
キャラクター同士がただ対立するだけでは優れたストーリーテリングは生まれない。キャラクター間の対立とそれぞれの価値基準があって初めて優れたストーリーテリングが実現する。主人公はキャラクター・チェンジを経験しているとき、根本的な信念に疑念を持ち、それを変えようと試みることで、新たな道徳的行動につながってゆく。よくできたストーリーでは、ライバルもまた、自身の一連の信念が攻撃されるものだ。主人公の信念は、少なくとも1人の他者(できることならライバル)の信念と対立しなければならない。それがないと、そのストーリーは表現すべき意味もないものとなってしまう。
主人公と1人のライバルの二者間の価値基準を対立させるスタンダードな方法は、同じゴールを目指して争わせることだ。争っているうちに、2人の価値基準(そして人生の生き方)にも対立が生まれてくる。
対立関係にある四隅にそれぞれの価値基準を置くと、壮大な規模のストーリーを作れるポテンシャルを得ることができるだけでなく、ストーリーに不可欠な、自然な一貫性を保つことも可能になる。たとえば、各キャラクターがそれぞれ独自の価値基準を表明すれば、ひとつの生き方が、3種類の異なる主要な生き方と対立することになるわけだ。対立する四隅に価値基準を置くという方法は、ストーリーにものすごい質感とテーマの深みをもたらせることが理解できたと思う。
4:各キャラクターを各四隅へと追い込む。
四隅の対立関係を作る際には、各キャラクター(主人公と3人のライバル)の名を、あの図表の四隅に書き込もう。その上で、各キャラクターをそれぞれのコーナーへと追い込んでゆくのだ。別の言い方をするなら、それぞれのキャラクター同士を出来る限り異なる存在として描くということだ。
5:四隅のパターンをストーリーのあらゆるレベルにまで浸透させる。
基本的な四隅の対立関係が決定したら、そのパターンをストーリーのその他のレベルにまで拡張することを考えよう。たとえば、社会、組織、家族、または、1人のキャラクターの中にさえも、四隅の対立関係のパターンを設定することもできる。特に壮大なストーリーには、四隅の対立関係が複数のレベルで存在している。
――『ストーリーの解剖学 ハリウッドNo.1スクリプトドクターの脚本講座』
主人公とライバルが対立すると、一体どういうことが起こるのでしょうか? 具体的なイメージがつかないという方は、ぜひ『対立・葛藤類語辞典』(上・下巻)をご覧ください。
本書では「対立」と「葛藤」を下記の6種類に整理しています。
①キャラクターvsキャラクター
②キャラクターvs社会
③キャラクターvs自然
④キャラクターvsテクノロジー
⑤キャラクターvs超自然現象
⑥キャラクターvs自己
対立によって主人公がどのような状況に陥るのか、どのようなアクションを取るのか、そしてその結果どのような事態を招いてしまうのか、などが具体例とともに辞典形式で多数紹介されています。
さて、かなりの長文になってしまったので、あらためておさらいしておきましょう。
「主人公とその他のキャラクターの関係をどのように設計するのか」が今回のテーマでした。
キャラクターをバラバラにつくるのではなく、それぞれの相互の結び付きや関係性(キャラクター・ウェブ)を最初から考えておくというのが理想です。そのために、
①ストーリー・ファンクション(ストーリーへの役割)
②
③テーマ
④対立
という4つの観点から各キャラクターを設計するようにしましょう。
そのキャラクターがどういう人物なのかを読者にわからせるために、そのキャラクターに自己紹介をさせたり、心情を独白させたりすることがあると思います。しかし、他のキャラクターとの関係性(対比や対立)の中で、キャラクターを描くという手段はきわめて有効なので、今後ぜひ使ってみてください。
最後に、キャラクターは何人まで登場させてよいのかという問題について、2冊の異なる本の記述を引用して終わりにしたいと思います。
無関係なキャラクターが登場すると、ストーリーが挿話的になってしまったり、無機的になってしまったりする原因のひとつになる。キャラクター創作の際に書き手が自分に問いかけるべき最初の質問は、「このキャラクターはこのストーリーにとって大切な役割を担うことになるだろうか?」だ。その答えがノーだったら(そのキャラクターが単にストーリーに質感や色合いをあたえるだけのものだったら)その人物をカットすることを真剣に考慮すべきだろう。そのキャラクターの価値には限界があり、ストーリーラインの時間を割くに値するほどではないかもしれないからだ。
――『ストーリーの解剖学 ハリウッドNo.1スクリプトドクターの脚本講座』
人物を思いついて小説を書き始める人は多いでしょう。頭の中でその人の声がする。その声を形にしたくて、文章を書かずにいられない。そして文字を打ち始め、プロットが進むたびに新しい人物を追加する。それに合わせて、また新しい人物を思いついては足していく。追加は何人までOK? つまり、どこまで増やせば多過ぎ?
「一冊につき、ぴったり27人にすべきです」と言えたら楽ですが、当然、そうはいきません。作品の要求に合わせて作者が決めるべき。的確な判断をするために、人物を増やし過ぎた場合のリスクを覚えておきましょう。
第一に、読者の混乱を招く。単に「多過ぎて覚えきれない」。また、人数が増えるほど人物描写が手薄になります。
第二に、ストーリーがまとめにくくなる。多くの人物を使ってプロットやサブプロット、テーマを動かそうとすれば、薄く広がり過ぎてしまいます。
一人ひとりが物語で担う役目をチェックしましょう。クライマックスで活躍するのは何人か。逆に、物語の途中で消えるのは何人か。複数の人物を一人に統合できないか。頼りになるおじさんキャラと、隣の家に住んでいる警察官キャラを同一人物にできないか。考えていくうちに、「いい小説にするために、何の役目も果たしていない人物を消さなくてはならない」という、つらい事実が見えてくると思います。多彩な人物を登場させるのは楽しいものですが、人数を絞り込むほど物語はパワフルになるでしょう。
――『ストラクチャーから書く 個性は「型」にはめればより生きる』
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