『「感情」から書く脚本術 心を奪って釘づけにする物語の書き方』の3つの要点
この「要点編」では、これまでトピックごとに部分的に引用・紹介してきたフィルムアート社の創作系書籍を一冊ずつ、押さえておきたい「3つの要点」にフォーカスして改めて紹介していきます。
今回紹介するのはこちら。
書名:「感情」から書く脚本術 心を奪って釘づけにする物語の書き方
著者:カール・イグレシアス
発売日:2016年04月11日|A5判・並製|440頁|定価:2,400円+税|ISBN 978-4-8459-1582-8
本書を読み解くキーワード:感情、コンセプト、テーマ、構成、シーン、キャラクター、台詞
初心者 ★★☆☆☆ 上級者
本書の要点
① 本当に大事なことは、読者・観客に感情的な体験を提供するということ、つまり「物語は感情」である。
②この一冊でほぼすべてを学ぶことができる「圧倒的な網羅感」
③読者の感情を揺さぶるための「具体的なテクニック」を多数紹介
世界中のクリエイター(作家や脚本家など)に、定番の物語創作指南書は何かと尋ねたら、おそらく次のような書籍の名前が挙がるはずです。
◆シド・フィールド著『映画を書くためにあなたがしなくてはならないこと シド・フィールドの脚本術』
参考URL:https://kakuyomu.jp/works/1177354055193794270/episodes/16817330650781596459
◆ロバート・マッキー著『ストーリー ロバート・マッキーが教える物語の基本と原則』
参考URL:https://kakuyomu.jp/works/1177354055193794270/episodes/16817330647771127165
◆ブレイク・スナイダー著『SAVE THE CATの法則 本当に売れる脚本術』
参考URL:https://kakuyomu.jp/works/1177354055193794270/episodes/16816927861015168343
◆クリストファー・ボグラー著『作家の旅 ライターズ・ジャーニー 神話の法則で読み解く物語の構造』
参考URL:https://kakuyomu.jp/works/1177354055193794270/episodes/16817139556375414677
これらの本の登場によって、物語創作のメソッドが体系化され、今では三幕構成やビート・シート、
今回紹介する『「感情」から書く脚本術 心を奪って釘づけにする物語の書き方』は、上の4冊とは違い「古典的な一冊」という評価ではありませんが、実は「とんでもなく売れている一冊」なのです。
直近3年(2020~2022年)のフィルムアート社の脚本術の売上ベスト3を見ると、
1位:『SAVE THE CATの法則 本当に売れる脚本術』
2位:『「感情」から書く脚本術 心を奪って釘づけにする物語の書き方』
3位:『映画を書くためにあなたがしなくてはならないこと シド・フィールドの脚本術』
という結果になっており、シド・フィールドの名著を抜いて第2位にランクインしているのです。
なぜ、これほど多くの読者に読まれているのでしょうか。それは、他の「脚本指南書のどこにも書いてない重要な情報」が書かれているから、です。
本書『「感情」から書く脚本術 心を奪って釘づけにする物語の書き方』が他の指南書とどのように違うのか、これから3つのポイントで解説したいと思います。本書は映画脚本がベースになっていますが、小説にも応用できる内容となっていますので、ぜひ読んでいただければと思います。
要点その①:本当に大事なことは読者・観客に感情的な体験を提供するということ、
つまり「物語は感情」である。
さきほど触れた、「他の脚本指南書のどこにも書いてない重要な情報」とは何なのでしょうか。本書イントロダクションに次のように書かれています。
脚本の基礎を学ぶ時間はそろそろ終わりにしよう。今から脚本執筆術で本当に大事なことに焦点を当てよう。本当に大事なこと、それは脚本を読む人に感情的な体験を提供するということなのだ。読んだ人の心がいろいろと感じたから、それを良く書けた脚本と呼ぶのだ。同じ理由で3時間の長大作があっという間に終わってしまったように感じることもあれば、反対に90分の映画が90時間に感じられることもある。心理学者が映画のことを「感情マシン」と呼ぶのは、まさにそのためなのだ。感情的体験がすべて。その体験を求めて、私たちは映画を観に行く。テレビを観るのも、ゲームをやるのも、小説を読むのも、観劇するのも、スポーツ観戦に行くのも同じ理由だ。それなのに、この感情的反応というものは、なぜか見落とされてしまう。
――『「感情」から書く脚本術 心を奪って釘づけにする物語の書き方』
「感情」こそが、物語において最も重要であると本書は述べます。
構成がきちんと起承転結(や三幕構成)に従っているかどうか、キャラクターの作り込みができているか、そして「てにをは」が間違ってないか、などのテクニック(技巧)よりも、読者の感情を揺さぶることができるかどうかのほうが重要なのです。より正確にいうと、創作上のテクニック(技巧)は「読者の感情を揺さぶるため」に駆使されるべきだということです。
本書を貫くこの大前提こそが、他の指南書が見落としていた大事なポイントであり、本書の最大の特徴です。
脚本家を目指すなら、技巧を磨け。聞き飽きた言葉だが、では技巧を磨くというのは具体的には何をすればいいのだろう。脚本の技巧というのは、ページ上で何をどう書くと、どういう結果がついてくるか理解しているということだ。それは、言葉を操って読者の心に特定の感情やイメージを浮かび上がらせ、注意をそらすことなく、心を動かす体験を与えて満足させてやるという技術なのだ。要するに、言葉で読者の心と物語を繋げるということ。それが脚本技巧の正体だ。ロバート・マッキーが言ったように「良い物語を話術巧みに語る」、それがすべてなのだ。話術巧みに語るというのは、感情を掻き立てるということなのだ。
――『「感情」から書く脚本術 心を奪って釘づけにする物語の書き方』
アニメーション監督の新海誠さんは『君の名は。』制作時に、時系列と共に観客の感情がどのように上下するのかを示した「感情グラフ」を作り、脚本を何度も練り直しました。
参考URL:https://kai-you.net/article/40754
ここで重要なのは、登場人物の感情ではなく、観客の感情をグラフにしたという点です。
本書には次のように書かれています。
あなたが書いた登場人物が泣くかどうかは、あまり重要ではない。重要なのが脚本を読んだ人が泣くかどうかなのだ。ゴードン・リッシュ曰く、「大事なのは、読んでいるそのページで何が起きているかじゃない。読んだ人の心の中で何が起きたか。それが肝なんだ」。
――『「感情」から書く脚本術 心を奪って釘づけにする物語の書き方』
新海誠さんも愛読しているという本書の最大のウリがわかっていただけたでしょうか。
要点その②:この一冊でほぼすべてを学ぶことができる「圧倒的な網羅感」
物語を書くためには、いろいろなことを学ぶ必要があります(構成、キャラクター、テーマ、セリフ、世界観の構築、人称の違い、など)。その中でも特に「構成とキャラクター」については重要度が高く、メソッド化(テンプレ化)しやすいということもあり、多くの指南書でページが割かれています。
本書で扱っているトピックは、実に多岐にわたります。コンセプト、テーマ、キャラクター、対立・葛藤、バックストーリー、サブテクスト、構成、場面(シーン)、台詞、改稿――。
一冊の本でこれほどのトピックを丁寧に解説している本はなかなかありません(それゆえ少し分厚くなっていますが)。ただ、多くの指南書でもっともボリュームが割かれている「構成」については、
物語を語るという行為の中で、最も単純な考え方が構成という概念だ。最も単純であるが、同時に最も論議に晒され続けているものでもある。構成については、すでにありとあらゆるところで議論が展開し尽くされているので、ここで私に貢献できるものはあまり残っていない。この章が本書の中で一番短いのは、そのためだ。まだ構成について混乱しているという人のために、一応大事な基本だけおさらいしておこう。
―『「感情」から書く脚本術 心を奪って釘づけにする物語の書き方』
とあり、三幕構成について簡単に(しかし過不足なく)触れる程度の解説となっています。三幕構成について詳しく知りたいという方は、シド・フィールド著『映画を書くためにあなたがしなくてはならないこと シド・フィールドの脚本術』をあわせて読むことをオススメします。
この構成についてのごく簡潔な解説も「物語をどう構成すると、脚本を読む人の心を最も強く掴むのかという観点」でなされており、本書の大前提である「読者の感情をいかに揺さぶるか」という点からまったくブレることはありません。
コンセプトとテーマはどのように違うのか、構成よりもより小さな単位である場面(シーン)の役割とは何か、使ってはいけない台詞とはどのようなものか、など他の指南書では教えてくれない重要なトピックについても丁寧な解説がなされています。
なぜ場面(シーン)が大事なのかというと、
場面、つまり1つのシーンというのは、物語を語る基本単位だ。そして、脚本を読む人が受ける感情的なインパクトのほとんどは、場面単位で発生するという意味において、脚本の中で最も重要な要素でもある。誰でも、好きな映画は場面単位で覚えている。と言うより、力強い場面があるから、その映画は広く愛されるのだ。
―『「感情」から書く脚本術 心を奪って釘づけにする物語の書き方』
要するに読者が感情を揺さぶられるケースのほとんどが「場面単位で発生する」からです。本書で場面(シーン)を丁寧に解説するのは必然というわけです。
「読者の感情をいかに揺さぶるか」から逆算し、抽出したトピック(とその解説)になっているので、説得力は他の指南書の比ではありません。
要点その③:読者の感情を揺さぶるための「具体的なテクニック」を多数紹介
トピックの網羅性もさることながら、各トピックで紹介されている「具体的かつ使える」テクニックの数々も本書の魅力です(同時に本書が分厚い理由でもあります)。
例えば「コンセプト」を解説している箇所では、「そこそこのコンセプトを思いつくのが精一杯」という人に対して、「アイデアが訴える力を強くする12の方法」を紹介しています。
【アイデアが訴える力を強くする12の方法】
①物語のつかみを探す
②登場人物が経験する最悪の出来事
③対照的な登場人物(でこぼこコンビ)
④対照的な登場人物と環境(陸に上がった河童)
⑤アイデアをもう1つ足す
⑥常套的な要素を変えてみる
⑦ありきたりなプロットを逆転させる
⑧きっかけとなる事件を面白くする
⑨極端にしてみる ― 最悪または最低の××
⑩時間的制約を強調する
⑪舞台を強調する(舞台裏を見せる)
⑫コンセプトそのものをジレンマにしてしまう
例として「⑦ありきたりなプロットを逆転させる」のテクニックを見てみましょう。
⑦ありきたりなプロットを逆転させる
富豪の妻が誘拐され、身代金を払わなければ殺すと脅迫された富豪は、大喜びで「殺しちゃって!」と言う。これが『殺したい女』のコンセプトだ。脅迫された夫が、どうしていいかわからず警察に助けを求めるというありきたりの展開を、脚本家はひっくり返して楽しいコメディに仕立てたのだ。どんなアイデアを考えるときでも、最初に頭に浮かんだものを捨てて、正反対にしてうまくいくかどうか考えてみよう。
―『「感情」から書く脚本術 心を奪って釘づけにする物語の書き方』
本書には他にも
・テーマを語らず見せるための9つの技
・キャラクター造型に必要な5つの質問
・キャラクターの人格や個性をページ上で見せる6つの方法
・キャラクターと読者を繋げる3つの方法
・心を奪う場面を創る技
・個性的な台詞を生む技
など、具体的なテクニックが盛りだくさんです。指南書を読んで「で、結局どうすればいいの?」と思ったことはないでしょうか。本書にはそのような心配は不要です。理論だけではなく、「具体的にどうすればよいか」までを解説しているからこそ、本書は多くの読者に支持されているのです。
プロが使っているテクニックを余すところなく公開してくれる本書ですが、ひとつだけ注意しなくてはならないことがあります。
ちょっと警告
本筋に入る前に、1つ警告。もし、あなたが映画の「魔法」を信じたいのなら、今すぐこの本を書棚に戻して、読まないことをお勧めする。本書は、上級テクニックを紹介することによって、銀幕の魔法を解体してしまうのだ。紹介するテクニックは、いずれも巧く語られる物語には頻繁に使われるので、見覚えのあるものも多いだろう。しかし、この本を読んでしまったら、二度と再び、以前と同じように映画を観ることはできなくなる。そして脚本も以前と同じようには読めなくなる。手品を観て素晴らしいと感激した後で種明かしをされるようなものだ。手品の幻影は砕け散り、同じ芸を観ても二度と同じように興奮できなくなってしまうわけだ。この本には、素晴らしい脚本を書く秘訣が明かされている。だから、もし映画の「幻影」が粉砕されては困ると思ったら、ここから先は読んではいけない。
―『「感情」から書く脚本術 心を奪って釘づけにする物語の書き方』
本書のテクニックを一度知ってしまえば、もうかつてのように映画や小説を純粋に楽しめなくなるかもしれません。
ただし「この本を読むと「映画の魔法」が解けてしまう代わりに、あなた自身が魔法使いになる」(本書「訳者あとがき」)ことができるのです。ぜひ本書を読んで魔法使いになってください。
さて、今回は『「感情」から書く脚本術 心を奪って釘づけにする物語の書き方』を3つの要点で解説してきました。他の創作指南書とは異なる切り口で物語の作り方を解説した唯一無二の一冊です。ぜひご覧ください。
【目次】
INTRODUCTION 感情をお届けする商売
また脚本の書き方?
感情についての一考察
感情を売るビジネス、それがハリウッド
感情を掻き立てる技巧
脚本家としての2つの仕事
話術巧みに語るための3つの感情
キャラクターの感情対読者の感情
この本のゴール
ちょっと警告
CHAPTER 1 読者:唯一のお客さん
読者は最初の観客
下読みは門番だ
下読みは知性的、しかも情報通
下読みはブラックな労働で疲幣している
でも下読みは脚本家の味方
下読みの仕事
お断りするのにも、理由がある
下読みは、脚本に何を求めているか
CHAPTER 2 コンセプト:その物語にしかない魅力
基本:コンセプトについて知っておくべきこと
アイデアこそがハリウッドの王様
コンセプトは売れる
コンセプトの技巧:
アイデアにエネルギーを注入する手段
あるコンセプトに対する理想的な反応
アイデアに訴えさせる
アイデアが訴える力を強くする1
2の方法
タイトルを魅力的にする
人気のあるジャンルを選ぶ
実例:コンセプト創りの脚本術
CHAPTER 3 テーマ:普遍的な意味
基本:テーマについて知っておくべきこと
テーマの技巧:テーマを仄めかせる
テーマを語らず見せるための9つの技
実例:テーマ創りの脚本術
CHAPTER 4 キャラクター:共感を掴む
基本:キャラクターについて知っておくべきこと
キャラクター造型に必要な5つの質問
キャラクターの技巧:キャラクターとの絆
キャラクターとその変化を見せる
キャラクターの人格や個性を
ページ上で見せる6つの方法
キャラクターとの絆
CHAPTER 5 物語:高まる緊張感
基礎:物語について知っておくべきこと
物語対プロット
プロットの技巧:読む人の心を
最後まで釘づけにする
面白いと思わせることが、すべて
興味/魅力/洞察/畏敬
好奇心でそそる、驚かせる
期待/希望/心配/恐れ
サスペンス/意図/不安/心配/疑念
驚き/狼狽/笑い
スリル/喜び/笑い/悲しみ/勝利
共感/情/賞賛/軽蔑
メロドラマと感傷
実例:物語創りの脚本術
即座に読者の心と共感を掴む技
実例:キャラクター造型の脚本術
CHAPTER 6 構成:のめりこませるための設計
基本:構成について知っておくべきこと
構成の技巧:それぞれの幕が持つ感情的要素
第一幕 関心を掴む
第二幕 緊迫感と期待感
第三幕 満足
実例:構成の脚本術
CHAPTER 7 場面:心を奪って釘づけにする
基本:場面について知っておくべきこと
それぞれの場面は、小さな物語である
劇的な場面に必要な要素
場面とキャラクター
技巧:最高の場面を書くために
心を奪う場面を創る技
実例:場面設計の脚本術
CHAPTER 8 ト書き:スタイリッシュに心を掴む
基本:ト書きについて知っておくべきこと
素人がよく犯す間違い
脚本執筆、技巧の基礎
技巧編:動くト書き
読者の関心を操る
動きを与える
読者を釘づけにする
キャラクターの描写
場所の描写
おまけ。プロが教えるコツ
実例:ト書き描写の脚本術
CHAPTER 9 台詞:鮮烈な声
基本:台詞について知っておくべきこと
最高の台詞の特徴
やってはいけない台詞の失敗
技巧:鮮やかな台詞を書くために
感情的インパクトを与える技
個性的な台詞を生む技
さり気ない説明の技
サブテクストの技
鼻につく台詞でも構わないとき
何度でも書き直す
台詞を試す
台詞の達人から学ぶ
CHAPTER 10 最後に:ページに描く
改稿のコツ
脚本を読んで盗む
脚本家はページに描く
訳者あとがき
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