キャラクターアークに必要な6つのパーツ

 今回から「キャラクターアーク篇」の本題である「物語の構成とキャラクターアークの関係」について解説していきたいと思います。


 以下の解説では、「物語の構成」=「三幕構成」であるという前提で話を進めていきます。「三幕構成ってなんだっけ?」という方は、この連載の「物語の構成篇」の以下の回をご確認ください。


◆なぜ「三幕構成」なのか?

https://kakuyomu.jp/works/1177354055193794270/episodes/16816452219432122499

◆シド・フィールドの「三幕構成」その①

https://kakuyomu.jp/works/1177354055193794270/episodes/16816452219633278150

◆シド・フィールドの「三幕構成」その②

https://kakuyomu.jp/works/1177354055193794270/episodes/16816452219769197117

◆シド・フィールドの「三幕構成」その③

https://kakuyomu.jp/works/1177354055193794270/episodes/16816452219905687799


 三幕構成とは、「発端(=第一幕)」、「中盤(=第二幕)」、「結末(=第三幕)」で構成される「物語ストーリー構造のパラダイム(見取り図)」のことを意味します。ごく簡単にいってしまえば、物語には、「はじまり」「真ん中」「終わり」があるということです。

 ハリウッドの三幕構成の画期的な点は、各幕が物語全体でどの程度の割合を占めるのかを示しただけでなく、それぞれの幕にはどのような役割があるのか(言い換えれば各幕でどのようなことを描けばよいのか)を「物語ストーリー構造のパラダイム(見取り図)」として図式化し、ひとつの有力なメソッドとして確立したところにあります。


 ちなみに物語全体における各幕の割合と役割は以下のとおりです。


第一幕 全体の25% 役割:「設定」

第二幕 全体の50% 役割:「葛藤・対立」

第三幕 全体の25% 役割:「解決」


 物語創作の世界で最も有名な図といってもよい三幕構成の基本図は以下のとおりです。改めて確認しておいてください。



 さて、今回は三幕構成のうち、


・第一幕

・プロットポイント①


 において、キャラクターアークをどのように描くのか、について解説していきたいと思います。図で示すと下記の部分になります。


 参考図書は前回に引き続き『キャラクターからつくる物語創作再入門 「キャラクターアーク」で読者の心をつかむ』です。



 どんな物語でも私は第一幕が大好きです。変だと思う人もいるでしょう。なぜなら、第一幕ではストーリーがあまり進展しないように感じますし、実際、進展はスローです。そもそも、第一幕は単に設定でしかないですからね。

 でも、「単に」「でしかない」という言葉には要注意です。

「単に」設定「でしかない」というのは大間違い。設定は大事です。第一幕ではプロットを設定します。

 さらに大切なのは、キャラクターアークの設定もする、ということです。

――『キャラクターからつくる物語創作再入門 「キャラクターアーク」で読者の心をつかむ』


 さて、物語全体の中で「設定」としての役割を担う第一幕で行うべきことは、まさに「キャラクターアークを設定すること」そのものです。

 

 本書によれば、第一幕で描くべきキャラクターアークの設定には全部で6つあります。


【第一幕でキャラクターアークに必要な6つのパーツ】

①「噓」を明確に打ち出す

②「噓」を克服する力があることを示す

③最初の一歩を教える

④インサイティング・イベントを拒否させる

⑤「噓」への態度を進展させる

⑥決断させる


 キャラクターアークにおける「嘘」とは何か、という点について簡単に振り返っておきましょう。詳しくは「キャラクターアーク篇」の過去回で解説していますので、そちらを参照してください。

 アークは「人物が信じ込んでいる噓」をめぐって展開します。今の生活がどうであれ、どんな人物も自分に「噓」をついています。

 。人物にどこか不完全なところがあるのは、生まれた境遇や住む環境のせいではありません。強制収容所にいるから心を病むとは限りませんし、豪邸に住んでいるから幸せとも限りません。逆に、裕福な暮らしの人物が、希望もなくみじめな思いをしているかもしれません。

 人物の不完全さとは「内面」の未熟さを指します。自分や世界に対して間違った思い込みがある状態です。次節で詳しく説明しますが、この未熟さが人物を悩ませる障害となってプロットが展開します。

 最初は心のよりどころにしていたものが、ストーリーが進むにつれて決定的な弱点に変わっていく、という流れです。

――『キャラクターからつくる物語創作再入門 「キャラクターアーク」で読者の心をつかむ』



 では、順に解説しましょう。


①「噓」を明確に打ち出す


 人物が信じ込んでいる「噓」を、第一章からしっかり表現します。第一幕の終わりまで「噓」を描き続けます。「噓」に複数の側面があれば、一つずつ紹介します。人物の問題点をちらりと見せて読者の関心をつかみ、第一幕の残りの部分で補足していけばOKです。


例:『マイティ・ソー』で父親は「お前は王になるために生まれた」とソーに言い、「噓」を真実だと思い込ませる。



②「噓」を克服する力があることを示す


 物語が始まったらすぐに、人物に変わる可能性が少しでもあることを示します。


例:『トイ・ストーリー』のウッディはバズに警戒心を抱く一方、仲間に対して面倒見がよく、いずれバズとも仲良くなれそうな資質を見せている。



③最初の一歩を教える


 主人公が変わるためには、その方法を知っておく必要があります。「噓」とはいったい何なのか、第一幕で主人公にヒントを出しておきましょう。また、気づくべき「真実」にも言及し、来たるべき変化への伏線を張っておきます。


例:『おつむて・ん・て・ん・クリニック』でボブはレオの家族写真に強い反応を見せる。彼の回復(愛情と家族)への伏線になっている。



④インサイティング・イベントを拒否させる


 まずインサイティング・イベント(別名:インサイティング・インシデント)についておさらいしておきましょう。「導入の事件」とも訳され、インサイティング・イベントがきっかけで物語は「本腰を入れて動き出す」ことになります。


例:家族が殺される、大事なテストでカンニングがばれる、20年後の未来にタイムトラベルしてしまう、など


 インサイティング・イベントでは、人物を取り巻く世界が後戻りできないほど変わります。ドミノで言うなら最初のピースを倒す瞬間に当たります。そこからプロットがパタパタと進み、ノンストップの連鎖反応で人物をクライマックスまで運びます。物語で人物がどう存在するか、その鍵を握るのがインサイティング・イベントです。人物の過去を作る時、この鍵の部分から逆算していくといいアイデアが浮かびます。

――『アウトラインから書く小説再入門 なぜ、自由に書いたら行き詰まるのか?』


 物語の展開のきっかけとなるインサイティング・イベントには、主人公にとって「いやだ」とそっぽを向きたくなる出来事が適しています。主人公は「噓」に浸っている方が好きです。出来事にちゃんと向き合えば世界を変えていけますが、主人公はそれを。前々回「主人公は変化を嫌う」として紹介したとおりです。慣れ親しんだ世界を捨てたくありません。

 しかし、インサイティング・イベントは、本人にそのような自覚がなくても、「噓」を拭い去って新しい人生へと向かう転機なのです。その出来事のせいで主人公は変わってしまったのです。


例:『ジュラシック・パーク』のグラント博士はジョン・ハモンド氏の非常識なオファーを断る(氏のテーマパークを視察して「お墨付き」を与えるために、発掘調査を延期することはできない)。ハモンド氏の条件を聞いて前言を撤回するが、最初に見せるためらいはストーリーの感情の上がり下がりの面で重要。



⑤「噓」への態度を進展させる


 第一幕が終わる頃になっても、まだ人物は「噓」にとらわれています。ますます強く「噓」を信じるほどですが、潜在意識のレベルではせめぎ合いが起き始めています。その結果、「噓」への態度が変わり始めます。


例:『ジェーン・エア』のジェーンは第一幕の終わりでも「愛されるには仕えなくてはならない」と信じているが、自立を決心。教師としてローウッド学院に残って虐げられるより、別の町で家庭教師の職を得る方を選ぶ。



⑥決断させる


 第一幕の終わりで人物は何かを決断します。わずらわしい出来事(インサイティング・イベント)に対して何かしようとするのです。この時、人物は二つの世界を隔てる扉をくぐる決心をし、「普通の世界」を離れます。新しい世界には、これまで体験したことのない困難や課題が待ち受けているはずです。


例:『ウォルター少年と、夏の休日』の第一幕の終わりでウォルターは逃げるのを断念し、大伯父たちと暮らす決心をする。なげやりにそう決めるのではなく、彼はストーリーの中で初めて、自らすすんで農場に住む意志を見せる。


 第一幕はキャラクターアークの最初の布石。この部分の構築が作品全体を左右します。うまくできれば成功は半分以上見えたも同然。あとは続きを書いていくだけです。物語の世界に読者を引き込み、キャラクターの人生を激変させる冒険へと送り出して下さい。

――『キャラクターからつくる物語創作再入門 「キャラクターアーク」で読者の心をつかむ』

 

 第一幕に上記の6つのパーツを配置し終わったら、第一幕と第二幕の転換点となる「プロットポイント①」について考えてみましょう。第一幕が設定だとすると、「プロットポイント①」は引き返せない関所にあたります。その特徴を挙げると以下の通りです。


・プロットポイント①は全体の20~25%経過地点あたり。

・プロットポイント①で第一幕の設定は終わる。

・プロットポイント①で人物は「普通の世界」から旅立つ。

・プロットポイント①もしくはその直後で人物は後戻りできない決断をする。

・プロットポイント①はたいてい大きなシーンになる。スリラーやアクションものでは何かが勃発する。恋愛ものでは初めてのデートなど。


 ちなみに、三幕構成のメソッドを体系化した脚本家シド・フィールドは、、としています。「インサイティング・インシデント」と並ぶ重要な概念「キイ・インシデント」について以下のとおりです。


◆詳しくは「シド・フィールドの「三幕構成」その①」を参照のこと

https://kakuyomu.jp/works/1177354055193794270/episodes/16816452219633278150

 インサイティング・インシデントとキイ・インシデントの二つの事件によって、ストーリーラインの基礎が定められる。

 はっきりさせておこう。インサイティング・インシデントは、この事件が起こることで登場人物がはじめて投げ込まれ、ストーリーが動き出すのであるが、それはあくまでもきっかけの出来事にすぎない。キイ・インシデントの事件こそが本質であり、本当のストーリーが始まるのである。

 インサイティング・インシデントによってストーリーに動きが生まれ、キイ・インシデントによってストーリーが設定される。そこで行なわれるのはドラマ上の前提の設定である。キイ・インシデントがストーリーの中心部であり、アクションへの反応、思想、思い出、フラッシュバック、すべてがその事件につながるのだ。だから、ストーリーを語るスタイルが、時間軸の直線的な形であっても、フラッシュバックの形であっても、『パルプ・フィクション』のように時間軸がずれた形であっても問題はない。

――『映画を書くためにあなたがしなくてはならないこと シド・フィールドの脚本術』


 プロットポイント①の前後で人物は3つの決断をすることになります。それらはみな、キャラクターアークに影響を及ぼします。


人物の決断その1:プロットポイント①での出来事が起きる前


 プロットポイント①での出来事が起きる前、すでに人物には強く心に決めたことがあるはずですが、この決断はプロットポイント①でひっくり返されます。世界はバランスを崩し、完全に壊れます。「普通の世界」が本当に住めない状態になってよそへ行かねばならなくなるか、「普通の世界」の変化に従い、新しい人生に踏み出さざるをえなくなります。


人物の決断その2:プロットポイント①での出来事が起きている間


 プロットポイント①で最も大切なのは人物のリアクションです。傍観するだけでは物語が進展しません。ここで人物が見せる反応を起点として、続く部分のリアクションを描いていきます。プロットポイント①で人物が最初に見せるリアクションは具体的にすべきです。どういう反応を示すか、人物に決断させましょう。


人物の決断その3:プロットポイント①での出来事が起きた後


 プロットポイント①の出来事に遭遇した人物は、大きく分けて二通りの反応をします。

・この先どうなるかはわからないが前進する

・事態をどうにもできず、じたばたしながら引きずり込まれていく

 どちらの場合も、人物がほしいもの(「WANT」)に従い、目指すゴールを早くはっきりさせましょう。プロットポイント①での出来事を受けた人物は、物理的または身体的に何らかの必要性に迫られています。壊れかけた「普通の世界」の立て直しか、新しい「普通の世界」の発見が必要です。

 ここでプロット全体のゴールが完全に定まります。これ以降はずっと、ここで定めたゴールに向かい、葛藤や対立を描いていきます。


 さて、プロットポイント①について解説しました。平凡な「普通の世界」の安定感や快適さは、間違った「噓」の信念体系に支えられていました。プロットポイント①での出来事を体験した人物は、もう以前の「普通」に安心できなくなります。


 今回の解説を三幕構成の図に落とし込むとこのようになります。ぜひ参考にしてください。次回は第二幕について解説したいと思います。


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