ミッドポイントで「リアクション(反応)」から「アクション(行動)」に転じる

 今回は、三幕構成のキャラクターアークの描き方について解説していきます。参考図書は前回に引き続き『キャラクターからつくる物語創作再入門 「キャラクターアーク」で読者の心をつかむ』です。


 下記の範囲が今回解説する部分です。


具体的には


・第二幕前半

・ミッドポイント

・第二幕後半

・プロットポイント②


について解説していく予定です。第二幕をミッドポイントで区切り、前半と後半に分けて考えるのが大事なポイントです。


 ここからは「三幕構成における第二幕の役割」についての知識があったほうが、より理解しやすいと思いますので、「第二幕ってどんなのだったけ?」という方は「物語の構成篇」の「シド・フィールドの「三幕構成」その②」の回を改めてご確認ください。

 なお、シド・フィールドが「プロットポイント②」と呼んでいるポイントが『キャラクターからつくる物語創作再入門』では、「プロットポイント③」という名称になっていますが、指している意味内容は同じですので、以後では「プロットポイント②」という名称で統一します。この点ご了承ください。


https://kakuyomu.jp/works/1177354055193794270/episodes/16816452219769197117


 では順に説明していきましょう。


■第二幕前半

 第二幕前半の範囲は「プロットポイント①の直後からミッドポイントまで」となります。ここではプロットポイント①に対する人物の反応を描きます。人物はバランスを立て直そうとし、新しい世界での生き方を模索します。

 また第二幕前半には「ピンチ・ポイント(全体の37パーセント経過あたり)」を作るようにします。「ピンチ・ポイント」で主人公は「敵対者の強大な力をみせつけられる」ことになります。

 今回参考図書としている『キャラクターからつくる物語創作再入門』の著者K.M.ワイランドが使『ストラクチャーから書く小説再入門』の中で「ピンチ・ポイント」は以下のように説明されています。



 第二幕前半の終わり頃(第二幕全体のおよそ8分の3地点)、主人公は「ピンチポイント1」に遭遇します。敵対者が腕を振りかざし、強大な力を見せつけてくるところです(主人公も負けじと対抗するでしょう)。

 ミッドポイントが来る前に今一度、読者に敵の力を思い出させ、主人公に作戦変更を迫る流れを作ります。

――『ストラクチャーから書く小説再入門 個性は「型」にはめればより生きる』



 では、第二幕前半でキャラクターアークに必要な4つのパーツを紹介しましょう。


①「噓」を克服するためのツールを与える

②「噓」のせいで困難に陥るところを描く

③人物を「WANT」に近づけ「NEED」から引き離す

④「噓」のない状態をちらりと見せる


 ここでは①「噓」を克服するためのツールを与える、について解説します。残り②~④の詳細についてはぜひ本書でご確認ください。


 プロットポイント①で「普通の世界」が揺らいだ後は、人物がもろい状態になります。助けが必要な時ですから、「噓」を克服するツールとして、小さな釘の一本でも差し出してあげましょう。それはパズルのピースでもいいし、「噓」の壁を乗り越えるはしごの一段と捉えてもいいでしょう。ここで与えるツールとは、「噓」を捨てるのに役立つ情報です。他の登場人物(メンターや保護者的なキャラクター)の言葉や助言がヒントになることもよくあります。クライマックスでの対戦に備えて知力や体力を鍛えると共に、「真実」を学んで自らの「噓」を克服せねばなりません。

 この「真実」は理屈だけでなく、実際に生かせるものであるべきです。たとえば、人物が「単独で行動するのが最も早い」という「噓」を信じているなら、「人々の協力で物事が早く進むんだよ」というセリフを誰かに言わせるだけでなく、実際の行動も必要です。映画脚本術でよく言われる「語るな、見せろ」というモットーを心に留めておきましょう。

――『キャラクターからつくる物語創作再入門 「キャラクターアーク」で読者の心をつかむ』


 プロットポイント①で大きな転機に遭遇した主人公たちは、強く反応します。その反応が次の反応を引き起こし、第二幕前半が進んでいきます。上で紹介した4つのパーツをしっかりと盛り込んで、主人公の反応をしっかりと描いてみましょう。



■ミッドポイント

 第二幕前半で主人公は見知らぬ世界をさまよい、失敗し、何かにつけて痛い目に遭いました。ゆっくりと(おそらく無意識に)何かを学び、状況をつかむ時でもありました。少しずつ何かに気づき始めると、大きな転機がミッドポイントで訪れます。ストーリー全体での位置は、ちょうど半分あたりです。


「ミッドポイント」について

 第二幕のど真ん中で、すごいことを起こしましょう。無限に続く砂漠のような中盤を書き進め、真ん中まで到着したらバ、バ、バン! と大転換。伝説的映画監督サム・ペキンパーも、ストーリーを「吊るす」ための「中心点」を常に探していたそうです。その中心点こそ、第二の大きなプロットポイント。「ミッドポイント」と呼ばれ、第二幕の分け目になります。

 ミッドポイントの役割は、中盤をぐっと引き締めること。それまで描いてきた人物のリアクションを締めくくり、人物に行動をスタートさせて第三幕に導きます。プロットに大きな影響を与えますから、二度目の大転機と言ってもいいでしょう。ストーリーの流れが変わり、人物の反応もストーリーを変えていきます。しかし、もう人物は受け身ではありません。自らの意思で行動し、敵対勢力に対抗します。

――『ストラクチャーから書く小説再入門 個性は「型」にはめればより生きる』


 ミッドポイントは全体の流れがひっくり返る転機です。キャラクターアークの上でも、人物が大きな気づきを得る瞬間。作品の重要なターニングポイントです。リアクション(反応)からアクション(行動)に転じるところでもあります。


 ミッドポイントで描くのは「真実の瞬間」です。

 状況に対処しようと苦闘していた主人公は、ミッドポイントで態度が変わり、戦いに勝つための行動を始めます。ゴールや決意が変わったわけではありません。ミッドポイントで周囲の状況を把握し、自分の内面に対する理解が深まったのです。

 人物が「真実」に気づく時ともいえます。物語の前半で断片的に「真実」を見てきた人物は、ミッドポイントの「真実の瞬間」で、ついにそれを受け入れます。



 ミッドポイントは物語全体の中で最もエキサイティングな場の一つ。人物がついに「わかったぞ」とつぶやく瞬間です。パズルの謎が解け始め、勝利する方法がわかった人物は行動のしかたを変えます。

 これは唐突な変化ではありません。第一幕での学びに加え、第二幕で「真実」への理解が深まった結果です。

 ミッドポイントで何を描くか決めるには、まず、人物が気づくべき「真実」を決めましょう。その「真実」への気づきを示す、あっと驚くようなシーンを考えて下さい。作品の中で最も際立つ章になるでしょう。

――『キャラクターからつくる物語創作再入門 「キャラクターアーク」で読者の心をつかむ』



■第二幕後半

 ミッドポイントを過ぎたら主人公は積極的に行動し始め、プロットの運びは活発になります。人物はリアクションする(敵に状況をコントロールされている)状態を抜け出し、攻める(自分で状況をコントロールする)姿勢に転じます。ミッドポイントで「真実」を知ったおかげで、何をすべきかわかっています。


 ストーリーはすでに終わったも同然のようですね。そのとおり、主人公も「決着はついたも同然だ」と思い始めています。

 しかし、そうはいきません。

 全体を俯瞰すると、物語はまだ途中です。主人公はすべてを学んだつもりでも、それはまだ全体の半分でしかありません。「真実」の価値に気づいていても、自分の「噓」を捨てきれておらず、いまだに問題を招いています。

 第二幕の後半は人物の力強い行動で始まります。その行動はミッドポイントでの気づきがもとになっています。

 第二幕の後半での人物は自信にあふれ、事態を自分でコントロールします。

 第二幕の後半ではすべての情報を集めて出します。第三幕への準備です。

 第二幕の後半はミッドポイントで始まり、分量は全体の25パーセント程度です。全体の75パーセント経過地点あたりで第三幕に移ります。

 第二幕の後半にはピンチポイント2(62パーセント経過地点)を設けて敵の脅威を描き、最終決戦への伏線を張ります。

 第二幕の後半は主に「アクション」を描きます。主人公は「すべてが見えた」と思って前進しますが、まだ心に「噓」があるため葛藤します。言うなれば、まだ目が半分しか開いていない状態で、敵に体当たりします。

――『キャラクターからつくる物語創作再入門 「キャラクターアーク」で読者の心をつかむ』


 第二幕後半のキャラクターアークに必要な6つのパーツについて見てみましょう。


①よりよい行動をさせる

②古い「噓」と新しい「真実」とで板挟みにする

③「噓」がもたらす結果から逃避させる

④「ビフォー・アンド・アフター」で対比する

⑤見せかけの勝利をさせる

⑥キャラクターアークの核心をはっきり見せる


 今回はこのうち、④「ビフォー・アンド・アフター」で対比する、を解説します。かなり実用的で効果的なテクニックだと思いますので、ぜひ導入してみてください。

 ストーリーの前半と後半を、鏡に映すようにして比べましょう。後半で、前半部分を彷彿とさせる状況を描きます。唯一の違いはイメージが逆になっていることです。

 いわゆる「ビフォー・アンド・アフター」です。前半と似たシーンを後半でも描けば、人物の変化がドラマチックに表現できます。前半でホームレスの男にファストフードのごみを投げつける場面があれば、後半では自分用に買ったビッグマックをホームレスに与える場面などを描く、というように。第二幕の後半では、人物がまるで別人のように変化したことを示しましょう。「変わった」と言葉で説明するだけでなく、具体的にどう変化したかを描写すること。

――『キャラクターからつくる物語創作再入門 「キャラクターアーク」で読者の心をつかむ』



 第二幕後半の主人公は「真実」の価値もわかりかけています。それは「WANT」よりも尊いことを、おそらく無意識に感じ始めています。第二幕の終わりでふと昔の価値観に戻っても、「真実」を捨てる気にはなれません。もう人物は変わったのです。それを実証するのはプロットポイント②が到来した時です。

 また、第二幕後半が半分過ぎたあたり(全体の約8分の5地点)で第二のピンチポイントが訪れます。ピンチポイント①と同様、敵対者の力が直接的に、あるいは何らかの方法で表れ、主人公に脅威を与えます。



■プロットポイント②

 プロットポイント②で描くのは「『WANT』と『NEED』の究極の選択」です。


 第一幕と第二幕を経た人物は「WANT」と「NEED」、そして「噓」と「真実」の選択に迫られます。第二幕の後半では両方維持したいと思いましたが、それはやはり無理だと判明します。

 ストーリーの重みがこの瞬間にかかるなら、それは魂が引き裂かれるような難しい選択になるはずです。どちらを選んでも、大きなものを失います。「真実」を選べば夢を失います。ほしいものを選べば、残りの人生は「噓」の人生になります。

(略)

 とうとう、主人公は断腸の思いで選択します。「真実」を選び、「噓」を拒絶します。誤った価値観で生きるのはもうたくさん。ほしかったものをきっぱりあきらめて(あるいは、あきらめることを意味する選択をして)「真実」に従い、正しいことをします(最終的に「WANT」を手に入れるとしても、ここでは完全にあきらめる意志を見せることがポイントです)。

――『キャラクターからつくる物語創作再入門 「キャラクターアーク」で読者の心をつかむ』


 プロットポイント②で主人公から他の選択肢を奪い去り、正直にならざるをえない局面へ導きましょう。この後、クライマックスで主人公は灰の中から立ち上がり、本気でバトルに向かいます。



 次回は、キャラクターアーク篇のクライマックス、第三幕について解説していきたいと思います。


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