クライマックスを経て主人公の「新しい普通」を描く

 今回は、三幕構成のキャラクターアークの描き方について解説していきます。参考図書は前回に引き続き『キャラクターからつくる物語創作再入門 「キャラクターアーク」で読者の心をつかむ』です。


 下記の範囲が今回解説する部分です。


具体的には


・第三幕

・クライマックス

・解決


について解説します。


 ここからは「三幕構成における第三幕の役割」についての知識があったほうがより理解しやすいと思いますので、前回と同様「第三幕ってどんなのだったけ?」という方は「物語の構成篇」の「シド・フィールドの「三幕構成」その③」の回を改めてご確認ください。

 なお、シド・フィールドが「プロットポイント」と呼んでいるポイントが『キャラクターからつくる物語創作再入門』では、「プロットポイント」という名称になっていますが、指している意味内容は同じですので、以降では「プロットポイント②」という名称で統一しています。この点ご了承ください。


https://kakuyomu.jp/works/1177354055193794270/episodes/16816452219905687799


 では順に説明していきましょう。


■第三幕


 前回のおさらいですが、第二幕と第三幕をつなぐ「プロットポイント②」で、主人公は「『WANT』と『NEED』の究極の選択」を迫られました。

『WANT』=「噓」の代わりに、『NEED』=「真実」に従った瞬間、主人公はキャラクターアークの中で大きく前進することになります。主人公は正しいことをしました。その行動は魂の奥底から生まれたものでした。しかし、今後はその行動が招いた結果と共に生きなくてはなりません。「真実」を知って成長した反面、これまで積み上げてきたことは台無しになりました。


 プロット上では、第三幕はクライマックスの決戦前に人物がバランスを立て直すところですが、人物の内面のドラマで言えば、本当に「真実」を求めるかを自らに問うところです。どんなに犠牲を強いられても、その「真実」に従う価値はあるか。「噓」に守られた生き方に戻るなら、これが最後のチャンスです。

――『キャラクターからつくる物語創作再入門 「キャラクターアーク」で読者の心をつかむ』


 では、その第三幕目でどのようにキャラクターアークを描けばよいのでしょうか。『キャラクターからつくる物語創作再入門』によれば、第三幕には4つの道しるべがあります。1番目と4番目(プロットポイント②の直後に置くものと、クライマックスの直前に置くもの)以外は、第三幕の前半全体に散りばめ、少しずつ発展させることが大事だと書かれています。


【第三幕のキャラクターアークに必要な4つのパーツ】

①危機感を上げる

②人物をずっと不安定な状態にしておく

③人物がどこまで変化したかを示す

④新しい価値観に「新しい攻撃」をしかける


 ここでは①危機感を上げる、④新しい価値観に「新しい攻撃」をしかける、について見てみましょう。


①危機感を上げる

 プロットポイント②で「真実」を選んだ後は苦しみの後始末が待っています。それまでの努力も成果も無駄にしたように感じるからです。確かに「真実」の行動は気高かったし、自分を圧迫する「噓」からも自由になれました。でも、今となっては慰めにはなりません。

 プロットポイント②での出来事はナイフのように、人物の背に突き刺さっています。さらにひねりを加えてプロットポイント②の余波を描きましょう。「真実」がもたらす混乱に対する人物の反応を描くのです。

 さらに苦しい状況に陥れてもいいでしょう。ステーク(危険度、危機感)を上げましょう。人物の心がずたずたになっているのなら、身体や物資の面でも打ちのめされる状況を作ってはどうでしょうか。

(中略)

「真実」に従って行動したのは本当に最善だったのか、たやすく納得できない方向にもっていって下さい。

 自らの運命を呪って嘆き、また立ち上がる主人公。痛みに屈するか、戦い続けるか? 魂の真実を選ぶなら、どれほどつらくてもかまわない、と感じます。

 吹雪に負けじと顔を上げる主人公。自分の選択は正しく、また同じ状況になっても同じ行動をするだろうと思い直します。この時、彼は本当に変化を遂げたといえるでしょう。将来、また悩む時があるかもしれません。でも、ここから先は新しい生き方をします。

――『キャラクターからつくる物語創作再入門 「キャラクターアーク」で読者の心をつかむ』


④新しい価値観に「新しい攻撃」をしかける

 クライマックスの前に、人物の「真実」を攻撃しておきましょう(クライマックスは第三幕のだいたい半分あたり。次の節で詳しく説明します)。この攻撃はメインの敵対者以外のキャラクターにさせるのがいいでしょう(メインの敵対者はクライマックスでの大きな攻撃のために、とっておきます)。敵対関係にある脇役や、主人公に対して疑いや不安を感じる仲間たちが適役です。主人公が自分に対する不信感をあらわにする描き方もあります。

 そうした人物などを使い、主人公の心の「真実」の信じきれていない部分を攻撃しましょう。かつての主人公にとっては「噓」の方が説得力も魅力もあったため、たやすく後戻りする可能性も残っています。「考えるのは、もうやめよう」と、戦いを放棄することさえあるでしょう。「いや、新しい生き方をしなければ」と思い直しても、「噓」の甘い誘惑は消えません。攻撃の説得力と、主人公が「噓」に逆戻りする可能性が高いほどテンションも高まります。

――『キャラクターからつくる物語創作再入門 「キャラクターアーク」で読者の心をつかむ』


 第三幕はストーリーを収束させる部分です。キャラクターアークの面では、どれだけ「真実」を信じるかが試されます。「噓」の誘惑を振り払った主人公はクライマックスへ。成長したがゆえの痛み、苦しみを越えて歩み出します。



■クライマックス


 さて、いよいよ物語も終盤です。キャラクターアークにおいて、クライマックスはとても重要です。なぜなら、クライマックスこそが人物の変化を証明する場だからです。

 ストーリーが始まって以来、読者は主人公が変化する様子を見守ってきました。その様子はこんな感じです。


第一幕:「普通の世界」から追い出されてショックを受ける

第二幕前半:うろたえながら、必死に体勢を立て直す

ミッドポイント:気づきを得て、心は「噓」から遠ざかり、「真実」に近づく

プロットポイント②:「真実」に従って行動し、その報いを受ける


 第三幕の中盤に向かってテンションは高まり、主人公と敵対者は対決することになります。主人公は「真実」を信じて力を発揮せねばなりません。主人公は決着をつけるため、クライマックスで立ち向かわなくてはなりません。

 物語の中心となる葛藤はクライマックスで解決に向かいます(改めて下図で確認)。


 クライマックスは全体の90%経過地点あたりで始まり、最後の1、2シーンの前で終わります。ちなみに葛藤の複雑さや敵対者の数に応じて、クライマックスを2つに分ける時もあります(一番目は「fauxclimax =見せかけのクライマックス」と呼ばれます)。


 先に解説したように第三幕では、新しい価値観=「真実」に攻撃が加えられ、ややもすると主人公はこれまでの価値観=「嘘」に引き戻されそうになります。しかし、いよいよクライマックスで主人公は「嘘」を明確に拒絶することになります。


 主人公が「嘘」を拒絶する描写のタイミングとして「クライマックスの」と「クライマックスの」の2パターンがあります。


①クライマックスで「噓」を拒絶する

 新しい攻撃、「噓」との決別、「真実」の受け入れをクライマックスで起こせば、人物の内外の葛藤が調和のとれた形で描けて、危機感やテンションも上がります。人物がアークを達成できないと負けですから、読者は固唾をのんで見守るでしょう。

 ただし、クライマックスでは物語の展開が活発になりますから、敵対者との戦いを描きながらキャラクターアークを論理的にまとめる余裕がない時もあります。剣と剣での死闘を描くのに精一杯、ということもあるでしょう。

――『キャラクターからつくる物語創作再入門 「キャラクターアーク」で読者の心をつかむ』


②クライマックスの前に「噓」を拒絶する

 人物が心の「噓」に打ち勝つ場面をクライマックスの前に設けたい時もあります。人物は「噓」を振り切り「真実」へ。自分の軸が定まり、敵に立ち向かう強さが出ます。変化するのです。ついに、そして完全に、人物は新しい「真実」を胸に立ち上がり、クライマックスが始まります。ここまで来れば、もう吹っ切れているでしょう。新しい「真実」がどんな結果を呼ぶかはわかりませんが(例:敵対者を破るか、真実を選んだために命を落とすか)、人物の心は定まっています。

――『キャラクターからつくる物語創作再入門 「キャラクターアーク」で読者の心をつかむ』



「クライマックスの瞬間(The Climactic Moment)」はクライマックスの中でもいちだんと盛り上がるところで、ストーリー全体を貫く葛藤や戦いが解決する瞬間を指します。物物語の初めから読者がずっと待ち望んできたシーンを描きましょう(または、作りましょう)。


例:悪者の死、プロポーズ、就職など


 主人公が敵対勢力を完全に打ち負かした時、「葛藤」が終わり「解決」に向かいます。です。その結果、主人公はほしかったもの(「WANT」)を手に入れるとは限りません。手に入れるものは、必要なもの(「NEED」)です。ここまで複数回にわたって解説してきた基本的なキャラクターアーク(=ポジティブなキャラクターアーク)の物語は、「NEED」を見出す物語です。


 物語が始まった頃は、人物が「NEED」を得るために「噓」を克服できるかどうかが問題でした。ポジティブなアークでは「克服できた」という答えがクライマックスで出されます。また、「真実」がもたらす変化が目に見える形で表れます。人物はアークを遂げました。読者はこの先、人物がどんな困難に遭ってもうまくやっていくだろうと確信します。



■解決

 キャラクターアークの「解決」はバナナパフェのてっぺんを飾るサクランボのようなもの。ストーリーの中ではちょっと異質に見えるかもしれません。なぜなら、アークはもう完成しましたからね。人物はクライマックスで「真実」に身を捧げ、「噓」をきっぱり拒否しました。もう心配なさそうです。

 では、なぜ「解決」が要るのでしょうか。

「解決」とはエンディングを飾る大切なシーンで、オープニングのシーンとセットになります。オープニングでは「噓」を信じる「普通の世界」の主人公を描き、「解決」では人物が苦闘の末に得た「真実」が築く、新しい「普通の世界」を描きます。

――『キャラクターからつくる物語創作再入門 「キャラクターアーク」で読者の心をつかむ』


 解決には2つの役割があります。


①オープニングで提起した問いに答えること

②人物の新しい、「噓」のない生き方をちらりと紹介すること


解決シーンの事例


映画『マイティ・ソー』…ソーは傲慢だったことを反省し、父に謝罪する。「学ぶことがたくさんあった。今はそれがわかる」という言葉がテーマの問いに対する答え。


映画『ジュラシック・パーク』…島を出て安全な場所へと向かうヘリコプター。子供嫌いだったグラント博士は、眠る子供たちをやさしく抱いている。



 さて、ここまで6回にわたってキャラクターアークについて解説してきました。キャラクターアークという概念自体がまだまだメジャーではないので、難しく感じたという方もいるかもしれません。

『キャラクターからつくる物語創作再入門』に、「ポジティブなアークの構築はストーリーの構成よりも複雑です」とあるように、キャラクターアークを巧みに描くのはかなり高度な技術が求められます。しかし、読者に深い共感や感動をおぼえてもらうためにはキャラクターアークをしっかりと描くことが重要なのもまた事実です。

『キャラクターからつくる物語創作再入門』には、本連載よりも詳細な情報やテクニックが収録されていますので、ぜひ本書で詳しく学んでいただければと思います。


「キャラクターアーク編」は次回でラストの予定です。


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