「フラットなアーク」と「ネガティブなアーク」
さて今回で「キャラクターアーク篇」も終了となります。参考図書は引き続き『キャラクターからつくる物語創作再入門 「キャラクターアーク」で読者の心をつかむ』です。
「キャラクターアーク篇」の最初の回でキャラクターアークには3種類あることを確認しました。お忘れの方は下の記事をご確認ください。
「キャラクターアーク」とはなにか
https://kakuyomu.jp/works/1177354055193794270/episodes/16816700427341651891
前回までは最もスタンダードなキャラクターアークである「ポジティブな変化のアーク」について見てきました。今回は、残りの2つのアークについて見ていきたいと思います。
実は、3つの中で最も複雑なのは「ポジティブな変化のアーク」です。みなさんはすでに「ポジティブな変化のアーク」に関する知識を得ているはずなので、「フラットなアーク」「ネガティブな変化のアーク」についても理解が早いはずです(なので今回はごく簡単な解説にとどめます)。
では、順に解説していきましょう。
■フラットなアーク
フラットなアークはポジティブなアークに次いで多く、「テスティング・アーク」とも呼ばれます。フラットなアークの人物は変化しません。最初から「真実」を知っており、その「真実」を使ってさまざまな試練に立ち向かいます。
――『キャラクターからつくる物語創作再入門 「キャラクターアーク」で読者の心をつかむ』
さて、物語で必ず主人公は変化する、と本連載で繰り返し言及してきました。なのに、「人物が変化しない」というのはどういうことなのでしょうか。そもそも「フラット=平坦な」アークの物語を、なぜ読者は楽しむのでしょうか。
実は、これもやはり変化の物語なのです。人物が変わるアークでは、世界によって主人公が変わるのですが、フラットなアークでは主人公が世界を変えます。
フラットなアークが三幕構成の中でどのように描かれるのか、順にみていきましょう。「ポジティブな変化のアーク」との違いを意識しながら読んでみてください。
【第一幕】
・フック(つかみ)
主人公が信じる「真実」は、「普通の世界」では拒絶されている。
第1幕で「噓」をしっかりと提示すること。
・インサイティング・イベント (全体の12%経過地点)
主人公は物語の展開のきっかけとなる「冒険への誘い」に当たる出来事に出会う。
・プロットポイント① (全体の25%経過地点)
敵対勢力が主人公に「噓」を押しつけようとし、主人公は選択に迫られる。
主人公は「真実」の放棄を拒み、「後戻りできない扉」をくぐる。
【第二幕】
・ピンチポイント① (全体の37%経過地点)
主人公は敵対勢力の「噓」に対して「真実」で対抗。
本当に「噓」を打倒できる確信がなく、自らの「真実」の正当性についても自問。
・ミッドポイント (全体の50%経過地点)
主人公は「真実」に従い続け、周囲に「真実の瞬間」をもたらす。
ここで「真実」の全貌や純粋さを初めて披露。
少なくとも、一人の主要な脇役が影響を受ける。
・ピンチポイント② (全体の62%経過地点)
「噓」を信じる他のキャラクターたちが「噓」を強化し、主人公と「真実」に激しく反撃。
・プロットポイント② (全体の75%経過地点)
主人公は敵対勢力の「噓」をもとにした作戦に大打撃を受ける。
「噓」を払拭できない脇役たちに囲まれ、主人公は「どん底」へ。
圧倒的に厳しい情勢の中、主人公は再び「真実」を胸に抱く。
【第三幕】
・クライマックス (全体の88%経過地点)
主人公はWANTを勝ち取るべく、敵対勢力と最終決戦。
「真実」をはっきりと受け入れ、行動で示す。
・クライマックスの瞬間 (全体の98%経過地点)
主人公は「真実」に従って行動し、敵対勢力を打倒。
自らが望むWANTと、真に必要としていたNEEDを獲得する。
・解決 (全体の100%経過地点)
自らの行動が功を奏し、主人公は「真実」があふれる新しい「普通の世界」に入る。
図にまとめるとこうなります。
主人公の「嘘」が「真実」へと変わっていく「ポジティブな変化のアーク」と違って、「フラットなアーク」では主人公は最初から真実を知っていて、脇役や世界に影響を与えて(変えて)いくというのが大きな特徴です。
また、フラットなアークはシリーズ物に最適なアークだということも押さえておきましょう
シリーズものでは一作目をポジティブなアークにして、二作目以降をフラットなアークで続ける手法がよく取られます。マーベルの映画『マイティ・ソー』シリーズがよい例です。第一作目でソーは「噓」を払拭し、続編では新しい「真実」を使って周囲の世界を変えていきます。(中略)
フラットな「アーク」は誤解されたり、見過ごされたりしがちです。主人公が変化しないため、書きながら「何かが足りない」と感じる人もいるでしょう。しかし、フラットなアークがダイナミックな傑作を生んだ例もたくさんあります。世界を変えるヒーローにも長所や短所があり、他の主人公たちと変わりません。ただ、揺るぎない「真実」を知るからこそ、周囲を変えていけるのです。作り方次第で記憶に残るパワフルな物語になります。
――『キャラクターからつくる物語創作再入門 「キャラクターアーク」で読者の心をつかむ』
■ネガティブな変化のアーク
ネガティブなアークを好んで書く作家など、いるのでしょうか。
シェイクスピアやドストエフスキー、フォークナーやフローベールはどうでしょう。
なんとなく思い浮かべていただける作家たちがいるのでは、と思います。
ハッピーエンドは万人に好まれますが、そうでない物語もたくさんあります。ネガティブなアークには心温まる感覚がありません。映画化してもデートで見たい作品にはなりにくいですが、底知れないパワーと感動を呼ぶ物語にもなりえます―もし、そこに真実が描かれているのであれば。
ハッピーかどうかに関わらず、真実は人の心を打ちます。私たちが目をそらしていたい真実こそ、私たちに必要なものなのです。そのような真実を描くために、ネガティブなアークが役立ちます。主人公が最初よりも悪い状態に落ちて終わるアークで、他の人物たちを道連れにすることもよくあります。
――『キャラクターからつくる物語創作再入門 「キャラクターアーク」で読者の心をつかむ』
「ポジティブ」「フラット」と違って、この「ネガティブな変化のアーク」には3種類あります。
・失望のアーク
「噓」を信じる → 噓を克服する → 悲劇的な「真実」を知る
・転落のアーク
「噓」を信じる → 「噓」に執着する → 新しい「真実」を拒絶する → ますます「噓」を信じ込む/さらにひどい「噓」を信じる
・腐敗のアーク
「真実」を知る → 「真実」を拒絶する → 「噓」を受け入れる
すべてを解説すると長くなるので、ここでは「失望のアーク」が三幕構成でどのように描かれるのかを見てみましょう。残りの2つについてはぜひ『キャラクターからつくる物語創作再入門』で確認してください。
【第一幕】
・フック(つかみ)
心地よい「普通の世界」で「噓」に従う。
主人公は現在の「普通の世界」では常識とされているような「噓」を信じている。
・インサイティング・イベント (全体の12%経過地点)
「嘘」がまやかしであることの最初のきっかけが生じる。
・プロットポイント① (全体の25%経過地点)
「冒険の世界」の厳しい真実を目の当たりにする。
「噓」だらけの「古いやり方」は役に立たず、主人公は選択を迫られる。
【第二幕】
・ピンチポイント① (全体の37%経過地点)
主人公は「噓」に従ったために「罰」を受ける。
「冒険の世界」では主人公の「嘘」は通用しない。
・ミッドポイント (全体の50%経過地点)
主人公は「真実の瞬間」に遭遇し、テーマが示す「真実」と向き合う。
もはや「真実」を否定できないが、それを完全に受け入れる気になれず、かといって古い「噓」を手放す気にもなれない。
・ピンチポイント② (全体の62%経過地点)
主人公は「噓」が通用しない局面に次々と遭遇。
・プロットポイント② (全体の75%経過地点)
「どん底」を体験した主人公は、慰めの「噓」など存在しないことを受け入れる。
【第三幕】
・クライマックス (全体の88%経過地点)
主人公は自分のWANTをめぐって敵対勢力と対決。
戦いの最中で、新しいダークな「真実」を意識的に受け入れ、行使する。
・クライマックスの瞬間 (全体の98%経過地点)
主人公はNEEDを得るために、「真実」に従う。
・解決 (全体の100%経過地点)
主人公は新しい「普通の世界」に入るか、自分が知り得た「真実」にうんざりしながら元の「普通の世界」に戻る。
さて、以上「フラットなアーク」と「ネガティブな変化のアーク」について見てきました。現在書きかけの作品があるのであれば、自分が書いている作品の主人公が一体どのアークに該当するのか、一度考えてみてください。何も変化しない物語というのは存在しません。主人公が変わるのか(ポジティブであれネガティブであれ)、あるいは主人公が世界を変えるのか、ぜひそのあたりを意識して作品を書いてみてください。
次回からは別のトピックになる予定です。
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