対立・葛藤篇
何を書いたらよいかわからない人へ。つまり、物語とは「対立・葛藤」である。
この連載でもたびたび登場してきた「対立・葛藤」について整理しておきましょう。「対立・葛藤」は物語にとって欠かせない要素です。物語が物語と呼ばれるのは、この「対立・葛藤」があるからなのです。
また、「小説を書きたいけど何を書いたらよいかわからない」という人は「対立・葛藤」を起点に物語をつくるという方法をオススメします。
「対立・葛藤」篇では、なぜ「対立・葛藤」が重要なのか、を確認したうえで、「対立・葛藤」が物語の中でどのような役割を果たすのか、またこれまで解説してきた他のトピック(具体的には「主人公の欲求・目標」や「キャラクターアーク」など)とどのような関係にあるのかを整理します。
ストーリーに「型」があるように、「対立・葛藤」にもいくつかのパターン(=「型」)が存在します。次回以降、「対立・葛藤」の「型」について解説します。
「対立・葛藤」は英語では「conflict(コンフリクト)」と呼ばれおり、日本語では文脈に合わせて「対立」や「葛藤」など、訳を使い分ける場合があります。引用する書籍によって名称に多少のばらつきがある場合がありますが、その点ご了承ください。
さて、なぜ「対立・葛藤」が重要なのかについて、フィルムアート社の創作指南本からいくつか引用したいと思います。「対立・葛藤」については、ほぼ例外なくどの創作指南本でも言及されており(「対立について解説しない脚本指南書は存在せず、対立に触れない脚本セミナーもない。」)、すべてを引用すると膨大な量になってしまうので、そのうちのいくつかを紹介します。
ストーリーの中で最も大事なものを挙げるとしたら「葛藤(コンフリクト、対立)」だ。葛藤のないところにストーリーは生まれない。
何かを選ぶ時も、それを一番に考えよう。「どんな葛藤、対立が作れるか」と。
――『物理学的ストーリー創作入門 売れる物語に働く6 つの力』
ストーリーの本質を表す一語は何だろう。うまく表現するには複数の単語が要るが、最もパワフルで重要なものを一つだけ選んでみてほしい。
多くの人が「人物」を選ぶ。あるいは「プロット」だ。プロットと人物。そういうことだ。「人物はプロットで、プロットは人物」と言う人もいるが、考えるほどわからなくなってくる。だが、人物もプロットもストーリーを最もよく表す一語ではない。だから、それを聞いても書く気力が起きない。
ストーリーと、ストーリーでないものとを区別する言葉でもない。
もっといい単語がある
それは「コンフリクト(葛藤、対立)」だ。夢に向かって進む主人公に反対する力である。これがなければストーリーはただの日記のようになる。
――『工学的ストーリー創作入門 売れる物語を書くために必要な6つの要素』
上に引用した創作指南本の著者、ラリー・ブルックスは「ストーリーの中で最も大事なもの」「ストーリーの本質を表す一語」として、「対立・葛藤」を挙げています。ここから次のような公式を導き出すことができます。
物語とは「対立・葛藤」のことである
これだけではまだ信じられないという方のために別の本からも引用しましょう。
物語とは何なのか。大抵の脚本指南書には、物語の定義が書いてある。掘り下げの深さにもよるが、どれも大体役に立つ。[……]
余計なものを取り払うと、物語というものの本質はこういうことになる。「簡単には手に入らない何かを求めるキャラクターがいる」。[……]
対立や困難な障害を乗り越えようと必死であがく、それがドラマという言葉の元々の意味なのだ。誰かが何らかの困難に対処しようとする。すべての物語はその話を語っているのだ。だからどんな物語でも、焦点は必ず対立に置かれる。
そのような理由で、すべての物語は、対立、あがき、解決という3つの要素から成っていると言える。ある人に何かが起こる。結果として問題(対立)が発生するので、何らかの行動を起こして問題を解決しようと必死に奮闘(あがき)する羽目になる。最後にはうまくいくか、失敗して終わる(解決)。どこかで聞いたような展開だと思うかもしれない。なぜならほとんどの物語は、序(お膳立て→対立)、中(拗れる→あがき)、終わり(解決)という、古典的な構成で語られるからだ。構成については次の章で詳しく見ていくが、ここではまず物語の正体をしっかり理解しよう。
――『「感情」から書く脚本術 心を奪って釘づけにする物語の書き方』
物語の中で、主人公は「何かを求め」旅に出ます。しかし、なかなか「簡単には手に入」りません。主人公があっという間に欲しいものを手に入れてしまっては、読者は肩透かしを食らってしまいます。求めるものが「簡単には手に入らない」のは、主人公の目の前に(あるいは自分自身の中に)「対立・葛藤」があるからです。その「対立・葛藤」を乗り越えようとする主人公の姿に読者は夢中になるのです。
読者を夢中にさせるもの、それが「対立・葛藤」なのです。
大抵の脚本指南書やセミナーは、物語が持つ対立によってドラマを盛り上げることを強調しているが、それにはちゃんとした理由がある。対立がなくては、ドラマは存在しない。ドラマがなければ、読者は脚本に興味を示さない。物語そのものに、そしてキャラクターに対する興味を持続させるために、対立はなくてはならないのだ。対立についてはありとあらゆる解説がし尽くされているので、ここで同じ話をする気はないが、1点、読者の興味に大きく関係することだけ触れておく。もう理解しているというあなたは、基礎のおさらいとして読み飛ばして欲しい。
理解していないあなたは、よく読んで理解するように。なぜなら対立というものは、物語の本質だからだ。物語を前に進める燃料であり、読者の関心が脚本から離れないようにする糊なのだ。
――『「感情」から書く脚本術 心を奪って釘づけにする物語の書き方』
まとめると、次のようになります。
物語とは「対立・葛藤」のことである。「対立・葛藤」があれば、物語は前進し、読者の関心を惹きつけることができる(=「対立・葛藤」の役割)。
なぜ「対立・葛藤」は読者の関心を惹きつけるのでしょうか。
なぜ葛藤が劇作家にとってそのような大きな効果をもつのかを理解するのは比較的たやすい。もしあるキャラクターが何かを望んでおり、そのキャラクターがそれを手に入れることへの疑いがあれば――これは重大だ――、観客は共感を覚え、あるいはそのシーンにおけるキャラクターに自分を重ねさえする。それゆえ観客は実際に結果を「心配」し、観客はキャラクターがゴールに到達する期待とそれが叶わない不安とに宙吊りになりうる。[……]
葛藤が観客の注意を喚起するもう一つの理由は、実人生においてはそれが比較的まれであることだ。散歩をし、食事をし、といった生活の正常なプロセスは、めったに大きな葛藤とは関係がない。人間の注意はふつうそうした日常的な経験をフィルターにかけてしまう。私たちの注意は、正常な、日常的な刺激への「コントラスト」の方に引かれる傾向がある。それゆえ葛藤の描写は自然な注意を引くのだ
――『脚本の科学 認知と知覚のプロセスから理解する映画と脚本のしくみ』
繰り返しますが、主人公は「対立・葛藤」を乗り越えて、最終的に欲しいものを手にします。つまり「対立・葛藤」と主人公(キャラクター)には、非常に密接な関係があるということです。ひとまず、ざっくりと次のようにまとめておきます。
「対立・葛藤」は主人公(キャラクター)と深い結びつきがある
さて、上の引用の中にもありましたが、多くの人は「物語の本質は何か」と聞かれた際に「キャラクターかプロットか」のいずれかを選ぶ傾向があります。ここまでの引用で「対立・葛藤」がキャラクターと深い関係があることがわかりましたが、「対立・葛藤」とプロットの関係はどうなっているのでしょうか。
本連載の「物語の構成」篇では、三幕構成について詳しく解説してきました。そこでは、物語が「発端(=第一幕)」、「中盤(=第二幕)」、「結末(=第三幕)」の三幕で構成されることをじっくりと解説しています。下記リンクからぜひ復習してみてください。
・「物語の構成」篇:起承転結ではなく、なぜ「三幕構成」なのか?
https://kakuyomu.jp/works/1177354055193794270/episodes/16816452219432122499
三幕構成理論では第二幕で「対立・葛藤」を描くべし、とされています。
三幕構成理論を体系化したシド・フィールドは著書の中で繰り返し「葛藤」の重要性を説いています。ハリウッドの脚本の世界ではあまりにも有名なフレーズです。
繰り返すが、すべてのドラマは、葛藤、衝突である。キャラクターの目的をはっきりさせることができたなら、その達成を阻止しようとする障害物を設定することができる。キャラクターがその障害物をどのように乗り越えるのかが、ストーリーである。[……]
ドラマとは葛藤である。葛藤なしには、アクションは生まれない。アクションがなければ人物を描くこともできない。人物がいなければ、ストーリーは生まれない。ストーリーがなければ、脚本は書けないのだ。
――『映画を書くためにあなたがしなくてはならないこと シド・フィールドの脚本術』
ここまで、物語とは主人公が「対立・葛藤」を乗り越え欲しいものを手にすることであることを確認してきましたが、主人公はいったい物語全体のどの部分で「対立・葛藤」に直面し、どの部分でそれらを乗り越えるのでしょうか。
第二幕はおおよそ60ページで、第一幕の終わり20〜30ページから、第三幕が始まる直前である85〜90ページまで続く。そこには、葛藤というドラマ上の要素が組まれる。この第二幕において主人公は、脚本の中で、達成しなければならない目標の前に立ちはだかる障害と対決しなければならない。主人公の邪魔となる障害を作り出せば、それを乗り越えて達成するというストーリーになる。[……]
第二幕では、葛藤に直面させ、主人公はそれを乗り越えていく、ということが行なわれるのだ。
何が主人公をそうさせるのか?
主人公は何を欲しているのか?
“ドラマ上の欲求”はなにか?
――『映画を書くためにあなたがしなくてはならないこと シド・フィールドの脚本術』
「対立・葛藤」を描くと口でいうのは簡単ですが、どこで「対立・葛藤」を描くべきなのかという疑問が残ります。三幕構成理論はその疑問に答えを提示しています。つまり、それが三幕構成の第二幕というわけです。
「対立・葛藤」に悩んだ主人公は、必ず自分の意志で何かを選択します。欲しいものを手に入れるためには行動(アクション)を起こさなくてはならなりません。アクションを起こせばプロットは前進します。第二幕では主人公の「対立・葛藤」と、それにともなうアクションが描かれ、プロットは前へ前へと進んでいきます。
「対立・葛藤」はキャラクターだけではなくプロットにも深く関係していること、「対立・葛藤」について考えることは、キャラクターやプロットについて考えることでもある、ことが分かっていただけたでしょうか。
フィクションにおいて、対立・葛藤はるつぼのような役割を果たし、キャラクターはその中で試され、へこみ、形作られる。外面的には、対立・葛藤はキャラクターに抵抗させる道具として用いられ、プロットを前に進ませる。抗うキャラクターは自分の世界を見直すことになり、与えられた選択肢の中から1つを選び、欲しいものを手に入れるためには行動を起こさなくてはならない。一方で対立・葛藤は、キャラクターの内面に、恐怖、信念、価値観、欲望の揺れ動きを生じさせる。究極的には、これまでの自分の考え方や行動に固執するのか、それとも、それを変えて、新しい自分に生まれ変わるのかの二択を迫られる。このどちらか一方を選ばないことには、自分の欲しいものを手に入れることはできないからだ。ストーリー作りのエキスパート、マイケル・ヘイグはこれを、恐れながら生きるか、勇気を持って生きるかの選択だと呼んでいる。キャラクターは苦渋の決断を下し、おそるおそる足を一歩踏み出して、変化を受け入れることができるのだろうか、それとも、逃げるのだろうか。キャラクターの信念体系は様々な要素が絡み合って構成されていて、その各要素がせめぎ合う様子が読者を惹きつける。キャラクターが恐怖心を克服し成長しようとする姿は、現在進行形で苦難を体験している読者自身と重なり、読者の心にこだまのように力強く響くのだ。
――『対立・葛藤類語辞典 上巻』
「小説を書きたいけど何を書けばよいのかわからない」という方は一度「対立・葛藤」から物語を考えてみてはいかがでしょうか。上で説明したように「対立・葛藤」とキャラクターやプロットは不可分の関係です。つまり「対立・葛藤」を起点に、キャラクターやプロットを生み出すことができるというわけです。
キャラクターの容姿や属性、背景をどれだけ作り込んでいっても、物語は生まれません。そのキャラクターがどんな「対立・葛藤」に遭遇し、どう乗り越えるのかが物語の本質なのです。そして「対立・葛藤」の中身が決まれば、その「対立・葛藤」をプロット上の最適な場所に配置し、主人公に選択やアクションを迫ればよいのです。
とはいえ「小説における『対立・葛藤』ってどんなものなのかよく分からない」「どうやって『対立・葛藤』をつくればよいのか分からない」という方もいるでしょう。
ということで、次回以降「対立・葛藤」にはどんな種類、どんなパターンがあるのかを解説したいと思います。
「対立・葛藤」について本格的に学びたいという方には、ベストセラー「類語辞典シリーズ」の一冊『対立・葛藤類語辞典 上巻』をオススメします。
本書での前半パートでは、対立・葛藤を物語に組み込むことの重要性から、プロットやキャラクターにもたらす効果、様々なストーリーの「型」の紹介、内的・外的葛藤の役割などを、実例を交えながら丁寧に解説。後半の辞典パートでは、具体的な110のシチュエーションを例に、それぞれの対立・葛藤が生じる具体的な状況、引き起こされるネガティブな問題や困難、起こりうる悲惨な結果・特性、もたらされる感情、起こりうる内的葛藤、基本的な欲求への影響、対処に役立つポジティブな特性や結果などを、見開き1ページで紹介しています。
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