ジャンルとは「ストーリー・タイプ」のことである その②

 今回もブレイク・スナイダーが『SAVE THE CATの法則』で提唱した「10のジャンル」について解説します。参考図書は前回に引き続き『SAVE THE CATの法則』と『10のストーリー・タイプから学ぶ脚本術』です。



 まずは、ブレイク・スナイダーの「10のジャンル」全体をおさらいしておきましょう。「10のジャンル」の画期的な点は、「ホラー」や「ラブコメ」などの従来のジャンル区分ではなく、ストーリーの型(タイプ)に着目してジャンル分けをしているところです。

 この「10のジャンル」のジャンル区分を採用することで、従来の別のジャンルだと思われていた作品(『ジョーズ』=アドベンチャー/スリラー、『エイリアン』=SF)が実は同じストーリーの型(「家のなかのモンスター」)を持っていることが分かります。


【10のジャンル】

・家のなかのモンスター

・金の羊毛

・魔法のランプ

・難題に直面した平凡な奴

・人生の節目

  ↑前回解説

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  ↓今回解説

・バディとの友情

・なぜやったのか?

・バカの勝利

・組織のなかで

・スーパーヒーロー



《バディとの友情》

《バディとの友情》を作りだしたのは、映画の脚本家じゃないだろうか? 書いているうちに、主人公に反応する相手がいないとつまらないなと思ったのだ。映画以前のフィクションでは、主人公は1人で心のなかをつぶやくか、心理描写があるだけだった。でも〈もし〉主人公に話のできるバディ(相棒)がいたらどうだろう? そんなことをある日、思いついたんじゃないか?

(中略)

《バディとの友情》には秘密がある。実は《バディとの友情》といっても、バディの仮面をはがせばラブストーリーだということだ。逆に言えば、ラブストーリーとはセックスの可能性がプラスされた《バディとの友情》映画だということだ。

(中略)

 そしてこのジャンルに属する作品も、ドラマであれコメディーであれ、セックスがあるにせよないにせよ、やはり同じルールに従っている。最初〈バディ〉はお互いを嫌っているが、旅をしていくうちに相手の存在が必要で、2人そろって初めて一つの完結した存在になることがわかってくる。そうは気づいても、こいつがいなきゃダメだなんてたまったもんじゃない! ここでまた新たな葛藤が生まれるのだ。やがて結末近くになると、《すべてを失って》の瞬間(チャプター4で詳しく説明しよう)がやって来る。連れ添ってきたバディと喧嘩になり、あばよ!ってことになるのだ。ただしこれは本当の別れじゃない。お互いなくして生きていけないこと、お互いエゴを捨てて仲良くするしかないことを最終確認するためのきっかけなのだ。そして最後の幕が下りるとき、2人は覚悟を決めるのである。

――『SAVE THE CATの法則 本当に売れる脚本術』

 このジャンルでは、主人公はもう1人の誰かの存在によって変化します。この連載でも何度も繰り返していますが、物語は変化を描くものです。この《バディとの友情》の物語の場合は、主人公に変化を促すプロットを転がすのが、ということになります。


■「バディとの友情」ジャンルに必要な3つの要素


①不完全な主人公:このジャンルの物語はもともと2人の物語ではあるが、2人のうちの片方が、自分の人生を軌道に乗せるためにより頑張らないといけないのが一般的。変わらなければ困る、そして最後には必ず変わる人が主人公となる。身体的、倫理的、あるいは信じる心が、完全に満たされていない人。


②彼/彼女が人生を完全なものにするために必要な「片割れ」:世界中でただ1人、主人公の人生を完成形にしてあげることができる誰か。主人公が渇望している変化を持ってきてくれる誰か。独自の世界をもった変わり者であることが多い。この人が新しく登場したために主人公の人生がかき乱されることになる。すなわに普通の人やつまらない人ではダメ。主人公に欠けている、または必要としている何かを補完できる人。


③2人を引き離している「複雑な事情」:これがあるから、相棒たちは(少なくともしばらくは)一緒になれない。厄介な事情は、三角関係を引き起こす第三者でもあり得る。誤解、人生観や倫理観の相違、物理的または心理的な障害、歴史的事件、社会の不寛容その他。これが小説中の一番大きな対立、つまり障害となり、相棒たちを引き寄せる力にもなる一方で、2人を遠ざける。



《なぜやったのか?》

 人間の心のなかには邪悪なものがある。誰でも知っていることだ。貪欲さが高じれば殺人が起きる。まさに目に見えない邪悪なもののせいだ。そういう場合、興味深いのは〈誰が〉やったのか?よりも〈なぜ〉やったのか?である。《金の羊毛》とは違って、《なぜやったのか?》は主人公の変化を描くものではない。〈犯罪〉が〈事件〉として明るみに出たとき、その背後にある想像すらしなかったような人間の邪悪な性が暴かれるというジャンルなのだ。〈なぜやったのか?〉の名作『市民ケーン』(41)では、人間の心の奥底を探り、予想もしなかった暗く醜い何かが暴かれる。まさに〈なぜ〉やったのか?の答えである。

――『SAVE THE CATの法則 本当に売れる脚本術』

 このジャンルのストーリー・タイプはミステリ小説に多く採用されています。どの物語にも共通する核は、犯された犯罪と事件の核心に潜む暗い秘密です。常に先が読めない展開で読者の関心をつかみ続けるのが、作者の仕事となります。


■「なぜやったのか?」ジャンルに必要な3つの要素

①最初はすべてを見たと思っているのだが、その後予期せぬものを発見することになる「探偵」:探偵は必ずしも職業探偵でなくてもよい(素人でもよい)。ただし、次の2つを順守すること。

・事件に対する心の準備ができていないこと(玄人探偵であっても同じ)

・その事件に引きずりこまれるちゃんとした理由があること


②その探求が全状況の存在理由となる「秘密」:すべての謎を暴くための鍵。真実を追求する旅の最後にたどりついた暗い部屋にあるものは? 人というものに隠された暗い真実に光を当てるような秘密。その事件が解決するまで、あり得ないと思っていたような何か。〈なぜやったのか〉は5つのW、〈誰がWho〉、〈何をWhat〉、〈いつWhen〉、〈どこでWhere〉、〈なぜWhy〉のすべてを使うことを意味する。


③秘密を追う中で主人公が自分自身あるいは社会のルールを破り、自ら犯罪の一端を担うことになる瞬間である「暗雲」:秘密の謎が深まるほど、事件を解決したいという探偵の欲求も深まる。探偵が秘密を暴き真実を知るために、社会の規則や、自分の決めごとを破ることになる。破られる規則は、倫理的なもの、社会的なもの、または個人的なものでもよい。秘密と謎を追って、かつて踏み入れたことのない領域に踏みこみ、普通なら絶対にやらないことをする。

例:殺人犯を追い詰めるために単独行動する警察官。事件解決の糸口になる手がかりを捜査班と共有しないことは警察捜査手順の重大な違反行為である。



《バカの勝利》

〈バカ〉は、神話でも伝説でも、重要な登場人物だ。表面的には単なるバカなまぬけ者に見えるが、実は最も賢い存在なのである。一見負け犬に見えるのでみんなに見下されているが、逆にそのおかげで〈バカ〉は最終的に光り輝く勝利を手に入れるチャンスに恵まれる。

 映画に登場する有名な〈バカ〉といえば、チャップリン、キートン、ロイドだろう。背が低く、まぬけで誰にも相手にされないが、運と勇気を持ち、しかもどんなに形勢が悪くても決してあきらめない特異な才能で最後に勝利する。

(中略)

《バカの勝利》の基本原則は、負け犬のバカに対してもっと大きくて権力の悪者──たいていは〈体制側〉──が存在するということだ。ところがそんな〈バカ〉が、体制側の連中をやきもきさせるのを見ると、観客にも何だか希望がわいてくる。しかも〈バカ〉は、どんなに神聖で立派な体制や組織であっても、容赦せずおちょくり、こてんぱんに批判する。

――『SAVE THE CATの法則 本当に売れる脚本術』


 負け犬が勝利する物語はいつの時代も人気があります。社会から無視されがちな哀れな外れ者が、自分を無価値だと軽く見た人たちに負けずに立ち上がり、世間に、そして何より自分自身に対して、存在価値を証明します。何らかの支配的な組織や集団

の中で常にその存在を無視されることが、主人公の弱味(同時に強味)です。


■「バカの勝利」ジャンルに必要な3つの要素


①1人の「バカ」:見過ごされている男、あるいは女は、たいてい自分自身の持つパワーをよくわかっていない。純な心が最大の武器。そして大人しい言動から周囲に軽んじられますが、ある1人の嫉妬する部内者だけが、その正体に気づいている。


②支配的な集団:主人公が元々帰属していて対立する集団、または主人公が新しく所属するが、最初は浮いてしまう集団。どちらにしても、馴染めないことによって火花が散ることになる。


③天与のように思える事情によってバカにもたらされる「変質」:成りゆきで、または変装によって、主人公が誰か別の人になる、新しいことをする、または別の名前を使う。

例:『ブリジット・ジョーンズの日記』のブリジットは、出版社の宣伝広報の仕事を辞めて、テレビのジャーナリストになる



《組織のなかで》

 人間は一人では生きていけない。けれど集団になると、多数派の目的を叶えるために、少数派の目的は犠牲になることもある。一長一短なのだ。《組織のなかで》は、集団や組織、施設、〈ファミリー〉についてのストーリーを扱うジャンルである。主人公は自分の属す組織に誇りを感じる一方で、組織の一員として生きるために自分らしさやアイデンティティーを失うという問題も抱えている。

(中略)

《組織のなかで》は、個人よりも集団を優先することの是非を描いている。これも原始人だってわかる系のジャンルだろう。集団に対する忠誠を誓えば、ときには常識を逸脱した行動をとったり、さらには自分の命すら捧げざるを得ないときもある。人間は大昔からずっとそうして生きてきているのだ。《組織のなかで》の登場人物の行動は、観客自身の行ないを映しているようなものなのだ。それくらいわかりやすく原始的だから、人気の高いジャンルなのだ。

――『SAVE THE CATの法則 本当に売れる脚本術』


 帰属すべきか、逃げるべきか。この問いかけが、〈組織のなかで〉のジャンルに収まるすべての物語を動かす心臓になります。ある組織のメンバーになるか、あるいは自分だけの道を行くかという選択。それが、このジャンルの小説が照らすもの。組織は、家族といった小さなものからクラス(学校)、会社、軍隊、街全体、国家など大きさも形も様々です。

 また主人公がその組織に加わる理由としては、生まれつき所属している、または連れてこられて無理やり入れられる、所属するように勧誘される、などいくつかのパターンがあります。


■「組織のなかで」ジャンルに必要な3つの要素


①1つの組織:家族、集団、企業、共同体、そしてその制度。または、人々をひとつにつなげるような考え方や問題。「組織の一員になる」ことの是非を考察するのが、物語の核になる。


②1つの選択:以下の3タイプのキャラクターをまず理解すること。


・新米…新たにその組織に加わった人物。新米は、読者の「目」としてその世界を見る役を負う。読者は新米と一緒に、集団の規則や規範を学んでいく。

・ブランド(反逆者)…ハリウッドの反逆児として悪名高かった俳優マーロン・ブランドに由来する。すでに組織のメンバーになっている。組織の仕組みの中にどっぷり浸かっているが、疑いを持ち始める、あるいは何年も疑いを抱えていながら何もできず、抜け出すこともできない。

・現場主任…組織のシステムを体現するキャラクター。これは帰属する組織の制度を完全に信じ切っている人たち。組織を盛り上げる応援団。集団の一部という生やさしいものではなく、帰属した集団のために命を張る人たち。


新米VS現場主任、新米+ブランドVS現場主任、またはブランドVS現場主任の終わりなき確執。新米にとっては集団に入るべきかどうかという問いかけ、ブランドにとっては集団に留まるか去るかという問いかけが確執の核になる。


③1つの犠牲:犠牲には次の3種類がある。

・主人公が組織に殉じる決断をする

・組織を焼き払う

・組織から逃げる(自殺も含む)



《スーパーヒーロー》

《スーパーヒーロー》というジャンルは、《難題に直面した平凡な奴》の対極にあり、正反対の定義が当てはまる。超人的な力を持つ主人公が、ありきたりで平凡な状況に置かれるのだ。小人の国リリパットにガリバーが漂着する『ガリバー旅行記』がいい例だろう。主人公は超人的な力を持つが、人間らしさも持っている。だから読者は共感できる。そして小人と向き合うことがどんなに大変かも理解できる。天才肌の連中やティーンエージャーが、スーパーヒーローのコミックを読むのも不思議はない! 周囲から誤解されるスーパーヒーローの気持ちがよくわかるからだ。

(中略)

 問題が起きるのは、ヒーロー本人のせいではなく、彼を取りまく周囲の人間たちの心の狭さのせいで、それゆえヒーローは周囲の人間から理解されない。ヒーローにとって、〈特別な〉存在でいることはつらいのである。フランケンシュタイン、ドラキュラ、X-メンなども同じだ。スーパーヒーローの物語は、人と〈違う〉とはどんなことか、独創的な考え方や素晴らしい能力を妬む凡人と向き合わなければならないとはどういうことかを、観客が共感できるように描く。

――『SAVE THE CATの法則 本当に売れる脚本術』


 人類の創生以来、どの文化のどんな神話にも必ずあるのがこの「選ばれし者」の物語です。平凡な人間の世界でただ1人非凡な自分に気づいてしまった人間の物語です。普通の人々より何かが優れているある1人の人間がいて、その役目(そして運命)は、立ち上がり、障害物を乗り越え、巨大な悪を倒し、世界も救います。


■「スーパーヒーロー」ジャンルに必要な3つの要素


①主人公が備えている「パワー」、あるいは主人公を人間以上の存在にする「スーパー」になるべき使命:良いことをする、良い人間になるという意志も含め、ヒーローに授けられた特別な能力。


②宿敵:主人公と真っ向から対立し、主人公と同等またはそれ以上の力を持っている。自称選ばれし者であるが、真の主人公に必要な信念を欠く。


③「呪い」あるいは「弱点」:どんなパワーにも急所はあるもので、悪漢はそこをついてくる。主人公が超克する(または敗北する)ことになる、特別な存在になるための代償。これによって読者=普通の人は主人公と共感できる。



 さて、2回に分けてブレイク・スナイダーの「10のジャンル」について解説してきました。最初は、ストーリーのタイプ(型)でジャンル分けするという考え方になかなかなじめないかもしれませんが、「ジャンル」と「構成」を別々のものではなく、ひとつのものとしてとらえるという考え方をぜひ身につけてください。


 この連載では詳しく触れませんが『10のストーリー・タイプから学ぶ脚本術』では「10のジャンル」のそれぞれについて、実際の映画作品を素材にし(各ジャンルにつき5作品=合計50作品)、ストーリーの構造を「ブレイク・スナイダー・ビート・シート(=BS2)」に分解するという作業を徹底して行っています。あの名作のあのシーンがどういう意味を持っていたのか、そしてそのジャンル特有の「3つの要素」がどこに活かされているのかが、手に取るように理解できます。目からウロコの情報が満載なのでぜひご覧ください。

 また、映画作品にはなじみがないという方は『SAVE THE CATの法則』のメソッドを小説の執筆に応用した『SAVE THE CATの法則で売れる小説を書く』をご覧ください(取り上げる作品の事例が小説作品になっています)。



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