物語の構成に必要なのはこの10個だけ
ここまでシド・フィールドが理論体系化したハリウッド式の「三幕構成」の基本を押さえたうえで、三幕構成の応用・発展形(例:「ブレイク・スナイダー・ビート・シート」)を見てきました。
今回はアメリカの小説家、K.M.ワイランドのメソッドについて解説したいと思います。ワイランドは自身も現役の小説家でありながら、小説の執筆に関するテクニックやアドバイスを本やブログ、SNSで発信し続けており、物語創作初心者から絶大な信頼を得ています。
【著者プロフィール】
K.M. ワイランド (K.M.Weiland)
アメリカ合衆国ネブラスカ州出身。インディペンデント・パブリッシャー・ブック・アワードを受賞する他アメリカ国内でその実績が高く評価されている。『アウトラインから書く小説再入門』『ストラクチャーから書く小説再入門』『キャラクターからつくる物語創作再入門』『〈穴埋め式〉アウトラインから書く小説執筆ワークブック』(以上フィルムアート社)など創作指南書を多数刊行。また作家としてディーゼルパンク・アドベンチャー小説『Storming』や、中世歴史小説『Behold the Dawn』、ファンタジー小説『Dreamlander』等、ジャンルを問わず多彩な作品を発表している。ウェブサイト「Helping Writers Become Authors」やSNSでも情報を発信中。
フィルムアート社は、これまで
①『アウトラインから書く小説再入門 なぜ、自由に書いたら行き詰まるのか?』
②『ストラクチャーから書く小説再入門 個性は「型」にはめればより生きる』
③『キャラクターからつくる物語創作再入門 「キャラクターアーク」で読者の心をつかむ』
④『〈穴埋め式〉アウトラインから書く小説執筆ワークブック』
⑤『テーマからつくる物語創作再入門 ストーリーの「まとまり」が共感を生み出す』
の5冊を刊行しており、いずれも何度も増刷を重ねるベストセラーとなっています。
「物語の構成篇」の締めくくりにワイランドのメソッドを紹介する理由は大きく二つあります。
その① 多すぎず、少なすぎず、ちょうどよい
その② シーンの作り方も学ぶことができる
理由その①から説明します。
シド・フィールドの三幕構成の大きな弱点は「三幕では少なすぎる」ということでした。特に物語全体の50%の分量を占める第二幕目をどのようにつくっていけばよいのかが、初心者にとって大きなハードルとなっていました。そこで、その弱点を克服するべく「物語は15のビートで構成されている」と考える「ブレイク・スナイダー・ビート・シート(=BS2)」などの発展形が誕生してきました(参考文献『SAVE THE CATの法則 本当に売れる脚本術』)。
「3」から「15」へと増えたことで、物語の構成をよりテンプレート的に考えることができるようになった一方で、考える要素が増えてしまうという新たな問題も生じてしまいました。
また次回で紹介するジョン・トゥルービーの『ストーリーの解剖学 ハリウッドNo.1スクリプトドクターの脚本講座』では、「ストーリー構造の22段階の道程」が提唱されています。「15」ではなく、今度は「22」です。
このように「物語の構成はいくつの要素でできているのか」という点については諸説あり(本によってマチマチ)、どれを信頼すればよいのかなかなか判断が難しいところです(いずれも三幕構成をベースにしているという点では一致していますが)。そこでオススメしたいのがワイランドの考え方です。
彼女は著書の中で次のように述べています。
専門家の中には、まことに複雑な理論を主張する人もいます。ジョン・トゥルービーは名著『ストーリーの解剖学』で22個もの要素を挙げています。一方、映画脚本術のバイブルとして名高いシド・フィールド著『Screenplay』(『映画を書くためにあなたがしなくてはならないこと シド・フィールドの脚本術』フィルムアート社)は物語を3つに分ける「三幕構成」(脚本家はもとより、小説家にも役立つ本です)。どちらの主張も基本は同じ。ただ、トゥルービーの理論の方が、より細分化されています。
この本では両者の中間をとって、10個の要素を挙げることにしました。ストーリーを10ステップに分解し、書き手も読者も最大限の効果が得られる構成術を提案します。また、シーンや文の作り方もご紹介します。
――『ストラクチャーから書く小説再入門 個性は「型」にはめればより生きる』
「全部で10個」であれば、多すぎず、少なすぎず、初心者の方でも取り組みやすいのではないでしょうか。ワイランドのメソッドは、古典的な三幕構成をベースにしつつ、シド・フィールドの理論に弱点を見事に克服しています。そして余計なものがなく非常にシンプルです。小説執筆初心者にオススメするには、いまのところベストなメソッドだと思います。
では次に、ワイランドのメソッドをオススメする理由その②「シーンの作り方も学ぶことができる」について。
この連載では、ここ数回「
なお、ロバート・マッキーは、シーンだけでなく、ビートやシークエンス、幕、そしてストーリー全体が相互にどのような関係にあるのかを整理してくれており、物語の構造を把握するのに便利なので、以下にまとめておきます。
シーンはストーリーのミニチュア版だ。一定のまとまりを持つ時間と空間で葛藤が生まれ、それによって起こされたアクションが、登場人物の人生の価値要素をプラスかマイナスへ変化させる。理論的には、シーンの長さと舞台にはほとんど制限がない。極小のシーンもあっていい。正しい文脈のなかであれば、トランプをめくる手の一ショットしかないシーンでも大きな変化を表現しうる。逆に、戦場の十カ所以上で繰りひろげられる十分間のアクションでも、たいした意味がないかもしれない。場所や長さにかかわらず、シーンは欲求、アクション、葛藤、変化がひとまとめになったものだ。
――『ストーリー ロバート・マッキーが教える物語の基本と原則』
幕はシーン(厳密にはシークエンス)の集合です。つまり、物語を三幕(あるいはその応用形のメソッドで)で構成することが理解できても、より小さな単位である「シーン」をどうつくるのか、そしてシーンが幕とどのように関連するのか、を理解できなければ、本当の意味で物語を作ることができないのです。
ワイランドの著作、とりわけ『ストラクチャーから書く小説再入門』は、物語創作における「ストーリーの構成」と「シーンの構成」の両方についてじっくりと解説がなされており、物語の構成を考えるうえで欠かせない一冊となっています。
以下では、『アウトラインから書く小説再入門』『ストラクチャーから書く小説再入門』の内容を中心にワイランドのメソッドについて簡単に解説していきます。
まず図を見ておくことにしましょう。ここまで本連載を読んできた方であれば、この図を見ただけで、多くのことを理解していただけるのではないかと思います。いずれの単語もすでにお馴染みのものばかりです。
実は、ワイランドは『ストラクチャーから書く小説再入門』で何か「新しいこと」を述べているわけではありません。本書の最大の特徴は、物語の構成にとって「本当に大事なこと」をピックアップし、それぞれのステップについて実例(映画や小説)を交えながら詳細に、かつ分かりやすく解説している点にあります。
10のポイントについてごく簡単にまとめておきます。
①フック
読者の心を「掴む」。根底にあるのは「疑問」。読者に「もっと知りたい」と思わせる。
②インサイティング・イベント
ストーリーが動き出す出来事
※オープニングから25%地点までの間に必ず置く
③キー・イベント
主人公を事件に巻き込む出来事。インサイティング・イベントの後に置く。
※オープニングから25%地点までの間に必ず置く
④プロットポイント①
ストーリー全体の25%ぐらいまで進んだところで訪れる転機。その時から状況が一変する。この先、主人公は後戻りができなくなる。
⑤ピンチポイント①
敵対者が腕を振りかざし、強大な力を見せつけてくる(主人公も負けじと対抗する)。
⑥ミッドポイント
物語全体の50%地点で起きる新鮮でドラマチックな出来事。主人公はそれまでのやり方を変える必要に迫られる。もはや、ただ反応するだけでは立ち行かない。
人物が受け身で反応する部分と攻めの行動をする部分を均等にすることと、中心点として際立たせることが目的。
⑦ピンチポイント②
再び敵対者の力が直接的に、あるいは何らかの方法で表れ、主人公に脅威を与える。
⑧プロットポイント②
第三幕へつながる大きな転機。主人公はどん底に落ちる。望みが叶う一歩寸前でだめになり、これまで以上に落ち込む。そこから再び戦う力を呼び起こし、クライマックスへ向かう。
⑨クライマックス
全体の90%地点あたりで起きる。ラストシーンか、そのひとつ前のシーンに相当する。人物はクライマックス付近で重要な「気づき」を体験し、変化を遂げる。
⑩解決
クライマックス直後から最終ページまで。主要な物事の結末を書き、読者の疑問に答える。ただし、情報を事務的に出すことは避ける。できるだけ短い方がよい。
ここからは、この10のポイントのうち「①フック」について解説していきます。『ストラクチャーから書く小説再入門』は「物語の始め方」に関して多くのページを割いており、とりわけ読者に好印象を与える最初のチャンスとしての「フック」の重要性を説いています。
残りの9つのポイントが気になる方はぜひ、本書をご一読ください。
【フック】
読者を魚に例えましょう。彼らは賢い魚です。魚は釣り人の思惑を見抜いています。書き手の思惑も釣り人と同じ。読者を「釣り上げてずっと自分のものにしておきたいな」と思うでしょう。しかし、気高い魚がみなそうであるように、読者も簡単には釣られてくれません。抗えないほど魅惑的な餌を仕掛けなければ、釣られてはくれません。
ですから、構成も初めが肝心。優れたストーリーはみな「掴み(フック)」で始まります。第一章で読者を掴まなければ、続きがどんなにすごくても、ついてきてくれません。
「掴み」の形は様々ですが、根底にあるのは「疑問」です。読者が「知りたい」と思えば、掴みは成功。極めて単純です。
どんな小説も、まず最初に紹介するのは登場人物と舞台設定、葛藤[=conflict /二者が対立すること]の三点ですが、いずれにも、まだ掴みは入っていません。読者に「これからどうなるのだろう?」と好奇心を抱かせた時に、初めて掴みが成立します。「飼育係を殺した爬虫類の正体は何だろう?」(マイケル・クライトン作『ジュラシック・パーク』)、「どうやって都市が獲物を狩るのだろう?」(フィリップ・リーヴ作『移動都市』)というように、具体的な疑問に関心が向けられます。
――『ストラクチャーから書く小説再入門 個性は「型」にはめればより生きる』
では、どのようにフックを作ればよいのでしょうか。「掴み」は読者に好印象を与える最初のチャンスです。まずは第一印象で勝利しないと後が続きません。
本書では優れたオープニングに共通する特徴が紹介されています。
《優れたオープニングに共通する特徴》
・物語の始まりより前から書き始めていない。
プロット上、重要であっても、オープニングで物語の始まりの前を説明するのは避ける。
「始まりより前から書き始めるというのは、読者にとってどうでもいい背景を長々と説明すること」(ミステリー作家ウィリアム・G・タプリー)
・オープニングで人物が登場する。それが主人公なら、なおよい。
プロット重視の小説でも、最終的にものを言うのは登場人物。読者の心に通じるのは、人間性や個性の描写。
・対立、摩擦、ぶつかり合いで幕が開く。
「核ミサイル発射寸前」といった深刻なものでなくてかまわないが、少なくとも登場人物が誰かと、あるいは何かとすでに対立していること。「もめている」「うまくいっていない」「思いどおりにいかない」という状況があれば、読者は続きが読みたくなる。「続きが読みたい」と言わせるのが、オープニングでの使命。
・動きのある描写で始める。
動的な描写をすれば、読者も躍動感を感じて読み進めてくれる。人物がただ冷蔵庫の中を見るだけだとしても、オープニングでは常に動かし続けることが大事。
・舞台設定を伝える。
読者に場の感覚をつかんでもらい、世界観に興味を持ってもらう。
・「場面設定」の映像イメージに読者を誘う。
場面が目に浮かぶような描写をオープニングに入れる。
・作品全体のトーンが伝わる。
初めの章が全体の印象を左右する。狙いに合わせたトーンで書くことが必要となる。エンディングまで視野に入れてオープニングを書くこと――もちろん、まだ結末は明かさずに。
「これらの点を全て押さえたら、読者は寝る間も惜しんでページをめくり続けてくれるでしょう」とワイランドは述べています。
また、オープニングにおける「最初の一行」の重要性は改めて説くまでもありませんが、本書では初めの一行を魅力的にする5つのテクニックを紹介しています。まず、魅力的な「小説の出だし」の実例を5つ紹介しましょう。
目を覚ますと、ベッドの隣は冷たくなっていた。
(スーザン・コリンズ作『ハンガー・ゲーム』)
森の夜の闇と寒さの中で眼を醒ますと彼はいつも手を伸ばしてかたわらで眠る子供に触れた。
(コーマック・マッカーシー作『ザ・ロード』)
再び夜が訪れた。「道の石亭」は静寂の中にあり、その静寂には三つの沈黙が潜んでいた。
(パトリック・ロスファス作『風の名前』)
かつて、罪人は〈四つ辻〉で吊るされたものだ。
(ダフネ・デュ・モーリア作『レイチェル』)
ベン・ギヴンズ医師は、生きとし生ける者のあいだで過ごす、これが最後の夜だと決めたその夜、夢を見なかった。というのも、眠りが浅く、さまざまな幻が訪れてきたからだ。そうした幻は、この世についてひっきりなしに執拗に話しかけてきて、夢の世界に入らせまいとした。
(デイヴィッド・グターソン作『死よ光よ』)
これら5つの事例は、読者に 「もっと読みたい」と思わせることに成功しています。その要因について本書は次のように述べています。
①疑問を感じさせる。
まず、どの文も疑問を感じさせる形で終わっています。なぜ、ベッドの隣が冷たくなっていたのか? なぜ、彼らは寒い森で眠っているのか? 沈黙が三つあるとはどういう意味か? 昔、吊るし首にされた罪人とは誰なのか――なぜ、今はもう吊るし首をしないのか? なぜ、またどうやってギヴンズ医師は自分が死ぬ日を前もって決めたのか? 5つの文は出来事だけでなく、読者に疑問を抱かせる情報も提示しています。答えは後で明かされます。
②人物を登場させている。
5つの例の大半に人物が登場しています(登場していない例では、その直後に登場します)。出だしの文は主人公と初めて出会うチャンス。5番目の文は名前も出して読者に印象づけ、効果を最大限に引き出しています。
③舞台設定を伝えている。
例文の多くが舞台設定を伝えています。特に、マッカーシーとデュ・モーリア、ロスファスの3例は予兆を感じさせ、作品全体の雰囲気を伝えるために設定描写を利用しています。この先の文や段落を支える足場にもなっています。
④何かを明確に言い切っている。
5つの中で唯一、デュ・モーリアの例が、あることを明確に言い切っています。書き手の中には、この手法は古くさいと感じる人もいます。全知の作者の視点を貫くジェーン・オースティンやトルストイのような書き方は、時代遅れだと感じる人もいるでしょう。しかし、今でもこの種の出だしは、誰の視点で書いても効果があります。ただし、読者の好奇心を刺激する文にすること。単に「空は青かった」とか「転ばぬ先の杖」などと宣言しても、それがどうした、と言われて終わりです。
⑤作品全体のトーンを感じさせる。
5つの文からは作品全体の雰囲気が感じ取れます。最初の一行は作品の第一声。抜かりなく、即座に雰囲気を伝えましょう。全体で醸し出したいのはユーモア? それとも毒舌、せつなさ、詩的な美しさ? メインの要素を打ち出しましょう。しっとりとした悲劇のオープニングにジョークは似合いません。
――『ストラクチャーから書く小説再入門 個性は「型」にはめればより生きる』
オープニング、とりわけ最初の一行を「なんとなく」書き始めるのは危険です。読者に「もっと読みたい」と思ってもらえるように、上記の点について十分に検討したうえで書くようにしてください。
読者の心を「掴む」ためのルールを紹介してきましたが、本書では「物語の冒頭でやってはいけないこと」についても、しっかりと解説しています。
例えば「第一章の前にプロローグを置く」「夢の描写から始まる」などです。いくつか紹介していきましょう。
「物語はプロローグから始まる」という固定概念にとらわれている方もいるかもしれません。本書では「物語にプロローグは必要なのか?」という点について次のように述べています。
書き手はプロローグが大好きです。第一章の前に、また別の章を入れたがる。これからどんな物語が始まるかをわかってもらうため、少し情報を出しておかなくては、と考えます。ところが、読み手側は(出版エージェントも含め)プロローグでつまづくことが非常に多いのです。無駄なプロローグが邪魔をして、本当は面白いかもしれない第一章以後に進めないのです。
書き手側からすると、プロローグは読者への思いやり。「ちょっと背景を説明しないと読者にわかってもらえない」と思うから、詳しく前置きするわけです。それのどこが悪いと言うのでしょう? 説明がないと物語が把握しづらく、読者もしばらく戸惑ったままでしょう。では、その問題はプロローグを書くことで完全に解決するのでしょうか? あるいは、リスクの方が大きいでしょうか?
プロローグの最大の欠点は「始まりを二度体験させる」ことです。読者はまず、プロローグに書かれた時間/設定/人物を読み、その世界に入る心の準備をします。なのに、準備ができたと思ったらプロローグは終了。次のページをめくると「第一章」と太字で書いてあり、またもや新たな舞台設定を読まなくてはなりません。
反論する人が多いのはわかります。「プロローグには重大な情報を書いているんだよ! それがないとストーリーは成立しないんだ!」という声が、あちこちから聞こえてきそうです。
本当に、成立しませんか? あなたが書いた第一章を見て下さい。かなりの高確率で、プロローグより第一章の方が優れたオープニングになっているはずです(たとえそれが、プロローグありきで書いたものでも)。多くのプロローグは単に「情報出し」をしているに過ぎません。そもそも、それがプロローグというもの。そこに問題があります。
長年にわたり、私も思い出したくないほど多くのプロローグを書いてきて、驚くべきことを発見しました。どの作品もプロローグがない方がずっといいのです。「必要ないんだ」と納得したので、ばっさり削除できました。ストーリーが始まる前からいくつもの段落で情報をちらちら出せば、その分、読者も疲れます。集中力がある状態で物語を読み始めてもらえる方が、書き手としても助かります。
――『ストラクチャーから書く小説再入門 個性は「型」にはめればより生きる』
カクヨムに投稿されている小説にも第一章の前にプロローグが置かれている小説がたくさんあります。プロローグは置くべきではないということではありません。プロローグを置くならしっかりと目的をもたせるべきだというのがワイランドの主張です。本書では「よいプロローグの2つの条件」について次の2点を挙げています。
それは、
1.読者の関心を掴む。
2.読者の関心を掴む文章が、本筋と離れていない。
であること。
これを満たしていない場合は、プロローグを本当に書くべきかについて再検討してみてください。ワイランドは「絶対に必要でない限り、プロローグは省略する」べきであると述べています。
また、『「書き出し」で釣りあげろ 1ページ目から読者の心を掴み、決して逃さない小説の書き方』でも、プロローグについて同様のアドバイスがなされています。
プロローグはよく、ラベルを張り替えただけのバックストーリーや設定にすぎないことがあります。残念ですが、そんな手は通用しません。同じワインが少しちがう形のボトルにはいっているだけです。バックストーリーや設定のように見えるなら、プロローグとして扱うべきではなく、バックストーリーや設定のような印象を受けるなら、どんなに取りつくろっても、それはバックストーリーや設定です。区別して何かほかの名前で呼んでもうまくいきません。プロローグに関しては、つぎのアドバイスを覚えておいてください。
ほとんどの場合いらないので、使わないこと。
当然ながら、例外はあります。一般的なものとして、すでに世に広まっているシリーズ本のプロローグが考えられます。そのような本のプロローグは、これから読むストーリーに必要な情報をシリーズの愛読者に提供するためだけに使われることもあります。多くの場合、前の本が終了した時点から主人公に起こった出来事や、前回のストーリー以降に主人公が経験した大きな変化などを簡単にまとめたものが含まれます。
そのほかにも、プロローグを採用するしかるべき理由はあります。ですが、単にバックストーリーをこっそりしのびこませるつもりなら、使わないことです。それがプロローグを書く唯一の理由であれば、プロローグをまるごと捨て去るほうがいいでしょう。
――『「書き出し」で釣りあげろ 1ページ目から読者の心を掴み、決して逃さない小説の書き方』
またプロローグと同様「夢の描写」から始める場合は、注意が必要だと述べています(「人物が見る夢の描写で始まる小説は、出版エージェントや編集者から敬遠されます。」)。
読者に「何だろう? 知りたい」と思わせることが一番大事なら、その次に大事なことは、よくない種類の疑問を抱かせないことです。
よい種類の疑問は的が絞られています。「誰が自由の女神を盗んだの?」「どうやってウェスリーは絶望の谷から脱出するの?」「なぜシンデレラの靴は脱げてしまうほど大きかったの?」。よくない種類の疑問は「いったい何が起きてるの?」。さらによくない疑問は「はぁ?」でしょう。
サスペンス感を出そうとして失敗する場合もあります。情報を隠し過ぎればサスペンスは成立しません。読者がシチュエーションを理解した上で、成り行きを見守るように仕組まなくてはなりません。
――『ストラクチャーから書く小説再入門 個性は「型」にはめればより生きる』
そしてワイランドは「読者に抱かせてはいけない疑問」として次の10個を挙げています。
•この人物の名前は?
文学賞受賞作家リンダ・イェジックいわく「顔も想像できない名無しの人物には吸引力がありません。だから、早いうちに人物を紹介し、読者に覚えてもらうようにしています」。
•この人物は何歳?
全員の年齢を明記しなくていい。ただし、設定が80歳なら80歳らしく。17歳なら17歳らしく。設定とかけ離れた印象を与えないように。
•どんな外見?
人物の外見を全く描写しないで済む作品もあるが、2、3の特徴を挙げると読者に
喜ばれる。特に、後で外見の描写をするなら、冒頭でも少し伝えておく。
•この人物は何者?
人物が誰なのかを伝える。一つか二つ、ディテールを描くとよい。職業、性格、人柄を表す行動など。
•ここはどこ?
映画『マトリックス』のような無機質な空間になっていないか? カフェや森、寝室、飛行機といった舞台設定があるなら、きちんと読者に伝える。
• 何年? 季節は? 何日?
特に歴史小説や、具体的な日付が出てくる物語では注意。時間に関する情報があれば出しておく。
•この人物がやりとりをしている相手は誰?
他の人物も登場するなら名前を出すとよい。初登場した相手が「彼」や「彼女」と書かれているだけだと、人物像が想像しにくい。
•語り手と他の人物たちとの関係は?
基本的に、語り手が知っていることは読者にも伝える。主人公が知らない相手は別として、どうやって知り合い、今、相手と何をしているかを書く。
•人物は何がしたいの?
どんなシーンでも、人物の意図(ゴール)を読者に知らせることが重要。目的意識がシーンの原動力となる。読者に抱いてほしい好奇心や疑問も、ここから生まれる。
•なぜ私はこの小説を読むべきなの?
基本情報を押さえた上で答えたい質問であり、読者を獲得したいなら答えるべき。興味や感動、共感など、書き手なりの答えがあるだろう。読者に対し、パーソナルな理由を提供できるようにしたい。
さて、ここまで物語の構成に関するK.M.ワイランドのメソッドについて解説してきました。冒頭だけでこんなに注意しなければならないことがあるのか、と驚いた方もいるかもしれません。確かに箇条書きにするとたくさんあるように見えるのですが、やるべきことはただひとつ、「読者の心を掴む(=フックする)」ことです。ひとつひとつの注意事項にとらわれ過ぎることなく、迷ったときは「読者の心を掴むにはどうすればよいのか」という原則に立ち返ってみてください。
最後にK.M.ワイランドのメソッドを実践するための便利なツールを紹介しましょう。『〈穴埋め式〉アウトラインから書く小説執筆ワークブック』です。本書は、本邦初の「穴埋め式=書き込み式」の小説術として大きな話題となりました。
本書の「第6章 詳細アウトライン」に「ストーリーの構成」という項目があります。本項目は『ストラクチャーから書く小説再入門』がベースになっており、Q&Aに答えていくだけで(穴埋めするだけで)、完璧な構成ができてしまうという優れたツールです。
サンプル画像は下記のとおりです。
【お知らせ】
物語やキャラクター創作に役立つ本
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