テーマ篇

出版の可能性も、書き手の収入と知名度もテーマの力にかかっている

今回からスタートする「テーマ篇」では、まずテーマとはそもそも何なのか、なぜ物語にテーマが必要なのか、そして、普遍的なテーマとな何なのか、について解説したいと思います。


 僕のワークショップではいつも「テーマとコンセプトの違いは何ですか」と質問が出る。それは「ほうれん草とステーキ」の違いを問うようなものだ。両者は全く別物だが、一緒に出せばバランスのとれた食事になる。単品でもおいしいが、完全な食事にはならない。

 コンセプトについては第二章で詳しく述べた。これからテーマについて見ていこう。。世の中や人生との関わりだ。問題や体験を語ることだ。広い話題を指すこともあれば、何かに対して具体的なスタンスをとることもある。

 テーマとは真理や教訓でもある。どれほどはっきり打ち出すかは人それぞれだ。文脈を通して表してもいいし、物語の中心に据えてもいい。そうは言っても、まだピンとこないだろう。だからテーマは理解しにくい。

 テーマはストーリーの生命に匹敵する。物語で描くリアリティに反映される。テーマになるものはいろいろある。愛と憎しみ、若気の至り、ビジネスの裏切り行為、息苦しい結婚生活、宗教団体の真相、天国と地獄、過去と未来、社会対自然、裏切りと友情、忠誠、あくどいやり方、富と貧困、慈悲と勇気と叡智と欲と虚栄と笑い。

 テーマは生きることそのものを表す。読者はストーリーに描かれたものを人物の目線で見て、プロットを通して体験する。

――『工学的ストーリー創作入門 売れる物語を書くために必要な6つの要素』


 前回確認したように、「コンセプト」は「どんな物語なの?」を短い文で表現したものでした。いっぽう「テーマ」とは「物語が」を指します。ここでは「意味」という単語に注目してください。


 果たして物語に意味が必要なのでしょうか? 純粋な娯楽作品、エンタメ作品を書きたいだけなのに、わざわざ意味を考えなければならないのでしょうか? 答えは「Yes」です。

「中には、テーマなんてどうでもよくて、娯楽一辺倒という作品もありますけどね。でも、あなたがただ楽しませる以上のことをしたければ、そして楽しませるだけでなく映画を豊かで心揺さぶる体験にしたければ、世界とか人間というものについて何か言いたいのなら、自分が何を伝えたいか考えなければいけませんね。そして目立たないようにストーリーに織り込むんです」(脚本家ジェラルド・ディピーゴの言葉)

――『脚本を書くための101の習慣 創作の神様との付き合い方』

 脚本にこめられたテーマがどれほど重要であるかを理解するには、まず私たちの人生にとって物語がどれほど重要な意味を持つか理解しなければならない。人生は、いつもうまくいくとは限らない。理不尽でカオスなものだ。だから、私たちは人生の意味に構造を与えて、物語として理解する。物語の中に、迷いがちな人生の答えを、そして普遍的な意味を見出すのだ。物語の中に、人生の処し方を、他者との付き合い方を、愛し合い方を、困難を乗り越える方法を探すのだ。物語は人生の分析ではなく、人生を感情的に理解させてくれるもの。それも私たちが物語を必要とする理由の1つだ。。そしてテーマというものは、脚本家が読者または観客に伝えたい人間的な経験の中に潜む、ある真実なのだと言える。テーマは作品が伝えたいメッセージであり、道徳的真実であり、その物語の存在価値であり、お金の話を別にすれば、脚本の存在そのものなのだ。テーマによって、脚本は普遍性を持つ。そして感情的に重要なものになる。優れた脚本と凡庸な脚本の差は、テーマの深さに現れることが多い。力強いテーマがなくても娯楽性の高い脚本は書けるが、それだけでは優れた脚本とはみなされない。テーマがない脚本は軽い。表面的な楽しさをなぞるだけで、作品を観終わった観客の心に何も残らないのだ。

――『「感情」から書く脚本術 心を奪って釘づけにする物語の書き方』


 表面的な楽しさだけを追求するのであれば、「テーマ」などという面倒なものを用意する必要はありません。しかしテーマがあることで、その物語は普遍的な価値をもちます。そしてその物語は読者を感情的に揺さぶることができるようになります。読者の心を揺さぶることこそが作者にとって大きな喜びのひとつであることはいうまでもありません。


 僕らが本を読んで考え、心が動くのはテーマの力があるからだ。読者を物語に引き込み、記憶させるのもテーマの力だ。作品の成功を左右する。

 

 テーマがなければ、どれも達成不可能だ。

――『工学的ストーリー創作入門 売れる物語を書くために必要な6つの要素』


 それだけではありません。創作の観点からも「テーマ」は非常に重要な役割をもっています。


 脚本を書くときにテーマが重要な理由がもう1つある。。(中略)つまりこういうことだ。あなたが書く脚本の中にあるほとんどの場面は、そして登場人物は、会話は、そして映像は、テーマを反映するべきなのだ。あなたが書く物語というものは、単にそのテーマを見せるために必要な環境を創造するための道具にすぎないのだ。

――『「感情」から書く脚本術 心を奪って釘づけにする物語の書き方』


 物語を創作するために必要な要素は数多くあります。わかりやすいところでは「構成」や「キャラクター」があります。しかし「構成」や「キャラクター」だけでは物語は作ることはできません。「コンセプト篇」でも触れましたが、例えば『工学的ストーリー創作入門』では、次の6つの要素を挙げています。




「物語に必要な要素は何なのか?(全部で何個あるのか?)」については、人によって(本によって)諸説あるので、ここではこれ以上深入りはしません。ここで押さえておきたいことは、よい物語は決してひとつの要素だけで出来上がっているのではなく、いくつかの要素が巧みに絡み合ってできているということです。冒頭の引用の「テーマとコンセプトはほうれん草とステーキくらい別物だが、一緒に出せばバランスのとれた食事になる」という例がそれを端的に表現しています。


 物語を「人体」に例えた次の文章がもっとわかりやすく解説してくれています。

 本書でストーリーを人体にたとえたのを覚えているだろうか。優れたストーリーは、人体と同じように、各部位が一緒に機能して全体が統合した「生きた」組織だ。また、各部位それぞれも組織であり、それぞれの部位(たとえばキャラクター、プロット、テーマなど)が、ストーリーという身体の下位組織として単位ごとに存在しているが、同時にさまざまな形で連携し合ってもいる。前述では、キャラクターを循環系にたとえ、ストーリー構造を骨格にたとえた。この比喩をさらに続けるなら、。ただし、脳による支配力があまりにも強すぎると、芸術作品であるはずのストーリーが哲学論文になってしまうので、注意しなければならない。

――『ストーリーの解剖学 ハリウッドNo.1スクリプトドクターの脚本講座』


 テーマは「土台」であり「脳」です。「このあとキャラクターをどのように動かせばよいのだろう?」、「どのようなセリフを語らせるべきだろう?」と悩んだときに「この物語のテーマは何か?」に立ち返ることで答えが出てきます。言いたいこと(=テーマ)がしっかりと設定できていれば、その物語に従属するものが何で、関係ないものは何かが明確になります。

 上記のような理由から、執筆前にテーマが定まっていることが理想的ですが、なかなかそうはいきません。そんな場合は書きながらテーマを探っていく、というのもひとつの手段です。


 改稿を重ねるにつれてテーマが浮かび上がってくるものだという考え方も、否定はしない。それでも、書き始める前にテーマを知っていれば、改稿する時間の大きな節約になる。『ネットワーク』や『マーティ』、『アルタード・ステーツ/未知への挑戦』を書いたパディ・チャイエフスキーは、こう言ったことがある。「脚本家にとって、最初からはっきりしたテーマがあるのに勝ることはない」。でも、テーマがわからないからといって慌てることはない。7稿も8稿も書いてから、ようやく言いたいことを発見するという脚本家も大勢いるのだ。物語の中からテーマを見つけ出すのは、最も複雑で難しい作業の1つだ。書く前に見つけられれば理想的だが、そうでなければ書いてみて探し出すしかない。一度テーマを見つけたら、登場人物や会話、そして象徴性等を通してそのテーマを見直し、書き直せばいい。

――『「感情」から書く脚本術 心を奪って釘づけにする物語の書き方』


 では、テーマにはいったいどのようなものがあるのでしょうか。たびたび引用している『「感情」から書く脚本術』には、読者の感情を揺さぶる「普遍的なテーマ」が紹介されています。


 テーマは、人生の、そして人間という存在そのものの反映であるから、普遍的な感情や人類共通の問題をあつかうことが多い。愛、家族、復讐、名誉、悪を打ち負かす正義、どれも世界中で共通の体験だ。お話を語るという行為の歴史の中で、間違いなく成功が実証されたテーマを分類して用途に応じて使えば、脚本家の卵も楽ができるだろう。そのようなテーマは、世代を超えて感情的に響くからだ。そのようなテーマを「別離/再会」、「人間性の危機」、そして「人間関係」の3つに分類してみた。

――『「感情」から書く脚本術 心を奪って釘づけにする物語の書き方』


 3つの分類についてそれぞれ解説しましょう。なお、挙げられている作品はすべて映画作品となりますので、その点ご注意ください。


テーマ①:別離/再会


 成功した映画によく見られるテーマ。私たちの帰属意識に訴えて心に響く。親しみや近さを求める気持ち、両親または両親的な存在に依存する心、安心と温かさを求め、受け入れられることを望む心。愛する2人を引き離して最後に再会させる物語は、大体この分類に含まれる。このテーマの中には、次に挙げるような要素も含まれる。


・勝利する負け犬(『ロッキー』、『ベスト・キッド』)

・疎外感と孤独(『市民ケーン』、『タクシードライバー』)

・帰郷(『オズの魔法使』、『アフター・アワーズ』、『コールド マウンテン』)

・人違い(『北北西に進路を取れ』、『デーヴ』)

・死(『普通の人々』、『黄色い老犬』、『愛しい人が眠るまで』)

・精神的病理/狂気(『ビューティフル・マインド』、『シャイン』)

・拒否と犯行(『カッコーの巣の上で』、『ブレイブハート』)

・贖罪(『ザ・シークレット・サービス』、『評決』、『許されざる者』)

・成長(『スタンド・バイ・ミー』、『卒業白書』、『ブレックファスト・クラブ』)

・中年の危機(『偶然の旅行者』、『再会の時』、『セールスマンの死』)


テーマ②:人間性の危機

 人が持ち合わせている、人間性を貶めるような暗い側面と対比することで、人として正しい生き方を照らしてくれる物語。悪に誘惑される善という形で語られるこの手の物語は、大概は正義が悪に打ち勝って終わる。主人公が悪女の誘惑に負けて悪行を働くというフィルム・ノワールは、その典型。その他の要素として次のようなものもある。


・偏見(『ショコラ』、『フィラデルフィア』、『カラーパープル』)

・現代社会による人間性の剥奪(『モダン・タイムス』)

・戦争という地獄(『プラトーン』、『西部戦線異状なし』)

・濡れ衣を着せられる無実の人(『北北西に進路を取れ』、『逃亡者』)

・陰謀(『コンドル』、『影なき狙撃者』)

・絶望と希望(『ショーシャンクの空に』)

・善対悪(『スター・ウォーズ』、『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』)

・復讐(『狼よさらば』)

・堕落と野心(『アマデウス』、『市民ケーン』、『スカーフェイス』)

・悪の暗い側面(『セブン』、『ウォール・ストリート』、『レイジング・ブル』)

・執着心(『アメリカン・ビューティー』、『危険な情事』)


テーマ③:人間関係

 人と人をつなぐ絆で最も強いのは愛情だから、愛情を求める心情は誰にでも理解でき、共感される。当然、ほとんどの映画は、何らかの形でこの強烈なテーマを探求することになる。もし愛情が主題でなければ、なんらかのロマンチックなサブプロットとしてあつかわれることも多い。このテーマは無限に探求され得る複雑さを持つが、一般的なものを挙げると次のようなものがある。


・愛情の獲得(『アパートの鍵貸します』、『恋人たちの予感』、『美女と野獣』)

・愛情の喪失(『アニー・ホール』、『ある愛の詩』、『カサブランカ』)

・利他的な愛(『街の灯』、『フォレスト・ガンプ/一期一会』)

・利己的な愛の悲劇(『イングリッシュ・ペイシェント』、『風とともに去りぬ』、『オセロ』)

・情熱(『ピアノ・レッスン』)

・火遊びの誘惑(『白いドレスの女』、『氷の微笑』、ほとんどのフィルム・ノアール作品)

・友情(『真夜中のカーボーイ』、『リーサル・ウェポン』、『テルマ&ルイーズ』、『E.T.』)

・親の愛(『クレーマー、クレーマー』、『リトルマン・テイト』、『ロレンツォのオイル/命の詩』)

・動物愛(『ワイルド・ブラック/少年の黒い馬』、『フリー・ウィリー』、『黄色い老犬』)



 今回は、


・テーマとは何なのか

・テーマがなぜ必要なのか

・普遍的なテーマ(3種類)


について解説しました。

 次回も引き続きテーマについて掘り下げていきましょう。キーワードは「語るな、見せろ」です。「テーマを語らず見せるための9つの技」として具体的なテクニックを紹介します。

 コンセプト篇から引き続き『「感情」から書く脚本術 心を奪って釘づけにする物語の書き方』を引用していますが、本書はコンセプトやテーマを学ぶにはこれ以上ない最良のテキストとなっていますので、本連載とあわせてぜひ読んでみてください


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