テーマは「語るな、見せろ」
前回に引き続き「テーマ」篇です。
ハリウッドの脚本の世界では、「語るな、見せろ」という格言があります。今回は「テーマを語らずに見せる方法」について考えてみましょう。
「語るな、見せろ」の法則は、「テーマ」だけでなく、物語のいろいろな場面で(例:キャラクターの性格を表現するとき)で重要になってきますので、この機会にぜひ身に付けておいてください。
「語るな、見せろ」という金言は、もう耳にタコかもしれないが、感情のツボについて考えるときは、とても重要なことだ。感情を見せろ。キャラクターが感じていることをト書きや台詞で伝えてはいけない。例えば、「私は君に対して怒っているんだ」なんて語らせないように。行動として怒りを表すか(張り手)、説明的でない台詞で見せよう(「触らないで!」)。改稿のときに鼻につく台詞を洗い出し、能動的な行動かサブテクストに感情を忍ばせて、感情を見せるのだ。
――『「感情」から書く脚本術 心を奪って釘づけにする物語の書き方』
人物のアークには「見せろ、語るな」の原則が当てはまる。人物が変化したことを説明せず、人物が悩みながら進む姿を描写し、読者に変化を感じ取ってもらえるようにする。「ある朝、目覚めた途端に気づいた」では納得してもらえない(超常現象のストーリーが単調になりがちなのは、主人公が第六感や啓示などで一瞬にして何かを知るからだ)。
(中略)
見せろ、語るな。描写しろ、説明するな。適度なタッチでベストセラーを目指そう。
――『工学的ストーリー創作入門 売れる物語を書くために必要な6つの要素』
とりわけ「テーマ」を表現する際には、「語るな、見せろ」の法則が重要になってきます。前回解説した通り、テーマとは「作品が伝えたいメッセージであり、道徳的真実であり、その物語の存在価値」です。テーマをキャラクターに語らせてしまうとどうなるでしょうか。そう「説教」です。読者は「説教」を読みたいわけではありません。「語るな、見せろ」の法則は、「説教するな」ということでもあるのです。
ドラマの脚本において説教は嫌われる。なぜならテーマを教えようとしてお仕着せがましいからだ。「語るな、見せろ」ということを、脚本家なら知っているべきなのだ。脚本を読んだ人に言葉で教えるのではなく、アクションを、つまり登場人物の行動を通してテーマを見せる。そして読者に心でテーマを感じてもらうのだ。人としての在り方とか人生の送り方といったことについて、あなたが確信を持って伝えたいことを、ドラマに仕立てて伝えるのだ。でも重く構えてはいけない。登場人物に「俺のメッセージを聞け!」などと叫ばせてはいけない。アイスティーを甘くする要領だ。普通の砂糖を投入しても、砂糖はコップの底に沈み、上は苦いのに底だけ甘ったるいアイスティーになる。ガムシロップのような甘味料を使えば、上から下まで均一に甘くできる。つまり、あなたが伝えたいメッセージは「甘味」のようでなければならない。アイスティーという物語の中に、完全に溶け込ませてその存在が気づかれないようにしなければならない。
――『「感情」から書く脚本術 心を奪って釘づけにする物語の書き方』
テーマを「語らずに見せる」にはどうしたらよいのでしょうか。たびたび引用している『「感情」から書く脚本術』では、「テーマは、物語のサブテクスト、つまり物語の底を流れているものであった方が良い」と述べています。
本書では映画作品の例が挙げられています。
・『E.T.』…少年が宇宙人の帰還を助ける話
→テーマ:信頼と友情
・『ターミネーター』…殺人ロボットから逃げる女性の話
→テーマ:暴走するテクノロジーへの警鐘
・『テルマ&ルイーズ』…犯罪を犯してしまった2人の女性が逃亡する話
→テーマ:自由とはなにか
もう一度言うが、テーマは物語の背後で反響するべきで、最初から最後まで見えてはいけない。その最高の方法は、感情を通してテーマを伝えることだ。人は説教されても効率よく学ばない。感情的に巻き込まれたときに学ぶのだ。巧い映画は、観る者を感動させながら人生について教えてくれる。テーマが深いほど、感情も深くなる。かつてプラトンは、語り部は社会の脅威となるので、禁止すべきだとすら説いたほどだ。語り部も哲学者と同様アイデアをあつかうが、哲学者と違って公明正大にはやらない。感情を駆使した術による誘惑の中に、アイデアを忍び込ませてしまうのだ。作家もその術を使う。それが語りという芸術だ。書くものが小説でも、テレビ・コメディでも、マンガでも、脚本でも、同じこと。アリストテレスは、すべての芸術には2つの目的があると説いた。喜ばせることと、教えることだ。脚本家は、物語で喜ばせ、テーマで教えるのだ。
――『「感情」から書く脚本術 心を奪って釘づけにする物語の書き方』
では今回の本題「テーマを語らず見せる」方法について解説していきましょう。参考図書はもちろん『「感情」から書く脚本術』です。
本書には「テーマを語らず見せるための9つの技」が紹介されています。まずはこの9つの技を箇条書きで紹介します。
①テーマを話の前提ではなく、問いかけにする
②テーマを感情で包んで、そこからアイデアを引き出す
③主人公の心が求めるもの、そして主人公の変化の過程をテーマにする
④肯定的なことは主人公を、否定的なものは敵役を介して伝える
⑤サブプロットを通してテーマを伝える
⑥複数の登場人物にテーマの一部を背負わせる
⑦伝えたい真実に負けない力強い反論を提示する
⑧テーマを会話に織り込む
⑨テーマをイメージ、ライトモティーフ、または色彩で伝える
この9つをすべて紹介すると長文になってしまうので、ここではカクヨムユーザーの方にオススメの技(③④⑧)に絞って紹介したいと思います。残りが気になる方はぜひ『「感情」から書く脚本術』を読んでみてください。なおこのうち⑨は映画(=視覚メディア)を前提にしているので、小説の場合には応用が難しいと思います。
③主人公の心が求めるもの、そして主人公の変化の過程をテーマにする
【内容紹介】
高慢で自己中心的なTVの人気予報官フィルは、“聖燭節"の取材のためペンシルバニア州パンクスタウニーを訪れる。無事に取材を済ませたフィルであったが、吹雪が町を直撃し、足止めを喰ってしまう。しかし、その翌朝フィルが目覚めてみると昨日と同じ“聖燭節"のお祭が行われ、その翌日も……。
タイムラビリンスに迷い込んだ事に気付いたフィルであったが、逆にこれを利用し魅力的な女性プロデューサー、リタを口説く事を思いつく。
日に日に上達するフィルの口説きのテクニックに、はたしてリタは…?
あなたが書いた物語が直面する問題を解決するために、主人公が下さなければならない感情的決断は何か。そこにあなたのテーマがある。物語は人間というものの真実を伝えるのだから、そして物語は人間のことを語るのだから、主要な登場人物の内面的変化にテーマを背負わせるのは、誰もが使う手なのだ。もしテーマが贖罪なら、映画の終わりで主人公の罪は償われるのかもしれないし、償われないのかもしれない。どうなるかは、あなたがどういう話を語ろうとしているか次第。もし人の精神の勝利がテーマなら、主人公の内面的な旅路は、敗北から勝利への旅となるはずだ。このテーマの最高の見本の1本は、隠れたロマンチック・コメディの傑作、『恋はデジャ・ブ』だ。主人公は、自己中心的で、傲慢で、皮肉屋のテレビの天気予報士。この男が呪い(見ようによっては祝福)をかけられて、人生を正しく生きられるようになるまで同じ日を繰り返す羽目になる。その過程で男は酷い目に会い続けるが、少しずつ自分を変える勇気を手にし、やがてまっとうな大人の男に変身する。死ぬような目に会った口惜しさを乗り越えた人は、義を通し、まっとうに生きられるように変わることができるという本質的な人生の真実が、物語の中から浮かび上がる。しかし、脚本家はこのメッセージを前に出すことはせず、あくまで狼狽、絶望、寛容、共感へと変わっていく主人公の成長から焦点を外さない。主人公の内面的な成長を全面に出すことで、この映画のメッセージは説明される代わりに、感情的に心に響くのだ。
――『「感情」から書く脚本術 心を奪って釘づけにする物語の書き方』
④肯定的なことは主人公を、否定的なものは敵役を介して伝える
【内容紹介】
インディと彼の元恋人で勝ち気な性格のマリオン・レイブンウッドはナチスと戦い、蛇の大群など数々の罠を切り抜け、アーク《聖櫃》を求め世界中を旅する。
テーマを上手に物語に滑り込ませる技として、主人公がたどる道のりにポジティブなものを浮き彫りにさせ、他方、敵役にはその暗い側面を背負わせるという手がある。つまり、主人公と敵役が1つのテーマの両面を背負うのだ。あなたが選んだテーマの陽の側面は、主人公がたどる道のりによって見せ、陰の側面は敵役が見せる。名作『カッコーの巣の上で』は、この手法を有効に駆使している。主人公のマクマーフィーは自由を象徴する一方で、看護師ラチェットは人間の精神を抑圧する者を象徴する。他の映画でも、2人の登場人物が対決する場面では、この技によって両者が対比される。いがみあいでも良いし、酒やコーヒーを飲みながらでも構わない。そのような場面では、「君と私は、よく似ている」といった台詞が使われる。例えば『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』では、1杯交わしながらベロックがインディ・ジョーンズに言う。「君と私はとても良く似ている。君も私も考古学を神と崇めている。しかし、君も私も純粋な信仰の道からは外れてしまった。君のやり方は私のとは違うと思いたいようだが、そうでもない。私は君の影なのだよ。ちょっと背中を押してやれば、光から外れて君も私と同じになる」。映画のクライマックスで、ベロックが聖櫃の蓋を開けたとき、この物語のテーマは確たるものになる。インディはマリオンに「見るな! 目を開けちゃ駄目だ、マリオン! 何があっても見るな!」と言う一方で、執着心丸出しのベロックは聖櫃が発する光の美しさに魅入る。そして悪役たちは炎に焼かれ、ナチスの兵士たちは神聖な力を弄んだ罰を受けて消滅する。超自然の力に対する畏敬の念を失わなかったインディとマリオンだけが、生き残るのである。見せられると、人はよりその場面に巻き込まれやすくなるからだ。その場面の意味を言葉で語られても退屈なだけ。だから自分で答えが出せるように見せて、参加してもらうのだ。キャラクターの体が怒りに震えたり、粗暴な行動を取るのを見る方が、「彼は怒っている」と読むより何倍も面白い。可能な限り見せること。
――『「感情」から書く脚本術 心を奪って釘づけにする物語の書き方』
⑧テーマを会話に織り込む
【内容紹介】
豪邸で隠居生活を送るサイレント映画時代の伝説的女優と、彼女が自身の為に書いたシナリオの修正を任された売れない脚本家。
ジゴロ気取りで邸宅での日々を過ごしていた脚本家が、仕事だけではなく私生活すら束縛されることに怒りを感じはじめた時、悲劇を迎えてしまう……。
会話で間接的にテーマに言及するのも、よく使われる技だ。しかし何度も言うが、あまり直接的にならないように気をつけなければいけない。場面の状況に対して不自然でなければ問題はない。会話そのものではっきり伝えるよりも、サブプロットの中で巧く仄めかせれば、それが一番良い。この技は『カサブランカ』の主人公リックの「他人事に首を突っ込むのはご免だよ」という台詞で巧く使われている。この台詞が節々で使われることで、孤立主義対利他主義という映画全体のテーマが、その都度強化されるようになっている。『サンセット大通り』でも、テーマを孕んだ見事な台詞がある。自己欺瞞、自己愛、名声、貪欲、そして精神的空虚というのがこの映画のテーマだが、主人公ノーマ・デズモンドとジョー・ギリスの間で交わされる名場面にそのすべてが集約される。「あなたは無声映画女優だったノーマ・デズモンドさんですよね? 昔は大スタアだった」。「今でも大スタアよ。小さくなったのは映画の方」。台詞が新鮮で、鼻につかなければ、このように会話でテーマを伝えることもできるのだ。
――『「感情」から書く脚本術 心を奪って釘づけにする物語の書き方』
さて、ここまで「語るな、見せろ」について学んできましたが、映画のようなビジュアル表現を使えない小説で「見せる」とはどういうことなのか、と疑問に思った方もいるかもしれません。その疑問を解消すべく『脳が読みたくなるストーリーの書き方』から引用してみましょう。本書は創作におけるさまざまな誤解や通説を「神話」であるとし、脳科学的な見地から本当は何をすべきなのか(その言葉は本当は何を意味にしているのか)という「現実」を教えてくれます。いわば科学的「神話退治」の本です。
古くから言われる「語るのではなく見せろ」という言葉にはこうした意味があるのだが、物語執筆の金言としては、実際にはびっくりするほど誤解されている。
「語るのではなく見せろ」は、作家が最初に教えられる言葉のひとつだと思う。優れたアドバイスだ。ただ、それ以上の説明がないまま文字どおりに受け取られ、「見せろ」とは映画のように視覚的に見せろという意味だと誤解されがちだ。「ジョンが悲しんでいることを語るな、見せろ」と言われたら、作者は何時間も費やして、「ジョンの涙は、あたかも地下室に流れ込んでくる豪雨のように、ジョンが長いこと抱えてきたすべてをキラキラと放出させ、彼から力を奪い、猫を溺れさせんばかりに流れた」などと書いてしまうかもしれない。違う、違う、違う! 読者が見たいのはジョンの泣く姿(結果)ではなく、何がジョンを泣かせたか(原因)なのだ。
「見せろ」が意味するのは、ほとんどの場合、「出来事がおのずから展開するのを見せろ」ということだ。
(中略)
簡単に言えば、「語る」とすると読者の知らない情報から引きだされた結論を参照することが多くなるが、「見せる」のであれば、登場人物がその結論にどうやってたどりついたかを示せる。要するに、「語るのではなく見せろ」とは、「登場人物の思考の流れを見せろ」という意味合いが強いのだ。
――『脳が読みたくなるストーリーの書き方』
さて、上の引用は一見「テーマ」とは無関係のように見えます(「キャラクターの感情」についての記述なので)。しかし、テーマとキャラクターには非常に大きな関係があります。繰り返しになりますが「登場人物の行動を通してテーマを見せる」ことが非常に重要なのです。上に紹介した9つの技の多くがキャラクター(主に主人公)の体験やアクションと密接な関係があるのはそのためです。
主人公が学べば読者も同じ学びを得る。それでテーマが伝わる。
(中略)
主人公にとっては、ストーリーが学びの場だ。主人公が学ぶ場面があるからだ。
どこかのセミナーで講師が「見せろ、語るな」と言っていたなら、このことだ。「見せろ」とは主人公の体験を描けということだ。
――『工学的ストーリー創作入門 売れる物語を書くために必要な6つの要素』
さて、今回はテーマを「語らず見せる」方法について解説しました。次回もお楽しみに。
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