『キャラクターからつくる物語創作再入門 「キャラクターアーク」で読者の心をつかむ』の3つの要点

 この「要点編」では、これまでトピックごとに部分的に引用・紹介してきたフィルムアート社の創作系書籍を一冊ずつ、押さえておきたい「3つの要点」にフォーカスして改めて紹介していきます。

 今回紹介するのはこちら。


書名:キャラクターからつくる物語創作再入門 「キャラクターアーク」で読者の心をつかむ


著者:K.M.ワイランド

発売日:2019年03月26日|A5判|248頁|本体:2,200円+税|ISBN 978-4-8459-1822-5

本書を読み解くキーワード:キャラクターアーク、三幕構成

レベル:初心者 ★★★☆☆ 上級者


 フィルムアート社刊行の創作系書籍の中で、最も評価されているシリーズのうちのひとつがK.M.ワイランドによる一連の著作です。現時点でフィルムアート社から以下の5点が刊行されています。


画像はhttps://www.kmweiland.com/about-k-m-weiland/より引用


K.M. ワイランド (K.M.Weiland)

アメリカ合衆国ネブラスカ州出身。インディペンデント・パブリッシャー・ブック・アワードを受賞する他アメリカ国内でその実績が高く評価されている。『アウトラインから書く小説再入門』『ストラクチャーから書く小説再入門』『キャラクターからつくる物語創作再入門』『〈穴埋め式〉アウトラインから書く小説執筆ワークブック』『テーマからつくる物語創作再入門 ストーリーの「まとまり」が共感を生み出す』(以上フィルムアート社)など創作指南書を多数刊行。また作家としてディーゼルパンク・アドベンチャー小説『Storming』や、中世歴史小説『Behold the Dawn』、ファンタジー小説『Dreamlander』等、ジャンルを問わず多彩な作品を発表している。ウェブサイト「Helping Writers Become Authors」やSNSでも情報を発信中。


『アウトラインから書く小説再入門 なぜ、自由に書いたら行き詰まるのか?』

『〈穴埋め式〉アウトラインから書く小説執筆ワークブック』

『ストラクチャーから書く小説再入門 個性は「型」にはめればより生きる』

『キャラクターからつくる物語創作再入門 「キャラクターアーク」で読者の心をつかむ』

『テーマからつくる物語創作再入門 ストーリーの「まとまり」が共感を生み出す』


 K.M.ワイランドの創作本の大きな特徴は、小説執筆に関するさまざまなトピック(「アウトライン」「ストラクチャー」「キャラクター」「テーマ」)を一冊丸ごと使って徹底的に掘り下げている点にあります。多くの創作本が創作に関するいろいろなトピックをひととおり網羅している「網羅型」であるのに対し、K.M.ワイランドの創作本はいわば「特化型」といえます。特化している分、そのトピックについて多くの事例を交えながら非常にわかりやすく詳細な解説がなされています。

 また、K.M.ワイランドの著作は、それぞれが相互補完的につながっているのも特徴のひとつです。ぜひすべての著作に目を通してみてください。


 今回は「キャラクター」について特化した一冊『キャラクターからつくる物語創作再入門 「キャラクターアーク」で読者の心をつかむ』の要点を3つにまとめました。

 一般的に「キャラクターを描く」といった場合、そのキャラクターの外見や性格、職業、好み、特技、家族関係、友人関係などを設定する(まるで履歴書を埋めていくような)作業をイメージするかもしれません。しかし本書ではそのようなアプローチは採用しません。本書では「キャラクターがたどる変化の軌跡」すなわち「キャラクターアーク」を使ってキャラクターを描く方法を解説しています。日本ではまだあまり馴染みのない考え方かもしれませんが、キャラクターアークを習得できるかどうかで物語の質が大きく変わります。ぜひ本書で学んでいただければと思います。


■要点その①:「キャラクター」と「構成」の関係がわかる


 物語創作に関する二大トピックといえば、「構成」と「キャラクター」とだいたい相場が決まっています。構成については「起承転結」「序破急」「三幕構成」「ブレイク・スナイダー・ビート・シート(=BS2)」「英雄の旅(ヒーローズ・ジャーニー)」など数多くのテンプレートが存在します。メソッド化しやすいということもあり、構成は物語創作の花形トピックといえるでしょう。いっぽうキャラクターに関しても、穴埋め式の質問表やアーキタイプ、エニアグラム、果てはタロットを使った創作法など、豊富なバリエーションが存在します。しかし「キャラクターと構成がどのような関係にあるのか」について教えてくれる本(やウェブサイト)はなかなかありません。本書を読めば、両者の関係、つまり「キャラクターと構成は同じものだ」ということが理解できます。

 物語を作る時、人物とプロットを分けて考える人は多いでしょう。すると、プロットの運びを重視したい局面で、人物の心情を二の次にする時も出てきます。でも、プロットと人物は一心同体。どちらか一つをおろそかにすればストーリーは危機に陥ります(また、両者を切り離して考えるだけでも危険です)。プロットだけが褒められる作品、あるいは人物像だけが褒められる作品は書けるかもしれません。しかし、総合的に素晴らしいまとまりがある作品は書けるでしょうか。

 プロットの構成を考える人はたくさんいますが、登場人物とそのアークに対する意識は曖昧になりがちです。というのも、人物を素直に描いていけば心情の移り変わりは自然に表れるはずですから。「キャラクターの内面の変化や成長の推移も構成して下さい」と言われたら、物語を書くのもなんだか窮屈に感じられそうです。

 確かに、そうです。内面の移り変わりまで考える必要はなさそうですよね。

 実は、それは誤解なのです。「プロットと人物は一心同体」というのはプロットの「構成」と人物の「アーク」が一体だということ。

――『キャラクターからつくる物語創作再入門 「キャラクターアーク」で読者の心をつかむ』


 キャラクターと構成が同じものである、という考え方は、ハリウッドの脚本の世界ではよく知られています。ハリウッドで最も影響力のあるストーリー・コンサルタントとして知られるロバート・マッキーは著作で次のように述べています。

 プロットか、登場人物か。どちらが重要だろうか。これは芸術が生まれて以来の論争だ。アリストテレスはこのふたつを秤にかけ、まずストーリー、つぎに登場人物だと結論をくだした。この意見は長きにわたって優勢だったが、小説の進化とともに振り子は反対側へ振れた。19世紀になると、構成とは人間性を表現するために設計された器にすぎず、読者が求めているのは魅力的で複雑な登場人物だという考えが多く見られるようになった。今日に至っても議論はつづき、結論は出ていないが、その理由は単純だ。空疎な議論だからだ。

 

――『ストーリー ロバート・マッキーが教える物語の基本と原則』


 本書の前提には「キャラクターと構成は同じものである」という考え方があります。「キャラクターアーク」を描くということは、キャラクターと物語の構成とがしっかりとシンクロし機能するということを意味します。すなわち、三幕構成のどの部分でどういうキャラクターの変化を描くのか、が重要なポイントになってくるのです。

 人は変化を嫌います。「人生を変えたいと思っていても、いざとなると心が揺れる。そして結局、『このままでいる方が楽だ』と思う自分に気づきます」。物語においても同様です。主人公は変化を嫌い、それに抵抗しようとします。抵抗は「対立や葛藤」を生みます。コンフリクト(=対立や葛藤)は、物語の構成を考えるうえで必要不可欠な要素とされています。キャラクターアークを描くためには、対立や葛藤について、つまり物語の構成について考える必要があるのです。キャラクターと構成が同じものである、ということが「対立や葛藤」という論点からも確認できるのです。


■要点その②:キャラクターアークの3つの基本形


あらためてキャラクターアークの定義を確認しておきましょう。


【キャラクターアークとは?】

キャラクター(主人公)がたどる変化の軌跡


 キャラクターが変化する、とはいったいどういうことなのでしょうか。本書で紹介されているキャラクターアークの基本形は次のとおりです。


1 主人公がある状態で登場する。

2 主人公が物語の中で何かを学ぶ。

3 主人公が(おそらく)前よりよい状態になる。


 物語が開始した時点の主人公と結末の時点での主人公とを比べると何かが違っています。その違いが変化です。読者はこの主人公の変化の過程に感情移入をします。つまり、読者が物語に惹き込まれるのは、キャラクターアークがあるからなのです。言い換えると、キャラクターアークのない物語では、読者の気持ちを掴むことができないということです。

『新宿鮫』シリーズなどで知られるベストセラー作家、大沢在昌さんの『小説講座 売れる作家の全技術』(KADOKAWA)には、次のように書かれています。

 小説というのは、ストーリーの進行によってキャラクターに変化を生じさせるものだと私は思っています。物語の始まりと終わりで主人公がまったく変わらないという小説は、まずない。ストーリーが進むにつれて主人公は変化する、ストーリーが登場人物を変化させていく、この変化の過程に読者は感情移入するんです。主人公の感じる怒りや悲しみ、喜びを、読者が共有する、これは非常に大事なポイントです。

(中略)

 変化の過程に読者は感情移入する。これをしっかりと意識して小説を書くべきです。物語のあたまと終わりで主人公に変化のない物語は、人を動かしません。もう一度言います。「」。これから物語を作るときには、主人公にどんな変化を起こさせるのかということを意識してストーリー作りに取りかかってください。キャラクターとストーリーが有機的につながるとは、まさにこういうことなんです。

――大沢在昌『小説講座 売れる作家の全技術 デビューだけで満足してはいけない』(KADOKAWA)


 キャラクターアークがハリウッドの脚本世界だけで使われているものではないということが分かっていただけたでしょうか。キャラクターアークという言葉こそ使ってはいませんが、作家デビューから40年以上経つ日本の大ベストセラー作家、大沢在昌さんも同様のことを述べているのです。

 そのキャラクターアークには3つの基本形があります。


【キャラクターアークの3つの基本形】

①ポジティブな変化のアーク

最も好まれ、共感を得るアークです。何かに対して不満や否定的な考えを抱く主人公が困難に出会い、自分の中のネガティブな側面を克服(その結果、敵対者も倒す)。主人公がポジティブな変化を遂げ、ストーリーが終わります。


②フラットなアーク

初めから主人公のあり方がほぼ完成されているアークで、これも人気作品に多いパターンです。ヒーローは大きな成長や変化をほとんど必要としないため、アークはフラット(平坦)であり固定的。むしろヒーローに触発された脇役たちが成長し、周囲をとりまく世界が変化します。


③ネガティブな変化のアーク

多くのバリエーションがありますが、基本的には「ポジティブなアークの逆」で、人物が転落します。ポジティブなアークでは欠点がある人物がよい方向に成長しますが、ネガティブなアークの人物は最初よりも悪い状態になって終わります。


■要点その③:キャラクターアークのテンプレート


 本書では、3つの基本形のうち、最もよく使われる「ポジティブな変化のアーク」を中心に、キャラクターアークを作るにはまず何を考えればいいか、ストーリーの構成とはいつ、どのように関係し合うのか、キャラクターアークはどんな働きをするか、作品の長さや内容、ジャンルに関わらず、優れたキャラクターアークを確実に作る秘訣とは何か、などの論点についてじっくりと解説しています。

 本書は、ハリウッド式の三幕構成をベースにしているので、日本流の「起承転結」や「序破急」で物語の構成を考えている方にとっては、少しとっつきにくいところがあるかもしれませんが、本書ではキャラクターアークとともに三幕構成の基本的な部分を学ぶことができるのでその点は安心してください。

 では、ポジティブな変化のアークとはいったいどういうものなのでしょうか。ここでは要点だけ押さえておきます(実際にはそれぞれの項目について詳細な解説があります)。三幕構成を使うことにより、物語のどの時点で(全体の何%時点で)、主人公に何をさせるべきなのか(主人公のどういう状態を描けばよいのか)が一目でわかります。ぜひ下のテンプレートを覚えておいてください。


【ポジティブな変化のアーク】


▼第一幕(1%~25%)


1%:フック(つかみ)――「噓」を信じる

 主人公は「噓」を信じています。その「噓」の考え方や価値観は、「普通の世界」で必要とされているか、あるいはうまく機能しています。



12%:インサイティング・イベント(契機事件)――もはや「噓」が通用しないことの最初の気づき

 主人公は「冒険への誘い」の局面に遭遇。物語のメインコンフリクトと出会います。これまでのように「噓」がうまく働かないことが、かすかな気づきとして表れます。


25%:プロットポイント1――「噓」が通用しなくなる

 第一幕の「噓」だらけの「古いやり方」は、メインコンフリクトには通用しません。主人公は選択に迫られます。まだ「噓」の無力さを認識してはいませんが、「後戻りできない扉」をくぐります。もう「普通の世界」には戻れません。主人公はメインコンフリクトが展開する「冒険の世界」の第二幕へ入ります。


▼第二幕( 25%~75%)


37%:ピンチポイント1――「噓」を使って罰せられる

「噓」に従った主人公は「罰」を受けます。「普通の世界」にいた頃は、「噓」を使えばWANTが得ら

れると思っていました。でも、第二幕でそうはいきません。第二幕前半での主人公はずっとこの調子で、「噓」に基づく古いやり方で目的地を目指しては「罰」を受け続けます。


50%:ミッドポイント――「真実」に触れるが、まだ「噓」を拒まない

 主人公は「真実の瞬間」に遭遇。テーマの「真実」を目の当たりにします(プロットで起きている対立や衝突についての気づきと重なっていることが多いです)。初めて「真実」の力を意識しますが、まだ 「真実」と「噓」が相容れないことに気づきません。その両方を第二幕後半で使おうとします。


62%:ピンチポイント2――「真実」を使って報酬を得る

 主人公は「真実」を行使して「報酬(よい結果)」を得ます。ミッドポイントでの学びを活かし、「真実」に従う行動で敵対勢力と戦い、自らのWANTを求めます。プロットの最終的な目的地に近づけば近づくほど、成功体験によって「報酬」を得ていきます。


▼第三幕(75%~100%)


75%:プロットポイント2――「噓」を拒絶する

「噓」を完全に払拭できない主人公は、「どん底」に陥ります。そして、ついに、「噓」がもたらす代償に直面。主人公は降参し、「噓」を振り払います。「真実」を完全に受け入れたのも同然です。


88%:クライマックス――「真実」を受け入れる

 WANTをめぐって主人公は敵対勢力と最終決戦。その直前あるいは戦いの最中で「真実」を意識し、

はっきりと受け入れます。


98%:クライマックスの瞬間――NEEDを得るために「真実」を使う

 主人公はNEEDを得るために、「真実」から学んだことを行使します。WANTを獲得する場合もあり

ますが、自分のためにはそれを放棄すべきだと気づきます。そして、敵対勢力との対立をきっぱりと終わらせます。


100%:解決――「真実」の力があふれる新しい「普通の世界」へ

 主人公は新しい「普通の世界」に入るか、元の「普通の世界」へ帰還。「真実」を心の糧にして生きるようになります。


三幕構成の図と合体させると次のようになります。


 本書では、この「ポジティブな変化のアーク」をベースにして、応用パターンである「フラットなアーク」「ネガティブな変化のアーク」についても解説しています。

 さらに巻末には「キャラクターアークについての、よくある質問」が収録されており、一冊でキャラクターアークのすべてが理解できるようになっています。


【キャラクターアークについての、よくある質問】

・人物にふさわしいアークをどう選べばいいですか?

・アークをサブプロットにしてもいいですか?

・「インパクト・キャラクター」とは何ですか? なぜ必要ですか?

・脇役たちにもアークは必要ですか?

・人物に報酬と罰を与えて変化を促す方法は?

・物語にキャラクターアークがない時は?

・シリーズものではキャラクターアークをどう作ればいいですか?


今回は『キャラクターからつくる物語創作再入門 「キャラクターアーク」で読者の心をつかむ』を3つの要点で解説してきました。キャラクターアークに特化した唯一無二の一冊です。ぜひご一読ください。



【目次】


イントロダクション:人物の心の変化をストーリーの中で構成できますか?


一章  ポジティブなアーク


1 人物が信じ込んでいる「噓」

2 人物の「WANT」と「NEED」

3 人物の「ゴースト」

4 人物の「特徴が表れる瞬間」

5 「普通の世界」

6 第一幕

7 プロットポイント1

8 第二幕の前半

9 ミッドポイント

10 第二幕の後半

11 プロットポイント3

12 第三幕

13 クライマックス

14 「解決」


二章  フラットなアーク


15 第一幕

16 第二幕

17 第三幕


三章  ネガティブなアーク 

  

18 第一幕

19 第二幕

20 第三幕



四章  キャラクターアークについての、よくある質問


21 人物にふさわしいアークをどう選べばいいですか?

22 アークをサブプロットにしてもいいですか?

23 「インパクト・キャラクター」とは何ですか? なぜ必要ですか?

24 脇役たちにもアークは必要ですか?

25 人物に報酬と罰を与えて変化を促す方法は?

26 物語にキャラクターアークがない時は?

27 シリーズものではキャラクターアークをどう作ればいいですか?


訳者あとがき


【お知らせ】

物語やキャラクター創作に役立つ本

https://www.filmart.co.jp/pickup/25107/


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