創作の神様との付き合い方

 今回は以前紹介して好評をいただいた『脚本を書くための101の習慣』に収録されている、創作のプロの習慣や心構えを抜粋して紹介したいと思います。



 今回のテーマは「創作の神様との付き合い方」です。

 ピックアップしたのは「PART2 創造性 創作の神様との付き合い方」から以下の4項目です。


・積極的にアイデアを漁る

・リサーチする

・創作の神様と仲良くする

・アイデアを記録する


「創作の神様」の存在を信じていますか? 突然頭の中に素晴らしいアイデアがひらめいたという経験をしたことがある方もいるかもしれません。アイデアは掃除中や食事中、運転中など、ふとした瞬間に生まれてくる場合もあります。プロの創作者は、ひらめいたアイデアをどのように(忘れないように)記録し、そしてそのアイデアの種をどのように膨らませているのでしょうか。「創作の神様」はどんな習慣をもっている人にやってくるのでしょうか。


 まずは「ネタ探し」と「リサーチ」について、創作のプロはどのように考えているのか見てみましょう。


【積極的にアイデアを漁る】

 皆さんの“師匠”たちは、ネタ切れを恐れたりしない。むしろ彼らの問題は「時間は限られてるのに、アイデアは多過ぎ」ということの方なのだ。アイデアなんてそこら中に転がっている……心さえ開いていれば。自分の興味を知っておこう。本屋に行く時はどの売り場に直行するのか。好きなテレビ番組は何か。待ちきれない映画はどんな映画か。それを自分で把握していればアイデアは次々と湧いてくる。

 もし湧いてこなければ、もっと深く潜ってみればいい。どんなことに閃きを感じる? どんなことを無償に知りたくなる? どんなことで気分を害す? 何が嫌い? 何が好き? このような質問に答えていくと、自分が書くべきことにたどり着くはずだ。

――『脚本を書くための101の習慣 創作の神様との付き合い方』


ロン:私にとってアイデア探しというのは大した意味を持ちませんね。でもそれは特に誇るべきことでもありません。私は“語り部”なんです。いつも私が“最初のアイデアを思いついた人”というわけではありません。アイデアの元はどこにでもあります。それは個人的体験かもしれないし、一緒に仕事をした人かもしれない。私の脚本を買ってくれる人がアイデアの源となることもしばしばです。何か発想をもらって、それを元にストーリーを書くんです。「貝が砂粒の周りに真珠を作る」という昔の言い伝えみたいなものですね。


アキヴァ:ネタ探しなんか私には時間の浪費です。世界はアイデアの宝庫だと思います。いつも心を開いていれば向こうから来ます。素晴らしいアイデアは飛びついて来ますよ。そんなのが取りついてきたら、いつか間違いなく使いますよ。


スコット:アイデアは数えきれないほどあるから、それを全部使えないことにイライラさせられる。いつか新人脚本家を雇って、私のアイデアを基に私の監修で初稿を書かせたいものだね。


エド:経験から言うと、心を開いておけばアイデアは向こうから来る。探しに行くと、来ない。身の周りの世界を受け入れる態度をもっていれば、アイデアはどんどん引き寄せられてやってくる。「書けば書くほど書けるようになる」と言うのは私にとってはその通りで、考えれば考えるほど、書けば書くほど、アイデアが出て来る。大事なのは、出てきたアイデアには肥しをやったり、水をやったり、時にはひん曲げてみたりすることだね。



【リサーチする】

 グーグルやウィキペディアやIMDb [インターネット・ムービー・データベース]を始めとして、何百万というウェブサイトが一般的になった今の世の中では、情報は身近で、あまりに楽しすぎて、情報依存になるのも無理はない。それがどこかの国や街または職業や歴史についての情報でも、あなたが書いている場面に命を吹きこむ魔法の言葉でも、インターネット上なら数回のクリックでたどり着けることも多い。リサーチはしかし、“さぼり”の隠れ蓑になってしまうことがよくある。知らぬ間に、本来書くことに費やすべき貴重な時間を浪費しているということがないように自重しなければならない。

――『脚本を書くための101の習慣 創作の神様との付き合い方』


スティーブン:リサーチは可能な限り後でやることにしている。創作の波に乗っている時には邪魔な作業だからね。どこかの街について書いているとしよう。その時は地図を眺めて、その街について書かれた短い文章を読んで当座をしのぐよ。細かいことは後で調べる。感情的な場面を書いている時に席を立って、どこかの街のことを調べるために図書館になんか行きたくないからね。


レスリー:誰でもリサーチに没頭して、肝心の執筆がお留守になる可能性があるわけです。最近まで私はリサーチを全然したこともありませんでした。知ったかぶりで切り抜けてきたんです。特に喜劇を書く時は、何よりお客さんが楽しんでくれることの方が重要ですから。コメディを書く時は、例えば『インサイダー』のような映画を書く時に知っていなければならない事実関係とか膨大な知識は必要ないのです。私の知っている脚本家で、リサーチに半年もかけた人がいました。お陰で順調だった仕事の勢いが止まって、お声がかからなくなってしまったんです。



 創作のプロは「リサーチ」にに警鐘を鳴らしています。本書『脚本を書くための101の習慣』の別の個所では「創作の神様は気まぐれなので、創作の邪魔になるものは最低限に押さえておこう。電話、新聞、テレビ、インターネットや、そして友達も家族も。」とあります。リサーチのし過ぎは時として創作の邪魔になってしまう可能性を秘めているのです。

 いうまでもありませんが、「リサーチ」という行為自体が不必要だということではありません。同じ「CHAPTER6」には、「インプットを絶やさない」という項目があり、以下のように書かれています。


スティーブン:私は新聞の切り抜き狂なんだ。仕事部屋の壁の一面はファイルキャビネットで埋めつくされ、並んだキャビネットの半分は切り抜きが収納されている。興味を覚えたものは何でも切り抜く。とんでもない犯罪の記事。賢い犯罪。間抜けな犯罪者や強盗の記事。最新技術や警察の捜査法や兵器など。後で実を結ぶかどうかは考えずに、いつも欠かさずリサーチをしている。インターネットのお陰で信じられないような情報にもアクセスできる。毎日30分、あらゆるニュース・サイトを見て回る。助手にもあまり人目を引かなかったニュースや記事を探させているよ。



 リサーチの重要性を説いた本は数多くあります。この連載で何度も登場しているシド・フィールドもリサーチは大事だと繰り返し述べています。ここで本書が伝えたいことは「リサーチ」にの危険性です。「ネタ探し」や「リサーチ」は、その行為自体がとても楽しいものであるだけでなく、「やってる感」もあるため、ついつい多くの時間をかけてしまいがちです。

 もし「創作の波に乗っている」状態になったなら、ネットの世界から少し距離を置いて、その勢いを失わないようにしてください。



【創作の神様と仲良くする】

 脚本家たちは、おそらくは無意識のうちに創作力を育てる環境に身を置き、無意識の力を借りて作品を磨くコツを心得ている。濁流のようにアイデアがほとばしり出るのはどんな時か“師匠”たちに聞いてみると、こんな答えが返ってくる。運転中、シャワー中、入浴中。何か単純作業中、例えば、髭剃り、化粧、料理、ガーデニング、エクササイズ。森林浴中かもしれないし、水泳やジョギングをしている時かもしれない。読書中にもアイデアは出て来るし、音楽を聴いている時もトイレで座っている時も、退屈な会議中にメモ帳に落書きしている時もアイデアは浮かぶ。眠ろうとしている時、目が覚める時。特に深夜にはアイデアが出る。これを“規則的な閃き”と呼ぶこともできる。閃きを起こしやすい活動を意識して、日課にしてしまうのだ。そうすれば、無意識の高まりがもたらす閃きを、意識的にしかも定期的に期待できるようになる。

――『脚本を書くための101の習慣 創作の神様との付き合い方』



ロン:私は早起きで、以前は3時に起きていました。今は4時です。でも、執筆は起床前から始まっています。3時台にまだ横になっている時に、特定の場面のことを考え始めます。考えているとやがて覚えきれないほどアイデアが出てきて、そうなったらもう起きて書くしかないわけです。


デレク:自分が一番効率よく働ける時間は午前中だから、インターネットの接続を切って仕事を始めるよ。


マイケル:その時一番聴きたい音楽を探して、大音響でかける。僕は短時間で一気に書く。これを繰り返す。45分間憑かれたように書くのは、無理やり5時間書くよりよほど効果的なんだ。


ジム:寝る前と起きる前の1時間ほどを集中して考えることに使う。でもアイデアはいつ出てくるかわからないから、どこへでもメモ帳を持っていく。


エイリン:他の皆みたいに何か儀式があったらいいな、と思いますけどね。でも長年の経験から私には“創作の神様”を呼ぶ力はないらしいです。ただ座って仕事、それだけです。



 創作のプロフェッショナルたちは、しばしばルーティン(=日課)や規則正しい生活がクリエイティブにとっていかに大事であるかについて語っています。執筆の時間帯が朝なのか夜中なのか、が重要なのでなく、執筆という行為をルーティンとして日常生活の中に組み込めるかどうか、そして毎日を規則正しく過ごすことができるかどうか、が非常に重要なのです。

 ここで、小説家、詩人、芸術家、作曲家、映画監督など、古今東西のクリエイティブな人物161人が、どのようなルーティンを持っていたのかをまとめた一冊『天才たちの日課 クリエイティブな人々の必ずしもクリエイティブでない日々』からルーティンと創作についての記述を引用しましょう。

 紹介するのは、詩人のW・H・オーデンの日課です。


「習慣は聡明な人間においては野心の表れである」 詩人のオーデンは1958年にそう書いている。もしそれが本当なら、彼自身、同世代の人間のなかでも相当の野心家だったといっていい。オーデンは極端に時間にうるさく、生涯を通じて細かいスケジュールにそった生活を送った。「彼はしょっちゅう腕時計を見る」 オーデンの客の一人はそう書いている。「食事も、飲酒も、執筆も、買い物も、クロスワードパズルも、郵便配達のくる時間も、すべてがほかのスケジュールに合わせて分刻みで決められている」 。オーデンはそのような軍隊並みのだと信じていた。「現代の禁欲主義者は、欲望を制するいちばん確実な方法は、時間を制することだと知っている」とオーデンは述べている。「その日のうちにやりたいこと、やらねばならないことを決め、それを毎日必ず決まった時間にやる。そうすれば欲望に煩わされることはない」

――『天才たちの日課 クリエイティブな人々の必ずしもクリエイティブでない日々』


 また、『天才たちの日課』では「忘れるな。規則正しい生活習慣がついて初めて、人は真に興味深い活動分野に進むことができ、その結果、意図的な選択をひとつひとつ、まるで守銭奴のように蓄積していける」、「日常のこまごました事柄を、努力せずに無意識に行なえるようにしてしまえば、その分、頭脳に余裕ができ、よりレベルの高い仕事ができるようになる」というウィリアム・ジェイムズ(アメリカの心理学者)の言葉も紹介しています。

 創作の神様(や女神)を、「自分のスケジュールに合うよう手なずける」ために、ルーティンをしっかりと構築することを意識してみてください。働きながら(あるいは学生をしながら)執筆をしている方であれば、毎日、仕事(や学校)がある分、ルーティンを構築しやすいかもしれません。『天才たちの日課』にも、規則正しい生活を送るために、あえて仕事を会社勤めを続けた人物(作家のヘンリー・グリーン)の事例が紹介されています。



【アイデアを記録する】

 いいアイデアは浮かんでは消える。腕の立つ脚本家は、絶対に浮かんだアイデアを逃がさない。経験豊かな脚本家は何でも記録する。脈絡のない考え、ちょっとした観察、人物の素描、偶然聞こえた会話の一部、何でもだ。テレコやノートを常時携帯する人もいるし、そこらへんにある紙に書き殴る人もいる。レコーダーに録音するのが恥ずかしい人は直接紙に書き留める。携帯電話の普及にともなって、自分のメッセージ・サービスにかけてアイデアを録音することも可能になった。運転中は特に便利なのだ[今は携帯そのものに録音できますが]。

――『脚本を書くための101の習慣 創作の神様との付き合い方』


スティーブン:私は“自由連想”が一番だと思っている。いつもA7サイズの小さなカードを持ち歩いて、浮かんだアイデアを書き留める。会話の断片とか、ちょっと目にしたものとかね。いくつかのアイデアがぶつかり合って新しいアイデアになる。アイデアが大量に貯まって抑えきれなくなると、私の頭に電球がピカッと閃いて、1つの物語が生まれるんだ。


エイミー:家中にメモ帳を置いてあります。執筆中にも何か思いついたらすぐに書き殴っておけるように、コンピューター上にも“雑記帳”があります。忘れていたアイデアの詳細や台詞がないかどうか、定期的に読み返します。運転中は覚えておいて後で書こうとしますが、よく忘れます。忘れてしまうような小さなアイデアは大事じゃありません。大事なのは、テーマやプロットやキャラクターに関する大きなアイデアです。何かうまくいっていないことを解決するアイデアがポッと出てきて、それが重要なアイデアなら絶対忘れませんよ。


アキヴァ:私は特別なことはせずに、覚えておくだけです。いいアイデアは頭に残りますから、忘れるようなら大したアイデアじゃなかったということですよ。問題なのは、思いついた瞬間はどれも最高のアイデアに見えるということですね。だから大事なのは、そのアイデアが長持ちするか、すぐに死んでしまわないかということなのです。


 さて今回は、創作のプロの習慣の中から「創作の神様との付き合い方」について紹介してきました。

 創作の神様を「信じる/信じない」は人それぞれだと思いますが、物語の創作(=執筆)というクリエイティブな作業に必要不可欠なものは、規則正しい生活であり、ルーティンの構築です。いたずらに時間をかけてしまいがちな「ネタ探し」や「リサーチ」も、例えば「1日30分」という形で、ルーティンの中に組み込んでしまうとよいかもしれません。

 いつやってくるのかわからない気まぐれな創作の神様ににも、改めて自分自身のルーティンについて考えてみてください。


 ある学生が作家のトム・ロビンスに、どうやったら創作欲がかきたてられるか質問した。ロビンスの答えは「10ね。来る時も来ない時もあるが、来た時はちゃんとそこにいて見つけてもらわないと」。執筆は毎日やるものだと心得よう。食事や睡眠、歯磨きのような日課として。創作の神様のお導きがなくても、誰だってご飯くらいは食べるだろう。“毎日やること”として理由を問うまでもない。執筆も、同じようにできる。

――『脚本を書くための101の習慣 創作の神様との付き合い方』


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