59・理想の結婚
結婚して遠くへ引っ越した姉が、久しぶりに帰省した。
迎えに行った俺は、待ち合わせ場所の喫茶店で姉一人と会う事になった。
「義兄さんは?」
「ゆうちゃん連れてお買い物」
ゆうちゃん、とは姉の娘。可愛らしい少女である。
ハンサムな義兄さんに似たのか。とても可愛らしい。
そう、姉の結婚相手は今時、信じられないほど理想的な結婚相手だった。
性格は穏やかで優しく、顔も良い。
家でパソコンを使った仕事をしているらしいが、それの稼ぎも悪くないようだ。
そして――第一、姉に惚れ抜いている。
俺は近寄ってきたウェイトレスにアイスコーヒーを頼みながら姉をちらりと見た。
結婚出来ないんじゃないか、と親が心配していた姉。
だけど、突然連れて来た義兄さんを親に紹介し、「結婚するから」とあっさり言い切った。
「……どうかした?」
姉が俺を見て言った。
いや、と答え、俺は笑う。
「そういやさ、俺の知り合いの子も今度結婚するんだ」
「あんた幾つだっけ?」
「21」
「21でかぁ。早いね」
「そうだよな。
でも、俺の周り、女の子は結構結婚早いね」
そこまで言って俺は軽く首をかしげた。
「変だなぁ。今、ほら結婚出来ない男が多いって言うだろ? 女の子が足りないって。
俺の周り、これだけ結婚してるのに、何処から男沸いてきてるんだ?」
俺の言葉に。
姉は俺をじっと見て、それから、少しだけ、笑った。
「だって、ねぇ。
今の世の中の男じゃ、理想の結婚なんて、出来ないもの」
「女ってそういうの分かるの早いから、妥協するのよ」
「人間じゃないって妥協しちゃぇば、あとはほら、理想的な結婚相手だもの」
「……………」
俺は沈黙。
姉さんは何を言ってるんだ?
何も言えない俺を見て、姉さんはもう一度笑う。
「あんたも妥協するんだったら、紹介するよ?
旦那の故郷、可愛い女の子たくさんいるから」
あ、と、姉さんが弾んだ声を上げる。
視線を追えば、喫茶店に近付いてくる義兄さんと姪っ子の姿が見えた。
ごく自然な親子の風景。
――人間じゃないって妥協しちゃえば、あとはほら、理想の結婚相手だもの。
姉の言葉が繰り返し、俺の脳内で響いていた。
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