49・家族の風景
ある朝、家族が揃う食卓へと行ってみると、祖母の代わりに等身大の人形が座っていた。
食卓テーブル。そこに向かう椅子。うちは家族が6人だから、椅子は六つ。
私以外の家族は全員、もう揃っている。椅子は五つ、塞がっている。
お父さん、お母さん、お兄ちゃん、妹、そして、おばあちゃんの椅子。
だけど、おばあちゃんの椅子には人形が座っていた。
おばあちゃんに似せて作られている。
だけど、それは明確に人形。
間違いない。
「…お母さん、何、これ?」
「何って何よ? いいから早く御飯食べなさい」
「でも、お婆ちゃんが」
「遅刻するわよ」
お母さんは面倒そうに言って、私のご飯をよそうために立ち上がった。
家族の誰も、おばあちゃんが人形になってしまったのを気にする様子は無い。
私はちらちらとお婆ちゃんそっくりの人形に視線を送りながら、食事を続けた。
学校で。
クラスメートにその話をした。
彼女は軽く目を細め、言った。
「いいんじゃない、静かで。
私、親が何か言うたびに、こいつら人形にでもならないかな、って思うよ」
そういうものなのかな。
翌日は、妹が人形になっていた。
その次の日はお兄ちゃん。
お母さんは何も気にしないように食事を用意する。
人形の服は毎日変わっているから、ひょっとすると、着替えさせているのかもしれない。
翌日はお父さん。
「ねぇ、お母さん」
「何?」
「一応、さようなら、って言っておく」
「は? 何言ってるの?」
翌日、お母さんが人形になっていた。
誰も居ない、人形が並ぶ食卓には食事が整えられている。
酷くシュールな風景。
ぱん、と私は両手を合わせる。
「いただきます」
椅子は六つ。そこに座る六つの人形。
それはそれで幸せな、家族の風景かもしれないなぁ、なんて、私は、きっと恐らく最後の朝ごはんになるだろう食事を味わいつつ考えた。
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