23・運転中の携帯電話


「いやぁさっきさぁ」

 待ち合わせ場所にやってくると同時に、浅野が車のキーと携帯をテーブルに置きながら笑って言った。


「そこのトンネル抜けた所の信号で、電話鳴ってさ。

 出てみたら、後ろの車のヤツ。

 『ライト点いてますよ』だって。

 見ず知らずの俺に、丁寧に教えてくれるんだぜ? 親切なヤツも居るもんだなぁ」





 その話を聞いて、俺と片桐はふぅん、と頷き掛け。




「「待てよ」」



 同時に突っ込んだ。




 とりあえず、片桐にまず突っ込ませる為、俺は口を閉ざした。



 片桐は眉を寄せ、真剣な顔で言った。




「浅野、運転中に電話に出るなよ。捕まっちまうぞ。嫌じゃん、そんなの」

「あ、そうか。そうだったよなぁ。今度から気をつける」



「…お前ら、何ぼけてんだよ」

 椅子から転げ落ちた俺は、何とか体勢を立て直しつつ、まだ何も分かってない二人に言った。






「浅野、ライト点いてんの教えてくれたの、見ず知らずの他人なんだろ?」

 頷く浅野。






「じゃあ、何でそいつが、浅野の携帯番号知ってんだよ?」


 浅野はぽかんとした表情をして、自分の携帯を見た。

 それから急に真っ青になる。



 ようやく俺の言葉の意味が分かったようだ。



 自然、蒼くなる俺たちの前で。


 …浅野の携帯が、涼やかな音で鳴り始めた。




 小さな画面に表示されるのは、見覚えの無い携帯番号。

 浅野は嫌々と首を振る。さっきの、番号なのだろうか。



 電話に出られない俺たちの前で、携帯電話が、俺たちをからかうように呼び続けた。

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