15・いつか迎えに来て


 この施設に居る子供たちは、全員が全員、帰る場所を持たない。

 この施設以外に行き場所が無いのだ。


 私はボランティアで子供たちの元を訪れる。手作りの絵本を携えて、子供たちに読み聞かせる。



 私には、それだけしか出来ない。





 絵本の朗読が終わると、子供たちと話す事がある。

 まだこの施設に来たばかりだと言う小さな女の子が、座る私の膝に甘えてもたれかかり、上目遣いの視線で言った。

「ねぇ、おねえさん」

「なに?」

「流れ星にお願いしたら、願い事、叶うの?」


 さっき読み聞かせた絵本はそんな話だった。

 私は笑みを浮かべ、頷く。


「えぇ、流れ星にお願いすると、願い事が叶うのよ」

「そっかぁ」


 女の子は顔を輝かせた。

 なら、と、その笑みのまま、彼女は言う。



「私のお願い、決まってるんだよ?」

「どんなお願いかしら?」





「ママ、パパ。いつか迎えに来て」





 その願いを聞いた途端、私は激しい胸の痛みを覚えた。













 この施設に居る子供たちは、孤児ではない。

 親はちゃんと、この国の何処かに生きているのだ。

 ただ彼らは己の子供を育てる事を拒否したのだ。







 年々増え続ける未成年の犯罪に、国はひとつの法律を対策として作り上げた。

 未成年者の生命は、親がすべて握る、と言う法律だ。

 つまり、子供たちは成人するまで人間として認められない。

 他人が勝手に生命を奪う事は許されないが、実の親なら子供を殺しても構わないのだ。

 

 この世に生きていても仕方ないと思えば、子供を殺しても罪に問われない。



 子供は要らない。だけど殺すのは忍びない。

 

 そういう親は、子供を国に譲り渡す。

 子供たちは運がよければ、子供をほしがる夫婦に引き取られるが…殆どは、長くても数年のうちに臓器移植、実験等の為に病院、研究施設に引き取られる。


 そして、もう帰ってこない。








「流れ星、早く流れないかなぁ」

 私、毎晩お空を見るね、と明るい笑顔を浮かべる女の子に、私は精一杯、胸の痛みを隠して笑みを見せた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る