26・復讐しようと思うのです
復讐しようと思うのです。
私の母は弱い人でした。
仕事で忙しい父が、年に数度、単身赴任先から帰ってくるだけの生活に耐え切れぬほどの弱い人でした。
父の希望により、小学校から全寮制の学校へ進んでいた私は、母の弱さに気付けませんでした。
父が居ない孤独を埋めるように、他人を求め、いわゆる不倫を行っていた母を、気付けませんでした。
やがて、私は知ります。
中学校に上がった頃だったでしょうか。
母が、父以外の男の人と付き合っているのに。
母は私に土下座して謝りました。お父さんには内緒にして欲しい、と。
母は確かに弱い人でした。
だけど、父を心から愛していたのは事実だったのです。
私は父に何も言いませんでした。
母は一時、他の男と会うのをやめたようですが、私が寮に戻る頃、またもや父以外の男と会い始めたようです。
孤独に耐え切れなかったのでしょう。
母は、弱い人でしたから。
やがて、父は母の行為を知ります。
その時の修羅場は私はよく分かりません。
だけど、ある日、寮へやってきた父親は、母と離婚した事、二度と私と母が会わない事を伝えたのです。
その後、母が首を吊って死んだ事を知りました。
父を失い、私を失い、自分が犯した罪故に孤独になったとは言え、母には耐え切れなかったのでしょう。
そして。
私は、復讐しようと思うのです。
私は母が大好きでした。
父も勿論尊敬しています。
ですが、だからこそ、母を死に追いやった父が、許せないのです。
私はもうすぐ結婚します。
父が望んだ相手との結婚です。
私は一日も早く、その人の子供を生もうと思います。
それから、死のうと思うのです。
子供を連れて、死のうと思うのです。
子供の首を絞めて、それから、私も首を吊りましょう。
父は分かってくれるでしょうか。
愛しいものを失う痛みを、その耐え切れぬ孤独を。
父がそれを知り、己自身も首を吊ってしまいたいと思うなら、それで、復讐は完遂されるのです。
父は、私の、孫の死を、どう思ってくれるのでしょうか?
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