10・私の夢を見たのでしょう?

「私の夢を見たのでしょう?」

 街角でそんな風に声を掛けられた。


 声を掛けたのは、俺と同じぐらいの年令の女。

 特に目立つ外見では無いけれど、透明みたいな瞳が印象的な女だった。




「私の夢…って。え?」

 俺の疑問符に、女は笑顔――そして、同じ言葉で返す。



「私の夢を、見たのでしょう?」




 なんだ? コレは?





「い、いや。そんな夢なんて――」

 夢どころか、俺は彼女と初めて会った。


 焦る俺にもうひとつ微笑みかけ、女はついと身を翻す。

 そのまま人ごみに消えた。

 俺は呆然と女の後ろ姿を見送った。







 その夜、女の夢を見た。






 現実世界と一緒。俺の前に立ち、笑い掛けてくる女。

 ただ、「私の夢を見たのでしょう?」と問い掛けてこないのが、唯一の違い。

 それだけの夢だった。






 俺は翌日、街の人ごみに彼女の姿を認める。


 腕を引き、呼び止めて、俺は言った。




「貴方の夢を、見ました」

 そう、と女は頷き、笑った。

 透明な、瞳で。




「なら、次は貴方の番」






 俺が何か言うより先に、女は俺の腕を振り払い、車道に飛び出した。




 クラクション。激突音。悲鳴。




 広がる、紅。













 周囲の人々の悲鳴が交錯する中、俺はぼんやりと辺りを見回す。




「――……」




 こちらの騒ぎに少しだけ興味を持ったように、それでも足を止めなかった女を見つけた。




 俺は彼女に駆け寄る。

 腕を引いた。呼び止めた。


 驚いて俺を見る女に、俺は、言った。









「俺の夢を見たのでしょう?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る