42・拷問博物館

「『鉄の処女』」

 白い指先がつい、と鉄の少女の面を撫でた。


「こちらは有名ですから、ご存知かしら?」

 俺が頷くと、少女は嬉しそうな笑みを向ける。


「それではこちらは? 『鋼鉄の乙女』。少し変わっていますのよ?」

 隣に並んでいたのは、鉄の処女と似ている金属製の少女像。

 背丈は大人の男ほどもある。

 鋼鉄の乙女は、両腕を広げ、軽く瞳を伏せ、誰かを待ち侘びるような愛らしい顔。



「此処に」

 指先で鋼鉄の乙女の胸元を示す。「犠牲者を立たせます。そうしてから、このスイッチを押すと、乙女が両腕で犠牲者を抱き締めます」

 それと同時に、と、少女はくすくす笑う。

「乙女はその体内から鋭い針を伸ばし、犠牲者の身体を貫くのです」



「拷問器具には『娘』『乙女』、『処女』『女』…と女性の名を与えられたものも多いのです。

 どうしてかしら?」

「それは…」

 俺は少し迷い、続けた。



「女性の方が、真の残酷さを秘めているからじゃないですか?」

「あら」

 少女は笑った。




 この拷問博物館の館長である少女は、黒い瞳を細めて、笑ったのだ。







 人は、他人を苦しめる為に、どうして此処まで頭を使う事が出来たのだろう。



 焼く、潰す、伸ばす、切り裂く、広げる、破壊する。


 どう見ても一般の道具にしか見えない器具さえも、知恵を絞り、拷問に使ったのだ。





 少女の説明は続く。

 薄暗い、地下の拷問部屋にも似た館内で、少女は、俺の前を歩き、説明を続ける。




「『吼える雄牛』。これは小さく改造されてますが、本来ならば、もっと大きなものですのよ。

 あの正面のドアを開いて、犠牲者を入れます。そして、下から炎で炙るのです。

 雄牛は鉄製ですから、徐々に熱され、やがて中の犠牲者は死に至ります。

 断末魔の悲鳴が、まるで雄牛が吼えているように聞こえるらしいですわよ」



「ただのローラー付きベッドに見えます? これは『伸縮拷問台』。犠牲者の身体を頭部分のローラーで手を、脚部分で足を拘束し、引っ張るのです。

 知ってます? 人間の身体って結構伸びますのよ?

 まぁ、そこまで伸びてしまうと、筋も骨もダメになってますけどね」



「この小さな器具は『親指締め機』。人間の身体って末端部分の痛みがとても強いのです。

 だから、こんな小さな器具で親指を締めてあげるだけで、どんな人間も泣き叫びますのよ?」



「こちらの車輪は、どうです? 大きいでしょう? これを拘束した犠牲者の身体の上に落とし、肉体を手足から徐々に破壊するのです。

 手足だけ破壊して、後は放置する、と言う処刑もされたようですわよ。

 三日三晩、苦しみ悶える犠牲者の声が聞こえたとか」



「オーソドックスな鞭はいかが?

 こちらの『猫鞭』は犠牲者の皮を剥ぎ取る能力を持っておりますのよ。背中を叩いてあげるとすぐに真っ赤に。

 可愛いでしょうね」



「動物を用いた拷問も多いですわよ。

 犬、猫、狼、ロバ、鼠、蟻、蜂、鳥…。

 彼らはとても協力的ですのよ?」





 一通り説明を終え、彼女は俺を見上げる。






「さぁ、どれをお試しになられます?

 貴方の身体、貴方の命で」

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