3・少しだけ視えた



 昔、の話だ。




 高校時代に付き合っていた彼女が、実は『視える』人だった。

 幽霊とか、妖怪とか、そういうのが。


「信じられないな」


 俺は正直信じられなくて、彼女とのデート最中、思わずそう言ってしまった。





「そうよね」

 傷付くかと思った彼女は、当たり前のように頷いた。「人間、自分が所属している世界以外、信じられないものだもの」

 俺は、彼女の慣れた様子に少しだけ、胸が痛んだ。

 今までにも多くの人に、信じられないと言われ続けて来たんじゃないか、と。



 慰める言葉を口にしようとした俺に、彼女は笑顔を見せた。




「少しだけ、見せてあげる」




 何を、と問う前に、彼女は手を伸ばし、俺の右手を掴んだ。





 途端、視えた。






 地面、道端、草の陰から空中。そして、俺の身体にも。





 そこらに色んなものが居た。





 動きを止めた俺に、彼女はぱっと右手を離し、改めて、笑顔。




「ね、視えた?」



「……少しだけ」


 俺は素直に答えた。












 彼女とは結局その後――視えるとかそういう事には関係なく――別れてしまった。

 

 それでも、俺はときたま、彼女を思い出す。

 思い出し、彼女はまだ視えているのだろうか、と考えるのだ。

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