概要
すべての"善"と"悪"を、政府が管理する調和された世界。
その象徴ともいえる閉鎖施設の中には、人々の臓器になるために造られた人工生命体【ヒュム】たちが暮らしていた。
主人公【ホムラ】は、ヒュムたちを管理し教育する。
なぜならヒュムたちには、最大限の人権が与えられているのだから。
「誰かのカラダに献体されるまで、美しく伸びやかに生きてください」
世界が抱えた矛盾と倒錯。覆される倫理と道徳。
宗教と哲学の二律背反。安全と不自由の共依存。
君に問いかける。
そこはユートピアか、それともディストピアか。
おすすめレビュー
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- ★★★ Excellent!!!小さな箱庭で紡がれる思考は正しいのか? そもそも正しいとは何なのか?
主人公はヒュムという存在意義、自身の存在意義に悩みながら日々を過ごしている。閉ざされた空間で、何が幸せなのか、そもそも幸せに自分はなっていいのか――様々なことを考えながら、講義を続ける。
いずれは『昇華』してしまう、彼らに――
SFの真骨頂ともいえる独特の世界観に一気に引き込まれました。登場人物も一癖二癖あり、序盤と終盤で印象が変わるキャラもいます。そのキャラたちが小説をここぞとばかりに盛り上げてくれています。
更にこの小説の最大の特徴であり、特長であるのが「ルビ」です
ルビの振り方が本当に面白く、ついつい口に出したくなってしまいます。それでいてすんなりと頭に話が入ってきて、主…続きを読む - ★★★ Excellent!!!何もかもが刻印を押すかのように突きつけてくる。
人が人を助けるために、身体の一部を捧げる。
家族ならば、愛する人のためならば、きっとそうしたいと願うであろう。
しかし、生まれた時からそのために育てられてきたとしたら。
今までにも幾つもの作品がこのテーマを扱ってきた。
新井素子の『通りすがりのレイディ』
カズオ・イシグロの『わたしを離さないで』
そこに感情は必要か、感情を持たせることで、ただの恐怖心を煽るだけではないか。
人道的には? クローンならいいのか? 奪う側、奪われる側。
この作品にも、深いジレンマを含んだ葛藤があちこちに散りばめられている。
殊に、主人公雪白ホムラの苦悩となる「EP10-04」
人はみな思う。もし相手の立場だ…続きを読む - ★★★ Excellent!!!生と死、科学と道徳 「境界線」を見出す物語
Absolute02まで読んだところで、迷わずレビューの筆をとります。
臓器提供のためにつくられた生命体「ヒュム」と、彼らが死ぬその日まで恵まれた生活をおくってもらうための楽園。ヒロインはその楽園の中でヒュムを育てる者として生き、ヒュムや同僚と触れ合いながら葛藤を重ねていく……。
皆さんが絶賛している通り、漢字に素敵に当てられたルビはセンスの塊。小気味良いリズムの文章と相まって、文を読む面白さを増幅させます。
そして、感情を持つヒュムと対話しながら、「生と死の境界線」「科学と道徳の境界線」に迷い、苦悩し、内罰的になるヒロインには思わず共感してしまうでしょう。
次の話を読むのが辛い、で…続きを読む - ★★★ Excellent!!!この世界は誰のためのものなのか。
「Absolute04」EP12-04まで読んでのレビューです。
まず、この作品の特長は、独特のルビだと思います。
例えば、「携帯端末」のことを《ワールドリンク》と言ったり、ドライヤーのことを「鳥型送風機」、《ロビンタイプ》と言ったり、他にも《ブリキックハート》、《ヒアリングスポット》、《サブリメイション》などなど、とにかくたくさんのルビが振られています。
元の言葉とルビの言葉を読んで、「おぉ、こう読ませるのか!」と思ったり、「この読み方は奥が深いなあ」と感心したりします。
このルビが近未来感の演出に一役買っています。
作者さまはルビ振りの達人ですっ!
次に、登場人物が魅力あふれていま…続きを読む - ★★★ Excellent!!!確定された死と不確定な生が鬩ぐ『楽園』が行き着く先とは
『DUM』と名付けられた閉鎖施設で暮らす、臓器提供という確定的な死を約束された『ヒュム』なる存在。
彼らには行き届いた生活だけでなく、教育までもが与えられ、『最大限の人権』が保証されています。
しかし『人権の保証』とは?
誰かの糧となるためだけに生きる意味とは?
ヒュム達を管理し教育するヒロイン・雪白ホムラの葛藤と苦悩が痛いほど伝わり、読み進めるごとに胸が苦しくなりました。
何故なら、ヒュム達は私達と同じように感情があり、一人一人違った個性があり、死を恐ろしいと感じるのだから。
綿密かつ緻密に描かれた世界観。
独特のルビで表現される残酷で美しい響き。
それらが一体となり、作り上げる…続きを読む - ★★★ Excellent!!!考え続けるしかない。くつがえり、またくつがえるものを。
その場所はこの上なく快適だった。そこで育つ者は何不自由なく暮らすことができ、いつまでも若々しくいることができる。
ただ一つ他の人間達と違っていたのは、彼らが「臓器を提供するためだけに作られた」ということだけだった。
彼らの管理者であるホムラとともに、読者もこの世界に対する葛藤に巻き込まれていきます。気持ちに陰をさしそうになるとき、束の間の安らぎをくれるのがいつも「彼ら」であることに、さらに心が締め付けられるのです。
葛藤に次ぐ葛藤。
思考の上のさらなる思考。
倫理も道徳も価値観も哲学も、全部壊して作り直す。
頭をかち割られるほどのインパクトが、癖にならずにはいられません。 - ★★★ Excellent!!!いつか実現しうるかも知れぬ世界への、果てのない問い
いつか訪れるかもしれない、人にとっての理想郷。
その矛盾に苦悩しつつも、抗おうとする人々の姿が描かれています。
これを書いている現在では、物語は未だ第三部の半ばなのですが、既にして展開が全く読めなくなってきています。
私の見識不足もあるのかもしれませんが、しかしそれ以上に、物語・世界観に与えられた圧倒的な深みが、まったく核心に至りうる予想をさせないのです。
緊迫した雰囲気、次の話へと進む手を止められなくなるこの感覚を、是非様々な人に味わっていただきたい、そう思わせられる作品です。
私の言葉でこの作品の魅力を十全に伝えることができたのか、という点に関しては全く自信がないのですが、せめて何か…続きを読む - ★★★ Excellent!!!彼女が悩み抜いた末にある、新たな、そして確かな未来
まずは、堂々の完結、おめでとうございます。
物語の中にしっかりと確立された近未来の世界観。独自のルビに彩られた、澄みきったイメージのある映像的かつ叙情的な文章。
最初の章を読んだ瞬間からその世界に引き込まれて、主人公のホムラに魅了された。
ホムラは自身の母親の影を背負いながら、自身のとるべき道、この世界の正義やヒュムの命について、ひたすらに悩み続ける。
私たちはホムラに寄り添いながら、彼女が様々な人物と出会い、考えをぶつけ合い、やがて世界の在り方に対して彼女がどう向き合うか決意するのを見届ける事になる。
ラストを読んだ時の爽やかな気持ちは格別だった。
この無二の物語に出会えて本当に良か…続きを読む