EP10-05
無数の
「13年前、雪白ミツキの活動が実を結び、DUMの設立が
私は無言で首肯する。
「身も蓋もないことを言うと、DUMは先進医療に革命を起こす希望の槍であると同時に、世界経済に革命を起こす最強の切り札だった。
その言葉の真意が掴めず、「どういう意味だ」と問う。
「
重たい塊が胸につかえる。それは憤慨にもっとも近い感情だ。
「胸糞が悪くなるけど、老人たちに向けて制作された
テラは私の同意を待たずして、
一瞬の
ゆっくりと暗転してから、
【
明転。
老公が激しく咳き込むと、孫娘と思しき金髪の少女がその手を握り込んだ。まるであの夢の中の私のようだと、吐き捨てるように思う。
気品のある顔立ちながらも、黄濁して濁りきった老公の瞳──二つの眼球が、胡乱な様子で虚空を彷徨っている。
【しかし誠に残念なことに、あなたがたに残された時間は多くない。
私の胸の奥で、ざらざらと毛羽立つ感情が
「テラ、もういい。分かった」
片手を挙げて口を挟むと、瞬時にしてモニターは暗闇に戻された。もう充分だ。私たちの苦悩が、
「ホムラ、だいぶ顔色が悪いよ。一度休憩を挟もうか?」
「いや、続けてくれ」
何らかの
音もなく『
途端に迫り上がる吐き気を必死で堪える。
2067──その年に起きた出来事といえば。
「そして11年前、とても悲しいことがあった。そう、君の保護者であり、同時に観測者でもある雪白ミツキが
予想通りの話題をテラが切り出した。けれど想定外だったのは、テラのその声があからさまに震えていたことだ。彼の声色には、かつて感じたこともないような動揺と悲しみが溢れている。その表情を窺えない今の状況を、私は酷くもどかしく思った。
「テラ──意外だよ。まさかお前が、
「ホムラ、母さんと呼んでやれよ。せめて俺の前では、母さんと呼んでやってくれないか」
懇願するような口調に、私は尚のこと戸惑った。そんな私を、きっと慮ってくれたのだろう。テラは努めて明るい声を作って、言う。
「実はね、俺とミツキは面識があるんだ。彼女が本格的に体調を崩してしまう前に、ミツキは何度かDUMに足を運んでいたからね」
「そうなのか? まさか、テラと母さんに繋がりがあるなんて──」
「──繋がりなんて、そんなに確かなものじゃないよ。ミツキからすれば、俺は大多数のヒュムのうちの1体さ。ミツキは、とても誇らしげに笑う人だった。そしていつだって、自分の作り上げたこの楽園を、慈しむように眺めていた」
懐かしむようなテラの台詞に、私もそのまま引き込まれていく。
「昨日のことのように覚えているよ。俺はぼんやりと、自分が
「……初恋」
独白のようなテラの言葉を、ぼそりと反芻する。
「ませてるだろ? あの頃の俺はまだ成長因子を残していたし、そもそも
衝撃的だった。母さんが一人の生体学者として、沓琉トーマ博士に心酔しているのは知っていた。けれど、まさか女性として──私にその発想はなかった。
前髪が切り揃ったあの頃の私も、テラと同じように子供だったということか。
「まさかそのミツキが、本当に躰を病んでいたなんてね。こっそり探ってみれば、彼女は重度の心疾患だった。彼女に
複雑な感情が私の中を渦巻き、さらりと混ぜ込まれた
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