EP12-03
「神奈木博士の前だっていうのに、まさかこのタイミングで愛の告白とはね」
私の覚悟を台無しにするような軽口と共に、恭しい所作で神奈木博士に頭を下げるテラ。
「
「そりゃないよ
「
「あなたが
二人の
ただこの二人は、私とはまた別の次元で解り合う同士なのだと、そう感じた。
「テラ、サヨさんは上か?」
どこまでも続きそうな会話を遮って、急かすように問いかける。知りたいことなら山ほどにあるけれど、悠長な会話が許される状況ではない。
「うん、多分ね」
「多分とは何だ。真面目に答えろ」
思わず詰め寄ろうとする私を、「まぁまぁ」といなしながらテラは言う。
「この
「ではお前はまだ、私と
「ああ、そんな余裕は無かった。だから俺は──
今度こそ、戯れ言を垂れるテラの胸ぐらを掴んで締め上げる。神奈木博士も私を止めようとはしなかった。しかしテラは少しも動じることなく、飄々とした態度で私の手を振りほどいて微笑む。
「仲良くやろうよ。ホムラ──君は雪白ミツキの娘だよ。血の繋がりも遺伝子の繋がりも無くても、俺がそう
「余計なお世話だ。そんなことは──お前に言われなくても分かっている」
私は、雪白ホムラだ。
そしてお前も──お前だから。
あの日にテラの瞳から零れ落ちた涙の意味が、今なら理解出来る。
あの日のテラは、神奈木博士の介入を嘆いていたのだ。神奈木博士がDUMに来訪したことを、全て自分の
私に負けず劣らずの不器用なやり方。
「テラ、よく聞け。道を誤ったのは沓琉トーマだ。同じ血と同じ遺伝子がお前を構成していても、お前は決して沓琉トーマとは違う」
「はは、いきなり何の話さ。やっぱりホムラは面白いね」
「茶化すんじゃない。私はお前のそういうところが大嫌いだ」
テラは武装している。いつだってこの偽悪的な態度で。
「そうだね、俺とホムラは決定的に分かり合えない。ホムラならきっと、
後ろを向いて歩み出すその背中は、少しだけ悲しげに映った。
彼の背に続いて、神奈木博士と共に
プラネタリウムの明かりを失った
今までは薄闇でしかなかった足元がぼんやりと──それでもはっきりと照らし出されている。私たちの動線を避けるようにして、複雑に張り巡らされた
視線を上げれば、常闇の彼方へと続く螺旋回廊が聳える。
「さあ、行こう」
テラの声には、僅かばかりの緊張感が滲み出ている気がして──腰元の
螺旋状に敷かれた高みへの階段を、全速力で駆け上がっていく。幾度か訪れた、脇へ逸れる分岐点の一切を無視して、ただひたすらに上へ上へと。
歩みを重ねるたびに、
「そういえば、
緊張をはぐらかすように私が言うと、テラが冷ややかに返す。
「ちょっと
「まるで
「いや、元々は
少しも笑えない冗談に背筋が凍る。
「サヨが
「お前は知っていると思うが、私には理解の及ばない話だ」
「天候まで操る
テラの皮肉を複雑な心持ちで受け止める。この世界の一体どこまでが、
「その
「そうだね。
降って湧いたような疑問に答えたのは、意外にも神奈木博士だった。
「
しかし当然ながら、私はその言葉の真意を理解出来ない。ただ漠然と、サヨさんが私たちを手招いて導く姿をイメージした。そういえばサヨさんは、
置いてけぼりどころか、脱線気味ですらある私の思考を
「
「テラ、私は自らを科学者だと定義付けたことはない」
「そっか。やっぱり
テラがくつくつと笑いを噛み殺す声と、私たちの足音が螺旋の中に呑み込まれていく。
やがて途方もない高さを登りきったその先には、半球体状に展開された広大な空間が待ち構えていた。
壁一面に書かれた宗教画と、
ありとあらゆる空想を混ぜ合わせたかのような大広間の奥に──私の心を震わせるサヨさんの姿。
サヨさんは私たちの姿を視界に捉えると、力なく微笑んでみせた。
そして少しだけ、不思議そうに首を傾げる。
「まさか神奈木博士まで一緒だなんて、本当にホムラはどうなっているのかしら──。でも私の冗長な地獄の集大成としては、決して悪くない配役ね」
呆れるような口調でそう言うと──サヨさんは
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