EP08-03
眠れずに懊悩する。暗闇の中で何度も溺れそうになる私は、母さんが遺した不明瞭な意志の中を
何度目かの寝返りを打つと、緊張感に欠けたネコ型目覚まし時計と目が合った。呑気を通り越して、間抜けで愛らしいその表情。
──場合によっては、コイツともお別れなのか。
そう思うと、愛着にも似た名残惜しさが生まれた。秒針の立てる無機質な音が哀愁を放つ。
何を選ぶかなんて、そんなものはせいぜい主観の問題でしかない。この世界に溢れる山積みの問題は、全てが
価値観の延長線を伸ばせば伸ばすほどに、人間とヒュムはすれ違っていく。そして自身の価値観を声高に叫べば、私とイマリでさえもすれ違っていく。
──
生き方を問う知恵に恵まれている代償。私たちの間には、想像を絶する高さの理解の壁が立ちはだかる。それは真理であり、揺るがない事実。
もっと話がしたい。政府の管理や検閲を恐れることなく、心からの本音で。そんな欲求が、私の内側からふつふつと湧き上がる。ゲントク老師や神奈木博士。テラやアリスたち。サヨさんやイマリ。それに母さんを知る人──叶うならば、母さんと。
もしも母さんが生きていたら、私に何か道標を与えてくれただろうか。それとも疑う余地もない
私の部屋の片隅には、
母さんの最後を知りたい──そう考える気持ちがゼロだと言ったら嘘になる。私がコンダクターを志した動機の根底には、少なからずその欲求があったはずなのだ。
けれど今は、知ったところで覆すことの出来ない母さんの"死"の真相なんかよりも、ただ母さんの気持ちが知りたかった。そう願ったところで、二度と母さんの思考を知ることは出来ないというのもまた、覆ることのない事実だけれど──。
母さんが夢見ていた世界を、母さんがその目に映していた景色を──私は私の未来のために知りたいと願う。
闇雲に母さんの存在を毛嫌いしていた私の中で、何かが変わりつつあった。急速に訪れたその変容が、私の精神を不安定にしている一因であることは間違いない。
老師の言葉が、神奈木博士の言葉が、イマリの言葉が、母さんの記憶が──私の感情を激しく揺さぶり、安寧の世界の地盤を突き崩そうとする。あの夢の中で私を脅かす
ゲントク老師に、迷いはないのか。DUMの最高責任者である彼は、悪意ある表現をすれば処刑執行人の代表者とも言える。そこに葛藤はないのか。そこに後悔はないのか。
違う、ないわけがない。拭えぬ葛藤や深い後悔は、今も老師の胸を抉り続けているはずだ。それでも──。
私は記憶の糸を紐解き、かつて学んだ歴史の資料を思い起こした。
次に神奈木博士。彼女に、憂いはないのか。"
神の不在を嘲笑いながら、彼女は何を求めているのだろう。それこそ私は、私たちは──DUMを崩壊させたとして、その先の世界を思い描けるのだろうか。
"
そしてイマリ。イマリは受け入れているのか。共存という言葉に包み隠された、矛盾と理不尽の奔流を。DUMの深い場所に流れる、汚泥にも似た血と哀しみの激流を。
イマリが、自身の掲げる
そんなイマリは、私に失望したに違いない。
どうして私は、イマリと向かい合う時間を作ってしまったのだろう。なぜあの瞬間に、自分の感情をほんの少し偽ることが出来なかったのだろう。
負の感情が積み重なり、私の肋骨を押し潰す。止め処ない憂鬱が、心臓を軋ませて息苦しさを連れてくる。
そんなものたちに流されるまま、夜の静寂に閉じ込められる私。その脳内で、何度目かのイマリの涙を再生する。私は一体、何をしているのだ。
強烈な自己嫌悪に襲われながら、また一つ寝返りを打つと、揺れ動く感情の糸を束ねるように、サヨさんの言葉が降ってきた。
私はあの夜を思い返す。私の役割を復習するように。
戦場の指揮官のように冷淡な瞳を宿した、サヨさんの
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