EP09-03
──
テラとサヨさんの
直球で捉えれば、当然そういう意味だろう。
思えばサヨさんは、DUMの運営を
だから問題はそこじゃない。神奈木博士に、こちらの思惑が全て気取られているということ──
つまり今の発言は、神奈木博士からの牽制行為。事を起こす前にここで踏み留まるのだぞという、恩情にも似た警告。
ならば私は、全力でしらを切る必要がある。神奈木博士の発言の意味を、一片たりとも理解出来ていないと示す必要が──。
そう結論付けそうになって、すんでのところで撤回した。
違う、そうじゃない、落ち着いてよく考えろ。
これは
今の発言は、神奈木博士の仕掛けた罠。だから私は決して、彼女に動揺を見せてはならない。いや、それさえも違う。
私は──正しく動揺する必要がある。
その発言自体を、正しく疑問に思う必要がある。
決断。そして回答。
「神奈木博士、あの──どうして今ここでサヨさんの名前が出るのでしょう?
今のは危なかった。私は後ほんの少しで、テラとサヨさんの水面下の繋がりを晒してしまうところだった。最大の窮地をひとまず回避し、内心では安堵の息を吐き出す。
「そうか、お前がこれからも
神奈木博士は続ける。私の理解を待たずして。
「
何かを言わなければ、何かを返さなければ──そんな焦燥が胸を逆巻くばかりで、言葉が見つからない。目の前の
そこまでを思い至って、私はようやく理解した。
つまりこれが、
受動的な──あまりにも受動的な卑しさ。
今回の対談における、私の主観の不在。
前回の
私は私の
神奈木博士は、さぞかし落胆しただろう。
腑抜けた私を前に、
私は肺いっぱいまで空気を吸いこみ、出来る限りゆっくりと吐き出した。
そこから更に心臓の鼓動が静まるのを待ち、ようやく口を開く。
「……世俗には染まりません。私は
彼女には、関係がないのだ。私がどんな人物でも、たとえ
そして私にも、関係ないのだ。テラの意志がなくても、サヨさんの意志がなくても──たとえ誰の協力や後ろ盾がなくても、私はアリスを救いたかった。
私は私の意志で、
だからこそ、成立するはず。
私がたった今思いついたこの駆け引きは、きっと成立する。
「神奈木博士。私はアリスというヒュムの
私は滑らかな口調で言い放った。
嘘偽りはない。私はそのために神奈木博士を探していた。だからこそ、
乾いた笑いを僅かに零しながら、「反逆行為だぞ」と神奈木博士は言う。私を値踏みするような目線が、そこにはあった。それは確かに、
「裁きたければ、どうぞ裁いてください。しかし私は最大限抵抗します。と言っても、私には護身用の
緊張も恐怖も
「そうだ。お前には何も出来ない。何も変わらない。変えられはしない。
「そうですね、私は何も出来ません。ですから最悪の場合は──
私が差し出せるものは──駆け引きの天秤に釣り合うものは、この身くらいしかない。私は私の
「さぁ、どうされますか。私は
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