【選択──箱詰めの魂が世界を焼き尽くしても】
EP13
テラに導かれ、大広間の一角にある扉を
そこにはもちろん、宗教画も装飾品も、
「うん、これはこれで悪趣味だね」
「残念ながら、私も同じことを言おうと思っていた」
隣の
視界一面に広がる純白の彼方に、ぽつんと佇む大型の
「なぁテラ──だいぶ想像と違うんだが」
「もしかして
「まぁ、そうだな。もっと
決して期待していたわけではないにしても、どこか拍子抜けした感は否めない。扇状に配置された
「……念のため確認しておく。これが
一抹の不安に晒された私が問いかけると、テラは物知り顔で頷いた。
「そうだよ。
「……つまり、どういう意味だ?」
テラの難解な説明からは、悪意しか感じられない。
「
くすくすと笑うテラを睨みつけながら、頭の中に思い描く。
解明不能にして解析不能──そして観測不能な魂のカタチを。
そもそもサヨさんから、
しかし今の私たちの視界の向こうには、触れられるかたちとしての物理的な端末がある。テラの比喩を真に受ければ、魂に触れられてしまうのだ。
「考えれば考えるほど、夢と
「ホムラが凡人? 俺には充分な能力を備えているように見えるけれど」
「ふん。つまらない世辞は要らない」
「
益体もない会話を交わしながら、私たちは
「知ってのとおり、俺はここから
「ああ、そのことについては礼を言う。テラ、本当にありがとう」
深く頭を下げると、テラは目を丸くさせた。私が頭を下げることが、そんなに珍しいことだろうか。
「んー、何について感謝されているのかちょっと分からないな」
そう言ってテラは、唇の端に手をやって考え込む仕草をみせる。どうやら
「お前の頭脳が無かったら、私はきっとアリスを失っていた。あるいは他のヒュムたちを──もっとずっと早くに
「ああ、そういう意味ね。ふふふ、もしかして俺に惚れそうな感じ?」
「それは全然ない」
軽薄な笑顔をにべもなく跳ね除ける。危うくもう少しで襟元に掴みかかるところだった。
「──俺にもっと力があれば、犠牲者は少なかった。
一転して神妙な面持ちを見せるテラを、複雑な気持ちで眺める。どんな言葉をかけたところで、免罪符には成り得ない。少なくとも私はそうだった──それでも。
「それでも、お前は感謝されるべきだよ。サヨさんや
「──あれ、やっぱり惚れそうな感じ?」
「そうだな、
いちいち茶化さなければ人と向かい合えないテラを、少しだけ哀れに思う。それと同時に、可愛いやつだとも──。
「さぁ、惚れ込む前にさっさと始めてくれ。自慢じゃないが、私は何も出来ない」
テラの作業をふんぞり返って眺める私に、
「ホムラ、見て──これだ」
したり顔で手招くテラに近付き、促された部分を覗き込む。するとそこには、不思議な
「これが──
「ああ、最上級の
どこか興奮を滲ませたテラが息を呑む。私に
テラは懐から取り出した
「よし、終わった」
「えっ? 何だかあっけないな」
最後の最後まで拍子抜けの連続だった。少なくとも人々が思い描くような
「
「つまり
釈然としない気持ちに、私は眉をひそめる。好奇心の灯る眼差しに、
「サヨはさ、どうしてもこれを破壊したかったんだろうね。だからこそ
サヨさんが
「なぁ、ホムラはどうしたいんだ?」
問いかけるテラの声色は、酷く冷たい。
「
「私は──」「──ホムラの答えによっては、君の最後の敵は俺になる」
哀しい呟きと共に、テラは片膝をついて私に
そして右の手のひらを私に差し出して、言う。
「ホムラ、俺自身の口からもう一度言うよ。これは
此度のそれは、少しも芝居がかっていない。
その手のひらに乗っているものは──テラの
それは決して、
永遠なんて語らなくても、永遠を思わせる時間なら今ここに流れている。白い世界だけが、私たちの行く末を見守っていた。
しかし張り詰めた沈黙の中でさえ、
まったく私たちは、おちおち悩むことも出来ないじゃないか。
だから私は──。
──私は。
この
たとえ何度だって、テラに同じ答えを返すのだろう。
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