005.冒険者ギルドへ行こう!
コンコン。
「兄さん、起きてますか?」
部屋の外からノックと共に呼び掛ける声。
そんな音を聞きながら昨日のことを思い出した俺は、ひとまずなにもなかったことに安堵する。
どうせバーバラは酒を飲んだあとめんどくさくなってベッドに潜り込んできたんだろう。
こいつはそういうことする。
まだ夏前だからちゃんと布団被らなくても寒くはないし、半裸なのもおかしくない。
なので俺が胸を揉んでるのも不可抗力だ。
なんて冷静に分析してみても、コンコン、と部屋のドアをノックする音は未だに俺をゆっくりさせてくれないけれど。
「んで、いつまで人の胸揉んでるのよ」
「起きてたんかい」
いつの間にかまぶたを開けていたバーバラがじとっとした目でこちらを見る。
「そりゃ起きるでしょ」
「まあそれもそうか」
特に冒険者は気配に敏感だしな。
そんな話をしている最中にもドアはノックされている。
そろそろ強制突入されそう。
「一応聞いておくが」
「なに?」
「なにもなかったよな?」
「覚えてないの?」
「普通に寝たところまでは覚えてるが」
「ああそう。安心していいわよ、なにもなかったから。胸は揉まれたけど」
「それは事故だから問題ない」
「問題ないか決めるのはあたしだと思うんだけど?」
「文句があるならまず人の部屋で寝るなよ」
「たしかに、それはそうね」
ということで問題の一つは片付いたので、もう一つの方にいい加減対応しよう。
ベッドから起きて扉の前に立つと、丁度ガチャリとドアノブが回される。
「おはよう、ルナ」
「おはようございます、兄さん」
挨拶を交わすルナの表情が冷たい。
これはバレてるな多分。
「どうした、こんな朝早くから」
「もう早くもありませんが」
そう言われればたしかに、外はもう日が高いか。
どうやら酔って寝すぎたらしい。
まあそんなことはいいんだけど。
「ゆうべに兄さんが連れてきた方が部屋にいないそうなんですが、なにか知ってますか?」
「それならどこにいるか知ってるから問題ないぞ」
「なるほど、ちなみにどこにいるんでるかね」
部屋ん中にいるとは流石に言えん。
言ったらルナの表情が氷からブリザードになりそうだし。
「ここにいるよー」
「あっ、あのバカ!」
奥から響いた声に思わず振り返る。
しかし時すでに遅し。
「兄さん、どういうことか説明してもらえますか?」
「はい……」
別に俺はなにも悪いことはしていない、なんて言い訳をできる雰囲気ではなかった。
「ったく、お前なー」
クランを出てギルドに向かう最中、バーバラに文句を言っているとなぜか呆れたような視線を返される。
「まーだ怒ってるの? ちょっとした冗談じゃない」
ルナに説教をされたあと、朝食に集まっていたクランのメンバーにバーバラを紹介したときのあの視線よ。
「完全にデキてると思われてたぞ」
むしろ本当にデキてるならまだマシで、別に付き合ってもないのに付き合ってるって評判が流れても俺にはデメリットしかないのである。
そんな不満げな俺に、バーバラが腕をとってそのまま身体を寄せてくる。
自然と、俺の腕に彼女の胸が押し付けられる。
「じゃあ本当に付き合ってあげましょうか」
「でもまた俺がフラれるんだろ?」
「それはそうね」
「じゃあいらねえわ」
なにが悲しくてフラれるとわかってる相手と付き合わなければいけないのか。
絶賛彼女募集中の身でも流石にそこまでして恋人がほしくはない。
「まあ今回は胸の感触に免じて許してやるけど、次からは気をつけろよ」
「つまりユーリは胸を押し付けておけばなんでも許される、と」
「なんでもは許されねえよ。限度はあと三回だな」
「回数制なんだ」
「使うたびに減価償却されるからな」
「人の胸をなんだと思ってるのよ」
「それはまず胸を便利なアイテムみたいに使おうとする自分の胸に聞いてみろよ」
俺が言うと、バーバラは自分の胸に手を当てて考える。
「大きさには自信がありますって」
「知ってる」
身をもってな。
なんて話をしている間に冒険者ギルドへと到着したので雑談は一時中断。
「こんにちは」
「こんにちは、ユーリさん」
ギルドに入って受付の人に挨拶。
「クラン≪星の導き≫に一名一時加入するので手続きをお願いします」
「はい、正式加入ではなく一時加入でよろしいですか?」
「ええ、またしばらくしたら抜けるので」
「かしこまりました、それではギルド証を確認させていただきます」
「はいはーい」
返事をしたバーバラが胸元からギルド証を取り出して職員さんに差し出す。
「バーバラさん、ランクは7ですか。また優秀な方をスカウトしましたね」
「スカウトっていうよりコネですけどね。つーかお前ランク7まで上がったのな」
「結構活躍してきたからね。ちなみにユーリは?」
「俺はランク6」
「あーじゃあ、いつの間にか追い抜いてたのねー。昔はユーリの方が上だったのに」
「俺は最近外出てないしなあ」
「言い訳じゃん」
「まあ否定はできないが」
「そうでした、ユーリさん。ギルドマスターが一度顔を出すようにと言っていましたよ」
「えー」
「なんかやったの、ユーリ」
「どっちかっていうと面倒事を押し付けられる気がする。聞かなかったことにしちゃダメ?」
「ダメです」
「じゃあ諦めるかー」
そんな強制的に呼び出されるほど上下関係がキツイ訳でもないんだけど、それでも一応所属する組織の上役なので無視するのもよろしくはない。
「バーバラはどうする?」
「んー、あたしはギルドの中見てようかな、久しぶりだし」
「んじゃちょっと行ってくるわ」
ということで、俺は受付の人に奥へと通された。
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