三章

057.クラン加入希望の生意気女子

クランハウスの訓練場で、俺はよく知らない女子と対峙している。

周りには盛り上がるクランメンバーたち。

目の前には顔はかわいくて、だけど気の強そうな娘。


「じゃあ俺に勝てたらユリウスたちのパーティーに入れてあげるよ」


そう伝えると、女の子に威嚇するかのように睨まれる。


「その代わりに、俺が勝ったらなんでも言うこと聞いてもらうから」


なんでこんなことになっているかというと、時間はちょっとだけ遡る。




「クラマスー? あっ、いた」

「んー、どうしたー?」


今日は執務室で真面目に仕事をしていると、クランのメンバーがそこに顔を見せた。


「ちょっと面倒な客が来てるんですけどー」

「えー……」


もうこの時点で聞きたくない語り出しである。

一応聞くけど。


「クランに入ってやるから代表を連れてこいって奴が来ててー」

「あー……」


うちも一応有名クランだからね、たまにそういうのが来るのだ。

まあ大抵、正規の採用募集に引っ掛からないような人材なので普通にお断りするんだけどさ。


「しかし入ってやるとは大きく出たね。ちなみに強そうだった?」

「いや、全然」

「そっかぁ……」


まあうん、言ってるメンバーがランク8だから、正直俺レベルでも全然判定されそうなところではあるんだけどさ。


「んー、ちなみに男?」

「いや、女です」

「歳は?」

「クラマスよりちょっと下くらいですかね」

「んー、一応見に行くか」


「えっ、行くんですか? 一応聞きに来ましたけど普通にこっちでテキトーにあしらってもいいですよ?」

「まあうん、今は忙しくもないしね。あとあんまり雑に追い返すとそれはそれでめんどくさそうだし」


まあ、男だったら絶対行かなかったけど。

本当は顔もかわいいか聞きたかったけど、流石にそこまで聞くと露骨すぎるかなと思ってやめておいた。

既に手遅れ? うん……。


「ということでリリアーナさん、ちょっと行ってきますね。残りの仕事はあとでやるので」

「わかりました、そっちは今日中に終わらせてもらえば大丈夫なのであとで戻ってきてくださいね」

「はーい」


ということで俺は執務室から出た。




「ちょっと、遅いわよ!」


クランの敷地の前に仁王立ちしていたのはショートカットでピンクブロンドの髪を持った女子。

歳は聞いてたとおりに俺よりチョイ下か。

顔はまあいいけど、キツそうな性格が表情からよくわかる。


あー、はいはい、こういうタイプね。

まあめんどうなのは最初からわかってたし、顔はそこそこかわいいから許せるけど。


これでもし歳上の男だったりしたら、即帰ってもらってたわ。

周りに野次馬もといクランメンバーが何人かいるしね。


「それで、なんの用ですか?」

「なに? ここのクランの代表者は自己紹介もちゃんと出来ないわけ?」


おまいう?


「人に名前を聞くときは自分から名乗るもんだよ」

「あたしはターニャよ!」


「俺の名前はユーリ、≪星の導き≫のクランマスター。冒険者ランクは6。歳は20。そっちは?」

「冒険者ランクは4! 歳は17! あたしがクランに入ってあげるから感謝しなさい!」


17歳でこのキャラはちょっとキツくないか? これが許されるのは12歳とかまでじゃないか?


「冒険者ランク4でよく入ってあげるとか言えるね?」

「まだランクが上がってないだけで実力はもっと上なのよ! それにあんたはまともに冒険者活動してなくてスケルトンにも負けたらしいじゃない! そんなのよりあたしの方がずっと強いわ!」


あー、うん。

なんていうか、アレだね。

個人的には凄い吠える小型犬みたいな感じで一周回って見てて面白くなってきたかも。


まあスケルトンに負けたのも事実ですけども。

とはいえ、

「そこまで言われちゃはいそうですかって引き下がるわけにもいかないかなぁ」


俺個人としてはナメられるのは別にいいんだけどね。

でもクランマスターとしてはあんまりナメられると周りに迷惑かかったりするからね。


「じゃあこうしようか。ターニャが俺に勝ったら、クランマスターの権限でユリウスたちのパーティーに入れてあげる」

「ふん! 当然ね!」


「ただし負けたら俺の言う事をなんでも聞いてもらうよ。あそこまで言ったんだからまさか逃げないよね?」

「当たり前よ!」

「じゃあそういうことで、移動しよっか」


昔の人は言いました。

ナメられたらダテにして帰すべし、と。

ダテって誰だよ。




「賭けの時間だァァァー!!!」


訓練場に着いたらもうボルテージマックスで盛り上がってるんだよね、凄くない?


「クラマスに10万!」「クラマスに10万!」「クラマスに15万!」


気付けばクランメンバーが結構な数、訓練場に集まってるし。

ターニャは既に準備完了して待ってる。


「兄さん」

「あれ、どうした、ルナ?」


いつの間にかそばに来ていたルナが声をかけてくる。


「大丈夫ですか? 兄さんが不安なら代わりますか?」


どうやら俺が勝てなそうなら代わってくれる気持ちがある様子。


「なんだ心配してくれるのか? ルナはかわいいなー」


なんて頭を撫でようとすると、その手を握ってそのまま手首を極められた。


「痛い痛い」

「負けたら承知しませんからね」


迫力のある声に軽く応える。


「それは大丈夫」


だからこのギリギリいってる関節を解放してほしいなぁ。

あっ、許された。


「ちょっと、クラマスー。一方的すぎて賭けが成立しないんですけどー」


と抗議をしてくるのは賭けを仕切っていたメンバー。

そんな事言われてもなぁ。


そんな倍率のせいかターニャもこっち睨んでるし。

俺悪くなくない?


「なんの騒ぎですか、これは?」


更に訓練場に現れたのはリリアーナさん。

こんな野蛮な訓練場に似合わない仕事着姿が逆に浮いてて魅力的である。

そんな彼女にこの場を仕切っていた賭けの進行をしていたメンバーが応える。


「実は、かくかくしかじか」

「なるほど、ちょっと待っててください」

「はーい」


といって訓練場からまた出ていったリリアーナさんが荷物を持って戻ってきた。


「これを使ってください」

「これは?」

「砂時計です」


なるほど。

棚に並べられたのは10個の砂時計。


「一個で半鐘の1/10の時間が計れますから、これで区切ればいいでしょう」

「なるほどー」


(止めないんだ……)

なんて思ったけど、まあリリアーナも必要なときはやる人だからね。

ちなみに一日が八鐘でその一鐘を半分にして更に1/10だから……、計算は各自やってくれ。


「クラマスが1個以内で勝ち!」「クラマスが1個以内で勝ち!」「クラマスが2個以内で勝ち!」


この場に集まった二桁のメンバーがほぼ全員賭けて、一番人気は砂時計1個以内。

そこから反比例して人気は減っていく感じで砂時計10個の以上に賭けるのは0人であった。

まあ10個合計で半鐘は、タイマンでかかる時間じゃないしね。


「私も賭けましょう」

「あっ、リリアーナさんはクラマスに見られないように賭けてくださいね」

「なんでだよ!?」


「だってー、クラマスはリリアーナが賭けたところ知ったら贔屓するじゃないですかー」

「いや、しないよ?」


しないよ?

まあちょっと、心の隅に覚えておくかもしれないけどさ。


あ、リリアーナさんと目が合った。

そして微笑むリリアーナさん。

なんだか心が通じ合った気がしてちょっと嬉しいね。


「ちょっと、まだなの!?」

「あー、忘れてた」


そもそも発端になった人間のことちょっと忘れてたわ。


「なんならお前も賭けていいぞ? 自分が勝つ方に」

「あたしは勝って”四柱”のパーティーに入るから賭けなんてやる必要ないわよ!」

「あらそう」


本気で勝つ気なら落ちてる金を拾うようなもんなのに。

まあ、落ちてる金を拾わない人間もいるか。


「じゃあやるか」


模擬戦を開始する前に武器を持つ。

俺が選んだのはこれ、なんかいい感じの長さの棒!


「あんた、あたしのこと馬鹿にしてるでしょ!」

「してないよ? お互いの実力差を考えたらこれが一番丁度いいってだけだよ?」


「めっちゃ煽るじゃん」

「いけー! やっちまえー!」

「クラマスー、もっと手加減してあげないとかわいそうですよー!」


なんて煽りが周りから飛んでくるけど、まあターニャのここまでの言動をみたらこれでも比較的優しい対応である。

スゴイシツレイすぎたからね、彼女。

クランがクランなら囲んでボコされても文句が言えないレベルに。


そんな当人は顔を赤くして両手剣を構えてるけど。


まあいいや、さっさと始めよう。

進行に俺が視線を向けると、彼女は頷いて手に握ったハンマーを振り下ろす。


カーン。

音と同時にひっくり返される砂時計。(一つ目)

勝負開始のゴングが鳴った。

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