051.昼は墓場で運動会

「ソフィーランク3おめでとー!」


今日は冒険者ギルドに訪れて、ソフィーのランク3認定通知を二人で受け取っていた。

パチパチと拍手する俺。

あと受付のギルド職員さんも拍手してくれてる。

ノリがいいね。


「ありがとうございます!」


そして照れるようにはにかむソフィー。

かわいいね。

これでソフィーも立派なランク3だ。


彼女と初めてであった日が随分遠くのことのように思える……、と思ったけど言うほど遠くないな。

ともあれ昇格も済んだことだし、俺もそろそろソフィーに付き添う必要はないだろう。

まあ日々真面目に働いてるソフィーと比べたら、俺が付き添いをした回数なんてほんの僅かなんだけど。


「ユーリさん、今日はどこ行きましょうか」

「そうだね」


とはいえ、今日は朝冒険者ギルドに来たら昇格通知をもらったからこれから一緒にお仕事なんだけど。

もしかしたらこれが、ソフィーと一緒にする最後のお仕事かもしれない。


「それじゃあ今日はスケルトンを殴りに行こうか」

「はいっ!」




ということでやってきたのは、この前訪れた王都近くの古戦場跡。

今日はこの前思いついたように、スケルトンを相手にソフィーの訓練をしようと思う。


「ユーリさん、その槍綺麗ですね」

「ん? そうだね」


いま俺が握っているのはベイオウルフから借りてきた槍。

いつもは盾を握っていたけど、今日はこれの試し斬りも兼ねているので自重は無しだ。

まあ試し斬りじゃなくて試し突きなんだけど。


「今日は全部俺が倒しちゃうかもしれないからソフィーもがんばってね」

「はい! 負けませんよ!」


なんて話をしていると丁度離れた場所から歩いてくるスケルトンが見えた。

まずはソフィーが一発、矢を放つとこれがスケルトンの胸に刺さる。

胸骨に深々と刺さったそれは、しかしスケルトンの活動を停止させるには至らない。


「あれっ!?」

「ちゃんと動けなくなるように破壊しないと駄目だよ」


なんて言いながら、俺は握った白槍で素早く虚空に突きを放つ。

するとベイオウルフの言う通り、槍先から一条の光が走りそれがスケルトンの体を粉々に砕いた。


さらに二度三度と突いて横に並んでいたスケルトンも全て破壊する。

光の射程距離は50歩ほどか。

注ぐ魔力の量を増やせばさらに射程は伸びそうなので恐ろしい。


「ユーリさん、その槍凄いですね!」

「でしょ?」


まあ俺のじゃないんだけど。

しかし正式に借り受けたものなので俺の物と言っても過言ではないか。

いつまでに返すとかって約束もしなかったしね。

やっぱりこれ俺のじゃないか?


「ソフィーも試しに握ってみる?」

「いいんですか?」

「もちろん」


その美しい槍に興味津々なソフィーにくるりと柄の方を向けて渡すと、彼女はそれを少し不思議そうに見つめる。


「思ったよりも軽いです」

「そうだね、その割に強度は凄そうだけど」


どんな素材で作られているのかもわからないけど穂先の刃の切れ味は鋭く、竿も敵の刃を受け止められるほど強度がある様子。

ホント、何で作ってるんだろうね。

この不思議素材からも高級さを感じるから握って汚さないかちょっと不安になるよ。


「それじゃ構えてみて」

「こうですか?」

「うまいうまい。あとはもう少し腰を落として……」


言いながらソフィーの後ろに回って構えを指導する。


「んで左手は軽く握って、右は絞るように突く」

「はいっ!」


返事は元気に、ソフィーが突くと穂先より光が走った。


「できました!」

「おー、結構いい感じだったよ」


これならスケルトンくらいなら余裕で狩れそう。


「でもユーリさんよりも短かったです」

「それは魔力量に左右されるから、ソフィーも鍛えればもっと飛ばせるようになるよ」

「なるほど」


まあソフィーの場合結局弓握った方が強いって結論になりそうだけど。

なんて遊びはこの辺にして。


「今日はもう少し奥まで行ってみようか」

「はい!」


ということで古戦場の奥地に進むと、魔物の強さと多彩さは段々と上がっていく。

まあ出てくるのはスケルトンだけなんだけど。


「ユーリさん!」

「大丈夫」


素早く駆けてくるスケルトンドッグとスケルトンラビットを素早く処理する。

こいつらは機敏な動きでノーマルスケルトンよりも戦い使いやつだけど流石に問題はない。


ソフィーはそのあいだに、奥のスケルトンの頭を狙って無力化をしていた。

そして残りのスケルトンは槍の光が貫く。


「お疲れ、ソフィー」

「はい、ユーリさん」


俺は軽い運動程度だけど、ソフィーの表情は薄っすらと赤くなっている。


「ちょっと敵強くなってきたけど、まだ大丈夫そう?」

「はい!」

「んじゃもう少し奥まで行ってみようか」


俺の問いに頷くソフィーを見て、さらに奥地へと進んだ。




「ここまで来ると流石に空気が違うな」


おそらく古戦場の中央近く、そこには外周部とは違う濃さの瘴気に満ちている。

おそらく古の戦いで一番激しくぶつかり合った場所なんだろう。

そこでは太陽光も薄く遮られ、視界も悪くなっている。


「ユーリさん、いいですか?」

「うん」


俺が頷いて了承すると、ソフィーは構えて矢を放つ。

それは視線の先で立ち尽くすスケルトンの頭を撃ち抜いた。

それと同時に、パカパカと馬の蹄の音が響く。


「ソフィーは遅れてくるスケルトン優先。こっちは抑えるから落ち着いていいよ」

「はい!」


言うと同時にソフィーが二射目を放ち、俺は駆けてきたスケルトンライダーの剣を防いだ。

やっぱり硬いなこの槍。


スケルトンライダーはランク3。

その名の通りスケルトン(人型)がスケルトン(馬)に乗って突進してくる。


ソフィーの練習には丁度いい相手だ。


「ユーリさん!」


呼ばれた声に応えて一歩下がる。

そこに後ろから飛んできた矢を、スケルトンライダーは握った剣で切り落とした。


「あたしの矢ー!」


うん、まあ弓を使ってればこういうこともあるよね。

そのまま二撃三撃と矢は弾かれ、俺に振り下ろして剣は横に受け流す。


パカパカと再び騎馬が駆け出し、少し距離をとって迂回しながら再びこちらに向かってきた。

騎馬突撃に剣の振り下ろしの威力を合わせた一撃を俺が槍で受ける。


その結構な衝撃と共に、無防備になったスケルトンの頭をソフィーの矢が貫いた。

カッと音がして飛ぶ頭蓋骨に合わせて体は力なく倒れていく。

ついでにまだ健在の馬(スケルトン)は俺が槍の一振りで切り落とした。


「ナイス、ソフィー」

「ありがとうございます」


うん、これならランク3でも問題なくやっていけそうだな。

まあ元よりランク4のオーガを狩れたんだから実力は証明されているんだけど、スケルトンは弓と相性の悪い相手なのでそういう点でも安心できるだろう。


「お、次はまた良いのが来たな」


次に現れたのは普段のスケルトンよりも二回り大きいスケルトン。

頭には立派な兜を被り、手足や肩に防具も着けている。

その立派さからスケルトンチャンピオンなんて呼ばれたりもしている。

討伐ランクは3。


そんなスケルトンチャンピオンは鉈のような巨大な刃を振りかぶり、俺に振り下ろした。

その破壊力は、この前討伐したオーガにも劣らないほど。

むしろ武器の鋭さを加味した鋭さではこちらの方が上かもしれない。


とはいえ、そんな武器でもベイオウルフから借りた槍はビクともしない。

性能テストも兼ねて最初は試すように運用してたけど、もう安心して無茶な使い方ができるくらいにはこの武器のことを信用していた。

やっぱりいいなー、俺の物にならないかなー。


なんて俺の感想はともかく、戦闘は続き、ソフィーの矢がスケルトンチャンピオンの兜に当たって弾かれる。

兜の形状的に、頭を狙うのは辛いかな。

目の隙間もほとんどないし。


「よいしょォ!」


そう判断してソフィーの援護をするために、振り下ろされた大鉈を逆に弾き返す。

それを打ち上げられ、思わず後ろにバランスを崩しそうになるスケルトンチャンピオン。

必然上がる顎の下、胴と頭を繋ぐ頚椎をソフィーが撃ち抜いた。


「お見事」

「ありがとうございます!」


そのままスケルトンチャンピオンが倒れると、ドシンと周囲に土煙が舞う。

瘴気の薄暗さと相まって視界は最悪である。

まあ周りに魔物の気配もないから問題はないけど。


とりあえず頭蓋骨を回収するか。

こいつの頭蓋骨は普通のスケルトンよりも二回り大きいからちゃんと報酬も相応の額貰えるぞ。


「今日はユーリさんのおかげで沢山稼げました」


それからしばらく古戦場でスケルトン狩りをし、色んな種類のスケルトンを倒して満足したソフィーが言う。

彼女が言う通り、今日の荷袋はスケルトンの頭でぱんぱんだ。

ライダーとかチャンピオンとかも居るし、稼ぎは前の二人狩りと同じくらいかそれより多いはず。

最近スケルトンに高めの報酬かかってるしね。


「確かに大量だったね。帰ったらまたご飯食べに行こっか」

「いいんですか!?」

「もちろん」


俺の言葉に一瞬喜んだソフィーが、なぜか恥ずかしそうな表情を浮かべる。


「あの、ユーリさん。あたし、この前飲んだ時に失礼なことをしたような気が……」

「冒険者の中じゃあれくらい可愛いもんだよ」

「そうですか……?」

「うん、だから今日もお酒頼んでいいよ」

「はい!」


嬉しそうな顔を浮かべるソフィーの頭を撫でる。

昇格したお祝いもあるしね、これくらいいいでしょう。


「じゃあ帰ったらたくさん飲みましょうね!」

「うん、今日は前回よりも稼げたし、好きなだけ飲んでいいよ」


なんて話をしながら、今日は十分狩りをしたので帰る準備を進める。


「ユーリさん、アレなんですか?」


さあ帰るぞ、ということろでソフィーに言われて視線を向ける。

そこにはいつの間にか祭壇のようなものが鎮座していた。

禍々しい気配を持つそれは、吸い込まれるような黒い宝玉が浮かんでいる。


「ここから離れようか」


不吉な気配を纏うそれは明らかに先ほどまではなかったもの。

間違いなく、ヤバい代物の気配しかしない。

今のうちに破壊しておくっていう手もあるけど、破壊したことでなんかやばいことが起こる可能性も否定できない。


それに王都に戻れば俺よりずっと強くて頼りになる冒険者が沢山いるしな。

ということで周囲の警戒だけしつつ離れていると、祭壇の近くの空間に闇が滲む。

そしてそこから一体のスケルトンが溢れてきた。


「ソフィー!」

「えっ?」


ソフィーの前に飛び出して槍を構える。

その瞬間に衝撃。

後ろにいたソフィーと共に後方に吹き飛ばされた。


受け身を取って素早く立ち上がる。

剣の一振りで圧倒的な力の差を見せたスケルトンは悠々とこちらに歩いてくる。


「ソフィー、逃げて」




対面してわかる。こいつには絶対に勝てない。

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