047.新人さんと遊ぼう!
「こんにちはー」
冒険者ギルドのラウンジでドラングさんに渡す書類を持ってきたついでに人間観察をしていると声をかけられた。
見ると新人の冒険者だろうか。
身に着けている装備はさほど値が張るものではないように見えるし。
まあそんなことはどうでもいいんだけど。
その話しかけてきた子がとてもかわいい。
歳は俺と同じかひとつふたつ上くらい。
切り揃えられた前髪とセミロングの後ろ髪は綺麗な黒髪で真っすぐ下に流れている。
むしろ冒険者よりも商家のお嬢様っていう方が似合ってそうな容貌だ。
逆ナンか? もしかして俺にもモテ期が来たのか?
なんて思ったけどそんな話ではなかった模様。
まあある意味で、お誘いではあったんだけど。
「こんにちは。どうかしましたか?」
「はい。実はいま私たちパーティーを組んでる人を探しているんですけど、よかったらどうですか?」
「なるほど」
即興でパーティーを組むのは連携の面であまり推奨される行為じゃない。
それでも働くためには必要なこともあるし、安全マージンを多めにとって難易度の低い依頼をこなせば問題が起きることは少ないか。
うちのクランメンバーは全員が全員顔見知りで、かつ実力も保証されてて流動的にいろんなメンバーと組んでるから連携には慣れてるって部分もあってまたちょっと話が違うけど。
ともあれ、パーティーを組むなら聞いておかないといけないこともある。
「必要な職はなんでしょう?」
「あ、そうですね。治癒師を探してます。依頼はランク2ですね」
「ああうん、それくらいなら問題ないですよ」
「本当ですか!?」
普段なら特別な理由がなければそんなランクの仕事はしない、っていうかそもそも誘われても頷かないけど相手がかわいい子なら話は別だ。
あわよくば仲良くなってお付き合いしたいという熱い想いが俺を動かしている。
あと一瞬美人局を疑ったけど、ちゃんと冒険者登録して活動してる冒険者ならその可能性は低い。(ゼロとは言っていない)
本当に依頼を受けるなら、このあと受付のカウンターで確認されるから大丈夫だろう。
「一応聞いておきたいんですけど、今日だけのお誘いですよね?」
「はい、それで大丈夫です!」
ならよかった。
流石にこれから毎日パーティーを組むってお誘いだと流石にクランの仕事と合わせて忙しくなりすぎて身体がもたなそうだし。
その点今日は仕事も終わってるし、時刻はもう昼過ぎだ。
付き合うにしてもそこまで時間はかからないだろう。
本当は朝から狩りに行った方が効率はいいんだけど、みんながみんな毎回そうするって訳でもないしね。
「あと、他にもパーティーを組んでるメンバーがいるんですけど、大丈夫ですか?」
「もちろん、大丈夫ですよ」
できれば他のメンバーも全員女の子なら嬉しいけど、贅沢は言わない。
でも他に男が四人も五人も出てきたら流石にちょっと帰りたくなるかな……。
「二人とも!」
彼女が手を挙げると、近くで同じようにメンバーを探していたらしい冒険者がこちらに集まってくる。
内訳は女性がひとり、野郎がひとり。
まあ及第点だろう。
「お名前を聞いてもいいですか?」
「ユーリです。よろしくお願いします」
名乗ったあとに、あっと思い出す。
そういやあドラゴン撃退の件で新人冒険者を中心に俺と話すと呪われるなんて噂が流れてたなあなんて。
俺がその当人だってバレるか……?と警戒したけれど今回はセーフだった模様。
「私はステファニーです、よろしくお願いします」
「あたしはオレリア、よろしく」
「ダーンだ」
最初に話しかけてきた女性がステファニーさん。
もう一人の女性のオレリアさんは俺よりちょっとだけ歳上で、たぶんステファニーさんと同じくらい。
髪の長さはステファニーさんと同じくらい長いけど、それを後ろで縛ってそのまま垂らしている。
男の方はダーン。二人よりは少し歳下。なんか不機嫌そう。
まあそこはどうでもいいけど。
「報酬は四等分でいいですか?」
「はい、それで大丈夫です」
「そもそもアンタ、ちゃんと仕事できんのか?」
「ちょっと!」
疑い言葉を口にしたのはダーン。
まあ疑うのは当然である。
もしこれで役立たずだったら命の危険まであるからね。
とはいえ、ランクは明かしたくないな。
流石にユーリって名前でランク6の冒険者はこの王都で俺一人だろうから。
そもそもランク6なのになんでこんな依頼受けたの?ってなるし。
かわいい子に声をかけられたから、とはちょっと答えづらい。
「んー、でもランクだけじゃ実力は正確に測れないですしね。代わりに詳しい人に聞いてみましょうか」
言って席を立って、依頼書を持ってギルドの受付へ向かう。
「こんにちは、ユーリさん」
「こんにちは。ちょっと聞きたいんですけど、俺の実力でこの依頼はこなせると思いますか?」
聞きながら職員さんにウィンクをしておく。
これで俺の意図は察してくれるだろう。
こういう臨機応変な対応ができてこそ、ギルド職員だって感じがするよね。
「そうですね、ユーリさんなら実力は十分だと思いますよ」
っていうかソロでも余裕だろって気持ちが言葉の外にあふれてる。
またなんか変なことしてんなって顔してるけど変なことじゃないよ。出会いを求めてるだけだよ。
「それじゃあ行きましょう!」
「はい」
ということで、ステファニーさんの号令で俺たちはギルドを出た。
「ステファニーさんは西地区に住んでるんですね、私もその近くに住んでますよ」
「そうなんですね。もしかしたら道ですれ違ったことがあるかもしれませんね」
「でもステファニーさんは良いところのお嬢様みたいですから、同業者だって気付かなかったかもしれませんね」
「そうですか? でもユーリさんもあんまり冒険者には見えませんよ」
「褒められてます?」
「もちろん」
「ならよかったです」
まあ実際冒険者要素はそんなにないしね。
今日だってほぼ私服だし。
役割が治癒師じゃなかったら怒られそうな普段着だ。
「オレリアさんは髪キレイですね、なにか特別な手入れとかしてます?」
「いや、あたしは別に」
「そうなんですよ。オレリアの髪はなにもしてないのにこれなんですよ。ズルいですよね」
急に興奮するなぁ。
「ステファニーの髪も十分だろ」
「そうですよ、お二人とも綺麗な髪をしていますよ」
「そうですか? でも私はちゃんと手入れしてますから」
「なら努力の結果じゃないですか。それも素晴らしいことだと思いますよ」
「ユーリさん、ありがとうございます」
なんて雑談で親睦を深めながら目的にまで移動する。
なおダーンは索敵担当なので一人で前を歩いている。
この辺の道はまだそこまで警戒する必要もないんだけど、それでも全く魔物を見ないわけでもないからね。
ちなみにステファニーさんとオレリアさんは二人とも魔術師だそうで、俺も治癒師として参加なので前衛兼索敵役は自然に確定だった。
別に彼をハブって俺がハーレムを作った訳じゃないことだけは言っておきたい。
「おい、着いたぞ」
ダーンが立ち止まってこちらを振り返る。
その彼の先、目の前には古戦場が広がっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます