048.その手に掴むものは

ということで到着したのは王都からしばらく歩いた古戦場跡。

地面のそこかしこにえぐれたような窪みがあり、朽ち果てた剣が刺さっていたりする。

噂話によると大昔に魔物の軍勢と人間が衝突した場所だとかなんとか。


伝承が失われるくらい昔のことなので詳細は不明だけど。

ともあれ、そういった立地の関係かこの場所にはスケルトンが数多く出現するという。

特に最近は数が多く、ギルドから出される討伐報酬も増額されて美味しいクエストになってるとか。


「でた」


スケルトンは簡易な武器を持っている場合が多く、その場合の脅威度はランク2程度。

まあ単体ではそこまで強くなくて、状況的に数が多く出現しやすいっていうのも含めての査定だけど。


その証拠に、攻撃は強くはあるけど鋭くはない。

俺でも油断しなければ見てから避けられるレベルだ。


「それじゃあ、二人は私が守るのでダーンさんは前に出ていいですよ」

「ああっ!? ちゃんと戦えるのかよ!?」

「もちろん」


その疑問に答えるために荷袋から背丈くらいある両手用のメイスを取り出して、近寄ってきたスケルトンにぶんと振る。

すると打ちつけられた胸がばこっと砕けてそのまま吹き飛びつつ崩れ落ちた。

重いし取り回しも悪いのであんまり出番がない両手メイスくんを使えてちょっと楽しい。


あとスケルトンが握ってる率の高い片手武器の間合いの外から殴れるから戦術的にも楽だし。

これで脳天から砕けたらもっと楽しいんだけど、討伐証明部位が頭蓋だから砕いたらお金もらえないんだよね。

ちょっと傷つけるくらいなら許されるんだど、これで叩いたら原型をとどめないのだ。


「ということでどうぞ」


ダーンくんを前に促して、俺はステファニーさんとオレリアさんの前に立つ。


「ちっ」


舌打ちをしながら剣を構えて前に出る彼に続いて、女性二人は魔術を放つ。

火の玉が二つ飛び、スケルトンの中央で爆発した。

それでそれぞれ数体ずつ、スケルトンは吹き飛ぶ。

残りは五体、俺の出番はないかな。


そんな俺の予想通りに出番なく終わった戦闘後、討伐証明の頭蓋をみんなで集める。

ちなみにスケルトンはまともに素材になるような部位はないのでそっちの稼ぎは美味くない。

握ってる武器もまともなのは少ないしね。


「三人はパーティー組んで長いんですか?」

「そうですね。かれこれ一年くらいでしょうか」


一年というのは駆け出し冒険者には結構長い期間。

まず駆け出し冒険者は事故・負傷率が高くて、さらに同じパーティーを維持するのは難しいから。


特に冒険者は短慮な人間も多いからなあ。

俺はあんまりそういう人間には関わらないようにしてるけど。

めんどくさいし、性格が悪くても許せるのは美少女までなんだよ。


「でもこの前治癒師の人が抜けてしまって。ユーリさんがパーティーに入ってくれれば嬉しいんですけど」

「あたしもユーリなら賛成」

「ありがたい話ですけどそれはちょっと難しいですかね、申し訳ないです」


流石にそこまで時間的な余裕はない。


「でもなにか困ったことがあったら呼んでもらえれば手伝えると思いますよ」

「ありがとうございます、ユーリさん」


なんて話をしながらも討伐は進み、古戦場は中央に近づいていく。

このままランク5くらいのスケルトンの上位種が出て、俺が一人で討伐したらモテモテになりそうだなあなんて思ったり思わなかったり。


まあ実力を秘密にしたままパーティーに入ったのに、格上倒して実力者アピールはなんか低い地点でドヤッてる感じがして実際にやるのは躊躇われるけど。

モテたい、けどあんまりダサいことはしたくない。

この繊細な気持ち、わかってくれますかね。




「それでどっちのことが好きなの?」

「は?」


何度目かの戦闘を終えて、また骨を拾いながらダーンに聞く。


「二人のうちどっちかが好きなんでしょ?」

「なんでそうなるんだよ」


だってそうじゃないとわざわざ突っかかってくる理由が思い浮かばないし。

単純に顔が嫌いだからって言われたらちょっと泣くのでそれは言わないでほしい。


「っていうかお前そんな口調だったのか」

「女性には敬意を持って接する。モテるコツだよ?」


モテたことないだろとか言うな。


「別に、どっちのこともそんなんじゃねえよ」

「じゃあダーンは単純に助っ人に態度最悪で協力もできない役立たずだってことになるけどそれでもいい?」

「ああ!?」


なんて凄まれても事実なので気にならない。

だって事実だし、あと俺の方が強いし。

もし相手の方が強かったら俺もこんな煽り方しませんけどね!

そんな様子の俺に、彼は視線を逸らす。


「俺は……」


やっと彼が口を開こうとした時、背後でカコンと物音がした。

それは剥き出しの骨がぶつかり合う時の音。


「おい、スケルトンが来たぞ!」

「いまちょっと話の途中だからあとにしてほしいなあ」


ということで、地面に落ちてる元々スケルトンが握っていた武器を投擲する。


「えい、えい、えい、えい、えい、えい」


それらは刃こぼれしていて切れ味は損なわれているような物たちだけど、投げて突き刺すには十分な尖り具合だった。

ふぅ、討伐完了。


「こんなもんかな」


投擲でスケルトンを砕きまくるといい運動になった気がする。

腕や脚を砕いたくらいじゃ活動を停止しなかったりするから、頭は保護したまま首か胴を効率よく破壊しないといけないし。

案外遠距離武器の練習とかにいいかもしれない、スケルトン退治。


「大きな音がしましたけど、なにかありましたか?」

「ありゃあ新手のスケルトン、の残骸か?」


音を聞いて戻ってきたステファニーさんたちには誤魔化しておく。


「もう済んだので大丈夫ですよ」


流石にこれはランク2相当というにはやりすぎだからね。

そして新しく倒したスケルトンの頭を拾うためにステファニーさんたちから離れつつ、歩きながら聞いた。


「それで話の続きなんだけど」

「いや、お前なんなんだよ」


どこにでもいる普通の冒険者だよ?


「好きとかそういうのじゃねえよ。そういうのじゃねえけど、オレリアは俺の幼馴染で姉みたいな存在なんだよ」


そんなダーンの述懐に、俺はわかったと頷く。


「なるほど、つまり好きなんだな?」

「なんでそうなるんだよ!」


だってそうとしか見えないんだもん。

まあいいや。


「ならオレリアさんにはあんまりちょっかいかけないようにするから安心していいよ」


彼が正直に話したので、俺もそこは尊重しようと思った。




「二人は幼馴染なんですね」

「ああ、そうだな。ダーンは小さい頃はイジメられててな。あたしが守ってたんだ」


まあ話しかけはするんですけど。

会話しない方が不自然だしね。

再び移動をしながらまた女性陣と親睦を深める。


「ステファニーさんは幼馴染じゃないんですか?」

「そうですね、私は冒険者になってから知り合った関係です」

「なるほど」


つまり幼馴染三人組に挟まる邪魔者という構図は回避されたわけだ。


「それじゃあやっぱり――」


言いかけて俺が臨戦態勢をとる。

それと同時に全員が身構えた。


「行くぞ!」

「いつでもどうぞ」


地面からわらわらと湧いてくるスケルトンにダーンが突進し、俺は後ろを任されたので両手でメイスを握る。

ステファニーさんとオレリアさんの火球も飛び、爆炎で奥の数体を処理すると一瞬遅れてダーンが叫ぶ。


「危ねえ!」


弓を握ったスケルトンの放った矢が、ダーンの横をすり抜けて飛んでくる。

その先にいるのはステファニーさん。


「きゃっ!」

「ステファニー!」


女性陣の叫びが響く。

咄嗟に後ずさろうとして足をもつれさせ、転びそうになるステファニーさんの腰を左手で支えた。


「大丈夫」


そのままステファニーさんに刺さる軌道で飛んできた矢は右手で掴んで、真っ直ぐ投げ返す。

飛んできたときより速い速度で返却されたその矢は、丁度弓を握ったスケルトンの眼球の穴から後頭部に刺さってそのまま頭を吹き飛ばした。

後ろは守るって宣言したから、ちゃんと言ったことはやらないとね。


「怪我はありませんか?」

「はい、ありがとうございます、ユーリさん」


腕の中で感謝を伝えるステファニーさんは少し震えていた。

それを安心させるように、ちょっとだけ腕に力をいれて抱き寄せる。


「あっ……」

「落ち着きましたか?」

「はい……」


心做しか、彼女も身を寄せてくるような感覚があったような気がした。


そんな彼女は俺の右手を見て呟く。


「ユーリさん、手が」


握った手からは血が垂れていた。

流石に飛んでくる矢をキャッチするのは皮膚の頑丈さを衝撃がこえていたらしい。


「大丈夫ですか?」

「問題ありませんよ」


本当は、彼女と離れてからこっそり治療しようと思ってたんだけど、気付かれてしまったのならしょうがない。


「 【ヒール】 」


唱えると、裂けていた手のひらの皮は元通り綺麗になっていた。

治癒師設定がやっと活用されたわ。


「二人とも、大丈夫か!?」


残りのスケルトンを片付けてダーンとオレリアさんが駆け寄ってるくる。


「私は大丈夫、ユーリさんが守ってくれたから」

「俺もノーダメージ」

「いや、ノーダメージはウソだろ」


ダーンにツッコミ担当の自覚が芽生えてきたようで俺も嬉しいよ。

まあともあれ全員無事で良かったよ。

俺のエセヒールじゃ重症は治せないからね。


「あの、ユーリさん…」

「どうしました?」


腕の中のステファニーさんが恥ずかしそうにこちらを見る。


「もう大丈夫ですから」

「そうでしたね、失礼しました」

「いえ……」


抱き寄せた腰を離すのは名残惜しいけど、これ以上やっててセクハラだと思われるのも本意じゃない。

ということでステファニーさんと離れると、彼女の顔は少しだけ赤くなっていた。


「それじゃあ行きましょうか」

「はい」


彼女が頷いて、皆で再び移動を開始した。




「ユーリさんのおかげで今日はかなり稼げました」


それからすっかり調子が戻ったステファニーさんが荷袋を確認しながらこちらを見る。


「全員がちゃんと自分の役割を果たした結果ですよ」


とりあえず謙遜しておく。

欠けていた役割を埋めたという意味ではたしかに役に立ったけど、実働という意味では俺が一番なにもしてないので褒められるとちょっと心苦しいかな。


ともあれ今日の狩りは大漁だった。

袋の中はスケルトンの頭蓋骨でパンパンである。


「これで今日は酒が浴びるように飲めるな」

「ああいいですね、折角ですしこのあと四人で飲みに行きましょうか」


オレリアさんの言葉に俺がさりげなく同意して誘うと、ステファニーさんもそれに頷いた。


「はい、ユーリさん」

「俺も行くぞ」


ということで四人参加で飲みに行くのが決まる。

今夜は楽しくなりそうだなあ。




冒険者ギルドに戻って精算を済ませ、それを四等分して分配する。

これで今日の仕事は完了だ。


「あれ、ユーリ。こんなところでどうしたんですか?」


げぇ、アーサー!?

なんでこんなところにって思ったけど依頼の報告をしに来たんだろう。

ランク10のアーサーへの依頼は大抵クランまで届けられてくるけど、それでも達成の報告はクランに出向いてやる必要があるし。


「ユーリさん、こちらの人は?」

「なんだかちょっと見ただけで凄い装備ですけど。特にこの剣とか……」


それは神剣ってやつですね……。


「私はアーサーといいます。お三方はユーリの知り合いですか?」

「はい、一応」

「アーサーって……」

「もしかして……」


向けられる疑惑の視線。

そのうえで、アーサーが決定的な言葉を発する。


「ユーリは私たちのクランのマスターなんですよ」

「ひっ」


周囲から漏れる悲鳴。

終わった。

俺のモテ計画はここで終わってしまった。


「アーサーはあとで説教な」

「なぜ?」


八つ当たりだよっ!


「んじゃ俺はこれで」

「あっ……」


逃げるようにその場をあとにする。

正体がバレたこともだけど、その正体を隠して下のランクの依頼でドヤ顔してたのが自覚するとちょっと恥ずかしすぎた。


次はもっと上手くモテてやる……!

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