030.王城にて
今日は王都の中心、そこに大きくそびえ立つ王城に来ています。
まず入り口の門は高く、開けるのには衛兵が数人掛かりで行っているそうです。
大変ですね。
そして門を抜けると中庭があり、そこは兵士が集まれるような場所となっています。
今日は見張りの警備をしている兵士がいるだけですが、この場所に並び直立する兵士たちは圧巻でしょう。
さらにその場所から進み、城内に入ると長い廊下が伸びています。
幅も広くベイオウルフの屋敷とは比べ物にならないスケールですね。
その左右には扉が並び、なかに入ることはできませんがそこも絢爛な作りになっているのは見て取れます。
途中には上りと下りの階段があり、下りの方の階段はどこか薄暗く、人を遠ざけるような印象を受けました。
いったいこの先になにがあるのか、知らない方が幸せなのかもしれません。
当然私たちには用がないのでそれは見送って、そのまま進むと再び大きな扉があります。
一際豪華な造りをしているそれをくぐると、そこには広間が一つ。
特筆するべきはその天井の高さ。
人の背丈の十倍はある天井には、どうやって施したのかそこにも絢爛な装飾が施されています。
メンテナンスのことを考えると他人事ながら頭が痛くなりそうですね。
そんな広間には左右に何十人も人が並べるようなスペースがあり、正面には目を引く椅子が一つ。
背もたれが大きく、威厳があるように見えるそれは、しかし微妙に座り心地はよくなさそうなのが気になるところでしょうか。
そんな椅子に実際に座っているとても偉そうな人(威張っているという意味ではありません)で、実際にとても偉い人がこの国の国王陛下です。
そしてその正面に跪いているのが俺です。
罪人かな?
いやまあ、これが普通の謁見スタイルなんだけどね。
俺の後ろにユリウスたちもいるし。
なんで俺だけちょっと前に出てるかと言えば、クランの代表だからだそうである。
俺個人としてはむしろ一人だけ後ろで隠れてたいくらいなんだがそうは許されないらしい。
今日は前にリリアーナさんが言ってた通り、ドラゴンを退治した件で王城に来ていた。
「面を上げよ」
と王様の近くの凄く偉そうな人に言われてやっと顔を上げる。
ちなみに正面、といったけどその距離はかなりのもので、その場が静かじゃなければ声を聞くにも苦労しそうな遠さだ。
ちゃんと正面を見ると、王様の近くにアストラエア様が真面目な顔で立っている。
今日も美人だなあ。
貴族は総じて顔面のレベルが高めではあるけれど、彼女はその中でも一番の美人だ。
まあ今日並んでる貴族の中に女性はあんまりいないけど。
あとベイオウルフも立ってるけど、まああいつはどうでもいいか。
なんて思っていると、今度は王様が口を開ける。
「≪星の導き≫よ。此度の王都防衛、大義であった」
「勿体ないお言葉です」
よし、話は終わったな。帰るか。
とはいかないのがこういう場ではある。
「その働きに対して褒美を取らそう。何か望みはあるか」
「それでは、此度の戦闘にで討伐した魔物の後処理が終わっていませんので、人手を貸していただいてもよろしいでしょうか」
「認めよう。しかしそれだけでは褒美としては足りぬな。他にはあるか」
「では、戦場となった畑の持ち主に損害の補填をしていただければと考えます」
「それは貴公らへの褒美にはならぬであろう」
「私どもは十分な褒賞を頂いておりますので、許されるならば被害にあった民への支援をしていただけたらと」
俺は既に貰った報酬で十分だし、ユリウスたちは普段の稼ぎからして別次元だしね。
「他の者もそれでよいのか?」
「はい」
ユリウスたちも頷く。
まあこれは、ここに来る前にこんな話になったらこう答えようって事前に決めてたのでみんな納得済みである。
それを聞いた王様は、ふむと考えるような表情をしてから口を開く。
「そうか。貴公は伴侶を求めていると耳にしてな。それを求めれば幾人か相手を考えておったのだが、無用であったか」
え?
ちょ……、ちょっと待って……。
「しかし、私利を求めぬその姿、見事である。それでは此度の被害の復興をもって、そなたらへの褒美としよう」
そ……。
そういうことは先に言ってよ~~~!
さよなら、貴族のお嫁さん。
まあ貴族のお嫁さんって話し合わないだろうからそんなに惜しくないけど。
負け惜しみではない。
そして今度は王城の玉座の間ではなく、細かく分かれた部屋の一つに来ている。
まあ細かいっていってもかなりの広さはあるんだけど。
なんでそんな場所に来ているかと言われれば、帰ろうとしたところをこいつに捕獲されたからだ。
「よう伯爵様、今日はいつも以上に高そうな格好してんな」
「やあ冒険者、今日はいつも以上に似合ってない格好をしてるね」
和やかに挨拶をして、そのまま互いにゴツンとデコをぶつけてゴリゴリと押し合う。
うおっ、やっぱこいつ体幹もつえーわ。
普通に押し負けそう。
ちなみにユリウスたちは先に帰ってもらった。
リリアーナさんだけ心配だからってついてきてくれたけど。
「お二人は、不仲なのでしょうか?」
あともう一人、部屋にはアストラエア様もいる。
驚いた表情をしているのがちょっと面白い。
「えっ、仲良しですよ。なあベイオウルフ」
言いながら態度を一転し、互いに並んで腰に手を回して友好をアピールするとベイオウルフもそれにのってきた。
「そうだね、唯一無二の親友と言ってもいいよね。ユーリ」
「いや、親友はちょっと……」
「ひどくない!?」
「???」
困惑するアストラエア様。
ぶっちゃけその反応はとても面白い。
あとリリアーナさんは冷めた目で見てる。
これはこれで。
まああんまりやって不敬罪で怒られても困るから冗談はこれくらいにしておこう。
「そうだベイオウルフ」
「どうしたの、ユーリ」
「ちょっと陛下に誰を紹介しようとしてたか聞いてきてくれない?」
「さすがにそれは難しいかな。というか陛下の紹介しようとしてた候補は陛下の紹介がなきゃ相手にしてもらえないと思うよ」
くそっ。
やっぱり俺に貴族のお嫁さんは無理なのか。
「まあそう泣くなって」
泣いてねーし!
なんて思っていると、アストラエア様に聞かれる。
「ユーリ様は、婚約相手をお探しなのですね」
「まあそうですね。若干ニュアンスが違いますけど」
俺が欲しいのは恋人であって妻じゃないんだよね。
まあお嫁さんも欲しいと言えば欲しいんだけどそれはまだ先の話で。
「アストラエア様は御婚約などはまだでしたか」
「そうですね」
彼女は今年で16歳。
婚約するには十分な年齢である。
まだしていないのは相応しい相手がいないから。
言い換えると、都合のいい相手がいないからとも言えるけど。
貴族の結婚とはそういうものである。それが王族なら尚更だ。
しかしまあ、これは結構センシティブな話題の可能性もあるから不用意に踏み込みたくもないな。
ということで、ベイオウルフに視線を向ける。
「それで、今日はなんの用?」
「アストラエア様からお話があるそうだよ」
「そうでしたか。これは失礼いたしました」
「いえ」
言ったアストラエア様は今日イチ真剣な顔を見せる。
「本日は、ユーリ様にお願いしたいことがあります」
「ええ、私にできることで政治が絡まないことでしたらなんなりと」
「それはですね……」
と言われたアストラエア様の依頼は、ちょっと気軽に頷くには難しい話だった。
まあ頷くんだけどさ。
あと護衛の騎士の人に凄く嫌な顔されそう、なんて思った。
「それじゃあ帰りましょうか、リリアーナさん」
「はい」
話し合いを済ませて部屋を出て、そのまま衛兵に誘導されて外に出るために歩き出す。
「先程の依頼、受けるんですか?」
「そうですね、流石に気軽に断れない内容ですから」
「そうですか」
ギルドを通してならともかく、顔を合わせて直接言われたなら流石に断れない。
断るに足る理由があるならまだしも、そうじゃなかったしね。
まあ個人的に、彼女の助けになりたいという気持ちも無いわけじゃないけど。
「それでは、必要な情報を集めておきますね」
「よろしくね、リリアーナさん」
若干複雑な表情をしながらも、準備をしてくれるリリアーナさんに感謝。
「今日のドレスもとても素敵ですよ、リリアーナさん」
今更ながら、彼女の素敵な格好を褒める。
今日のリリアーナさんは黒のドレスを身に纏っていて、下ろした長い黒髪とマッチしていた。
「普段の格好とどっちが素敵ですか?」
なんてリリアーナさんは笑いながら、からかうような表情で聞いてくる。
「そうですね、普段が百合のような美しさだとすれば、今日は薔薇のような美しさですね」
「誤魔化しましたね」
「どちらか片方なんて選べませんから、どっちも本心ですよ」
「ふふっ、ならそういうことにしておきます」
それで納得してくれたリリアーナさんも、こちらを見てあらためて様子を確認する。
「クラマスも素敵ですよ」
「ありがとうございます」
この褒め言葉が、今日で一番嬉しかったかな。
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というわけでこれにて一章完結です。
皆様の応援のおかげでジャンル別週間ランキングも二桁(90位)に入れました。
本当にありがとうございます。
ここまで毎日更新のモチベーションを維持できたのも皆様の応援のおかげです。
マジで。
これからも応援を、あとよければ評価も、よろしくお願いしまーす!
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