003.酒場で意外な人物とばったり
「疲れたー……」
すっかり日も暮れて街灯の明かりがポツポツと並ぶ通りを歩く。
結局今日はルナに訓練場でしごかれたのでいつにもましてお疲れモードである。
デスクワークの人間に急な運動はキツイって。
「いらっしゃいませー!」
そんな疲れを癒すために酒場に入ると見知った顔が二つ。
「よっ」
「こんばんは」
というか現クランメンバーで元パーティーメンバーだった。
髪が短い方がユリウスで、優男の方がアーサー。
彼らは当クランが誇る稼ぎ頭、国内有数のランク10冒険者だ。
当然、相応に稼いでいる。というか稼ぎまくっている。
「二人とも、こんなところにいるなんて珍しい」
「こんなところで悪かったですねー」
今言った俺の言葉を通りかかった店員さんに聞かれていたようで抗議されてしまった。
「いや、俺は好きだけどね、ここ」
俺も二人と同じテーブルにつきながら弁明する。
とはいえ彼らならここの10倍は値段がする店でも普通に通えるくらいなんだから不思議に思うのも無理はないだろう。
「それを言ったらユーリもクラマスとして相応に稼いでるだろ」
「まあそうなんだけど、俺は自分の実力に見合わないような金の使い方はしないようにしてるから」
当然彼らの大量の稼ぎはクランの稼ぎであり、そのクランの代表として全体の一部を給料として貰っている。
しかし俺自身の実力はランク6相当なので、それを基準に考えるとこの店くらいが丁度いいのだ。
身の丈に合った生活をしていないといつか破滅しそうだし。
ここも質は悪くないんだけどね、全体で見れば中の上くらいはある。
最高ランクと比べれば流石に見劣りするってだけで。
なおクランハウスには食堂もあるので、外食する気分じゃない時はそっちで済ませることメンバーも多い。
「ま、そんなこたどうでもいいだろ。とりあえず飲もうぜ」
「確かにそれもそうだ」
ユリウスがグラスを掲げるので俺もそれに倣う。
「あんまり飲みすぎないようにしてくださいね、ユーリはお酒に弱いんですから」
「は? 弱くないが?」
クランハウスの飯も美味いんだけど、やっぱり気兼ねなく酒が飲めるのはこういう店に限るぜ。
ということで肉と酒を口に運び始めて少しして、俺はすっかり気持ちよくなっていた。
「はー、なんで俺には恋人できないんだろうなー」
「すっかり出来上がってますねえ」
俺より飲んでるはずなのに全然酔う気配のないアーサー。
「お前らはいいよなー、二人とも相手がいて」
「でた、いつもの流れ」
やっぱり全然酔ってないユリウスも呆れた顔でこちらを見る。
「うるさい」
そもそも俺がリーダーになって最初にパーティーを組んだのは彼女を作るため。
まだ駆け出しの冒険者だった頃、俺のちょっとした能力が雑魚狩りには最適だったこともあり盛大にスタートダッシュを決めた。
そして同年代でも一目を置かれるランクになり、将来有望な同年代を先物買いしたのが事の始まり。
内訳は俺を含めて男3人・女2人。
リーダーとして実力を示した俺は女性陣にモテモテになるはずだった。
はずだったんだが。
「なのになんでか俺以外の4人が付き合ってるんだもんなあ!」
こんなの許せねえよなあ!
「これは明確に裏切り行為と言っても過言じゃないだろ」
「いや、過言だわ。むしろ過言を通り越して事実無根だわ」
「だか俺の心が傷ついたのは事実だ」
「だからあの時は酒奢っただろ。高いやつ」
それはそうなんだが……。
あの時なぜ、男3人に対して女3人にしておかなかったのか……。
俺一生の不覚である。
言い訳をさせてもらえば、結局俺以外の4人は仲良く揃ってランク10に到達したので、それに見合う人材が見つからなかったという点があった。
むしろ狭い範囲で集めた人材が全員ランク10まで上がってるのが異常事態なんだけど。
俺と違ってみんなはまだ実力を伸ばしているからランク11より先も見えるけど、現状でも冒険者の中では別格の扱いなのだ。
みんな凄いね、俺以外。
「いやいや、ユーリも十分凄いですよ」
「俺らのクラマスなんだからもっと自信持てよ」
「でも俺パーティー追放されたしなあ」
「いや、追放はしてねえよ」
「いやいや、されたって」
「まあ追放という言葉は穏当じゃありませんが、ユーリに抜けてもらったのは事実ですよね」
「つーかその前に、これ以上付いてったら俺が死ぬからって諦めてたろ」
「たしかにそれはそう」
ちなみに俺のランク6は全体で見ると中の上くらいの位置である。
実在した冒険者の最高位がランク13だからそう考えると数字的には中の中なのだが、上に行くほど三角型に人数が減っていくので人口比ではそれよりずっと上。
ランク12とか今は世界に3人しかいないしね。
まあ俺はうちのクランの中だとほぼ最底辺なんだけど。
最年少のメンバーにそろそろ追いつかれそうだし。
うん、本当に序列で一番下になったらまた新人を募集して最下位脱出しよう。
「まあそんなことはどうでもいいんだが」
「一人で勝手に結論出して納得するなよ」
「いいんだよ! そんなことより女にモテる方法を教えてくれ」
「ああ? 自然にしてりゃ女くらいできんだろ」
「でた、何もしなくてもモテる男の発言。ムカつくから燃やしていい?」
「おいやめろ」
いや、やらんけどね。こんなところで燃やして延焼したら大事故だし。
「そうですね、やはり相手の良いところを褒めるのが良いんじゃないでしょうか」
「でた、また自然体でモテる男の発言。でも参考にさせていただきます」
アーサーはちゃんと参考になる意見を言ってくれるから好き。
それに比べてユリウスの役に立たなさよ。
「お前いっぺん殴るぞ」
「はー」
今日も俺がモテる未来は見えない。つらい。
「あれ、ユーリじゃん」
「んー?」
後ろから声をかけられて、それが女の声だったことに疑問を覚えながら顎をあげる。
そのまま後ろを見ると、若干見覚えのある顔があった。
「お前、バーバラか?」
「そ、久し振り」
そこにいた女は、世界を旅すると言って数年前に王都から去った冒険者。
ついでに言うと、俺の昔の恋人だった。
★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
ここまで読んでいただきありがとうございます。
今後は大体一日一話くらいを目標に頑張っていきたいと思いますのでよろしければお付き合いください。
あとブックマークをしてくださると作者のやる気が約1.5倍になり執筆速度が1.2倍程度上昇(効果乗算)するのでぜひ、よろしくお願いします!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます