004.元カノ

「それじゃあみんな元気してるんだ」

「そうですね、あの頃から変わりありませんよ」


バーバラの質問にアーサーが答える。

ちなみにバーバラとアーサー、ユリウスの三人も知り合い。

俺とバーバラが付き合ってた頃にはもう二人とパーティー組んでたしな。


「あの頃が懐かしいわねー。ユーリが酒弱いのは相変わらすだけど」

「うるせえよ」

「よくトイレで吐いてるのを介抱したりしたっけ」


うるせえよ。

そんな俺の恥ずかしい過去が話題に上がるせいで自然と酒のペースが進む。

あの頃は若かったんだよ、なんて言い訳をしても過去が消えるわけでもなく。


気付けば頭がぼーっとしてきた。


「そろそろ解散にすっか」

「そうですね、ユーリも出来上がってるみたいですし」

「酔ってないぞ」

「酔っぱらいはみんなそう言うのよ」


ということで会計を済ませて店を出て、ユリウスとアーサーは先に帰っていく。

必然残されたのは俺とバーバラ。


「そいや、ユーリ」

「どした」

「今日泊まるとこ決めてないんだけどどっか良い宿ない?」


んー、宿屋とか使わんからさっぱりわからん。

まあ考えればいくつかは思い付きそうな気もするけど、そもそも考えるのがめんどくさかった。

それよりもっと直感的な選択肢があるし。


「ならうちに来るか?」

「えっ、いいの?」


そういうことになった。




つっても俺の部屋に呼ぶ訳じゃないけれど。


「リリアーナさん、こんばんは」

「こんばんは、ユーリさん。酔ってますか?」

「酔ってないですよ」


寮の入り口で丁度良くリリアーナさんを見つける。

彼女は実家も近くにあるんだけど利便性を考えて寮にも部屋を持っている。

泊まったり帰ったりで居るかどうかは日によるけど。


そんなクランの寮は入り口に受付と共有スペース、正面には食堂、左右に男の部屋と女性の部屋に別れている。

ちなみに寮は希望制。一部クランメンバーは自分で家を借りていたりする。

稼ぎで言えば全員余裕で一軒家借りれるくらいなんだけど、そこは利便性のおかげかな。


「そちらの方は?」

「こいつはバーバラ。俺の知り合いです。今日はここに泊まるので部屋に案内してやってもらっていいですか?」


受付には棚があり、そこから来客用の名札を取り出してバーバラの首にかける。


「敷地内にいるときはとりあえずこれつけとけ」

「はーい」


なんて返事だけは良いバーバラをリリアーナさんに託して見送る。


「それじゃあお願いします」

「わかりました。それではバーバラさん、こちらへどうぞ」

「うん、んじゃあまたね、ユーリ」

「ん」


リリアーナさんがバーバラを来客用の部屋に案内するのを見送って、俺は反対方向の自室へと向かう。

夜もいい時間なので誰ともすれ違うこともなく、階段を上り自室に入ってベッドに倒れこんだ。


「ふあっ」


まだ酔いが残っているようで、このまま横になっていればすぐに眠れそうだ。

今日も一日平和でよかった。

これで女性にモテてたら完璧だったんだけど、そこはもういつも通りである。


やっぱり飲み屋でユリウスとアーサーにばったり会ったのが悪かった。

あれがなければかわいい子との出会いもあったかもしれないのに。

なお、自分で絡みにいったことは忘れた。


うーん、彼女ほしい。

なんてまぶたを重くしながら考えていると、部屋の扉がコンコンとノックされてそのまますぐに開く。


「おっ、ユーリいたいた」

「人の部屋入ってきて居たもくそもないんだわ」


顔を見せたのはリリアーナさんに案内されて部屋に向かったはずのバーバラ。


「もしかして、一人でお楽しみ中だった?」

「んなわけないだろ」


からかうようなバーバラをバッサリ否定するが、そんなことは気にせずにこいつは部屋の中を物色し始める。


「んでなにしに来たんだよ」

「べーつにー、なんか面白いもんでもないかなと思って」


ああうん、こいつはこういう奴だったな。

昔から振り回されてばっかりだった。

そういうのも、本音を言うと嫌いじゃなかったんだけど。


「なんのために男女で別れてると思ってるんだか」


主に風紀の乱れを防ぐため。

別にそこまで厳しく取り締まってる訳ではないけれど、それでもあんまりそこかしこで盛られても困るという話。

あと単純に俺がいちゃついてるカップルを見たくないという話でもある。


「ならあたしは別に問題ないでしょ」

「それはそうではあるが」


俺とバーバラはそういう関係でもないわけだし。今は。


「それに気付かれないようにここまで来たから平気」

「それは多分気付かれてるぞ」

「そう?」


バーバラも結構な腕前だが、それでもうちのクランのメンバーなら普通に気付く。

ここまで素通りされたのは気配で不審者認定されなかっただけで。

俺? 俺はもちろん気付かなかったが?


「ふーん」


ある意味で騎士団の詰め所くらい安全なのがこの寮なのだ。


「あっ、もしかしてユーリ彼女でもできた?」

「なんでそうなる」

「いやー、彼女持ちなら流石に部屋にお邪魔するのも悪いかなと思って」


たしかに道理ではあるが。


「安心しろ、ずっと独り身だよ」

「ですよねー」


そこで納得されると不満しかないんだが。いいだろ俺に彼女ができても。


「別にいいけど、でもいないんでしょ?」

「いない」

「なら事実じゃん」

「うぐ……」


正論通り越してただの事実なのでなんも反論できん。


「あっ、これ美味しそう」


バーバラが見つけたのは棚にしまってあるワイン。


「一本飲んでいい?」

「だめ」

「そう言わずに」

「結構高いんだぞ、それ」

「ちゃんとお返しはするから」

「んー」


どうせダメって言っても諦めないんだよなあ、こいつは。


「一本だけな」

「やった」


嬉しそうに瓶をあけるバーバラを見ながら、もう寝ても良いかななんて思って思考を手放す。


「バーバラ」

「んー?」

「お前いつまで王都にいんの?」

「しばらくはこっちにいるかな」

「そっか」


なら先からのことは明日考えればいいか。

そんな考えがあとで大変なことになるとは、この時の俺は知るよしもなかった。

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