023.恋バナ(男たちの場合)
「あ、クラマス」
「おつかれさまでーす」
「おう、おつかれ。どうしたんだそんな端っこで」
クランハウスの食堂に入ると、何故かわざわざ端っこに固まって座っている男たちが五人。
全員若いメンバーで何やら盛り上がっていた。
うちのクランの食堂は50人以上を余裕で収容できる作りになっているので、その様子はとても怪しい。
「今こいつに好きな相手が出来たっていうんで問い詰めてたんですよ、クラマスもよかったら一緒にどうですか」
「なるほど、詳しく聞こうか」
その輪に加わった俺が引いた椅子に腰を下ろして身を乗り出す。
「まず先に聞いておくが、うちのクランのメンバーか?」
ちなみにクラン内恋愛は別に禁止しては居ない。
ユリウスたちはパーティー内で付き合ってるし、そもそも俺がモテるために作ったクランだから禁止したら本末転倒だし。
とはいえ、許されないことはあるんだが。
「えっ、はいそうです」
「なるほど、遺書は書いたか?」
「なんでですかっ!?」
「なぜならその相手次第では、俺はお前を墓の下に送らなければならないかもしれないからだ。それで、相手は?」
「なんだろう、すっごく言いたくない……」
「安心しろ、ニル。クラマスがキレたら俺等が助けてやるから」
「ああ。場合によっては俺たちも敵にまわるかもしれないけどな」
「超えちゃいけないラインがある、常識だよなァ?」
「嘘は言うなよ、これは仲間の信頼に関わる問題だぞ」
俺も大概だけど、うちの男たちも大概キてるな。
別に俺がクラマスだから似たような人間が集まったわけではないが。
「俺は今まさに仲間の絆というものを疑いたくなってるよ……」
なんて嫌そうな顔をしたニル、本名ニルヴァーノは結局観念したように名前を吐く。
「ネイティアさんです……」
ネイティアはうちのクランメンバーの治癒師だ。
歳は18歳、冒険者のランクは7でニルヴァーノと一緒。
「なんだ、ルナじゃなかったか」
「ルナさんは流石に手を出せませんよ。綺麗ですけど圧が強すぎますし、あと若すぎますし」
「そうか。っていうかよく考えたら別にルナに彼氏ができても文句無いわ俺」
ルナは大切だけど、うちのクラメンなら別に絶対に許さないってほどじゃない。
「じゃあ俺脅され損じゃないですか!?」
「若干申し訳ない。ほら、お詫びに俺の持ってきたチョコ食っていいぞ」
「命の危険まで感じたのにチョコで誤魔化そうとしてる……」
「そう言うなよ、こいつはトブぞ」
「本当ですかー? ……ッッッ!?」
一つ受け取って口に入れたニルヴァーノがカッと目を見開く。
「そ、そんなに美味いのか?」
「俺にも一つください!」
「しょうがないな、一人一つだぞ」
「……!?」
「これ、ヤバい成分でも入ってるんじゃ……」
「安心しろ、違法な成分は入ってない」
”違法”な成分は、なァ。
なんて冗談は置いておいて。
「それで、なんで好きになったんだ?」
「実はこの前同じパーティーを組んだ依頼で野営をしたんですけど……」
「一線超えちゃったのかっ!?」
「違うわ! ごほん、その日の仕事で俺がちょっとミスしちゃったんです。そのあと一人で火の番をしてたんですけど、わざわざネイティアさんが起きてきてココアを作ってくれたんです。それでミスを慰めてくれて……」
「好きになっちゃったと」
「はい……」
「それでその後は?」
「仕事が終わってからまだ何もありません」
「なんだよ、ヘタレだな」
「お前だって彼女いないだろ!」
「なんだとコラ!」
「二人とも、とりあえず落ち着け」
「「はい、すいません……」」
「それでクラマスに相談なんですけど、どうすれば付き合えると思いますか」
おっと、これは予想外の方向からピンチがやってきたぞ。
一応これでもクランマスターをやっている関係上、メンバーからは頼れる上役という視線で見られることもあったりなかったりする。
ニルヴァーノとかは17歳だから、多少俺の方が歳上でもあるしね。
とはいえ、期待は応えられなければ失望されるというリスクと表裏一体でもあるのだ。
今からでも聞かなかったことにして逃げられねえかな……、無理か。
「うーん」
そもそもモテる手段なんて俺の方が聞きたいんだよなあ。
なんて言えるはずもなく。
ここは一発カマすしかねえな。
「まずこういったことに正解はない。なぜなら相手によってなにを異性に求めるかは異なるからだ」
そんな予防線を張るような俺の言葉に、メンバーたちからはにわかに失望の気配が漂う。
「だか逆にいえば、相手のことを考えるのが大切ということだ。お前たち、これをすれば女にモテるなんて絶対に答えがあるなんておもってないか?」
「……!!!」
「その勝手な思い込みは今すぐ捨てろ。間違った前提では、正しい答えにたどり着けることは絶対にない。もちろん、最大公約数的な回答は存在する。顔が良い、強い、金がある。それで多くの女にはモテるだろう。しかし、相手がたった一人の場合、その武器で無闇に戦うのは甘えでしかない!」
「……!!!!!!」
「教えてくださいクラマス! 俺はどうすれば良いんですか!?」
「そうだな。俺の見た限りネイティアはああ見えて自立心が強い。作業を手伝おうとして断られたことがある。だから逆にああいうタイプには頼ってお願いしてみるといい。頼るのは好きじゃないが頼られるのは悪くない、という人間は案外いるもんだ」
「なるほど……!」
納得した様子のニルヴァーノの肩にぽんと手を置いて、そのまま横から顔を寄せる。
「そして見事付き合うことができたら、俺たちに彼女の友達を紹介してくれるように頼むのだ」
「わかりました! 俺、やってみます!」
「ああ!」
がっちりと握手をする俺のニルヴァーノ。
周りのメンバーも俺の演説を聞いて盛り上がっていた。
冷静になると周りから漏れ聞こえてくる、
「ノリが完全に詐欺師」
「あそこまで自信満々なのはある意味才能」
「これで本人がモテてたら信じてたかも」
なんて外からの冷たい声は俺たちには届かない。
まあ俺の尊厳は守られたからよかった。
「そういえばクラマスは、バーバラさんの一緒に風呂に入ったんですよね?」
ニルヴァーノの相談は一段落したので、他のメンバーがそんなことを聞いてくる。
「そんな事もあったな」
「う……、羨ましい……」
「やっぱり、エロいことしたんですかっ!?」
なるほど。
「いいか、お前たち」
「はい」
期待するメンバーに俺は真剣な顔で告げる。
「エロい話は女に評判が悪い。モテたいなら外ではやらない方が良いぞ」
「……!」
俺の指摘に、メンバーはハッとして周囲に視線を向けた。
ここが端っことはいえ食堂の中なことに変わりはなく、当然女性メンバーも食事をとっていたりするわけで。
俺も下ネタは嫌いじゃないが、少なくともこういう場所で話すのはよくないだろう。
「ということで俺がバーバラの身体を洗った話はまた今度な」
「すごい気になるんですけど、また今度っていつですか!?」
「そうだなー。じゃあニルヴァーノがネイティアと付き合えたらな。もしくは、フラれたあとでもいいぞ」
「縁起でもないこと言わないでくださいよ!」
「がはは、まあ応援してるから頑張れ」
若者の恋バナは健康にいいからな。
そんな風に話を締めて、俺は仕事の続きをするために食堂をあとにする。
結局ニルヴァーノはネイティアにフラれるんだけど、それはまだ先のお話。
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