024.ソフィーと買い物デート

「お待たせ、ソフィー」

「あたしも今来たところです」


ということでクランハウスの前。

ソフィーと待ち合わせて今日はお買い物だ。

これはサボリではなく新人のサポートなので心置きなくゆっくりできるぜ。


「それじゃあ行こっか」

「はい、おねがいします」

「任された」


頷いて最初に足を向けたのは武器屋。

別に俺にエストコートのセンスがないから初手こんなところな訳ではなく、純粋に仕事で使う道具を見に来たからである。

ちなみに鍛冶屋じゃないのは求めるものが金物じゃないから。


店に入ると壁にはいくつか弓がかけられている。

ここの弓は中古品、発掘品の他に専門の弓職人から仕入れているので種類が豊富でありがたい。

もちろんリリアーナさんの実家の商会の系列店ね。


「いらっしゃいませー」


店員さんの声を聞きながら弓が並んでいる場所まで移動する。


「沢山ありますねー」

「そうだねー」


ちなみにソフィーは今すぐ弓を買い替えるわけではないけど、ランクが上がれば自然と強い弓に持ち替えることになるので今日はその見学だ。


「ユーリさんは、どれがオススメですか?」

「そうだなー、見た目だけで言えばこれかな」


手に取ったのは店に飾ってある弓で一番長い物。

その長さは俺が真上に手を伸ばした高さより更に高く、見るからに威力がありそうな見た目だ。


「格好いいですねー」

「ねー」

「引いてみてもいいですか?」

「もちろん」


まあ本当に許可を取るべきは店員さんなんだけど、関係店ということでこれくらいの自由は許される。


「んっ……!」

「結構重い?」


むっと呼吸を止めて胸を張り弓を引くソフィーはかなり力を入れているように見えた。


「そうですね、今のあたしだとちょっと使えないかもです」

「まああんまり普段使いするようなもんでもないしね」


ここまで長いとそもそも持ち運ぶのにとても邪魔である。

ダンジョンの中はもちろんのこと、森の中でも木の枝にぶつかって普通にストレスが無限大だろう。

逆に、城壁の上から魔物の狙い撃つみたいな使い方なら今のソフィーでも十分運用できるだろうけど、彼女の普段の活動にそぐわないのは間違いない。


「んじゃ次、これはどう?」


今度は極端に短い、具体的に言うと片腕の長さくらいしかない弓。


「んっ……、これはさっきのよりも軽いですね」

「だねー」


これは魔物の皮なんかは貫通できないけど、目とかならダメージを与えられるってコンセプトのやつ。

扱いは難しいけど使いこなせれば有用だ。


「あとは短刀を逆手に持ってこんな感じで」

「なるほどー」


矢を番える方の手で短刀を握ると、そのまま敵と近接したときに戦うことができる。

短弓自体が比較的敵との距離の短い立ち回りを要求されるから、その時のリスクに備える形かな。


「まあどっちにしてもソフィーは元の型を基準にしたらいいと思うけど」

「そうですね!」


ここで「今までのやり取り全部無駄では?」って言わないソフィーは良い子だなー。

まあ完全に無駄にはならないと思うけど。


そんな流れで結局ソフィーが元から持っていた物に近い弓を眺めていく。


「ソフィーは前から今の弓を使ってたんだよね」

「はい、森で狩りをしてました」


なるほどそれで既に冒険者としてやっていくのに十分な技量をもっていた訳だ。


「ならこのまま魔力の出力が上がればもっと強い弓を引けるようになるね。弦だけ変えるって手段もあるけど、どっちにしろ持ち替えた時は苦労するかも」


当然強い弓を引ける方が矢の威力は上がるが、それに伴って使い勝手も変わるのがネックではある。

魔力は冒険者として戦いをしてれば筋力と同じように自然に育っていくし、当然ランクが上がれば持ち替えは必須ではあるけど。


「まあもうちょっと先の話でいいかな」

「そうですね」


お試しで引いた弓はまだ重そうな様子を見て、一旦更新は保留にする。

実は力がなくても引ける強い弓っていうのもあるんだけど、それはそれで金がかかるからソフィーのランクには見合わないだろうし。

ということで帰る、訳ではなくそのまま店の中を覗いていく。


「矢も沢山ありますね」

「これも見てると結構楽しいよね」


普通の鉄の鏃だけでも様々な形があるが、他の素材を使ったものはそれに輪をかけて特徴的な見た目をしている。


「ユーリさん、これはなんですかっ?」

「その白いやつは祝福された鏃だね。アンデッドに刺すとそのまま浄化されるやつ」


「じゃあこれは?」

「この紅いのは魔力を通して放つと当たった時に内側から燃え上がるやつ」


「これは?」

「この緑のは魔術で速く飛ぶように加工されているやつ。普通の矢の三倍の速度で飛ぶよ」


「はー、凄いです」

「だよねえ」


俺は使わないけど、それでもこの多彩さには驚かされる。

まあ相応にお高いんだけど。


「ソフィーは欲しいのとかある? 値段は抜きで」

「そうですねー……」


悩むソフィーは無言で考え込むけど、お尻の尻尾がゆらゆらと揺れてるのが見て和む。


「このピンクのやつですかね」

「なるほど、また珍しい効果のやつを選んだね」

「見た目が可愛かったので、駄目ですか?」

「いやいや、駄目じゃないよ。見た目が気に入るかっていうのも大事だしね」


まあ流石に、それは気軽に買える値段でもなかったのでその場では買わなかったけど。


「あとは胸当てとかかな」

「それは今使ってるので問題ないですかね」


あっ、はい。

剣士などの前衛と違って弓士の胸当ては防具と言うよりは、弓を引く時に自分の胸に当てないためのものなのでそこまで性能は求められない傾向にある。

あとまあ、胸がそこまで大きくないとそもそも気にする必要もないし、みたいな部分もあるし。


「じゃああとはこれかな」

「手袋、ですか?」

「弓引いてると指が痛くなるでしょ? その保護の為のグローブ」

「なるほど」


「ソフィーは使ったことない?」

「生地が厚いと狙いが難しくて使ってないです」

「たしかにそうなるよね」


弓を引く方の手は特に狙いのための繊細な調整が必要になるので、あまり厚いグローブは好まれない傾向にある。

まあそのへんも、どういう運用をするか次第なんだけど。

それはともあれ、


「こっちの手袋ならそうでもないでしょ?」

「でもこれは、薄すぎませんか?」

「それは素材が特殊だから」


実際にその白く薄い手袋をしたまま弦に指をかけると、素手よりも随分指先の食い込む感覚は薄い。

繊細な調整を妨げないほどに薄く、それでも指が痛くなるのを確かに軽減している。

それを見たソフィーは目を輝かせてその様子を観察する。


「凄いです」

「ソフィーも着けてみるといいよ」


俺が手袋を外したものを受け取ろうとするソフィーに、店においてある別のものを渡す。


「ソフィーの手の大きさならこっちかな」


俺とソフィーじゃ手の大きさが一回り違うから、同じ大きさのものを選ぶと指先が余ってしまう。


「たしかにそうですね」


ちょっとだけ恥ずかしそうに、それを受け取ったソフィーは右手にはめてギュッと感触を確かめる。


「実際にはめてみてどう?」

「確かにこれなら、狙いも問題なさそうです」


そのまま弦を少し弄ってから、ソフィーがこちらに手を出す。


「どうですか?」


差し出されたその手を実際に触って確認する。

指先に布も余ってないしサイズは丁度いいかな。

触った感じソフィーの指の柔らかさも分かるくらい薄いけど、爪で押し込もうとすると沈まない感覚があるので質も良さそう。


「実用に問題は無さそう。あとよく似合ってるよ」

「えへへ」


褒められて照れるソフィーは少しだけ顔が赤くなっている。

後ろで尻尾も揺れてるし嬉しそうだ。


「まあ問題は値段だけどね」

「……!!!」


薄く柔らかく、そして強い。

そんな素材を求めると当然値段は高くなる。

ついでに言えば性能に比例して金額は青天井だ。


「はわわ」


値段を確認したソフィーが焦りながらも丁寧に、手袋を外して棚に戻す。

その手つきは素早くも慎重であった。


本当なら不用意に触ろうとしたら店員に止められるような代物なのでさもありなん。

うちのクランはお得意様なのでそんなことはないけれど。




それから店を出て帰り道。


「これふたつくださいな」


露店で珍しい果物を売っていたので二人分買って片方ソフィーに渡す。


「これってなんていうんですか?」

「ポポーっていう果物だね。普通だとここよりもうちょっと北の国で育てられてるやつ」

「ほほー」

「ぷぷっ」


なんてソフィーの天然に密かに笑ってから、ポポーを半分に割って中を覗く。

外皮は緑でサイズは拳大。形状は楕円で瓜のような見た目だろうか。

果肉は黄色で大きい種が邪魔だけど、食べてみるとまったりとした甘みが口に広がる。


「あまーい」

「美味しいねー」


ソフィーも大満足の様子だ。


「これは凍らせるともっと美味しいらしいよ」

「そうなんですね!」

「せっかくだし買って帰って凍らしてみようか」

「はい!」


ということで追加でいくつかポポーを買ってその場をあとにする。


「今日はありがとうございました」

「どういたしまして」


まあ結局果物買って帰ってきただけなんだけど。


「でもユーリさんとお店を見れて楽しかったです」

「それならよかった」


なにか必要になった時の下見としての役割は十分果たせただろう。


「また、なにか買う時は一緒に行ってくれますか?」

「もちろん」

「やった」


嬉しそうなソフィーと並んでクランハウスの前に着いたので、俺は包みを取り出す。


「あとこれ、あげる」

「これって、なんですか?」

「プレゼント」

「わわっ!」


梱包された贈り物の詳細は外からではわからない。


「開けてみてもいいですか!?」

「寮に帰ってからね。中身はお楽しみ」


まあ今日通った範囲を考えればそこまで候補も広くはないけれど。

あと金額的に目の前で開けて恐縮されてもあれだし。


「ありがとうございます!」

「どういたしまして」


嬉しそうなソフィーを見て思う。

今日のエスコートは及第点だったんじゃないかな。




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気付けばジャンル別日間ランキング91位で二桁に入っていたそうです!


これも読んでくれる皆様の応援のおかげです!ありがとうございます!


次は週刊二桁を目指して(現在113位)頑張ろうと思いますのでどうかこれからもよろしくお願いします!

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