033.やっぱりお家が一番

「こんばんはー」


夕方、王都に戻ってきて冒険者ギルドの受付カウンターに袋を置く。


「おかえりなさい、ユーリさん。今日は大漁でしたか?」

「まあまあかな。ちょっと待ってね」


言って袋に手を突っ込み、中からスピードラビットの尻尾を取り出す。


「はい、今回の依頼納品」

「はい、13匹分ですね。確かに受け取りました」


それから順番に、狩った魔物の証明を出して受付の人に渡していく。


「このオーガもソフィーが倒したんですよ。ほら、ここに矢のあとが。凄いでしょー」

「生首はいらないのでしまってください」

「えー」


俺の不満げな声も黙殺されるので、仕方がなく右耳を切り取って提出すると彼女はそれをしまって手元の用紙に数字を書き加えた。

ちなみにギルドの受付は討伐証明を受け取るお仕事も兼ねてるので、死骸やらなんやらにも慣れたものである。


「あとゴブリンの首もあるよ」

「なんで持ってきたんですか……、いらないでしょそれ」

「頭蓋骨で杯でも作ろうかと思って」

「趣味わるぅ……」

「まあ冗談だけど」


「変な病気になったりしそうですね」

「病気になったら誰か看病してくれるかなー」

「私がしてあげましょうか?」

「えっ、マジ?」


「一日一千万ルミナでいいですよ」

「流石に高……、いやワンチャンあるか……?」

「本気で悩まないでくださいよ。というか看病くらいクランの人がしてくれるでしょう?」

「うーん……、たぶん?」

「自信なさすぎ!」


なんて冗談を交えながら、無事討伐証明の納品は終了。


「はい、確かに確認しました。それでは今回の報酬をどうぞ」

「ありがとうございます」


受け取って、その枚数を数える。

これが間違ってたら大変だからね。

まあ受付が混んでるときは、わざわざここではやらないけど。


「そうだ、ソフィーってそろそろ昇格できそう?」

「そうですね。討伐実績に日頃の仕事振りを見てももう昇格して問題ないかと。あとはギルド役員の審査待ちですね。オーガを倒したというのは参考記録ですけど」

「まあ俺一人でも倒せるしね。でもたぶんソフィーの他にランク4冒険者が三人くらいいれば普通に倒せると思うよ」


それくらいでも十分ランク4への昇格実績になる。

今回はランク3への昇格だからもっとハードルは下がるし。


「そこまで危ないことさせたくもないけど」

「なんだかんだ言って過保護ですよね、ユーリさん」

「危ないことしないと上げられないランクなんて、上げても良いことないしね」

「ふふっ、良いと思いますよ。特に≪星の導き≫は優秀な人が集まりますし」


危険なことをしないと生計が立てられない人間もいるけれど、実力があればその傾向は薄くなっていく。

というか手堅く継続的に稼いでくれた方が俺の懐の温まり具合的にも嬉しいのだ。

まあ不測の事態なんかで時にはそんなことを言っていられない場合もあるのだけど。


「んじゃそろそろ帰ろうかな」


硬貨の枚数も数え終えたのでそれを袋のまま荷袋に突っ込むと、受付の人がそうだと思い出した仕草をする。


「そういえばギルマスがユーリさんに用事があるみたいでしたよ」

「今日はこのあと予定があるからまた今度ね」

「デートですか?」

「うん。とびきり可愛い女の子と」




「ただいまー」

「ただいまでーす」

「あー、クラマスがソフィーとデート帰りだー」


二人並んでクランに戻ると、クランハウスの中にいたメンバーにそれを目撃されてしまった。

別になんも困らんのだけどね。


「うらやましいだろー。今日はソフィー独り占めだぜ」

「ずるいー、あたしにも頂戴」

「また今度なー」


なんて冗談は軽く流して、報告書を作るために用紙とペンを準備する。

せっかくなので、とソフィーに質問する形式で報告書を仕上げ、そのまま素材を担当職員さんに確認してもらって今日のお仕事は本当に終了。


「はいじゃあ今日の討伐報酬は二十二万二千ルミナね。そこから半分でソフィーは十一万一千ルミナ。まあここに更に素材の売り上げが別に乗るし支払いは月末だから仮の数字だけど」

「結構な金額になりましたー。これもユーリさんのおかげですね!」

「二人で半分ずつは美味しいね、普通は四人とかで行動するし」


その場合は四人で割るから稼ぎはこの半分である。

まあその場合でもランク2の平均的な稼ぎは超えてるけど。

ランク4のオーガ狩ったからね。

魔物の討伐ランクは一つ上がるごとに報酬も跳ね上がるのだ。


「んじゃご飯、の前にお風呂だね」

「はい、ユーリさんも入りますか?」

「それじゃあ俺も入ってこようかな」


どうせ同時に入っても俺の方が先に出て待たせないだろうし。


「一緒に入りますか?」

「嬉しいお誘いだけどまた今度ね」


まあ男女別の浴場だからそもそも不可能ではあるんだけど。

ソフィーもそれを承知したうえでの冗談である。


「それじゃあまたあとで来ますね」

「うん、またねー」


ということで風呂に入り、食堂で冷やした牛乳を飲みながら待っていると、ソフィーが現れた。


「あー、いいね。凄く良い」

「なにがですか?」


なにがって、風呂上がりの濡れた髪がだね。

あと上気した頬とほんのり石鹸の良い香りがするのもポイント高い。

風呂上がりって素晴らしいよね。


風呂上がりの女子メンバーをラウンジで見れるように寮の設計を引いて激推しした記憶を思い出すよ。

リリアーナさんに却下されたけど。

それはともかく、風呂上がりの女性は素晴らしい。

直接言うとキモがられるだろうから言わないけど。


「言わなくても漏れてるぞ」

「うるさい黙れ」


近くにいたクランメンバー(男)の言葉は封殺して、俺はソフィーに並ぶ。


「それじゃ、行こっか」

「はいっ!」




「今日は奢りだから好きなの食べていいよ」


飯屋のテーブルに腰を下ろして、ソフィーと向き合いながらそう宣言する。


「いいんですか!?」

「年長者の甲斐性ってことで」


まあ本音を言えば、今日の稼ぎは全部ソフィーに奢ろうと思ってたんだけど。

本当は稼ぎは全部ソフィーにあげてもよかったんだけど、流石にそういうのはよくないかなって俺の中でなったのでその代わりだ。

今日稼いだ分は全部奢って好感度上げに使わせてもらうぜ。


そういうわけで、今日来たのは俺も常用しないくらいにいい値段にするお店。

今日の稼ぎを使い切ろうとすると自然とそうなる。

店の中も心地良いくらいに騒がしくて、値段に対してそんなにお堅い店ではないんだけど料理の質は俺が保証するぞ。


「店員さん、これとこれとこれと、あとこのワインお願いします!」

「かしこまりましたー!」


あ、お酒飲むのね。


「故郷では飲んでたので大丈夫です」


そっかー。


「飲んだらいつも膝を抱えて部屋の隅っこで静かに座ってました」


それ大丈夫かな?

まあいいか。


ちなみにここの酒は頼むと代金の総額が料理だけから二倍三倍になったりするので、今日の稼ぎで足りるか早速怪しくなってきた。

酒の金額の青天井っぷりは怖いネ。

そして頼んだ料理が順番に届くとソフィーがナイフとフォークを握った。


「いただきまーす!」


〜半鐘後〜


「ユーリさーん」

「はいはい、どうしたのソフィー」

「このお肉美味しいですー」

「そうだね、野菜も食べようね」

「野菜も美味しいですー」


「好き嫌いしなくて偉いね」

「あたし偉いですかー?」

「うんうん、偉い偉い」


ソフィーは酔っていた。

それはもう酔っていた。

それに納得するくらい飲んでもいた。


勘定? ガハハ。

そもそもソフィーは沢山食べるんだよね。


「あたし今日、お仕事頑張りました」

「そうだね」

「偉いですか!?」

「うんうん、偉い偉い」

「なら頭、撫でてもいいですよ」


言いながら、こっちに頭を差し出す。


「いいですよ!」


撫でてもいいと言いながら、選択肢は存在しないように見えるのは気の所為だろうか。

まあ仕事を頑張ったご褒美というのなら否やはないけれど。

嬉しそうに赤い顔をする(照れてるとかそういう訳ではない)ソフィーもかわいいし。


「よしよし」


手を伸ばしてソフィーのふさふさの髪を撫でる。


「えへへ……」

「ソフィーはこうされるの好きなの?」

「はい!」


それならよかった。

よかったのか?

なでなで。


「ふあぁぁっ、そこは、だめです……っ」


頭を撫でた流れで彼女の頭の上の耳に触ると、そんなくすぐったそうな声が漏れる。


「んっ……、やぁ……だめ……」


なんだか俺が悪いことしてるみたいだけど、本人に撫でろと言われたんだから完全合法である。

それにしても、犬人族の耳ってこんな感じになってるんだなあ。




「それじゃあそろそろ帰ろうか」


時刻はそろそろ七つ目の鐘が鳴る頃。

次の鐘で日付が変わるからもういい時間だ。


これ以上は子どもを連れ回すのは教育上よくない。

酒飲んでるだろって?

酒を大人に飲めないうちはまだ子どもよ。


「ソフィーだいじょうぶ?」

「んー……」


会計も済ませてから立ち上がり、ソフィーのそばに寄り添うように立つ。

様子を見る限り歩けないってほどじゃないと思うけど。

なんて思ったけど自分で立ち上がる気はないみたいだ。


「おんぶ」

「してほしいの?」

「はい」

「しょうがないなー」


まあ、悪い気はしないけど。

ということでソフィーをよいしょとおんぶする。


おおっと。

背中に当たる柔らかい感触が、予想よりもずっとみっちりとしてる。

そういえば、普段は弓を引く邪魔にならないように平らな胸当てをしていたし、今もゆったりした服を着ていたから気付かなかったけど、これはなかなか。


「あたし、重くないですか?」

「軽すぎて背中に羽が生えたかと思ったよ」

「うそだあ」


嘘じゃないよ、嘘だとしてもそれは紳士的心構えだよ。


「じゃあ部屋まで運んでくださいね」

「それはだめ」

「えー」


結局クランハウスまではそのまま運んで、そのあとはラウンジにいた女性メンバーに任せた。




翌朝、酔いが抜けたソフィーはベッドの中で悶絶していたとかなんとか。

そういうところも含めて、かわいいソフィーであった。


あと俺は筋肉痛で死んだ。

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