032.お外は危険がたくさん
「じゃあ俺は盾しか持たないからあとはよろしくね」
「わかりました!」
ここは王都からしばらく歩いた草原のなか。
近くに森の入口があり、小川も流れているという絶好の野生生物スポットだ。
そして握るのは、荷袋から取り出した袋より大きい盾。
腰を落とせば全身が隠れるくらいの大きさのそれは、片手で持つのは難しいので上下に持ち手が一つずつあって両手で握れるようになっている。
ということで俺は壁役、攻撃はソフィーにお任せ。
「お、早速」
スピードラビットを発見。
「ソフィー、いける?」
「はい」
ここから目標まで八十歩ほど。風は微風。
一発で当たるかどうかは微妙かな?と思ったけどソフィーの第一射は見事に群れの中の一匹に当たった。
「お見事」
パチパチ。
「来ました!」
褒めるのもつかの間、残ったスピードラビットたちがこちらに駆けてくるのが見える。
普通の野生動物なら逃げそうなもんなのに、流石魔獣は闘争心が強い。
向かってくるのは五匹、そのうち二匹は近寄る前にソフィーが撃ち抜く。
「んじゃ、そぉい!」
残り三匹のうち、俺に正面から体当りしてきた二匹をそのまま盾で弾き返す。
空中で吹っ飛んでからゴロゴロと転がっていく獲物を、ソフィーがトストスと漏れなく当てた。
上手い。
さらに避けるように回り込んだ一匹は、ソフィーを狙って突進するところを横からぶちかまして転がす。
「もういっちょそぉい!」
今度はすくい上げるようにして上空にうちあげると、その最後の一匹もソフィーが着地する前に空中で見事に撃ち抜いた。
「いえーい」
と思わずハイタッチ。
基本王都で引きこもりな俺だけど、久し振りに運動すると気持ちいいもんだね。
「ユーリさん、すごいです!」
「ありがと。ソフィーも上手だったよ」
まあ俺の場合は、同じランクの前衛職なら多分みんな同じことができるだろうけどね。
それはそれとして持ち上げられると気持ちがいいものである。
「それじゃあ素材集めよっか」
「はい」
ということでまずはスピードラビットの死体を集めて討伐証明の尻尾を切り取る。
これを討伐した証としてギルドに提出すると報酬がもらえるぞ。
あとは硬い前歯が加工品の素材になるのでそれも回収しておく。
一応毛皮とかも売れなくはないけど、そこまで高くもないしそっちは別にいいかな。
「よし、こんなもんでいいかな」
ひとまずギルドの仕事自体はこれで完了したので帰ってもいいんだけど、これだけのために往復しても時間の無駄なのでまだ狩りを続けることにする。
ちなみに、指定されている各種魔物は狩ればそれだけ追加報酬が貰えるぞ。
ゴブリンとかも、その対象だ。
害獣なんて農家の人からしたら狩れば狩るだけありがたいですからね。
あと行商人とか木こりの人たちも助かるし。
「んじゃ次行こうか。ソフィーがどれくらいできるかも見せてもらうからね」
「がんばります!」
ということで、引き続き草原を歩いて獲物を探していく。
これはゴブリン。
数が多いのが特徴。
転がすと楽しい。
これはストームラクーン。
尻尾で風の刃を飛ばしてくるぞ。
そして転がすと楽しい。
これはゴブリン。
数が多いからよく見るのが特徴。
転がすと楽しい。
これは大猪。
魔獣ではないけど害獣なので駆除指定動物だ。
横から転がすと楽しい。
これはゴブリン。
いやゴブリンはもういいよ!
これはロックアルマジロ。
岩のような外皮を持ち丸くなって転がってくる。
転がすとよく転がって楽しい。
「皮が硬いです!?」
「ロックアルマジロの外皮は特に硬いからねえ。色々工夫してみるといいよ」
「はい!」
素直でいい返事だなー。
ということで討伐した証と素材を回収していく。
ここまででランク2冒険者としてはそこそこの稼ぎになったんじゃないかな。
まあ今日は二人パーティーだからその分普通の編成のパーティーより取り分も増えるっていうのもあるけど。
ちなみに報酬は平等に二分割ね。
そんなこんなで色々狩っていると、気付けば森のすぐ近くまで来ていた。
「せっかくだし、もうちょっと力試ししていこうか」
「力試ししですか?」
疑問に首を傾げるソフィーを連れてそのまま森の中に入り、いい感じのところで声を上げる。
「 【わっ!】 」
魔力を込めて威嚇の声を出すと、周囲がざわざわと騒がしくなり複数の魔物の気配が感じられた。
低位の魔物はその声に逃げ出して、逆に中位の魔物は寄ってくる。
グルルルッ……。
低いうめき声と共に現れたのはオーガ。
体長は俺の1.5倍くらい。
体格はがっしりとしていて、体重は俺の5倍くらいありそう。
脅威度のランクは4。
ソフィーには格上の相手だが、
「いけそう?」
「はい」
彼女の視線はしっかりと、そのオーガを射止めている。
「前衛は俺が務めるから落ち着いて」
ということで、戦闘開始。
俺は前に出て、オーガの振りかぶったこん棒を受け止めた。
うおっ、体浮いた。
横振りでバコーンと盾を叩かれて体が一瞬浮いたけど、これが一般人ならそのまま吹っ飛ばされてるからこれでも頑張った方である。
まあユリウスなら逆にオーガの腕が砕けてるだろうけど、ああいうのを人間と一緒にしてはいけない。
そのあいだにソフィーが放った矢がオーガの顔に当たるけどこれはノーダメージ。
さらに次の矢が脇腹に当たるけどこれもノーダメージ。
こりゃソフィーの弓じゃオーガの分厚い外皮を抜くのは難しいかな。
もっと高性能な矢なんかがあればそれを使うのも一つの手だけど……。
そのまま受けた矢には意にも介さずこちらを狙ってくるオーガのこん棒を受けながら、ちらりと見るとソフィーは距離を保ちながら回り込むのが見えた。
なるほど、んじゃ。
タイミングをはかって盾の構えを下げつつ距離を離し、オーガの縦振りの一撃を誘う。
ばこーんと地面に叩きつけられたこん棒が土を巻き上げ、それが口に入った俺がビキビキってなったけどぐっと我慢する。
その結果、オーガの踏み込んで伸び切った後ろ足の膝裏に、ソフィーの矢が見事に刺さった。
ガアアアアア!
膝裏は皮が柔らかく、筋肉も薄い人体の弱点の一つ。
そしてそれはオーガも変わらない。
その隙間を貫かれ体重を支えきれなくなったオーガが膝をつき、後ろ向きに体勢を崩すと天を仰ぐように顔が空を向いた。
そこに、空中に身を翻したソフィーの狙いが重なる。
真上から放たれたそれは糸に引かれるように重力に沿って飛び、オーガの眼球から脳を貫き喉へと達した。
「お見事」
オーガの串刺し一丁上がり。
これには俺も思わず見惚れるほど、見事な一矢であった。
「えへへ、ありがとうございます」
ソフィーが着地して、恥ずかしそうに返事をするのと同時に絶命したオーガがドシンと倒れ伏す。
「ユーリさんは大丈夫でしたか?」
「怪我はないけどちょっと待ってね。 【水球】 」
唱えると空中にスイカ大の水の球が出て、それで手を洗ってから口をすすいでついでに顔も洗っておく。
うーん、スッキリ。
「わー、便利ですねー」
「俺の力は魔物と戦うときよりもこういう時の方が役に立つからねー。火とかも出せるし。ソフィーもいる?」
「はい!」
元気な返事に水を出して、そのまま顔を洗ったソフィーにタオルを渡す。
まあゆっくりするのはこれくらいにして。
「さて問題です。オーガの換金部位はどこでしょう」
「牙と角の強度が高く、一番高価なはずです」
「正解。あとは心臓だね」
どの部位が高く売れるのかも、冒険者には大切な知識である。
ちなみに独学だと難しいところもあるので、これもクランに入るメリットの一つかな。
とりあえずわざわざ牙と角を回収するのは面倒なので、取り出した短剣で首を切り取ってそのまま回収する。
ちなみに討伐証明部位は右耳なので、これも生首でそのまま回収できるぞ。
切った首はそのまま荷袋にポイ。
あと胸元を切り取って心臓もポイ。
本当は死体をそのまま入れられれば楽なんだけど、そこまでの内容量はないので残念。
あんまりいらない部位を持ち帰っても処分が逆に手間だしね。
ということでお仕事は終了。
ソフィーは討伐もその他の作業もとても手際が良くて俺は大満足です。
「この感じだとランク3は余裕そうだね」
「本当ですか!?」
「ほんとほんと」
ランク4のオーガも狩れたんだから、ランク3の資質は十分だろう。
帰ったらギルドの人にパワハラして昇格させてもらおう。
っていうのは嘘だけどそれとなく話は聞いてみよう。
「それじゃあそろそろ帰ろっか」
俺がよいしょと盾を亀のように背負いながらそう言うと、ソフィー目の前まで来てこちらの顔を覗き込む。
目の前でソフィーの犬耳がピコピコしてて気になるけど。
「ユーリさん」
「どうしたの、ソフィー」
「あたしはこっちですよ?」
「ごめんごめん」
つい耳を見てたわ。
そして視線を落として胸を見る、ってボケをやると怒られそうなので顔を見る。
「触りたいなら、触ってもいいですよ?」
「また今度ね」
「むー」
ちなみに胸の話じゃないよ。
「それでどうしたの、ソフィー」
「ユーリさん」
「はい」
「また一緒にお仕事してくれますか?」
「時間に余裕があったらね」
「はい!」
ソフィーが尻尾を揺らしながら、約束、と手を握ってくる。
まあ実際またすぐにとはいかないけれど、タイミングを見れば予定を空けることもできるだろう。
「んじゃ今度こそ帰ろっか」
「はい」
「せっかくだし、そのあとご飯でも食べに行く?」
「はい! あ、でもその前に帰ってお風呂入ってもいいですか?」
「もちろん。時間は余裕あるからゆっくりでいいよ」
「やったー」
ということで、そのあとは二人でゆっくりクランハウスまで帰った。
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