二章
031.久しぶりのお出かけ
「ヒャッハー! 」
声を上げながら、俺は大きな盾を構えたまま体当たりをする。
ゴンッッッ、と重い音とともに吹き飛んだゴブリンを相手にさらにもう一発、ぶちかましを決めるとゴロゴロと転がっていく。
foo! 気持ちいいー!
俺は久方ぶりに王都の外に出て運動をしていた。
なんでこんなことをしているかというと、話は昨日にさかのぼる。
「あ、ソフィー」
「ユーリさん!」
日が沈む頃、クランハウスの入り口でゆっくりしていると、丁度仕事を終えたソフィーが帰ってきた。
「おかえり、仕事は順調?」
「はい!」
今日も元気いっぱいのソフィーは最近も精力的に仕事を頑張っている。
尻尾も元気いっぱいだ。
俺と違ってソフィーはやる気があって偉いな〜。
思わず褒めてあげたくなるね。
セクハラになるからやらないけど。
あとお世話になってるあっちのクランのマスターにはまた挨拶しに行かないと。
「あっ、ソフィーちょっと」
「どうしました?」
不思議そうな顔をするソフィーの頬を撫でる。
「わわっ?」
「顔に粉ついてるよ」
そのまま指先で拭うと、わずかに白い粉がついていた。
「よし、綺麗になった」
「あ、ありがとうございます……」
これはセクハラですか?
いいえ、違います。
だから訴えるのはやめてくださいお願いしますなんでもしますから。
「どうかしましたか、ユーリさん?」
「ううん、なんでもないよ」
そんな不思議そうな顔をするソフィーからは訴状は届かなそうなので一安心。
ところでこれは何の粉だろう。
気になるけど、匂い嗅いだりしたら嫌われるだろうなあ、という判断くらいはモテない俺でもできる。
舐めるとかもってのほかだろう。
そもそも舐めない方がいいものな可能性もあるけど。
まあいいか。
「ソフィーの頑張ってるのも報告書で見てるよ」
うちのメンバーの中では稼ぎは一番下だけど、精力的に活動しているのは知っていた。
このまま活動を続けていっても順当に昇格はできるだろう。
とはいえ昇格に向けて、ソフィーがどれくらい動けるか実際に確認しておくのは有用かもしれない。
他の人に任せてもいいんだけど、丁度いいメンバーも居ないしな。
「たまには一緒に仕事でもしよっか」
「えっ、良いんですか?」
「モチのロン」
「ロンってなんですか?」
「なんだろうね」
言って二人で笑い合う。
それはともかく。
「明日暇?」
「はいっ」
そういうことになった。
快諾すぎてこれがデートの誘いならよかったのになあ、なんて思ったのはあとの話である。
翌朝、冒険者ギルド本部にて。
「どれにしよっか」
俺とソフィーは二人並んで依頼を眺めている。
デートでカフェのメニューを一緒に選んでいるわけではないのであしからず。
見やすいように貼られているのは魔物の討伐、素材の採集、都市間の移動の護衛などなど。
ここは王都、国の中心だけあって馬車の護衛って依頼には困らないのだ。
とはいえ今日はソフィーの実力を見るためだし、やっぱり魔物の討伐かな。
護衛とかは一日で帰ってこれなかったりもするし。
「これなんてどうですか?」
ソフィーが白い指先で差したのはスピードラビットの討伐。
スピードラビットというのは俺の膝くらいの体高のウサギで、結構な速度で走ってきてそのまま体当りしたり噛みついたりしてくる魔獣だ。
討伐ランクは2。場合によっては成人男性も致命傷を負うくらいの危険度。
まあ俺は流石にこれくらいなら余裕だけど。
むしろランク6でこれに苦戦する冒険者がいたら逆にやばい。
ちなみに農作物に被害が出たりするので、この手の魔獣の駆除はいつでも受けられる恒常的な依頼だったりする。
「んじゃ、これにしよっか」
「はいっ!」
「じゃあちょっと待っててね」
ということでその貼られた紙を手にとって、パーティーリーダーとしてソフィーを待たせて受付に向かう。
よく考えたらソフィーにやってもらえばよかったなとか思ったけど後の祭り。
「これ、お願いしまーす」
「こんにちはー。……、ユーリさんがこれを受けるんですか?」
俺が差し出した紙を見て、受付の人は疑問そうな顔をする。
まあ俺のランクからしたらかなり下のランクの仕事だけど。
ちなみに今日の俺は普段着ではなく、ちゃんとお外でお仕事する用の冒険者装備である。
いつもはここに来る時も普段着だから逆に新鮮だ。
まあ見た目に大差はないんだけど。
「うん、久し振りのお仕事だしこれくらいがちょうど良いでしょ」
「流石に冗談ですよね?」
「まあ流石に。本当はソフィーが冒険者としてどんな感じか見に行くだけ」
「よかったあ。本気で言ってたら自分の立場と実力を思い出してもらうためにギルマスを呼んでくるところでしたよ」
「それはやめてください、お願いします」
ドラングさん怒らせると怖いんだから。
あと説教も長いし。
「なら次からはもうちょっとわかりやすい冗談にしてくださいね」
「はぁい」
ということで依頼自体はサクッと受付してもらってソフィーのところに戻る。
「ソフィー?」
そんな短い時間のあいだに、ソフィーは他の冒険者に囲まれていた。
というかクラメンではないけど知ってる顔だわ。
聞こえてくる声はこんな感じ。
「ソフィーちゃん、今日も仕事? 昨日は行かないって言ってたけど」
「今日はユーリさんと依頼をしにきたの」
「あっ、なるほど」
なにかを納得する彼女たち。
別にデートじゃないよ?
まあそれはともあれ。
「ごめんね、今日はソフィーを独占しちゃって」
仲良く話しているところにお邪魔する邪魔な俺。
これからお仕事だから仕方がないのだ。
「おはようございます、ユーリさん!」
「おはようございます!」
「みんな、おはよ」
彼女たちはソフィーがお世話になっているクランのメンバーで、普段一緒に仕事をしている娘たち。
うーん、先輩冒険者として敬われる感じが新鮮だ。
うん? クラマスなのになんかおかしいな?
まあ自分が客観的に尊敬に足る冒険者かと言われれば絶対にノーなので異論はないけど。
あと最近若手冒険者のあいだじゃ俺と話すと呪われるなんて噂が流れてるらしいけど、多少面識のある彼女たちはそんな素振りも見せないから癒やされるね。
ずっとこうして若い子たちにチヤホヤされてたいなーと思うところだけど、そういうわけにもいかないので話を切り上げて仕事に向かうことにする。
「それじゃ行こうか、ソフィー」
「はい、ユーリさん」
「行ってらっしゃーい」
皆に見送られて俺とソフィーはギルドを出た。
よーし、今日は久しぶりの運動がんばろー。
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