041.必殺技を作ろう!

「あ、クラマス」

「んー?」


今日は午後に時間が空いたのでクランハウスの中を見回りという名の暇つぶしをしていると、訓練場の一角で盛り上がっている集団が見えた。

数は男女混合でクラメンが五人、メンツを見ると全員魔術師だ。


「どうした、こんなところで集まって」


不純異性交遊なら絶対に許さないよ。


「今みんなで必殺技を考えてたんですよ」

「なにそれくわしく」


めちゃ面白そうなんだが。

聞くとことによると、食堂で話してる時に最強の必殺技が欲しいと盛り上がった結果この訓練場に来たらしい。


「でも中々良いアイディアが浮かばなくて」

「なるほど」

「クラマス、なにか無いですか?」

「んー」


とは言っても魔術は門外漢だからなあ。

呪言で似たようなことはできるけど、根本が別物だからあんまり難しいことを聞かれても困るんだよね。


「とりあえず、どんなアイディアが出たんだ?」

「そうですね、みんなで一斉に炎を出してみたりとか」

「でもなんかインパクトに欠けたんですよね」


「逆に全員で別の属性を使ってみたりとか」

「見た目がゴチャつくだけで特にメリットはなかったですけど」


「あとは出した炎の見た目をドラゴンにしてみたりとか」

「それは楽しそう」


後で見せてもらおう。


「それはともかく、話はだいたいわかった。ズバリお前たちに足りないのは具体性だ!」

「な、なんだってー!」


驚く一同。

ノリがいいな。


「それで具体性ってなんですか?」

「そもそもどこで何に使う必殺技なのかってことだよ」

「なるほど、なるほど?」


「つーわけではい、どんな必殺技が欲しいんだ?」

「ランクが上の魔物でも一発でぶち殺せるやつです!」

「それが出来たら誰も苦労しねえんだよなあ」

「そんな~」


「まあ方法が無いわけでもないけど」

「本当ですか!!!?」


全員食いつきが凄い。

そんなに必殺技の開発に行き詰まってたのか。


「例えば魔物といっても獣型とかなら大抵は目玉が弱点だろ?」


同じ生き物なら弱点もさほど変わらない。


「だからこうして」


俺は指をパチンと鳴らして、【火矢】と唱える。

すると出現した火の矢が真上に打ち上がる。

そのまま明後日の方向に飛んでいくかのように見えたそれは、放物線を描いて下降する軌道に入りる。


さらにそのまま螺旋を描くように地面に向かって、上から訓練用の的に直撃した。

直立するように固定された丸太のちょうど人体なら顔面くらいの位置に焼けて抉れている跡が残る。


「おおー」

「基本的に頭上からの攻撃が一番防ぎづらいだろ? だから一旦上に飛ばしてから、さらに防御しづらいように螺旋軌道で落として回り込むように眼球に当てる。まあフレイヤのパクリだけどな」


いまではランク10のフレイヤとパーティーを組んでる時に見かけてカッコイイからパクったやつである。

本人には文句言われたけど。


「凄い!」

「俺もやってみてもいいですか!」

「あっ、あたしも!」

「いいぞ、狙ったとこに当てるのは結構難しいけどなー」


上から落として顔の前面に当てる関係上、真っ直ぐ当てにいくよりも狙いはずっと難しかったりする。

いまは簡単にやってみせたけど、これも昔に結構練習したやつだし。


「出来た!」


マジかよ。

そんな俺の苦労も知らずに、続々と習得していくメンバーたち。

みんな優秀で俺も嬉しいよ。泣いてないぞ。


「まあこれだけじゃ格上は倒せないけどな」

「えー、なんでですか!」

「まずお前たちの格上を狙うなら純粋に今練習してる火力じゃ威力が足りないだろ。多分目を閉じるだけで弾かれるぞ」


信じられないことに上位の魔物は丸太なら貫通くらいの火力があっても眼球ノーダメージだったりするんだよね。

そこまでヤバすぎない魔物でもまぶたで防がれたりするだろうし。


「それに上位の魔物に当てるには速度も足りないし、何より実物に当てるには目標が動き回ってる状態でも当てる操作精度がいる。あとそもそも眼球みたいに弱点が露出してない魔物には無意味だな」


ちなみにここにいる人間は全員ランク6か7なので、悠長に当たるのを待ってくれる敵はいない。

それが格上相手なら尚更だ。


冒険者と脅威度が同じランクの魔物でも基本はその冒険者たちがパーティーを組んで複数人で当たる。

ランク6の魔物を十分な勝率で倒すには、ランク6の冒険者が四人くらいでことにあたるのが普通とかそんな感じ。


なので魔術師が格上を狩るのに求められる役割は、純粋に防御を抜ける火力だけなのだがそれだけでもハードルは高い。

というか安定して格上を狩れるようになったらそれはもう昇格できるしな。


「じゃあ駄目じゃないですかー!」

「まあでも高威力と高速度と高精度を並立できれば格上も狩れるけどな。若い頃のフレイヤもやってたし」


「それはフレイヤさんだからですよ」

「あの人は特別ですから」

「そもそも今でもフレイヤさんは若いですよ」

「本人に言っちゃおー」

「そうだそうだー」

「それはやめろ」


まためんどくさいことになるから。


「それより別の必殺技はないんですか、もっと簡単でいい感じのやつ」

「無茶言うなあ」


まあいいけど。

格上を倒すのは難しいので発想を変えよう。


「じゃあこういうの。 【濃霧】 」


また指をパチンと鳴らすと今度は目の前に霧が発生する。

それはどう見ても、攻撃に繋がるようなものには見えないが。


「 【稲妻】 」


もう一度パチンと鳴らすと、上空から走った稲妻が三本に分かれてそれぞれ別々の的へと刺さる。


「おおー」


これには周りからもパチパチと拍手が聞こえた。


「どうやったんですか?」

「前提として稲妻を複数本に分けるのは難しいだろ? だけど先に霧を発生させて、その霧に稲妻の通り道を引いてやればこうやって分けることもできるわけ」


「そんなことできるんですか?」

「実際にできただろ? それにフレイヤもやってたぞ?」

「フレイヤさんはともかく、クラマスでも再現性あるなら私にもてきるかも」


でもってどういう意味かな?


「言っとくがこれは結構難しいぞ。あんまり甘く見ないことだな」


ちなみに当然、これもフレイヤのパクリだ。

パクリばっかりじゃねえかとか言ってはいけない。

なんといっても俺のパクリ芸はこんなもんじゃないからな。


何を隠そういろんな武器が一通り使えるのも、ユリウスのパクリだったりするし。

みんな多才だからそれをパクるのが一番効率がいいのだ。

現ランク10だけあってやっぱりすげえぜ……、俺以外のみんな!


「できた!」


だから早いって。

見ると試していたメンバーの一人が三分割を成功させて、そのまま四分割、五分割と数を増やしている。

そのままみんなでバコンバコンと雷を落とすとなんだか終末みたいな光景に見えてきた。


「俺五つ」

「私六つ」

「俺は四つ」

「私も四つ」

「あたし三つしかできないんですけどー!?」


それでも俺と同じ数できてるじゃん、と思うけど彼らは本職かつ高ランクの魔術師で、俺みたいに器用貧乏かつ呪言の一発芸でランク上げた奴とは資質が違うか。


「まあこれも、実用するには広範囲に二十以上降らすことができるようにならないと駄目だけどな。雑魚狩りなら普通に爆炎投げて吹き飛ばした方が楽で速いし」


霧を出すのと雷を降らすので二手かかってる以上、爆炎二発分より広範囲を殲滅できないとあまり意味はない。


「ちなみにフレイヤは五十以上出してたぞ」

「だからあの人を基準にしないでくださいよ!」

「そもそもこれパクリばっかりじゃないですか!」

「なんだとぉ……」


効率的と言え、効率的と。


「しかしそこまで言われちゃしょうがねえ、じゃあ俺のオリジナル必殺技見せてやるよ」

「えっ、そんなのあるんですか?」

「ああ!」


言って、荷袋から鉱石を取り出す。


「取り出しましたのはこの紐をくくった魔石。これをぐるぐると回しまして」


肩から指先くらいの長さの紐をぐるぐると回すと、すぐに遠心力で加速して魔力での身体強化と相まって尋常じゃない速度になる。

そのまま振りかぶると、ぐるんと全身を使って加速させながら前方に投擲。


「死ねやオラーッ!」


魔石は普通に投石するよりも何倍も速い速度で飛んで行き訓練場の壁に迫る。

パチン、と指を鳴らしてから一言。


「 【弾けろ】 」


その言葉に呼応して、魔石が炸裂。

轟音と共に壁に大穴が空き、衝撃波に身体が吹き飛ばされそうになった。

これはランク6魔術師の術と比べても結構な威力である。


「どうだ、中々のもんだろ?」

「おおー」


ぱちぱちぱち。

感心する声とともに称賛の拍手が周りから響く。

うーん、悪くない気分。


「今のは魔力での身体強化をして、遠心力で加速させた魔石の投擲速度に爆発の衝撃を加算させてるから威力は十分だろ? 魔石自体が使い捨てだから金がかかるが」

「今投げたので幾らくらいするんですか?」


「あれは50万ルミナくらい」

「高すぎ……」

「一発で一日の仕事の取り分くらいある……」

「っていうか赤字……」

「そりゃあの破壊力も出ますわ……」

「よくそんなの投げましたね……」


「まあたまにはクラマスとしての威厳を見せないとな」


ドヤァ。


「無駄にお金を投げ捨てられる資金の強さはよくわかりましたけど……」

「でもあれ、俺たちはできませんよね」


まあそうね。

あれは肉体強化と魔術の両方を使える俺だからできたことで、ここにいるみんなが投げても十分な速度は求められないだろうし。

やり方次第で似たようなことはできるだろうけど。


「まあようするに、自分で出来ることをよく考えろってことだな」


俺には俺の必殺技(銭投げ)があるけど、魔術師だって自分にしかできない必殺技はきっと見つかるさ。


「個人的には雷属性が一番好きだけどな。速度が速くて避けるのが困難だし、形も不安定で扱いが難しい分、自由に工夫できる幅が広いから」

「なるほど……」


もし俺が生粋の魔術師だったら雷属性を使い倒してた気がする。

まあ呪言がなけりゃ、そもそもここのメンバーと並ぶほど大成してないだろうけどって前提はあるけど。


「そういうことだから、強くなりたいなら工夫して頑張れ!」

「はい!」


応援とともにそんな言葉で話を締める。

うーん、珍しくクランマスターらしいことをしてしまった、なんて思っているとトントンと後ろから肩を叩かれた。


「ユーリさん」

「リリアーナさん? どうしてこんなところに?」


そこに居たのは訓練場にはほとんど顔を見せないリリアーナさん。


「凄い音がしたから見に来たんです」

「なるほど。なんか怒ってます?」


「当たり前です! 壁の修繕頼むのもタダじゃないんですよ!」

「いやあ、それは、流れっていうか」

「流れは見てましたけど壁に穴開ける必要なかったですよね!?」

「それは、はい、ないです」

「壁の外に誰か居たらどうするつもりだったんですか!」

「おっしゃるとおりで、はい」


勢い余ってやっちゃっただけで確かに壁に穴開ける必要は全く無かったけど。

なんなら同じ方法でも別に壁に穴開けずにできたけど。


「みんなもなにか言って、って全員いなくなってる!?」


危険を察知していち早く離脱するのは優秀な冒険者であれば流石、なんて褒めてる場合じゃねえ!


「今日はたーっぷりお説教してあげますからね」

「いたいいたい、耳引っ張らないで、取れちゃう! 耳取れちゃう!」

「うるさいですよ!」


そのまま執務室まで連行される俺。


このクランではどんな術よりもリリアーナさんの雷が一番怖い。

心からそう思った。

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