021.クラン内格付けバトル


『さあ! 張った張った! これから始まるのは我が≪星の導き≫近接クランメンバーの勝ち抜きコンビバトル。対するはクランマスター・ユーリさんとバーバラさんの元恋人コンビ! この二人が魔力が尽きる前に何人倒せるかが賭けの対象だ!』


訓練場に実況の声が響く。


「20勝に10万!」

「45勝に20万だ!」


テンション高いなー。

今日はクランハウスの訓練場に、クランメンバーの大部分が集まっている。

ユリウスたちみたいにそもそも泊まりで王都の外に出てるメンバーは居ないけど、それ以外はお願いして集まってもらった形だ。


その理由はさっき解説された通り、俺とバーバラが魔力を使い果たして倒れるまで戦闘に付き合ってもらうため。

魔力を消耗する方法はいくつかあるんだけど、結局近接職は直接どつきあうのが一番なんだよね。

ちなみに実況者もクランメンバー。彼女は参加者じゃないけど。


「バーバラさんはランク7だしクラマスも強いのは知ってるけど、あの状態で勝つのは難しいんじゃないですかね」


なんて周囲の予想は俺とバーバラの繋がった手を見れば妥当な推察だろう。

まあ結局魔力を使い切るのが目的だから勝ち負けは目的には関係ないんだけどね。

とはいえ、せっかく盛り上げてくれるならそれに乗らない理由もないけど。


「今日の参加コンビは何組?」

「あ、ユーリさん。対戦相手は10組ですよ」


賭けを取りまとめてるメンバーに確認すると参加者を教えてくれる。

じゃあ合計20人か。

組み合わせは固定してないし途中参戦も可だから多少変動するかもしれないけど。


「ちなみに今一番多い予想は?」

「30勝くらいが多いですね。最大は50勝です」


ざっと俺の魔力で100戦くらいできるとして勝率がどれくらいかって言われればまあ3割くらいが妥当な予想だろうか。

さて問題です、俺たちは何勝できるでしょうか?

正解は、俺が疲労で死にそうになったあとで。


ちなみにこの賭け、胴元の取り分は無いので当てれば10割還元である。


「じゃあ俺は100勝以上に100万ルミナ」

「あ、あたしたちも賭けていいんだ。じゃああたしも100勝以上に200万ルミナ」

「おい、俺の稼ぎが減るだろ」

「しらなーい」


『おーっとこれは宣戦布告だ! お前たちなんて100回倒してもまだ魔力が尽きないと余裕の宣言です! これを聞いてメンバーたちは目の色が変わりましたよ!』


そこまで煽るつもりはなかったけど、盛り上がったなら結果オーライかな。

参加者のやる気が満ちるとともに、賭け金も積み上がっていく。

あとリリアーナさんが呆れた顔してる。


なお俺たちの魔力が尽きるまでやるのが目的なので、対戦に負けても終了じゃなくてそのまま相手をかえて継続だ。

つまり100勝するには最低でも100戦、勝率5割なら200戦やらないと賭けに勝てない。


対戦相手の順番はノリで。

ランク5から9まで冒険者が揃ってる上で分布的にはランク7が一番多いので、6の俺と7のバーバラがコンビを組んでるのとはいい感じの戦力具合になるんじゃないかな、しらんけど。

ランク10のユリウスとかアーサー相手だと、たぶん俺たちが手を離せない制約がなく、相手が一人だとしてもおそらく勝てないだろうから今日はいなくてよかったかもしれない。


それじゃあと試合が始まる前に、リリアーナさんが声をかけてくれる。


「無茶はしないでくださいね」

「ありがと、リリアーナさん」

「がんばるねー」

「あたしはでませんけど、二人ともがんばってください!」

「ソフィーもありがとね」


アウェーって訳じゃないけど純粋に応援してくれるのは嬉しい。

なんかあっちは目がギラついてるし。


「ルナはどうするんだ?」

「私も参加しますよ。兄さんに引導を渡してあげます」

「引導はいらねえかなあ」


まあ楽しそうなのでなによりだけど。

俺もリリアーナさんのがんばって、早く今日出来なかった分の仕事をしてくださいという熱い視線に応えなくては。(そんな視線はありません)


ということで試合開始の前にバーバラと軽く柔軟をして身体を解しておく。

急に運動すると危ないからね。

んー。


「実際、俺たちもどれくらい戦えるのかわからんのよな」

「それね」


棒が離せない時点で普通に邪魔なので、なんならバーバラ一人で戦う場合の方が強いまである。


「ようするにユーリがどれだけ足を引っ張らないかって話よ」

「ようすらなくていいぞ、わかってるから」


お荷物の俺、事実から目を逸らす。


「まあなるようになるか」

「そうね、それに初めてじゃないんだし」

「懐かしいなー、おい」


昔の俺はユリウスたちとパーティーを組んでいたけれど、その他にバーバラに背中を任せたこともあったのだ。


『それでは、第一試合開始します!』


「あっちは小手調べって感じだな」


見ると最初の対戦相手はランク6のコンビ。

クランメンバーの中でも一番お手柔らかに戦えそうな相手である。




『それでは、試合開始ィ!』


カーン。

合図に一際大きく鐘の音が鳴らされる。


「ユーリ、行ったわよ」

「わーってる」


対戦相手の二人はこちらを囲むように左右に広がって距離を詰めてくる。

ようするに手を離せないハンデを活かして、さっさと一対一で俺を倒してしまおうという作戦だろう。


ちなみに俺の武器は片手剣。

バーバラは素手。

相手は俺の方が片手剣でバーバラの方は両手剣だ。


こっちは間合いの差がなくてありがたいね。

そのまま三回ほど刃を合わせて、力押しするのは諦めた。

そもそも手が繋がってるせいで動きが制限されるハンデがきつすぎるんよ。

なので横に一閃振られた剣をかがんで避け、合図を出す。


「バーバラ」

「はいはい」


屈んだ俺の背中を支えにその上に乗り出したバーバラは、俺と背中をくっつけたまま自由になった脚を使って俺と相対していた方の相手を蹴り上げる。


「ぶへっ」


そのまま位置が入れ替わった俺は、振り下ろされた両手剣を受け、流す。

片手と両手、どちらが優勢になるかは自明の理、とはいえ一瞬だけ拮抗すればそれで十分。

両足で着地して、しなやかに加速したバーバラの拳が俺と剣を合わせる対戦相手の顔面に寸止めされた。


カーン。


『勝負あり!』


まずは一勝。


「いえーい」

「いえーい」


喜びを表現してハイタッチをするが、右手と左手なのでイマイチ座りが悪い。




『それでは第二試合! 開始!』


今度の相手は槍持ちが二人。

流石にズルくねーか?と思わなくもないが、普段から槍を使ってるメンバーなので文句は言えないかな。


今度はさっきと違って正面から二人。

間合いの有利を使ってシンプルに刺しにきてる。

俺は剣で、バーバラは拳で槍の突きをいなすが、まあ辛い。


「ユーリ」

「はいよ」


俺が左手を下げるとバーバラは右手を上げ、魔力を込めて金属棒を伸ばすと地面に対して真っ直ぐ縦に突き立つ。

そのまま身を低くして槍を剣でいなすと、同時に突きを躱したバーバラが金属棒を柱にくるりとこちらに立ち位置を変える。

バーバラの移動に槍の横薙ぎで対応しようとした相手の槍は、俺たちが立てた金属棒に当たり弾かれた。


その隙に、俺とバーバラは二人がかりで同時攻撃。

上下を蹴られて相手はそのまま転がった。


「ぐあっ」


それが成ればあとはもう一度、二対一を制するだけ。

カーン。


『勝負あり!』


「いえーい」

「いえーい」


さっきの反省を活かし、今度は拳をコツンとぶつける。

これならハイタッチよりまだ見栄えがする。

まあこれはこれで男女でやるものか?って疑問もなくはないけど。




「次はルナか」

「行きますよ、兄さん」

「……、なんか顔が怖いんだけど?」

「あんたが何かしたんでしょ」

「俺はなにもしてないぞ!?」


なんてこともあり。


「ほい」

「はい」

「えい」

「やっ」


「結構動けるもんだな」


最初の10戦は8勝2敗という結果に落ち着いた。


「合わせ方がとても手慣れてるように見えるんですけど」


なんて声が周りのメンバーから漏れ聞こえてくる。


「そりゃあ、二人で昔は一緒に仕事してたこともあるしな」

「それにしたって……」

「なによりも、あの二人が並んでたのは、ユリウスたちだぞ」

「……!」


まだバーバラが王都を去る前のことを知っている古参のメンバーの言葉に、周囲の空気が引き締まる。

(まあ、今の皆と比べれば緩かったけどね)

ユリウスたちも昔からランク10だったわけじゃないし、そのランク相応の実力ではあった。

とはいえ、今の彼らの姿は尊敬の対象と言う感じなので、そこに並んでいたと言われれば見る目も変わろう。


「俺としちゃ楽に勝たせてくれる方が嬉しいんだけどな」

「魔力を使い切るのが目的なんだから、勝ち負けは二の次でしょ」

「まあそうね」




それから対戦は再開し、

「いやー、流石にキツいっす」

俺は弱音を吐いていた。


「今何勝?」

「64勝ですね」


バーバラの質問にリリアーナさんが答える。

ここまでくると俺もバーバラも汗だくだ。


「ふぅー」

「魔力はかなり削った感じはあるんだけどな」

「今どれくらい?」

「残り2割とか、体感」

「あたしはもうちょっと上かな、3割くらい」


目指せ100勝はともかく、目的地は近そうだ。

しかし、


「思ったんだが……」

「なによ……?」

「二人で動いてたら俺の方が先に魔力尽きるだろこれ」

「そうね」

「それでも外れなかったらどうすんだ」

「その時は、あたしの魔力が尽きるまでユーリも頑張るしか無いでしょ」

「うそでしょ……」


魔力を使い果たしたらそれだけで死ぬほど疲れてるのに、さらに動いたら死にそうになるぞ。

そんな未来に思いを馳せて超憂鬱になっていると、バーバラが考えるようにこちらを見る。


「ユーリ」

「んー?」

「もしこれが一生外れなかったらどうする?」

「んー、その時はその時だろ」

「そっか」


まあとりあえず、外す方向で努力はするけれど。




「おえっ」


そこから更に対戦は進み、俺の体力と魔力は限界に近付いていた。

つーか、普通に吐きそう。


他の対戦したメンバーたちにも疲労は見えるけど、やっぱり単純計算で10倍動いてる俺たちが一番つらいわ。

なんだよこれいじめか?

誰だよこんなことやるって言い出したやつ。


「ユーリ、水取ってきて」

「なんで俺が」


流石に疲労がにじむバーバラに、しんどいのは俺も一緒なんだが?と抗議の視線を送るがこれは華麗にスルー。


「しゃーねーなー」


もうなんか考えるのもめんどくさいので諦めて立ち上がると膝からカクンと力が抜けて転けそうになる。

魔力も体力も、瓶の底で掬えなくなった残り水くらいの体感なので限界ギリギリだ。


「水ー、って手が離せないから取りに行けないやろがい!」


って俺の渾身のツッコミがバーバラの胸に刺さる。

左手で。


「あっ」


外れた。

意識すること無く、自然に、俺の左手から金属の棒が離れていていた。


「外れてるー!?」


カーン。


『試合しゅーりょーーー!』


これでいいのか? まあいいか。

なんともパッとしない幕切れではあったけど、無事目的は達成できたから良しとする。

つーか、疲れた。

ということで俺は、部屋に戻って寝させてもらうよ。

おやすみ、スヤァ……。




結果、124戦91勝。


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