043.ソフィーたちとキャンプ
日が傾いてきた頃、草原にテントを張ることにする。
王都からは結構離れたけど、ここらへんはそんなに強い魔物は出てこないから大丈夫だろう。
こうやって往復の時間を省略できるのは野営のメリットかな。
まあ今回は稼ぎよりも初体験の練習って感じだけど。
ちなみにテントは二つあるよ。
俺用と俺以外のみんな用だ。
いやー、独り占めしちゃって若干申し訳ない。
よかったら誰かこっちに来てくれてもいいのよ。
っていうのは冗談だけど。
夜になったら楽しそうな声が聞こえてきそうだなあとは思ってる。
さてじゃあ次は夕飯かな。
「やっぱり野営と言ったら狩った獲物の肉だよなー」
ということで順番に今日の獲物の肉を焼いてみんなに提供してく。
「わーい!」
ソフィーは大喜びだけど、他のみんなは思ったよりも肉に対する食いつきがそうでもない。
男共ならこれでテンションマックスになるんだけどね、肉自体は美味しいし。
スピードラビットの脚の肉うまー。
まあとはいえ、そういうことなら別の手がある。
「それじゃあ食後のデザートいる人ー」
「はい!」
ソフィーの返事が早い。
君さっきまでお肉を爆食してたでしょ。
「はーい!」
それに遅れてみんなも返事をする。
一拍遅れてはいたけれど、それでも興味はあるようだ。
ともあれ、調理を開始しよう。
まず鉄板で生地を焼いて、そのあと生クリームとジャムをだばあ。
それをくるっと巻けばクレープの完成だ。
「どうぞ」
「わーい」
四つ作って全員に渡すとそれにかじりつく。
「美味しいです!」
肉より食いつきがいいなー。
まあいいんだけど。
ちなみにこれは全て王都で用意してきた食材である。
やっぱり人の手で用意された食材が最強なんだなって。
「なおこれはまだ完成形じゃない」
「ど、どういうことですか……?」
「これはな、具材を自由に組み合わせられるんだ」
「なんと」
棚に並べた素材を一つずつ指さしていく。
「ストロベリージャム、ブルーベリージャム、苺、バナナ、チョコ、バター、生クリーム、あとミックス」
「ミックス!」
クランハウスならこれにアイスクリームも足せるんだけど流石にそこまでは持ってこなかった。
「ミックスください! 全部入りで!」
「バナナは抜いた方がいいと思うよ」
バナナはチョコと生クリームが安牌かな。
まあどうしてもっていうなら止めないけど。
「うまうま」
全員にリクエスト通りに渡すと好評なようでよかったよかった。
そのあいだに俺は溶き卵とベーコンとチーズを軽く焼いて挟んだ物をぱくり。
うーん、塩味が効いてて丁度いい感じだ。
これは酒が進みますよ。(一杯)
じゃあ飯のあとは風呂かな。
「お風呂入りたい人ー」
「はーい」
手が上がったのは俺を除いて三人。
過半数で可決かな。
「でも危なくないですか?」
「なんかあったら俺が対応するから大丈夫だよ」
「いいんですか?」
「もちろん」
「ありがとうございます!」
ということで、テントとは少し離れた場所に湯船を作ることにする。
「この辺でいいかな。 【土壁】 」
指をパチンと唱えると、土の壁で四角い区切りが地面に生える。
それを圧縮、硬化、湧水、加熱と順番に手順を踏めば即席の湯船の出来上がり。
「あと火の魔石を入れておくけど、熱いから直接触らないようにしてね」
「はーい」
これでしばらくは熱いお風呂に入れるだろう。
夏だからそこまで熱々に拘る必要もないけどまあ夜はまあまあ冷えるしね。
ちなみに冬の露天風呂はそれはそれで最高である。
いつかそっちもやりたいね。
「んじゃ俺は焚き火の方にいるから」
「ユーリさんも、一緒に入りましょうよー」
「はいはい、大人をからかっちゃ駄目だよ」
「えー」
言いながら野営してる場所に戻る。
俺も一緒に入れるなら入りたいけどさぁ!
まあ無理だよね。
それから残った生地でクレープを作って食べていると、向こうから叫ぶ声が聞こえた。
「ユーリさん!」
聞こえると同時に走り出す。
最速で駆け抜けて視界が届くと、一角狼が身を低くして警戒する姿勢を取っているのが見えた。
「 【止まれ】 」
その一角狼の動きを止めてそのまま頭上を取るように跳び、短剣を投げる。
それが狼の頭に刺さり、そのまま絶命した。
ふぅ、一件落着。
一角狼はランク3だから俺抜きでも全員で対処すれば多分狩れただろうけど、まあ何事もなくてよかった。
みんな入浴中だったしね。
みんな入浴中だったしね!
「ありがとうございます」
「どういたしまして」
振り返ると、皆が一応タオルを巻いて戦闘に備えていた様子が見える。
「えへへ、ちょっと恥ずかしいです」
その中でソフィーが代表して、恥ずかしそうにしながら巻いたタオルの位置をなおす。
まあ助けを呼ばれたから俺は悪くないんだけど、流石に全員タオル一枚の姿はあんまり見ちゃいけない感があった。
細かく描写するのもやめておく。
とはいえ余計に騒いだりしないのは冒険者としての心得だろう。
「大丈夫、何も見てないから」
「まさにいま見てるじゃないですか!?」
「術で目が見えないようにしてるからね」
「本当ですか? じゃあタオル取ってもいいですか?」
「うん、それはやめとこう」
なんて冗談はさておき。
「それじゃあごゆっくり」
これ以上なにか言われる前に、俺はその場を離れることにする。
まあ野営してたらこんなこともあるってことでね。
そもそももっと危険な場所だと風呂なんて入ってる場合じゃないんだけどさ。
「ユーリさん、お風呂ありがとうございました」
「どういたしまして」
それからしばらくしてみんなが帰ってくると、風呂上がりでぽかぽかしててなんだかとても目に優しい。
頬が桃色に染まってるのもいいね。
髪も濡れてるし。
まああんまり見てると悪いからほどほどにしておくけど。
「ユーリさんもお風呂どうぞ」
「俺は大丈夫だよ」
「えー、入った方がいいですよ。今日だって沢山動いたじゃないですか」
言いながら、ソフィーが近づいてきて顔を寄せてくんくんと鼻を鳴らす。
ちょっと恥ずかしい。
あとソフィーから風呂上がりのいい匂いがする。
あと他のみんながちょっと微笑ましいものを見るような感じで笑ってるのが余計に恥ずかしい。
「わかった、じゃあ入ってくる。なんかあったら呼んで」
「はーい」
「いってらっしゃーい」
今日一日くらいなら入らなくてもいいかと思ってたけど、そう言うなら遠慮せずに入らせてもらおう。
「んで、なんでソフィーがここに?」
俺が湯船の近くまで来ると、そのあとを何故かソフィーがついてきていた。
「なにかあったら危ないじゃないですか」
まあそうだけど。
「あっちは?」
「あたしがいなくても戦闘的には大丈夫ですよ」
「それもそうか」
ソフィーは弓使いだから、他のメンバーの編成的に必須ではない。
いればありがたい存在でもあるけどね。
「それじゃあ、あたしはあっち向いてますね」
「わかった」
というわけで服を脱いで風呂に入らせてもらう。
湯船は当然使い回しなので、ここがみんなの入ったお湯かあなんて思ったりもしたけどあんまり意識すると変態みたいなので気にしないでおく。
しかしすぐ近くにソフィーがいるとちょっと恥ずかしいなと思ったり思わなかったり。
あっちで何かあって、ここから飛び出して行くことになりませんようにと願うばかりだ。
「ふぅー」
なんて色々考えたけど、やっぱり湯船は気持ちいいわ。
一日の疲れが癒されるような感覚は格別だ。
そいやクランの皆はどうしてるかなあと思ったりもするけれど、まあ別に俺が一日くらいいてもいなくても特に変わらんわなという結論になる。
上の見ると満点の夜空があって、そのまま首を倒すと向こうを向いてるソフィーの姿が見える。
全裸で後ろからソフィーを見てるこの状況はなんだか不思議な気分だなあなんて思ったり思わなかったり。
変態的な意味ではない。非日常的ではあるけど。
「ユーリさん」
うわっ、びっくりした。
急に話しかけられて考えていることがバレたのかと思ったけど、そうではないみたいだ。
「どうしたの、ソフィー」
努めて平静にソフィーに背中を向いて応える。
「少し聞いてほしいことがあるんですけど、いいですか?」
「もちろん」
その声色には真面目な響きがあったのでおふざけなしで承諾する。
「ありがとうございます」
頷いて、ソフィーは語り始めた。
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