第116話 束の間ブレイクタイム
「おお、キョウだ! キョウ発見!」
鼓膜どころか骨まで揺さぶる、耳馴染んだ銅鑼声。
しまった。見付かった。
「クハハハハッ! 捕まえろ、運べ運べー!」
良く通る高笑い。丸太みたいな腕が、ひょいと俺の身体を持ち上げる。
運ぶな、運ぶなっつーに。
街灯要らずな星明かりの下、射手さんと焚火囲んで干し肉焼いてたら、シンゲンとジャッカルに誘拐された。
こういう突発的奇行、ホント勘弁願いたい。
「あらキョウくん。楽しそうですねぇ」
野営地の隅に鎮座するキャンピングトレーラーへと運び込まれた俺を、そんな第一声で迎えるカルメン。
手には猫じゃらし。どうやらピヨ丸と遊んでいた様子。羽トカゲさん、プライドは?
つーか、これが楽しそうに見えたなら、眼科か脳外科に診て貰うことを強く勧める。
全く、なんてザマ。射手さん唖然としてたわ。
床に足をつけても未だ残る浮遊感。乗り物酔いに似た軽度の嘔吐感。
二言三言、悪態を噛み殺しつつ、ソファに腰掛ける。
したらば当然の如く、ジャッカルが隣へ座った。
「お帰りキョウ。早速だけれど
適当かよ。
ノリで爆発物を作るなや、マッドジーニアス。
吐き出しかけた本音に蓋し、明言を避ける形で当たり障りなく返す。
すると何が面白いのか、くつくつ笑うジャッカル。
次いで、婀娜っぽく俺の頬を撫でてきた。
「善哉善哉。愛いなぁ、君は」
見透かされてる感、ぱねぇ。
いや。と言うか実際、ジャッカルには此方の日和見、内心の不平不満など丸分かりなのだろう。
承知の上で、斯様な俺の何が気に入ったのか、いたく可愛がられてる。
それはそれで有難いやら、汗顔の至りやら。
「ひと仕事終えた後の酒が、美味ぁい!」
ワンショットで殆ど飲み干した一升瓶を振り翳し、豪快に笑うシンゲン。
……明日もデンジャラス・アドベンチャーなワケだし、アルコールは控えとくべきでは。
「と、そうだ。手間をかけるがカルメン、また二十発ほど拵えて貰えるか? 全弾撃ち尽くした」
「お任せあれですよぉ。ついでにツァオ・ツェイも預けて下さいな、念のため分解清掃と部品のすり合わせをしますので」
「頼む」
スマホを操作し、波打つ亜空間の出入り口から引っ張り出した
…………。
こないだ買ったインゴットは、これのためか。いつか仕出かすとは確信していたが、とうとう銃火器の密造を。
おまわりさん、この厨二病です。
工具を並べるカルメンの傍ら、恐る恐る注視する。
二インチ足らずな
弾薬は当然、実包。広い銃口とシリンダーホール。多分かなり大口径。
反面、グリップは華奢。各パーツの規格をジャッカル基準とした結果か。
正味の話、あくまで素人目だが、彼女の細腕で満足に撃てる代物とは思えん。
しかし、そこは本人も織り込み済みの筈。発砲時の衝撃を和らげるギミックが組んであると踏む。
結論。個人の手工業による自作とは信じ難い完成度。怖過ぎ。
うへぇ。しかも装飾すんごい細かい。凝り過ぎ。
いっそ美術館に寄贈すればよろしいのでは。
「こりゃまた、ゴテゴテ飾ったもんだな。
「クハハハハッ。いいや、あるとも。オレの気分が上がる」
左様で。
「どうせ使うなら、愛着を持った方が道具も応えてくれますよねぇ」
高価なサーベルの扱いが拾った棒切れと同じくらい雑なハガネに聞かせてやりたい金言ですねカルメンさん。
瞼閉じれば、脳裏に浮かぶ数々の光景。
樹上の果実を採るため枝を叩いたり、暇潰しで地面に絵を描いたり、傘ゴルフならぬサーベルゴルフに使っ……てはいないか流石に。オッサンじゃあるまいし。
兎に角、剣士なら己が命を預ける相棒とも呼ぶべき剣に対する労りの気持ちゼロ。最早、苦笑いさえ乾く始末。
いつか大事な時に折れそう。因果応報。
そこまで思量し、はたと気付く。
――あれ? そう言えばハガネは?
色彩限定なら我々五人で一番目立つピンク髪が、トレーラーの中に見当たらない。
そして。その疑問に、誰かしらの返答を貰うよりも先。
なんとはなし窓を振り返ったカルメンが、呟いた。
「外、騒がしくないですかぁ?」
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