第98話 防衛都市ナシラ
十字山脈の麓より一定の距離を保ちながら、地平線の彼方先まで延びる高く分厚い二重の壁。
防壁都市ナシラは、その一部に組み込まれるような形で存在する、奇妙な町だった。
「うーむ。壁と壁の間に、こんなデカい町があるとはな。サンドイッチみてーだぜ」
「ここと同じ場所が西方連合だけで、あと六つ。摩訶不思議ですねぇ」
腕組みしたシンゲンと、ピヨ丸を肩に乗せたカルメンが、物珍しげに辺りを見渡す。
両名すっかり、おのぼりさん。かく言う俺も二人と似たり寄ったりな反応ですけれど。
まあ、規模で言うならザヴィヤヴァの半分行くかどうか程度なのだが。
…………。
しかし、物々しい雰囲気だ。今までの滞在先とは、雑踏の匂いが明らかに違う。
行き交う人々の表情はどこか硬く、シンゲンやハガネと同じ傭兵ギルドの
考えるに及ばず、征伐とやらが近い影響だろう。
「あむっ……
近くの出店で買った肉まんモドキを頬張り、頷くジャッカル。
確かに、これが前日とかなら準備も一段落し、所謂『嵐の前の静けさ』を体現するに至っていた筈。
そういう意味合いでは、俺達の到着は些かタイミングが悪かったのやも知れない。
「もむっ……なんだ、この肉まん。カラシか何かをたっぷり塗り込んだ角煮が詰まってるのに、生地はベタベタ甘い。まっず」
どうでもいいけど、よく店の前で堂々と文句を吐けたもんだ。尊敬するよ。
強面な店主が、今にも握り締めた包丁を投げてきそうな勢いで睨んでるけど。
「ほらキョウ、君も食べてみろ。あーん」
――べっ!? んだこれ、まっず!
まさか、本当に包丁を投げ付けなくてもいいと思う。
寿命縮むわ。俺の背中で寝息立ててるハガネが、掴み取って投げ返したけど。
自動防御、からの迎撃。人間業じゃないよね、正味の話。
「…………すやぁ」
つか起きろ猛獣ロリ。せめて、いつもみたく寝たまま歩けや。
人を便利なタクシー扱いしやがって。あんまり調子に乗ってると振り落とすぞ。
その後の報復を考えたら、とても実行できないが。怖過ぎ。
「さて諸君。宿を取ったら口直しに何か食べよう。全く、ひどい肉まんだった」
そいつは同感。ハガネくらいだ、あんなもん平然と食えるの。
道理で昼飯時にも拘らず、客の一人も並んでなかったワケだよ。さっさと潰れちまえ。
「先に傭兵ギルドの方に顔出しとかないでいいのか? 征伐隊への参加は手続きが要るんだろ?」
小さくなったカルメンとピヨ丸でお手玉しながら、シンゲンが問う。
確かに、出発が六日後ともなれば締切とて差し迫っていよう。
後回しで刻限を過ぎてしまっては、これほどつまらない話も無い。
「クハハハハッ! その点は心配無用だ!」
対し、余裕綽々といつもの高笑いで返すジャッカル。
この様子だと既に手回し済みか。相変わらず行動が早い。
そんな具合に、胸の内で感心していたら。
「どうせ征伐隊員の傭兵枠募集期間終了は
駄目じゃん。
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