第97話 征伐






 アリエス領。

 タウラス領。

 ジェミニ領。

 キャンサー領。

 レオ領。

 バルゴ領。

 リブラ領。

 スコーピオン領。

 サジタリウス領。

 カプリコン領。

 アクエリアス領。

 ピスケス領。


 数十年前、浮遊大陸西部に版図を擁する十三国家の内、十二の国々が結び付いて生まれた一大組織、西方連合。

 この、嘗て北方からの侵攻を防ぐべく寄り集まった群体は時折、大きく二つに分けられる。


 北を統べる覇国ビスバインとの境に位置するアリエス領。

 南方五大国が一たるナナナ共和国、及び大陸西部で唯一独立を貫いたオフィウクス聖国と、それぞれ隣り合うジェミニ領。

 十字山脈の裾野に陣取るスコーピオン領、サジタリウス領、カプリコン領。

 これらを纏め外縁五領、残りを内縁七領と呼ぶ。


 ザヴィヤヴァを発ち、早四日。

 俺達は今、外縁五領のひとつ――カプリコン領へと向かっていた。






「近く、カプリコン領ナシラで征伐が執り行われる」


 シャワーを浴びて濡れた髪を拭きながら、ジャッカルがソファに腰掛ける。

 ……いや、ちゃんと服着ろ破廉恥。下着姿で出てくるな。

 なんだそのガーターベルト。ガワは男みたいな格好のくせ、身体つきも合わせて中身エロ過ぎだろ。


「うーむ、目の保養。ジャッカル、今晩ヒマか? どうよ五発十発」


 あと一昼夜は飛びっぱなしだと聞いてるのに、何言ってんのコイツ。

 つか口説き方。ゴブリンでも、もうちょいマシな文句並べられると思う。


「クハハハハッ! 残念、君は色男だがオレの好みに合わん」

「ちぇー」


 当然だが冗談半分の誘いだったらしく、さほど気落ちした風もなくウイスキーを呷るシンゲン。

 ま、こんな場所で組んず解れつされても困る。知己同士のアレだのソレだの、少なくとも俺は見たいと思わんし。






「さて、話を戻すが。征伐について知る者は居るか?」

「知らね」

「同じくでぇす」

「…………すやぁ」


 ――ナシラって名前自体、初めて聞いた。


 俺の膝で居眠るハガネ以外が、各々答える。

 四人掛けのソファなもんで、普通に五人全員は座り難いんだよね。

 でも何故、俺。あと、どうせ寝るならベッド行け。脱力した人間は重い。

 などという本音は、御機嫌取りに余念の無い腰巾着ゆえ口が裂けても言えませんけど。


「ナシラは西方連合に七つ在る防壁都市のひとつ。その存在意義は名が示す通り、十字山脈に対する護りだ」


 十字山脈。浮遊大陸の中央に聳え、東西南北を隔てる天然の長城。

 平均高度八千メートル超というヒマラヤ山脈も真っ青な地形に加え、ほぼ全域が濃密な穢気の溜まり場、強大な魔物の巣窟となっているため、踏み入る者すら稀な魔境。


 そして、そんな危険地帯の動向を絶えず監視し、有事の際は打って出る軍事拠点こそ防壁都市。

 征伐とは即ち、縄張りを追われた山脈の魔物が平地に溢れ返らぬための定期的な、らしい。


 …………。

 成程。十字山脈は三大最強種を筆頭とした怪物が湯水の如く産まれる坩堝。

 下山する大半が生存競争に敗れた落伍者と言えど、そこらの魔物とは一線を画す筈。

 実際問題、ジャッカルの口振りから察するに征伐が行われる度、多くの犠牲者が出ている模様。


 ――そいつにシンゲンとハガネを参加させて、名を上げさせようって寸法か。


 ジャッカルの目論見を得心した俺は指を鳴らし、そう告げる。

 けれど。彼女は何やら含みのある笑顔と共に、首を振った。


「惜しいな。間違ってはいないが、オレが描くプランはだ」





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