第7話 飲めや食えや
「では諸君。オレ達五人の出会いと、この異世界に乾杯!」
「乾杯!」
「かんぱーい!」
「…………ん」
――乾杯。
アルレシャ。
西方連合ピスケス領内にて、四番目か五番目の規模を誇る町。
最も手近だった人里として、俺達が向かっていた目的地である。
さて。外見通りに野盗だったモヒカン集団に襲われた我ら異世界漂流一行だが、そんな輩は当然シンゲンとハガネが三秒で片付けた。二秒だったかも。
怪物コンビに喧嘩なんぞ売った不逞で不運な連中を縛り、流れるように金品を巻き上げ、意気揚々とアルレシャへ到着。どっちが悪党か分かったもんじゃないな。
門前に立っていた町の警備隊にジャッカルが事の次第を話したところ、どうやら近辺で幅を利かせていたウォンテッドだったらしく、結構な報奨金をゲット。
五人揃って暫くは遊べる額が手に入ったため、取り敢えず飯にしようと酒場兼レストランで、こうしてテーブルを囲んでいる。
「おぉ! このステーキ美味いな、俺様こういうの好きだぞ! なんの肉だ?」
「知らん、適当に頼んだ」
適当に頼むな。店員に聞け。
「スープに見たことない食材が……なんだと思いますぅ?」
「分からん。食べてしまえば一緒だろう」
確かに一緒だけども。アバウト過ぎるだろ。
「…………見た目は餃子なのに……あんこの味がする、わ……おいし」
「餃子の中身は餡と呼ぶ。別段、不思議じゃない」
いや不思議だよ。普通に不思議だよ。つーか美味いのかよ。俺ひと口でギブだったぞ、それ。
……異世界転移のお約束と言うか御都合主義と言うか、何故か言葉は通じるし文字も読めるので、コミュニケーションに難儀はなかった。
が、こっちにしか存在しない固有名詞の意味するところまでは分からず、ジャッカルが勘任せで選んだメニューの中に所々混じった奇抜な料理。
たまに引くハズレを除けば概ね美味いから別にいいけどさ。ちょっと味は濃いが。
「いやはや、メシマズ系異世界だったらどうしたものかと身構えていたが、この分なら心配なさそうだ。良かった」
俺も食事が不味いのだけはマジ勘弁。自分で料理もできないし。
胸を撫で下ろすジャッカルに心底同意してると、追加の注文が運ばれてきた。
「来た来たぁ! んぐっ……ぶはぁ! 味は悪くないが、ちっとばかしぬるいな、このビール! もっとキンキンに冷やして欲しいもんだ!」
「無茶を言ってやるな。町の文明レベルを見たところ、おおよそ地球で言う近世後期頃だ。製氷機や冷蔵庫が発明されてるかどうかはかなり微妙、あっても精々試作程度。一般への普及まではされてないだろう」
「…………近世、後期……いつ?」
怪訝そうに眉根を寄せるハガネ。
進学校でもない限り、中学じゃ世界史なんて大雑把にしか教えないから、ピンと来ないのだろう。
――だいたい十八世紀半ばから、十九世紀の頭あたりだな。
「…………そう」
要するに、蒸気機関の台頭などが代表的な産業革命が起きる手前の時代。ファンタジー異世界と言えば中世欧州モドキを真っ先に思い浮かべるが、ここは違う模様。
まあ文明は程々に進んでくれていた方が生活は楽なので、寧ろ有り難い。
中世の飯とか絶対口に合わない。先進国の人間は食事が不味過ぎると餓死するんだぞ。
「ふむ、近世レベルでは現代知識の役立つ場面が限られるな……いっそオレの手で機関車とか造ってみるか? いやしかし……」
「まーまージャッカル! 酒の席にまで小難しい話なんぞ持ち込んでないで、ひとまず飲め! カルメン、キョウ、お前らもやるかぁ!?」
「私、お酒苦手なので。葡萄ジュースお願いしまぁす」
――未成年なので。炭酸水にライム絞ったやつ下さい。
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